第19話 無難な処遇
「ラン様、お疲れ様です」
「そちらこそお疲れ様です」
ギルドに着くと、笑顔でポニさんに出迎えてもらった。
「ふふっありがとうございます。では、紋様をこちらに」
そう言われ、紋様の入った右手を差し出す。
『スーグネルゴヒキメッスル。イライカンスイシマシタ』
「……はい、確かに確認しまし『イライガイ、モジュ、アカランク』……ぇ」
「……」
(うわっ、やっぱりバレたか)
「え、あの……」
「……」
「…ラン様……?」
「……」
「これは、一体…」
「……」
「……」
「……あはは…」
笑って誤魔化そうとする俺に痺れを切らしたのか、ポニさんは少々お待ちくださいと言い残し、奥に引っ込んでしまった。
する事もないので、適当にギルド内をボーッと眺めること数分。
心配しているような、それでいてどこか嬉しそうなポニさんが受付にひょっこり顔を出した。
「お待たせしました」
「いえ、そんなに待ってないんで大丈夫ですよ」
「ありがとうございます。あの、今回の処遇についてなんですが…」
「?」
「白ランクのラン様が、赤ランクの魔物を倒した事なんですが、赤ランクを倒せる程の力量はあったとしても、ギルドへ入ってまだ数日という事を考慮した結果、ギルド長はラン様を3ランク上げるという措置をとることに決めました。…おめでとうございます」
「3ランク…」
えっと確かランクは
白<黄<橙色<緑<青<紫<赤<銀<金<黒
だから…
おー緑かぁ!!
…って、色じゃ実感わかないな
G<F<E<D<C<B<A<S<SS<SSS
とすると…
Dになるのかぁ。
んー、まぁギルドに入った日数で考えたら妥当だよね
(あまり飛び級されると注目を浴びる危険もあるし…)
「無難ですね」
「…そう、ですね」
どこか歯切れの悪い返答をするポニさんを不思議に思い尋ねてみると、ポニさんは申し訳なさそうにこちらを見つめた。
「すみません…本来なら喜ぶべきことなんでしょうが…ギルドに入ってまだ数日のラン様が、いきなり3つもランクをあげられて…それだけリスクが高まると思うと……あっ!いえそのっ…決してラン様が弱いとかそう思っている訳じゃなくてですね、その、あの…」
(心配してくれてるのかな…?)
恋愛事の感情には超がつくほど鈍感だが、放浪癖のある両親の代わりに弟や妹の面倒を見ていく上で、必然的に大人と接する機会の多かった嵐は、その場の空気や感情を読み取ることには鋭敏であった。
「えっと…心配、してくれているんですよね?」
「っ!?…は、はいっ!」
「ありがとうございます。…でも大丈夫ですよ。無理な依頼はやりませんし、自分の事は自分自身がよくわかっていますから」
「……そう、ですよね」
できるだけ優しく言ったつもりではあったが、拒絶を感じたのか目に見えてポニさんの表情は硬くなった。
(まいったな…)
このままでは、ギルドで顔を会わせる度に重い空気が流れそうだ。
こういう時は―――
「気にかけてくれてありがとうございます」
「い、いいえっ…すみません余計な事言ってしまって」
「いえ、心配してくれてありがとうございます」
「……ぅっ!!えとあの、あっ!紋様のある手をこここ、こちらにぃっ!」
(こ、ここで笑顔だなんて反則だわっ!!)
にこりと微笑んだランを見て途端に赤面したポニさんは、危うく本来の仕事を忘れそうになった。
(あー良かった。これで気まずい事にはならなそうだ。というか、ポニさんって急に赤くなるよなぁ…)
原因が自分だなんて思いもしない嵐は、ただ不思議に思うだけだった。
「―――ラン様、緑ランクへ」
「おぉっ…」
ポニさんの言葉と同時に、手の甲にある紋様が淡く光ると、白色の対になる剣の紋様が黄、橙色と変わり、最後に緑色に変わると淡い光が消えた。
「これでラン様のランクは緑となりました」
「ありがとうございました」
「いっいいえ、これも仕事ですから…」
(うぅっ…!!笑顔が眩し過ぎるわ……!)
「そ、そうですか」
(ポニさん大丈夫かなぁ)
またも赤面するポニさんに、嵐はどうすることも出来ないので軽く会釈をしてその場を離れ、換金所に寄りお金を受け取ってからギルドを後にした。
**********
ランが去った後のギルド内―――
「はぁ…素敵…すてき過ぎるわっ…うふふふふ……」
「胸がモヤモヤする…っ、こここれは憧れ…憧れなんだ!!」
「…ずっと来ない…何でだろう……グスッ」
しばらくの間、異様な空気漂う窓口に誰も近づくものはいなかった。