第四話:きれいにしましょうね
湯の用意が整ったと報せを受け、ヴァリオスはグレイソンと共に風呂場へ向かった。
今は亡き曾祖父がこだわって造らせた、黒曜石と白大理石の湯殿。
床には魔紋が施され、常に清らかな温水が湧き、霊草の香がほのかに漂う。
ヴァリオスは湯気に包まれた浴室で、改めて子供と向き合った。
身体はまだ細く、泥と血に塗れた髪は絡まり、肌は薄汚れている。
見れば見るほど“どうやって洗うのか”がわからない。
ヴァリオスは眉をひそめ、しばし考え込んだ。
(……子犬のときは、どうしたか)
タオル?石鹸?先に湯をかける?
(湯船に沈める…は、さすがにないな。)
ひとしきり試行錯誤の末、ついに諦めた彼は、浴室の外へ向けて声を張った。
「グレイソン」
「……はい、そうなると思っておりました」
呆れ半分、諦め半分の声と共に、執事がすぐに現れる。
グレイソンは黙って少年を受け取り、膝をついて丁寧に洗い始めた。
その手つきは驚くほどやさしく、まるで何度もこうしたことがあるかのようだった。
「……お前、手馴れているな」
「陛下がこれまでにお拾いになった“いろいろなもの”の洗浄経験がございますので」
小動物から巨大な鳥、沼から引き上げた謎の魔獣まで。
それらを全て洗ってきたのは、この執事に他ならない。
(そういえば拾った子犬はグレイソンに洗ってもらったな…。)
「……なるほど」
ヴァリオスは子供の様子をしばらくじっと見つめていたが、やがて脱衣場でさっさと自分の衣服を脱ぎ、風呂に入った。
温かい湯に身を沈めると、ようやく肩の力が抜ける。
そのまましばし無言で、洗い場の様子を湯船から眺めていた。
――が、あまりに長引いている。
何かあったのかと思い、立ち上がる。
湯を滴らせながら歩み寄り、洗い場をのぞき込んだ。
「……まだ終わらないのか」
「……髪に、血や泥が何層にも固着しておりまして」
桶に湯を汲み、丁寧にすすぎながら、グレイソンは根気強く髪を指で解いていた。
ヴァリオスは、素っ裸のまま腕を組み、仁王立ちでそれを見つめる。
「……」
「……」
「…………風邪をひきますよ、陛下」
「…………」
指摘されたヴァリオスは、若干不満そうな顔をしながらも、無言で踵を返すと、脱衣所へ向かっていった。
やがて洗い終わった子供をタオルに包み、そっと抱き上げるグレイソン。
「まったく……王という立場を理解しているのか、いないのか……」
ため息混じりにそう呟きながらも、グレイソンの手はどこまでもやさしかった。
湯気の中で、少しずつ温まっていく子供の体温を感じながら、彼もまた、脱衣所の奥へと続いていく。
※この作品は創作支援AIのサポートを受けて執筆していますが、すべてのアイディア・キャラクター・展開は作者自身によるものです。