桜の下でⅠ
この小説は、以前投稿したものの都合により一回削除させて頂いた小説です。中身はなんの代わりもありませんので;;
私は転校生だ。
突然父に言われて転校することになった私・杉原翠は、私立の小学校に入学。
そこで初めて知ったのが『寂しさ』だった。
「知った顔がいない…。」
元から教室で一人孤立していた私は、特に悲しいと思わない。
しかし、知った顔がいないのは心細かった。
と、そんなことを考えつつ幽霊のように校庭を歩いてた私は顔を上げる。
「…。」
何か、声が聞こえた。
軽やかで、穏やかな声。
「…ねえ。名前は?」
まただ。
さっきよりはっきりと聞こえる。
「…誰?」
やっと私は気付き、そう聞いた。
「こっち。もっと右だってば。」
いたずらっぽい声にとまどいつつ、言われたとおり右を見る。
そこにあったのは、桜の木。
花びらが土の上に落ちていくのがとてもきれいだった。
「見える?」
「え?」
見える?って何が?
ていうか、誰が言ってんの?
「私、見える?」
その時、桜の木の根元に人を見つけた。
私と同年代ぐらいの少女。
「見える?って…かくれんぼ?」
自分で言ってバカだなぁと思う。
もう六年生なのに、そんなことする人はあまりいないだろうし。
「そうね…。みんな見つけてくれないの。」
「いや、かくれんぼって冗談なんだけど。」
「分かってる。」
少女は微笑んだ。
それに合わせて私の顔もほころんだ。
「ね。名前は?」
少女は再度繰り返した。
「杉原…翠。」
何故か自分の名前を考えてしまう。
「翠、ね。いい名前。」
私は思うまま、少女の元へ走り出す。
もっと近くで話してみたかった。
「私は桜花。よろしく、翠。」
よろしくと言っても、手をさしのべることはなかった。
普通は握手とかするものなのに。
「うん。よろしく…。」
私がそう言った時、桜花がふと顔を上げる。
「もう帰った方がいいよ、翠。もうすぐチャイム鳴るだろうから。」
「じゃあ、桜花も…。」
「…行って。」
桜花が私の背を押した。
私は校庭の真ん中に出る。
不思議に思って振り向いたら、桜花の声が聞こえた。
「翠。…また、ここで会いましょう。」
「桜花…?」
チャイムが鳴って校庭のみんなが砂煙を上げながら帰っていく。
仕方なく私も帰ろうと走り出した。
目の端に桜の花びらが見えた。




