#5 完璧な仮面の下で
数日後、宮廷で舞踏会が開催された。キャサリンは深紅のドレスをまとい、ルドルフ王子と踊ることになっていた。
ルナは控え室でキャサリンの最後の調整を手伝っていたが、キャサリンの手がわずかに震えているのに気づいた。
「緊張されていますか?」
「馬鹿なことを。なぜ私が緊張する必要があるの?」
しかし、ルナにはわかった。これは単なる傲慢さではない。深い不安の表れだ。
舞踏会の会場で、キャサリンは完璧な令嬢として振る舞った。しかしルドルフ王子は、エリザベータと楽しそうに話しているところを何度も目撃された。
「キャサリン、君のドレス、とても美しいね」
ルドルフ王子は礼儀正しく、しかしどこか距離を置いた態度でキャサリンに話しかけた。
20歳の王子は聡明で善良だが、キャサリンの振る舞いに常に困惑しているようだった。
「ありがとう、ルドルフ様」
二人の踊りは技術的には完璧だったが、そこには温かみがなかった。
やがて、エリザベータが小さな群れに囲まれて現れた。彼女の笑顔は純粋で、誰からも愛されるものだった。
キャサリンの手がわずかに硬直するのを、ルナは遠くから見て取った。
「あの女を見てごらん」
キャサリンがルナにささやいた。
「誰もが彼女を愛している。私を恐れるように」
「キャサリン様も愛される方です」
「ふん。そんなことはないわ」
その瞬間、エリザベータがキャサリンの方に近づいてきた。
「キャサリン様、素敵なドレスですね」
その声には悪意がなかった。純粋な賛美だった。
しかしキャサリンの目には一瞬、激しい感情が走った。
「ありがとう、エリザベータ。あなたも……可愛らしいわ」
言葉は優雅だったが、その裏には鋭い棘が隠されていた。
ルナは心理学の知識を駆使して状況を分析した。
キャサリンの「悪役令嬢」としての振る舞いは、自己防衛機制の一種ではないか?完璧に見えなければならないという強迫観念、周囲からの承認への渇望――それらが傲慢さという鎧で覆い隠されている。




