第5話 3匹の次は…?
嵐の中で出現している地図によると、この国は西にあるウェステンで、ウィルーヌという町らしい。四季で言うと気候は、春のような暖かさだった。
とはいえ、もう日暮れだ。多少の温度の変化はあるだろう。
「しかし疲れたな…精神が」
中々に濃い1日だった。
正直色んな事が起こり過ぎて、精神的な疲労がピークに来ている。
「んー、体力的には全く問題ないんだけどなぁ」
こういうときは食べてすぐ寝るのが一番だろう。
辺りを見回すと、商売人達が店を畳み始めていた。人もまばらだったが、飲み屋らしき所はガヤガヤと賑わっている。多分朝まで飲み明かすのだろう。
それを横目で見ながら、マップから現在地に一番近い宿に向かおうと歩き出し―――
「あぁ…俺は重大な事を忘れていた」
(一文無しだということを…)
食べ物は製造、複製でどうにでもなる。しかし、神様の条件でお金は稼ぐ以外方法がない。
このままじゃ野宿で一夜を過ごすことになる。
家を作る事は出来るだろうが、楽して暮らすなんて言葉は嵐の頭にはない。食べて寝るだけの生活なんて、退屈でしょうがない。折角神様から能力を貰ったのだ、それを無駄にするなんて人生を棒に振る様なものではないか。
小さな頃に、一度は夢見たファンタジーな世界。楽しまなきゃ勿体ない。
「うんうん、異世界に来たからには宿に寝泊まりする体験もしたいし、ギルドみたいなので稼ぎながら自由に放浪するのもいいよなぁ…」
あの親にしてこの子あり。もといこの親にしてこの子あり―――
やはり嵐も親の影響は受けているようだ。
―――本人は気付いていないが。
明日になったら早速異世界に有りがちなギルドか、なければそれに似た仕事を探すことにして、明日からの計画を楽しみにしつつ野宿をするために人気のない場所へと歩みを進める。
野宿と言っても、外からは見えないように障壁を作り寝袋で寝るつもりだ。
やはり人目も気になるし何より…魔物にでも襲われたらたまったものじゃない。
1日で仕事が見つかるかはわからないが、兎も角見つかるまではこの生活を続ける気でいた。
(ここなら誰も来ないかな)
人気の無い場所、つまり路地裏を今日の寝場所に決めた嵐。
障壁を作ろうとイメージをして…
「よーし、それじ「放してっ!」…?」
ナイスタイミング(?)
身体能力が上がっている嵐には、常人なら微かに聞こえた程度であろうその声を、はっきり聞くことができた。
「いやっ!!」
(あらら、今日は色々あるなぁ)
早く休んで疲れをなくしたいところだが、このままだと寝覚めが悪い。
仕方なく騒ぎの原因だろう場所に向かって進むことにした。
能力のお陰で聴力だけでどの方向にいるのかは分かる。
音を立てずに声の元へ素早く移動する。
暫くすると―――
案の定、遠目に男3人に囲まれた少女の姿が目に入った。
(おいおい…大蛇3匹の次はアホ人間が3人かよっ)
…突っ込むところが少々ズレているが、きっと精神的な疲れのせいだろう。
********
「騒ぐんじゃねぇ、お前はただ俺達に従えばいいんだよぉ!」
人目を気にしているのか、声を抑えながら話す男の声が耳に飛び込む。
残りの二人はニヤニヤしながら少女を見ている。
その輪の中に、震えながら俯いている少女の姿を視界に捕えた。
「馬鹿馬鹿しい…」
そう吐き捨て、冷めた目で見つめながら気味の悪い笑みを浮かべる男達の元へと走る。
直ぐに少女を庇う様に前へ立つと、目を点にし大口を開けている男達を睨み付けた。
―――無理もないだろう。嵐がいた場所から男達のいる距離、約15メートルはあった。
嵐がそこに居たことを知らなかったにせよ、瞬きをする程の僅かな時間で見知らぬ少年が前に立っていたのだ。驚かない方がおかしい。
「なっ!…なんなんだてめぇは!!痛い目にあいたくなけりゃあ、さっさと失せろ!」
やっと正気を取り戻したアホ面その1は動揺しながらも相手が子供と見るや、明らかに小馬鹿にした顔をして嵐を見た。
アホ面その2、3もアホ面その1の言葉で我に返ったのか、
嵐を見ながらニヤけ出した。
そんなアホ面共を無視するように、嵐は後ろにいる少女に優しく声を掛ける。
「ねぇ君、どこも怪我してない?大丈夫?」
いきなり声を掛けられた少女は、驚いた様に嵐を見上げて―――
固まった。