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エルドウィス森譚〜私と猫と、ときどきドラゴン〜  作者: 川津 聡


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19/21

森を巡る光

 空に瞬く星にさえ手が届きそうに澄んだ夜空。

 暗闇に紛れて、リオンとキャスは夜の獣道を進んでいた。


 街の革細工屋から注文のあった鹿革。

 それを手に入れるために、狩りに出ているのだ。


 森の間を通り抜ける風が、二人の生み出す音をかき消していく。

 夜行性の動物たちが寝ぐらに帰り、起きるにはまだ早い頃合い。

 エルドウィスの森は、その名の通り、静謐せいひつ揺籠ゆりかごの中にあった。


「……静かだな」

「そうですか? ……何かあったのでしょうか」


 キャスの言葉をリオンは否定しなかった。

 キャスは人間よりもずっと感覚が鋭敏なのだ。

 リオンが気がついていない違和感に気がついていることは、今までにも何度もあった。


 森の奥に歩を進めた時――。

 梢の向こう側に見えていた星空が陰った。薄い雲が空を覆う。


 薄闇があたりを包み、木の葉を鳴らしていた風が息をひそめた。


「……リオン、あっち、何か変じゃねぇ?」


 キャスに促されて茂みの奥に目をらす。

 森の奥、茂みの先に、淡い光がポツンと一つ、光っていた。

 それは、焚き火でも、月明かりの反射でもない。

 金とも銀ともつかぬ、ゆらめく光の球。

 それがゆらゆらと揺れていた。


「あれですか」

「あぁ。あれ、魔物か? でも、そんな気配しねーな」

「そうですね。どちらかというと、優しい……懐かしいような気がします」


 リオンの声がどこか遠くの過去に飛び去ったように遠ざかる。

 その視線の先で、光が誘うようにゆら……、ゆら……と揺れた。

 無意識のうちに、リオンが一歩踏み出す。

 それに応えるように、光の球もすいっと近づこうとした。


「おい!」


 キャスがリオンの一歩前に体をねじ込む。

 いつの間にか、人の姿に変わっていた。


「魅了か?」


 キャスの声に、リオンは軽く頭を振った。

 今がいつなのか、思い出したように目の焦点が合う。


「いいえ。ですが、呼んでいるようです」

「呼んでる?」


 光の球が、躊躇するように動きを止めた。

 そして、ふわりと輪郭が解ける。

 その一瞬、刹那の間、光は少女の姿を撮ったように見えた。


 しなやかな体躯、長い髪、そして眠るように閉じられた瞳。


 リオンの心臓が強く鳴った。

 呼吸にかき消されそうなほど小さな声で、その名を呼ぶ。


「……レネア」


 キャスが振り返る。


「何だって?」


 しかし、その瞬間、風が強く吹き、光をどこかへ連れ去ってしまう。

 森は何事もなかったかのように音を取り戻し、星空はまた輝き始めた。


 何も言わず立ちすくむリオンに、キャスがそっと問いかけた。


「なぁ、今の、あれって……」

「キャスにも見えましたか? では、私の希望が見せた幻影ではなさそうですね」


 泣きそうな、笑い出しそうな、そんな複雑な表情でリオンが空を見上げる。


「レネア……、あなたは……」


 リオンの声が、風に消えていく。

 そのまま、リオンも消えてしまいそうで、キャスは思わず猫の姿になって、リオンの肩に飛び乗るのだった。


「リオン、忘れるなよ。森をく時は、僕も一緒だからな」


 思わぬキャスの言葉に、リオンは一瞬目を見開いたが、すぐに微笑んだ。


「ええ。頼りにしていますよ。相棒」

「ふん」


 そして、二人は何事もなかったかのように、狩りへと戻るのだった。

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