第2話 日常から非日常へ②
「それじゃあ行くぞ~」
「ほーい」
「いいよー」
準備を済ませた三人は、一緒に家を出て学校へと歩き出す。
嵐が高校へ着くまでに、來と瑠宇の学校が途中にあるので、何時ものように送っていく。
「來~授業サボるなよー。瑠宇じゃあね」
「サボらないよっ!」
「うん!じゃあね~」
ズンズン歩いていく來と慌てて追いかける瑠宇を見送った後、嵐はのんびり学校までの道を歩いて行く。
嵐の住んでいる家は学校まで徒歩15分だが、いつも余裕を持って出て行くため、余程のことが無い限り遅刻をする事はない。
「あー…今日もいい天気だなぁ」
雲一つない空を見上げながら、マイペースに歩いていく。
このまま住宅街を真っ直ぐ歩き、突き当たりを左に曲がるともう学校が見えてくる。
10分程歩いて、丁度嵐が突き当たりを曲がった時、ふと視界の隅に写るものがあった。
「ん?――あっ」
チラリと横目で見ると、ランドセルを背負った女の子が道路を渡っているところだった。
―――トラックが進むその先に―――
声を出した時には既に身体が動いていた。
全速力で走る。
――もう少し――――
――あとちょっと――――
「くっ…!」
ドンっ
「きゃっ」
間一髪、女の子を道路から押しやる―――
ブブブーッ!!!
クラクションが鳴り響く
それは嵐のすぐそこまで迫っていた。
―――――――――
…鈍い、音がした
視界が、黒く塗り潰される
『間違えたっ!!!』
おかしな声を僅かに聞き取った後、そのまま意識を手放した―――
***********
「ぁ……」
『聞こえて…おったのか…』
なんか…
なんかわかっちゃったよ…俺。
「…そこのおじいさん、いやカミサマ?『間違えた』って何ですか?」
にっこり。満面の笑顔も忘れずに。
『ひっ!!…は、はははなはなはな…話すからぁっ!!そのっ、無言の圧力はやめてぇぇぇ!!』
カミサマ(?)は怯えながら嵐を見つめ…やがて意を決した様に口を開いた。
『まっ…ままままま…』
「ま?」
『まちっ…間違えちゃぶべらっ!!』
「やっぱり、か…」
右手を擦りながらカミサマを無表情に見下ろす。
『神である我をなぐるなんてっ!…いやなんでもないですごめんなさい許してください』
「はぁ…さっさと説明して下さい」
嵐がもう何もする気はないからと肩をすくめるのを見て、やっと安心したカミサマは、途端に真面目な顔つきをして話し始めた(威厳も何もあったもんじゃない)。
『実は……』
神様の話しをまとめると、
・嵐は神の手違いで死んだ。
・間違えはそうあるものではなく、一万年に一度あるかないか。
・手違いで死んだ人間は、死んだ世界に戻す事は出来ない(もう火葬されているらしい)。
・転生はせずに地球以外の場所に飛ばさなければならない。
…まぁ、手っ取り早く言うと異世界で17歳からスタート…という訳です。
「もちろん、待遇は良くしてくれますよね?」
『うむ。これも我の不行き届きじゃからな…すまなかった』
そう言って、神様はペコリと頭を下げる。
「いや…もう、過ぎたことですから…ね」
許せるかと聞かれたら、もちろん許せる筈がない。
いきなり、手違いで死んだから異世界で生きていけ。なんて言われたら、許せる人なんていないのではないか。
しかし、過ぎてしまったことはどうしようもない。
まぁ嵐自身、両親や來と瑠宇は大切な家族だが、その他の事に関してほとんど思い入れはなかった。
あの両親から生まれたものの、來や瑠宇はしっかりしている。
俺一人いなくなっても、ちゃんとやっていけると思うので心配することもない。
(來や瑠宇には悪いが…あの両親の世話は頼んだ!!)
「…許せる事じゃあないけど、神様だって完璧じゃないんでしょ?…一万年に一度なんて、滅多にあることでもないですし」
『…ありがとう』
そんなことより…
「異世界って、魔法はありますか?」
『うむ。…嵐のいた地球と違って、魔法はもちろん人間が一番多いが、魔物やエルフ、獣人なんかもおるな』
「おおっ!まさか現実で体験できるなんて…ある意味ラッキー?」
嵐の瞳がキラキラ輝きだした。
――――その時神様は思った。
(切り替えはやっ!)