桜の下でⅡ
教室での勉強というのは、なんて退屈なんだろうか。
ちょうど窓側の席に決まった私は、本気でそう思った。
桜花のことが気になって仕方がない。
「…じゃあ、この問題を杉原。」
当てられた私は我に返る。
「分かりません。」
即答した。
知らないのにごまかすなんて、見た目からして悪い。
なら正直に答える方がマシだという考えからだ。
まぁ、こういう性格だから孤立していたんだろうけど。
「…そうか。じゃあ――。」
特に何も言わずに私は席に着いた。
周りの人が驚いた顔でこっちを見ている。
「私、そんなに変?」
こういう時は無表情で話すのが一番。
条件反射でみんな前を向くのだ。
「桜花…。」
なんとなく気になって、ため息のように私は言った。
窓の外には校庭があり、その校庭にたった一本の桜。
桜花は今、何をしているだろうか。
自分でも不思議なほど、それだけが気になっていた。
* * *
どうやらこの学校では、一人飯も可能のようだ。
昼休みを知らせるチャイムが鳴ると、みんな弁当を持ってどこかへと散らばっていった。
そんな中、数人が寄ってくる。
「杉原さん。お昼御飯一緒に食べませんか?」
「と、言われますと…?」
「この学校では、校舎内のどこでお弁当を食べてもいいんです。――というわけで、食べませんか?」
ものすごいキラ目で私を見る。
ていうか、この人誰?
それに、桜花のところに行きたい。
「…ごめんなさい。私、行きたいところがあるから。」
「そう?なら、また今度。」
あっさりと引き下がり、その人達は楽しそうにしゃべりながら行ってしまった。
私はそれを見送った後、校庭に向かった。
あの、桜の木の根元に向かって。
「…翠?」
桜花は私の気配を感じ取り、驚いたように顔を上げた。
「どしたの?」
「弁当…。ここで食べようと思って。」
「…そっか。」
私は敷物を敷いて桜の下に座った。
「桜花は?弁当、食べないの?」
「えへ。早弁しちゃった。」
「早弁って…。」
私は絶句した。
おとなしそうな印象が桜花にあったから、そんなことしないと思っていた。
「え、だっておなか空いたりしない?」
桜花は小首をかしげる。
私は微妙な表情だ。
「そう、かなぁ…。」
「翠はならない?」
「うん。あんまり感じないけど…。」
と、その時。
グギュル~という不思議な音が聞こえた。
「やっぱり、おなか空くわ…。」
桜花が顔を赤らめながらひっそりと呟いた。
しかし私の耳はそれを聞き取っている。
私は大笑いした。
校庭に結構響く。
おまけに涙まで出てきた。
「そ、そんなに笑わなくてもっ。」
「ごめんごめん。だって、さぁ…。」
桜花が真っ赤になるのに、私は平謝り。
「何よぉ…。」
「あ、ちょっと桜花!」
いつの間にやら、桜花の口に卵焼きが入っていた。
「一番最後に残しておいたのに…。」
「笑ったのとこれでおあいこ。」
桜花は嬉しそうに笑った。
私もそれと一緒に笑う。
帰り道、誰かとこんな風に笑いあうのは初めてだ、と思った。




