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第12話 ギルドへ




イールラさんが言った通り、10分前には朝食を食べ終えた。


「行ってきます」

(イールラさん…がんばっ)


レテアを起こすのに奮闘しているだろうイールラさんにエールを送り、ドアを開ける。







「おー!結構賑わってるなぁ」


明け方の町の様子は何処へやら。

ウィルーヌの町は人で溢れかえっていた。

賑やかな様子を暫く眺めていると、猫耳や犬耳、兎の耳などに尻尾が付いている、獣人の姿も見つけた。

嵐はその人ごみの中を歩きながら周りのお店を見ようと試みる。


しかし―――





(うわっ…おぷっ!ぐるじぃぃぃ!!)

人や獣人に揉みくちゃにされ、歩く所ではなくなった。これではギルドへ行く前に圧迫死してしまう。



どうにかしようと考え―――


(あ~……魔法の事、忘れてた…)


すっかり頭の隅に追いやられていた魔法に今更気付く。


まぁ、異世界へ来てまだ2日目なので、忘れても仕方がないのかもしれない。


肺を圧迫されている今、無詠唱で済む有り難さに涙が出そうだ。

(透明人間にっ…!!)



さっきまでいた嵐のスペースがあっという間に埋めつくされる。


(うわぁ~…なんか変な気分)


スペースが埋められていても、見えないだけで嵐はそこにいる。自身の身体を、人や獣人がすり抜けていく。あまりいい気持ちはしない。というか気持ち悪い



「…浮けばいいのか」


そうすれば誰にも見られず楽に移動ができる。


(浮かべ)


ふよふよと、辺りを見回せる位置まで浮かんでいく。



(う~ん、宿の暇潰しが役に立ったな)

宿で遊んだ甲斐もあり、空中での滞空コントロールは完璧だ。

適度な早さでギルドを目指しつつ、お店を眺める。

武器屋や防具屋、見たことのない食べ物を売っている店に酒屋など、様々な店が嵐を誘惑する。



「でも、お金…無いからなぁ」



そもそも、ギルドでどれだけ稼げるのか分からない。もしかしたら、今日の宿代を払えるだけのお金も得られないかもしれない。

―――宿代を楽に払えるまでは当分、我慢しようと心に誓った。






※※※※※※





「ここ、か…」


そうこうする内に剣が対になった絵が描いてある、ギルドの看板を見つける。


「解除」

念のため人気のない場所で降り、透明を解除する。



「ほぉ~、何だか市役所みたいだ」


ギルドの外観は、清潔感漂う綺麗な建物だった。

また、木材で出来た建物だったので暖かみがあり、入りにくさはなかった。


開いたままのドアから中へ入る。内装は窓口が幾つか設置されており、そこに受付の人が座っているものだった。




周りを見ても、ギルド登録者らしき人物はいない。


(どういう人がやってるのか見てみたかったけど…この時間はあまり来ないのかな)


ギルドにある時計は7時30分を指している。誰も居ないところを見ると、この時間に来る人は殆んどいないみたいだ。

残念だが仕方ない。


さっさと《登録》と書いてある窓口まで行くと、嵐に気付いた受付の女性が顔を上げる。長い栗色の髪をポニーテールにしている女性だった。




(ポニさん…)

ポニーテールだからポニさん。


嵐の突飛な思考で、この女性の名はポニさんになった(あくまで嵐の中で)。



「い、いらっしゃいませ…」

(ななな…なにこの美形な子!)


一方のポニさんは、あの時のレテア同様ガン見中…


(…………)


ぼーっと、嵐を見ているポニさんに、いつかみたレテアの姿と重なる。


(なんなんだ…?俺って、そんなに変なのかな…)


町を見ていて気付いたのだが、自分の様な黒髪や黒瞳を持った者がいなかったのだ。偶然見掛けなかっただけかもしれないが、少なくとも今日あれだけたくさんいた人の中で、黒い色をした者はいなかった。

その事について、少しばかり気にしていたのだ。


(今はそんな事、どうでもいい)


気を取り直してポニさんへ声をかける。


「あの、ギルドに登録したいんですけど…」


「は、はいっ!」


顔は赤いままだったが、数度の深呼吸の後はしっかり仕事モードに戻ってくれた。


「では…こちらの契約書に同意の上、サインをお願いします」


一枚の紙とペンを渡される



名前の欄は、フルネームで書くと問題ありありな気がするので〈ラン〉とだけ書いておく。


契約書の内容は、『仕事で起きた如何なるトラブルに、ギルドは一切責任を取りません』とか、『負傷や死んでも責任は取らない』…など。流石サインだけで登録できるよなと思える内容ばかりだった。


「ラン様、ですね。では次にどちらかの手を差し出して下さい」


一瞬、指でも切られるのかと思ったが、ナイフらしき物はない。


(そんなことしないよね…)


恐々右手を差し出す。



「ギルド登録完了。ラン様に登録者の証を」


ポニさんが言葉を紡ぎ嵐の右手に手を翳すと―――ピリッとした痛みの後、手の甲には白色の剣が対になっている、紋様が描かれていた。


(これ…ギルドの看板に描いてあったやつだ)


「…はい、これで正式にギルドの登録が完了しました。こちらの紋様は脱退、依頼の複数延滞などの契約違反をしない限り、消えませんのでご了承下さい」


「わかりました」

試しに擦ってみたが無駄だった。単純にペイントされているわけではないようだ。


そんな嵐をみてクスリと微笑んだポニさんは、次の説明をする為に口を開く。


「今ついている紋様は白ですが、これはランクの中で一番下となり、下から順に白、黄、橙色、緑、青、紫、赤、銀、金、黒となっています。ランクが上がるとその色に変わっていきます」


(へぇ~アルファベットじゃなくて、色でランクを現してるのか)



アルファベットに直すとしたら―――


白<黄<橙色<緑<青<紫<赤<銀<金<黒


G<F<E<D<C<B<A<S<SS<SSS


になるのかな




頭の中でわかりやすくまとめ終えた嵐は一つ頷くと、ポニさんに次の説明をしてもらう様促す。


「よろしいですか?…次に、ランクの上げ方を説明します。ランクを上げる為には、自分と同ランクの魔物を10体倒すか、1つランク上の魔物を5体倒す事で上がる事が出来ます」


「それ以上のランクの魔物に会って、倒すことが出来た場合はどうなるんですか?」


「えっと、魔物の出没する場所やランクは、把握してある上で依頼主から受理しているので、殆んどその心配はありません。万一、その様な事があれば特例で待遇を決める事になると思いますが…滅多にないので大丈夫ですよ」


「そうですか…」

(滅多にって事は有るんだよな。まぁ…俺だったらそんな事になっても大丈夫そうだけど)


「――最後に、依頼の魔物を倒すだけでも報酬は貰えますが、魔物に出会うとその紋様から魔物のランク、お金になる部位を音声で知らせてくれます。ランクが上がってくると魔物の部位にいい値がつくものもあるので、依頼以外にそれで稼ぐ事も出来ますよ。換金はここの窓口の左隣です。」


「へぇ~便利ですね。説明ありがとうございました。…あっ、銀行みたいなのってありますか?」


「………」

(なんて礼儀正しい良い子なのかしら…ますます惚れちゃう…)


ギルドを受けに来るのは魔物相手に、常に危険と隣合わせで生活をしている者達がほとんどなので、荒っぽい者が多い。そんな事情もあり、ますます嵐の好感度は上がっていった。



「あのぉ~」


「あ、あぁっ!すみません…。はい、あります。銀行は換金場所の左隣です。登録はすぐ終わりますよ。依頼書はランク別にあちらの棚に別けられているので、依頼書を持って私の窓口に来ていただければ、依頼を受理しますので」


「はい。それじゃあまた後で来ます」

にこっと愛想笑いをして銀行窓口へ足を向ける。



嵐の笑顔に上気するポニさん。

「超タイプすぎるわ…」

小さな呟きは嵐に届く事は無かった。





(あの女の人、美人だな。…だからどうって事はないけれど)

目の保養になっていいか~なんて思いながら、銀行窓口へ向かって行った。










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