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第13話 初依頼



「あのーすみません。銀行の登録をしたいんですけど」


「…はい。それでは紋様のある手を前に出して下さい」

こちらの窓口は男性だった。


微妙に頬が赤いのは気のせいだろう…多分




「えーラン様ですね。…はい、これで預金や引き出しが出来るようになりました」


(はやっ!)

ギルドの登録と同じ、紋様に手をかざしただけで終わってしまった。


「依頼の報酬、換金で受け取ったお金を預金したい時は、こちらの窓口にて預からせて頂きます。また、お引き出しの際もこちらの窓口にて行います」


「わかりました。ありがとうございました」

にこっとポニさんにした様に愛想笑いをしてその場を離れる。





「あ…あの人は男、あの人は男男男…」



ゾクゾクッ


後ろで何やらぶつぶつ言い始めた受付の男性に、内容は聞こえなかったが何か悪寒がした。

それを振り払う様に足早に依頼書の棚へ向かう。



横長の棚には左から順に黒、金、銀…と色分けされたファイルが入れられていた。

金、銀のファイルの数は少ない。黒なんてたったの一つしかファイルは置かれていなかった。

どんな内容なのか気になったが、今の自分には全くもって関係はない。

まぁいいやと気にしない事にして、白色のファイルを端から取り、ペラペラ捲っていく。


(初めてやるんだし、今のランクで探した方が良いよな)


自分の能力が尋常で無いことは分かっているが、何せ初めてなので慎重に行動をした方がいいだろう。

―――町に着くまでに倒した魔物はノーカウントということで


なるべく報酬が良いものを探していく。

ファイルを取ってはペラペラ捲る…を繰り返すこと数分。


「おっ…これなら宿代出しても余裕でお釣りがくるな」



白ランクで一番報酬が良いものを見つけた嵐は、ファイルから依頼書を抜き、ポニさんの元へ向かう。


「決まったんですね」


「はい。これなんですけど」


まるでずっと嵐を見ていたかの様なタイミングで声をかけるポニさん(実際見ていた)。

嵐から依頼書を受け取り目を通す。


「えー依頼内容は……ん?…」


そう言ったきり、依頼書を見つめたまま微動だにしなくなる。


「何か問題でもありました?」


報酬の金額ばかり見ていたので、依頼書の中身は全く読んでいなかった。


「い、いいえっ!でも…」


何か都合の悪い依頼書なのだろうか。歯切れの悪いポニさんを見て不安になる。

ポニさんは心配そうな顔をしながら嵐を見つめ、


「…ラン様、依頼書の内容は〈ウィルーヌ町のはずれの森にて、スーグネル5匹滅する。報酬五千ユクス〉です。本当にこれでよろしいのですか?」



五千ユクス…イールラさんの宿は一泊千五百ユクス。3日は泊まることが出来る。こちらの時価などは知らないが、多分イールラさんの宿屋は安いのだろう。


「んー」


内容を確認されたが、スーグネルがそもそも何なのかわからない。


「いいんですけど…その、スーグネルってどんな魔物なんですか?」


「あっ!失礼しました。少々お待ちください…魔物の図鑑は……あったあった」


何やら机の横にある棚をゴソゴソしていたかと思うと、ドンッと分厚い本が机に置かれる


「お待たせしました。スーグネルは…こちらの魔物になります」


ポニさんが指し示す指をたどり…





(げ!!…あの大蛇かよっ)


スーグネルと書かれたページ、ちょっとした説明の下に、初めて異世界で戦った紫に青色の斑点をもつ、あの毒々しい大蛇が…デカデカと描かれていた。



スーグネルの絵を見、眉をひそめる嵐を見たポニさんは、


「このスーグネルという魔物は、白ランクの中では上位の魔物でして、5匹相手となるとパーティーを組んで倒すのが一般的なんです。ラン様は今日初めてですし、他の依頼を受けてみてはどうですか?」

怪我をしては元も子もないですよ。と、嵐に止めるよう勧める。


「あー大丈夫です。倒した事あるんで」


「えっ!?ギルドの登録をする前に襲われたことがあるんですかっ?!」


「え、まぁ、ちょっと、色々有りまして。ハハハ…」

説明が面倒なので笑って誤魔化してみる


「そう、ですか…でも、五匹相手で大丈夫ですか?」


「大丈夫です。それでお願いします」


「わかりました。…気を付けて下さいね」


渋々、といった感じで了承したポニさんは、嵐の紋様に手を翳して受理した後、不安そうな顔をしながらも見送った。




嵐の姿が視界から消えると、小さくため息をつく。

(あんな綺麗な顔に傷でもついたら…)

嵐が帰ってくるまで、気が気でなかった。





*******





「そんなに…頼りないかな。ハハハ、はぁ…」

ポニさんが心配していたのは少々別のことなのだが―――


ポニさんの不安そうな顔を思い出しては、肩を落としながら森を歩く。


ポニさんに見送られた後、一回行ったことがあるはずれの森まで転移したのだ。



「…よしっ!ちゃっちゃと倒して、頼りないイメージを払拭しよう」


持ち前の切り替えの早さで復活、闇雲に歩き回るのは止めて、上空からスーグネルを探すことにする。

視力は意識するだけでズームすることが出来るので、地上に近付く必要もない。


「おっ!見つけた」


早速嵐の眼下5メートル程下に、二匹のスーグネルがウネウネ動いていた。


『スーグネル、ランクシロ。カンキンブイ、キバ』


突如手の甲の紋様が光ったかと思うと、頭に直接機械的な声が響いてくる


「あぁ…これが、さっき説明してもらったやつか」


スーグネルから牙さえ残すことができれば、副収入が得られるみたいだ。…兎に角、まずはどうやって倒すか考えなければ。



「この前のアレは…却下」


火の玉を出そうとして50も作り出したアレだ。

あの時スーグネルは跡形もなく消えてしまった。大きなクレーターを残して…

あの後町に着くまでに制御を覚えたが、火の玉一つだけでも相当な威力だった。というか、当たった魔物は跡形もなく消滅した。


(うーん…て、炎がダメなら氷でいいか)


取り敢えず牙さえ残せば良いのだ。よしっそうと決まれば即実行!


「あの大蛇に向かって…氷の槍よ、いけ」


ちゃんと制御したので二本しかだしていない。




―――氷の槍は、目的のスーグネルに向かって落下する


ザシュッ!


呆気なく、脳天を貫かれた二匹はそのまま地面に縫い付けられ、ピクリとも動かなくなった。


『ノコリ、アトサンビキ』


ご丁寧に音声さんは残りの数も知らせてくれるらしい。





「即死か…」


スーグネルの元へ降りて見れば、5メートルはある大蛇にぶっとい氷の槍が突き刺さっている。後は牙を抜けばいいのだが、進んで触る気も起こらない。ならば、


「…牙よ抜けろ」


適当に呟けば、長さ1メートルはありそうな太い牙二本がスルスルと抜けていく。

ゴトッという音とともに二匹分の牙4本が地面に落ちた。


「異空間開け。そこに牙収納ー」


続いて何もない空間から白い穴を出す。牙は意識を持った様に浮くとそのまま異空間に入り、消えた。


こんな感じで残り三匹も倒していった―――










『イライ、カンスイシマシタ』


「ふー終わったー」


牙を抜き異空間へ放り込む。






「ギルドへ」





*********








「終わりましたよっ」


「えっ…」


晴れやかな顔の嵐を、ポニさんは目を見開き凝視する。


今の時刻は8時5分

嵐がギルドから出ていった時間は7時55分。


(じゅっ…10分で!!?)


なんとか驚きが顔に出ないよう取り繕う。もし本当なら失礼になる…正直信じられないが、紋様を確かめればわかること。


「ラン様…紋様を前に出して下さい」


差し出された右手の紋様に手を翳す、

『スーグネルゴヒキメッスル。イライカンスイシマシタ』


「っ!確かに……けど、ラン様はどうやって移動したんですか?ここからはずれの森まで、走ったとしても片道30分はかかります。それに、5匹と戦って傷一つない…そんな、どうして…」


「転移してスーグネルに氷ぶっ刺して、また転移して戻ってきただけですよ」


困惑を隠せないポニさんに向かって、簡潔に答える嵐。


「転移っ!!?…転移魔法はウェステン国に仕える、ほんの一握りの魔術士にしか使えないはずです。それに初めてなのに、たった一人で…」


(マズッ!!面倒なことになる!)


咄嗟にポニさんの手を掴み引き寄せ―――



「なんか適当にやったら出来て…これ、秘密にしてもらえますか?」


目立たないよう耳元で小さく囁く。


「……」


かなり苦しい言い訳だったが―――

目を点にしたポニさんは、次の瞬間真っ赤な顔をしてブンブン千切れんばかりに首を縦に振った。


「ははいっ!誓って誰にもいいませぬっ!!」


「あ…ありがとうございます。それじゃあ、また」


真っ赤な顔と、おかしな口調に首をかしげるが、まぁ誤魔化せたしいっか。と気にせずそっとその場を後にした。




この後、換金窓口で異空間から牙を出し、お金に換えてもらった(因みに換金窓口の人は男性)。

結果は…牙10本でたったの千ユクス。やはりランクが低いと敵の部位の値段も安いみたいだ。


突如何もない空間から出てきた牙に驚いた受付の男性にも、苦笑しながら内緒にする様に頼むと、こちらも千切れんばかりに首を振って了承してくれた。その男性は顔を赤くしながら『インフィニー』という、嵐が使った異空間魔法と同じ様な機能の皮袋があるので、そっちを使うと良いのではと有難い助言もしてくれた。


目立たない為にも、宿へ帰ったら自作しようと思考を巡らせながら、ギルドから出ていった。







一方、

嵐が去ったギルドでは―――







「あの人は男、男男男男……」

「また明日も来るかな。はぁ……」

「二人だけの、秘密。うふふふふ……」





不気味な光景が広がっていた












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