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魔王に拾われた人間の子供のお話  作者: 憂依ーyuuiー
第一章◇はじまり
8/9

第八話:なまえ

ヴァリオスが一口ずつ、ゆっくりと匙を運んでやると、少年は警戒しながらもそれを受け入れ、

そして――ぽたり、ぽたりと涙がこぼれた。


「……どうした?」


ヴァリオスは戸惑いながらも、優しく抱き直し、ぽんぽんと背中をさする。


グレイソンは少し離れた位置から、その様子を静かに眺めていた。

どこか、微笑ましい家族のようでもあった。


「……そういえば、お前に名はあるか?」


ヴァリオスが問いかけると、少年はヒックヒックとしゃくりながら、かすかに首を横に振る。


「……ならば、名をつけねばな」


ふと、ヴァリオスの頭に先ほどの豆のスープの色がよぎる。

温かく、柔らかく、優しかった。






「……ルカ、というのはどうだ?」













その言葉を聞いて、すぐさま反応したのはグレイソンだった。


「ルカ……ですか?」


ヴァリオスは少し気まずそうに視線を逸らしながら、小さく答える。


「……そうだ」


「……まさかとは思いますが、ルカ豆のスープから?」


鋭い指摘に、ヴァリオスは口をつぐむ。

その様子を見て、グレイソンは眉を寄せてため息をついた。


「犬や猫ではないのですから、もう少し意味のある名前の方がよいのでは?」


たしなめるような声にも、ヴァリオスは特に反論せず、ただ視線を落とす。


だが、当の子供──ルカは、そんな二人のやり取りなど聞こえていないかのように、

ぽつりと「ルカ」という響きを胸の奥で何度も繰り返していた。


(ルカ……)


それは、音の形で、初めて自分だけのものになった言葉。

温かくて、やさしくて、耳に残る。


「……他の名にするか?」


ヴァリオスが子供に向き直ってそう問いかけると、

はっと我に返ったように、ルカは首を大きく横に振った。


「……ルカで、いいのか?」


今度は、こくんと――けれどしっかりと、縦に首を振る。

その瞳は、初めて自分の名を得た喜びに、静かに輝いていた。


ヴァリオスはゆっくりと頷くと、腕の中の小さな存在をそっと抱きしめ直した。

ルカはまだ「笑う」ということがわからない。

けれどその瞳には、確かに「うれしい」が宿っていた。









ヴァリオスは名を与えたあと、小さく頷いたルカを見つめ、静かに口を開いた。


「……では、我も名乗ろう」


その声は相変わらず感情に乏しく淡々としていたが、どこか慎重さがにじむ。

ルカの目をじっと見つめながら、ゆっくりと言葉を綴る。


「我が名は、ヴァリオス・グラン・ディアハルト。魔族の王だ」


「魔族」「王」――その響きに、ルカの小さな肩がびくりと揺れる。


(……まおう?)


その言葉に、聞き覚えがあった。


奴隷商の大人たちが酒臭い息を吐きながら話していたことがある。

「あの闇の魔王にだけは逆らうな」「奴隷の首など、ひと睨みで吹き飛ばす」


笑い話とも、警告ともつかない会話だったが、子供の耳には確かに届いていた。


“まおう”は、怖いもの。


怒らせれば、死…


──そんな風に思い込んでいた。


けれど今、自分を見下ろすその人は、温かいスープをくれた人。

そして、僕に、名前をくれた人だ。



そばにいるのに、怒鳴りもせず、手も挙げない。


混乱のままルカはうつむいてしまい、返事もできずに視線を逸らした。


そんな反応を見たヴァリオスは、しばし沈黙する。

そして、目を細めて静かに言葉を継いだ。


「怖がるのも無理はない……お前のような年であれば、なおさらだな」


言葉には、どこか遠い過去を思い出すような響きがあった。


「だが我は、お前に危害を加えるつもりはない。」


ルカは顔を上げた。

その目にはまだ迷いと怯えが残っていたが、ほんのわずかに、光が射していた。


その様子を見ていたグレイソンが、柔らかく一礼するように頭を下げる。


「私はグレイソン・エドガー。この城で主──ヴァリオス様に仕えております。……必要なことがあれば、いつでも言ってください」


ルカは言葉が出せない。

ただ、視線を少しだけヴァリオスとグレイソンに向ける。

ゆっくりと、こくんと頷く。


その小さな動きに、二人はわずかに微笑んだ。



※この作品は創作支援AIのサポートを受けて執筆していますが、すべてのアイディア・キャラクター・展開は作者自身によるものです。

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