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第2話:召喚の理由

大司教の言葉が消えたあとも、あの笑い声はまだ耳にこびりついている。手に握った木の杖は、滑らかで無地の表面がまるで自分の失敗を嘲笑っているかのように感じられた。

隣ではエドワードの剣がわずかに光を残してなお煌めき、クララは自分の奇跡に手を震わせている。


「もうよい」


王の声が響き渡り、さざめきは完全に沈黙した。


鎧をまとった者たちの足音がたまに響くくらいで、場内は張り詰めた静けさに包まれる。俺は背筋を伸ばす。だが、貴族たちの視線ひとつひとつが肩に重くのしかかる。


黄金の王冠をかぶった王が玉座から立ち上がる。ステンドグラスの光を受けて輝くその姿は圧倒的だった。


「君たち三人は、戸惑っているようだな。それは当然のことだ」

深く力強い声でそう言う。


「君たちがこの世界に召喚されたのは、我が王国が岐路に立たされているからだ。長く封印されていた闇が再び動き始め、予言は告げる――遠い異国より生まれる三つの炎が、その再来を阻むと。」


エドワードが身を正す。目を見開いて聞き返す。

「炎…って、俺たちに…悪を倒せってことですか?」


王は厳かに頷く。

「そうだ。それぞれ君たちには独自の可能性がある。ひとりは光の剣を操り、ひとりは癒しの祝福を持つ。そして三人目――」


目が一瞬俺に向けられる。


空気が張りつめ、貴族たちの視線が刃物のように鋭くなるのを感じた。

「――まだ試されぬ隠された力を持つ者だ」


俺は杖を握りしめる。

「…隠された力?」小さく呟く。


空しい言葉の響きが、自分の胸を打つ。

すでに廷臣たちは扇の陰や手袋の間で囁き合っている。


答えを返す間もなく、王女が一歩前に出る。エリザベート・フォン・アウレリア。


太陽の光のように流れる黄金の髪、先ほどと同じように俺を射る青色の瞳。しかし今は真剣で、どこか訴えるような表情だ。


挿絵(By みてみん)


「あなたたちは三炎の儀式により召喚されました」

澄んだ旋律のような声で言う。


「この儀式は、運命の均衡を傾ける可能性を持つ者を異世界から呼び寄せます。古の魔法は誤ることはなく、人種や家柄、育ちで選ぶことはありません。あなたの魂の本質が、この場所に導いたのです」


エドワードが肘で俺を軽く突く。

「ね?魔法だってお前に可能性を見てるんだぞ」


俺は睨みつける。

「そうか?ならマスクの奥でゲラゲラくすくす笑ってる騎士と貴族夫人どもに言ってくれ」


エリザベートの瞳は柔らかくなる。

「廷臣の無知に惑わされないで。あなたたちは、この世界が必要としているからここにいるのです…三人とも」


クララはためらいながら、エリザベート王女と王様の間を見比べる。

「でも…私たち…望んでやって来たわけじゃありません。帰ることは…できますか?」


国王はため息をつく。それはシャンデリアを震わせるような重みのある音だった。

「帰還は簡単ではない。召喚の魔法は、予言が成就するまで、あるいは対抗の儀式が発見されるまで、君たちの魂をこの世界に縛り付ける。すぐに帰れる保証はない。ひとまず、君たちは我が国の客人…そして勇者なのだから運命を受け入れる他ないのだ」


俺は瞬きする。

「客人…勇者…そして廷臣たちの楽しみか...」


小さく呟く。数人の貴族がくすくすと笑い、神官たちは袖で笑みを隠している。


エドワードは拳を握り、鼻で笑う。

「ま、ここに留まるなら、やるしかねえな。何をすべきか、早く学ぶしかないんだ」


クララは唇を噛んで複雑そうな顔してたけど、直ぐに控えめな

微笑で、

「わ…私たち、無事に…生き延びて…帰れますように…」


エリザベス王女が俺に一歩近づく。

「帰ることに意識を向けないで。理解することに集中して下さい。儀式には理由があり、闇は君たちの疑念を待ってはくれません。この機会を無駄にすれば、多くが苦しむことになりますわ」


俺は唾を飲み込む。

「そ…そうだな…理解…だな」

心の奥では渦巻く考え――理解だけで足りるのか?


数分が静かに過ぎる。貴族たちはまるで檻の中の珍獣を見るように俺を観察している。

耳に届くか届かないかの声で、誰かが囁く。


「おそらく、彼にまとわりつく闇さえも、その力を飲み込んでしまったのだろう」


俺は歯を食いしばる。顎が強張る。だが、いつの間にか目の前までに近づいてきた王女の白い指先が軽く俺の真っ黒な腕に触れ、心を落ち着かせる。

「気にしないで」彼女は柔らかく囁く。


瞳は揺るがないサファイア色の光。

「あなたの中の炎は確かにある。時が来れば、必ず示されます」


我が友、エドワードは何気なく俺の後ろ側にやってきては王女に聞かれぬよう囁きをしに耳元まで寄ってきて、そして少しからかい気味に、

「お前、専属の応援団がついてるな。それも高貴な身分の美人で。ラッキーだな」


クララは微笑み、傘を握る手をぎゅっと強くする。

「私たち…一緒にいるのよね?チームだもの」


俺は二人を見やる。さっきは王様達が相手だから、敬語で話していたクララだったけれど、いつものメンバーのここ3人ならまたため口に戻ったクララ。まあ、それはともかく、勇者だの魔法だので、この奇妙な世界の現実がじわじわと染み込んでくるな。

「ああ…いつまでも一緒にいるんだぜ、俺達3人が......」


そしてその瞬間、囁き、嘲笑、廷臣たちの評価にもかかわらず、胸の奥に小さな決意の火が灯る。

王もお姫様も、あの“隠された力”は冗談でも前向きな願望だけでもないと言っていたのかもしれない。


王国の未来――そして俺たちが元の世界に帰れる可能性――は、この魂の奥に宿る炎にかかっているのだ。真面目にやらんと、帰れるどころか、命を失う可能性さえあると、どか思ってしまうんだ、たとえまだ具体的な情報を教えられていない今でも......


なので、心の覚悟を引き締めておかないと―!

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