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第17話 迷子?②




「う~む………」


わらわはどうやら、道を間違えたらしい。もうかれこれ30分はこうして森の中を歩いている。


(ウィルーヌ町には、そろそろ着いてもいい時間のはずじゃが…)


「…道を間違えた、か。急いで戻れば、まだ間に合うはず……」




5分でもいい。

自由に町を歩いてみたい。





「仕方ないの…疾風の如く走る。ウィンド――」


そう言葉を紡ぐと、少女の被っているフードが、ふわりと(なび)いた。見た目には何ら変わりはないが…



「さて、急ごうか「モギャアアアアアアアッ!!」なんじゃっ?!」





魔法をかけ終えると同時に、奇妙な鳴き声が(とどろ)いた。

何事かと後ろを振り向いた少女は―――





数メートル先の木々の間に、

赤黒い、巨大な何かが――――――






「いっ…やああぁぁぁああああああ!!」


先程紡いだ言葉通りに、少女は風の様なスピードで走り去って行った。




「モギャアアアアッ!!」




魔物付きで。












「はぁっはぁっ…魔力、が……」



どれくらい走ったのだろう。

風魔法の力を借りて、なんとか追い付かれずに済んでいたが、消費し続けの魔力はもうすぐ底をつきそうだった。



(もう、だめなのか…?)


「はぁっ…うっ…」


これ以上は、もう―――


「ぁっ…!」


走り続けた疲労からか、足が(もつ)れて身体が傾いてしまった。

しかし咄嗟に手をついたことで、全身を地面へ打ち付けることは辛うじて回避した。

が、風魔法を使って走っていたことで、勢い余って何度か前転の様な状態で転げ回る羽目になった。


「っ!うぅっ…運動不足、じゃな…」


このまま寝転んで休みたいところだが、それでは魔物に襲われる。

取り敢えず、立ち上がらずくるりと向きを変えて魔物と対峙した少女は、じっと魔物を見据えて、



「…まだっ、町も、見ておらぬ。こんな、虫ごときに、殺されてたまるかっ!!」


啖呵を切ってみた。

するとどうだろう。

今まで少女へと迫っていた魔物は、ピタリとその動きを止めた。

―――実際は、魔物もヘトヘトだっただけだったり。


(なんじゃ?……まぁ、いい。少しでも体力を回復しないと)



こいつがわらわの目の前に来たら、残りの魔力全てを使って吹っ飛ばしてやる。

運が良ければ、木にでもぶつかって多少の時間は稼ぐ事が出来る…はず。その間に、少しでも離れなければ。

直ぐに追い付かれるかもしれないけれど――――


(その時は、また考えればよい)


鋭く魔物を睨み付け、呼吸を整えつつ出方を伺う。








――――そんな時だった




わらわの、運命の人が現れたのは―――――








********






(なーんで王城スカウトコースに近付いてんの……)


というか、どうしてここに赤ランクの魔物がいるんだ?

さっきいたところからそんなに離れてないんだけど…(少女が原因です)。



ムカデみたいな魔物は少女を追い詰めた事で余裕ができたのか、はたまた何かを感じて様子を伺っているのか、そいつは少女と3メートル程離れた先で、口から緑色の粘液を垂らしながらウネウネしていた。


(どうしようかな…)



少女を連れて転移で逃げようか。

―――いや、すでに俺の紋章がこいつを認識してしまった以上、ギルドへ行ったらAランクの魔物に会ったことは速攻でバレる。

まぁ、ポニさんには適当に誤魔化すことにして逃げるだけでもいいんだけど、なんかこの魔物……



(倒すまで追いかけてくる気がする…!!)



なんか、さっきのドドド…っていう音からして追ってくる気満々だよね。転移して逃げたとしても、他の人が被害に合うかもしれない。

というか、倒さないままだと、外れの森に行く度にコイツに追い掛けられる。

っていう、妙な自信があるんだけど……



「…………」


(あーあ、なんでこんな面倒なことになったんだろう)


魔物のランクが自分よりいくら上でも、倒す事は安易だろう。

ただ、今の平凡な日常を崩されるのは……勘弁してほしい。


「まぁ…しょうがないかぁ」


少女の周りには、既に魔法で障壁を作っておいたので安全だろう…多分。

当の少女は魔物へと顔を向けたまま、後ろにいる嵐に気付いていないようだった。


(考えるのはやめやめっと)


「どうせバレるなら、換金部位全部いっただっきまーす。そーれウィンドカッター」


さっぱり後の事は放棄し、緊張感の欠片もないままに魔物の、換金部位の足と触角を狙って魔法を放った。






………ドサドサドサドサドサドサッ…!!!



「モギャァァァァァアアアッ!!」



「なななんじゃっ!!?」


「…え?」




適当に放った魔法は、切り刻む音もせず、数拍遅れで魔物の足や触覚をバラバラにしてくれた。


(ナニコレこわっ!!)


アニメやマンガにありそうな体験を、身をもって体験した嵐。


「風魔法…気を付けて使わないと危険すぎるな」



見えないからタチが悪い。

足の無くなった魔物が痛みによじり暴れる姿を見ながら、風魔法は滅多な時以外は使わないでおこうと思った。



「部位は勿論いただいて…さすがにこのまま死ぬまで放置は可哀想か……」


生殺しの趣味はないので止めを刺そうとs――――――






「グェェェエエッ!!」


「モギャッ!!?」



バッサバッサバッサ…………




「………」



トドメをさす必要はありませんでした。







持っていったよ。

でっかい鳥が、ムカデさんを、

(くわ)えていきました。





「なんだ今の…ムカデよりもデカイって………」



嵐は空を見上げ、悠然と羽ばたいて行く鳥の姿を見つめた。



「…………」





異世界で、食物連鎖を間近で垣間見る事になりました。








「な、何なんじゃ一体…」


「?」


声のする方へ顔を向けると、少女が呆然と空を仰ぎ見ていた。





「あー…」







今の今まで…

女の子の事、忘れてた。











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