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魔王に拾われた人間の子供のお話  作者: 憂依ーyuuiー
第一章◇はじまり
5/9

第五話:魔王の駄々と執事の理性

 子供の髪と身体を清めたのち、グレイソンはふわふわのタオルでその身体を包み、静かに抱き上げた。

 眠ったままだが、湯のぬくもりにほんの少し頬が赤らんでいる。


 「客間の寝具を整えさせましょう。さすがに一晩で衣服は間に合いませんが――」


 「……我の部屋に寝かせろ」


 その静かな提案を遮るように、ヴァリオスが口を開いた。


 「は?」


 「客間は遠い。我が見ている。」


 「……」


 無表情なままのグレイソンだったが、その目元には明らかに『また始まった』と書いてある。



 「陛下。人間の子供一人のために、王室の寝所を開放するのは前例がございません。

  しかもお相手は、身元も分からぬ上に鉄の首輪をつけた――」


 「……一晩だけだ」


 「――そして、王の寝台に子供用のベッドなどあるはずもなく」


 「…共に寝る」


 「ダメです。潰してしまいます」


 「ならば私が、カウチで寝る」



 ヴァリオスの深紅の瞳は真剣そのもので、そこに譲歩の色は一切ない。


 「……」


 グレイソンは黙って小さく溜め息をつくと、踵を返した。


 「では、寝具の調整をいたしましょう。……多少の不便はご容赦ください」


 こうして――魔王の寝室は、異例の“特別宿泊客”を迎えることとなった。


 


* * *


 


 王室の寝室は、まるで夜の宝石箱だった。


 黒を基調とした深く静かな空間に、漆黒の天蓋付きベッドが中央に据えられている。


 織りの細かい黒の絹布には、光の角度で金の文様が浮かび上がり、

 四隅には燭台が配置され、揺れる灯火がベッドの装飾を柔らかく照らしていた。


 壁には金縁の絵画、天井は夜空を模した星の細工。

 まさに“闇の王”の私室にふさわしい、威厳と静寂に満ちた空間。


 その中心、キングサイズの豪奢なベッドの端に、ひときわ小さな身体が静かに横たえられていた。

 黒いシーツに、あどけない寝顔。まるで漆黒の海に浮かぶ月のようだった。


 ヴァリオスはその様子を黙って見つめていたが、ふと部屋の隅――

 自分の書斎兼休憩スペースに据えられたカウチに目をやる。


 それもまた黒地に金装飾の、上等な革張りのものだったが――サイズはどう見ても、ひとり用。

 グレイソンが軽くシーツをかけ、枕を整えている。


 「……翼が、出るな」


 「はい。お一人用ですので」


 「……背中が痛くなりそうだ」


 「明朝、回復魔法をかけて差し上げます」


 「……」


 「どうぞ、ゆっくりお休みください」


 グレイソンは完璧な微笑みを浮かべて、深々と一礼すると部屋を後にした。


 部屋には、やがて静寂が戻る。

 ヴァリオスはベッドへと視線を移し、眠る子供の横顔を一瞥する。


 その目に、ほんのかすかに、優しさのようなものが浮かんだ――気がした。


 「……潰さない方が、確かにいいな」


 そう呟いて、彼は大きなため息と共に、カウチへと腰を下ろす。


 世界の王の夜は、かつてないほど、窮屈で――やさしいものとなった。

※この作品は創作支援AIのサポートを受けて執筆していますが、すべてのアイディア・キャラクター・展開は作者自身によるものです。

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