8. 拳は軽く、足は重く
彼らが到着した場所では、熊同士の戦いが繰り広げられていた。
いや、よく見ると一頭は熊だった。
もう一頭は熊のように見えたが、モンスターだった。
ただ、その体躯は熊とは比べ物にならないほど巨大だった。
一方的な戦いだったが、熊は退かなかった。
「あれを見ろ。」
レオ班長が指差す先には、無残にも殺された子熊がいた。
「モンスターというものは人間だけでなく、あの熊のように他の動物にも敵対的なのだ。まるで命を嫉妬するかのように。この世に不要な存在だ。」
モンスターは食事をしないと聞いていた。
しかし、食べるわけでもないのに幼い子熊を狩り、
弄ぶように踏み潰す奴を見て、内側から怒りが込み上げてきた。
「さっき私たちを通り過ぎた熊のようですね。子熊を探していたんでしょう。」
状況を観察するように見つめるレンの声は落ち着いていたが、
彼と長く過ごした経験から、彼が激しく怒っていることがわかった。
「今すぐにでも飛び出したいのはわかるが、私が防衛隊の任務は何だと言った?」
防衛隊の任務?
「モンスターを殺すことです。」
「そうだ。もしあの熊が人間だと仮定したら、お前たちはどうする?」
「死ぬ前に助けます。」
「あまりにも近すぎて一般人だと仮定すると、私たちの実力では助けられないでしょう。」
「ではどうするというんだ?」
「機会を見て復讐してやればいいんです。」
一つの質問に二つの答え。
私は助けると答え、
レンは復讐すると答えた。
「どちらも正しいが、どちらもモンスターと戦うことを前提にしているな。防衛庁の推奨指針は、モンスターと戦って危険を冒すな、というものだ。」
「それはどういう意味ですか?」
「身の程を知れ、ということだ。モンスターと自分の力量を測って、無理だと思ったら逃げろ、一般人が死のうがどうしようが。」
「…防衛庁は市民を守るためにあるのではないですか?」
「市民の命よりも覚醒者が優先だ。」
カッとなって、その言葉に反論しようとしたとき、
モンスターと対峙していた熊が倒れた。
そして待っていたかのように、私たちを突き飛ばした。
「お前たち二人なら相手にできるだろう。行け。」
初めての実戦。
葬儀場でモンスターとぶつかったことはあったが、
それは生きるためのもがきだった。
戦いでも何でもなかった。
レンは剣を抜き、私は念力を纏った。
適度な距離を取り、私たちはモンスターに近づいた。
覚醒してから向上した身体能力で奴を圧倒したが、
念力を纏った拳が奴に当たると、スポンジを叩くような感触があった。
「こいつ、皮が厚すぎる!」
レンは私よりも少し状況が良い程度だった。
防衛庁から支給された剣はただのものではなかったが、
分厚い皮のせいで深い傷を負わせることができなかった。
巨大な体躯に比して素早い動きに私たちが苦戦していると、レオ班長が大声で叫んだ。
「辛かったら言え。まだお前たちには無理だったと師匠に報告するからな。」
「それはいいんで、何か助言をください!」
先は長いのに、ここで引き下がるわけにはいかなかった。
「おい、お前!言葉で簡単に変わるなら、それは天才じゃないか。どうしてもというなら、拳は軽く、足は重く動かしてみろ。」
それはどういう意味だ?
役立つ助言を求めたのに、
理解できないことばかり言っている。
「レン!防衛庁から支給される剣は隊長も使うものだから、そう簡単には折れないぞ!」
レオ班長の言葉を聞いて、
葬儀場での出来事が頭に浮かんだ。
「レン!熊狩りだ。背後に回れ。」
「了解。」
レンは頭の良いやつだから、理解しただろう。
「おい、この野郎!図体だけデカくて、たいしたことないじゃないか!」
うおおお!
私の言葉を理解したかのように、怪物のような叫び声を上げた。
奴が丸太のような腕を振り回すタイミングに合わせて、
私は膝を曲げて得た推進力で奴の胸に飛び乗った。
「オラオラオラ!オラオラオラ――」
そして、ありったけの力で胸を殴りつけた。
素早く重い攻撃にバランスを崩したモンスターが首を傾げた。
ドスン。
バランスを崩して後ろに倒れる瞬間、
剣がモンスターの心臓を貫いた。
死んだのか?
巨体に見合ったように、血が噴水のように噴き出した。
しばらく待っても反応がないので、間違いなく死んだようだ。
「おい!何してる、俺を引っ張り出してくれよ。」
しまった!
私はモンスターに押しつぶされて動けないレンを引っ張り出した。
大根を引っこ抜くように引っ張り出すと、全身がモンスターの血でびしょ濡れになっていた。
「大根じゃなくて人参だな。」
「何をバカなこと言ってるんだ?」
「お疲れ様。」
「ああ。お前もな。」
スタスタ。
「拳は軽く、足は重く、という言葉はそういう意味じゃなかったが…とにかくモンスターを処理したんだからよくやった。正直、お前たちのレベルより高くて、助けてくれと言うかと思っていたよ。」
その言葉に、誰ともなくレオ班長の方に顔を向けた。