トラック運転手に乗せてもらう
下校途中、私は彼と手を繋いで歩いていた。
しかし急に足を止め、かがみ込む。
「どうした?」
「それが…痛っ!!」
左足の靴を脱いでみると、血が滲んでいた。
新しい靴だから、擦れてしまったらしい。
我慢していたのだが、限界だった。
「うわ。どうしたんだよ、それ。絆創膏は?」
「持っていない。うわ…何か傷を見たくないんだけど」
「しょうがない」
彼がいきなり腰を下ろし、私の前に出る。
「な、何?」
「背負ってやるから乗れ。その足で歩くのは無理だ」
「そんなことは…!!」
「いいから乗れって!!」
彼に吠えられ、私はびくつくうさぎみたいに、背中に手をかける。
彼は私が身体を預けたのを確認すると、立ち上がって、歩いていく。
「あの、その、重くない…?」
「重くないよ。むしろ軽すぎだ。食え。たくさん食え」
「たくさんって言われても…」
困って周りを見れば、じろじろと見ていく人が多かった。
彼には感謝するが、注目を浴びるのには戸惑ってしまう。
しばらく進むと、クラクションの音がした。
何事だろうかと2人で振り向くと、トラックが側に停まった。
それから窓が開き、30代くらいの男性が声をかけてくる。
「乗れ。送ってやる」
「え?」
2人して顔を見合わせると、ヒョウみたいな鋭い視線を向けられ、少しびびる。
しかし男性は鋭い視線を足に向け、言ってくる。
「彼女、足が痛いんだろう? 俺が家の近くまで送ってやる」
「え…。あの、その、どうするか?」
彼に聞かれ、私は
「どうしよう。迷惑かもしれないよ」
小声で返す。
しかし男性はひく気がないようで、「乗れ」と顎で指示してくる。
その姿はかっこよく、彼も惹かれているようだった。
「どうする? 甘えさせてもらうか?」
彼の言葉に、私は小さくうなずく。
「私、重たいから、このまま皆に笑われても困るし」
「あの!! 本当にいいんですか?」
「もちろん。早く乗れ」
ドアを開けられ、私と彼は恐縮しながら、トラックに乗り込む。
シートベルトをすると、トラックが走り出す。
ヒョウみたいな男性は、爽やかな匂いのする香水をつけているようで、私達に話しかけてくる。
「2人とも付き合っているのか?」
「は、はい」
彼が肘で小突き、ここは俺に任せろと伝えてくる。
私はうなずき、黙ることにした。
「あの、お兄さん、すみません。乗せてもらって」
「ああ、気にするな。それでどこまで行けばいいんだ?」
男性の声は彼よりも野生に近く、油断していると、かぶりつかれそうな感じだった。
しかし悪い人間ではないと判断する。
私は空気を読む力があるので、力を抜くと、彼もリラックスして男性に質問しているようだった。
「どうやって免許を取ったんですか?」とか「何を運んでいるんですか?」とか、当たり障りのないものだった。
男性も嬉しいのか、表情を崩すと、頼れる兄貴分みたいな雰囲気だった。
「あ、そこ狭くなるんですけど」
「大丈夫。任せろ」
男性はハンドルを回すと、上手に走っていく。
私と彼が思わず拍手すると、男性が照れたように言う。
「そんなにすごいものじゃないぞ?」
ははっと、豪快に笑うと、私と彼も一緒になって笑う。
「あ、そこまででいいです」
「おう。そこまでな」
トラックが停まり、私と彼は降りて頭を下げる。
「ありがとうございました。助かりました」
「どういたしまして。気をつけて帰れよ」
男性は手を上げると、トラックを走らせ、行ってしまう。
その姿を見えなくなるまで見送る。
「かっこいい人だったな」
「うん。すごくかっこよかったね」
「俺よりもか?」
意地悪な質問に、「もう!!」と言い返し、ぽかぽか叩く。
彼の笑い声が橙色の空まで響き、鳥が群れをなして飛んでいく。
「帰ろうか」
「おう。足は…?」
「大丈夫。すぐそこだから」
私はそう言うと、歩き出したのだった。




