#3 小さな事件
1週間が過ぎた。ルナはキャサリンの専属メイドとしての仕事に次第に慣れていった。朝の身支度から夜の就寝まで、キャサリンの生活のほとんどすべてに関わることになった。
ある午後、バラ園で小さな事件が起こった。
キャサリンが大切にしていた一輪の黒バラが、誰かに折られていたのだ。
「だれが…だれがこんなことを!」
キャサリンの怒声が庭に響き渡った。使用人たちは震え上がり、誰も口を開こうとしない。
ルナが折られた茎を注意深く観察した。切り口は鋭く、専門的な園芸バサミでないとできない切り方だ。
「キャサリン様、お許しを」
「なに?」
「この切り口からすると、園芸担当の使用人が手入れ中に誤って折ってしまった可能性があります。故意の悪戯ではないかもしれません」
キャサリンは鋭い目でルナを見た。
「どうしてそんなことがわかるの?」
「以前、庭師の仕事を手伝ったことがありまして」
嘘だった。実際には、大学時代の犯罪心理学の講義で、傷跡の分析について学んだ知識だった。
キャサリンはしばらく沈黙し、やがて怒りを収めた。
「…庭師を呼びなさい。事情を聞く」
事件は庭師の不注意だと判明し、彼は謹慎処分となった。しかしルナは、キャサリンが処分を言い渡す際、わずかにためらったのを見逃さなかった。




