第11話 贅沢なひと時
「んー…」
重い瞼をゆっくり開けると、先程の夢の様な現実の、不思議な光景が頭に蘇る。
「來と瑠宇…元気そうで良かった」
なぜあんな事が起きたのかは分からない。
けれど、昨日イールラさんの身の上話しを聞いた俺は、きっと無意識に家族を恋しく感じていたんだろう。それで多分あの現象が起きたのだと思う。
(今の俺なら何でも出来そうだしな)
「ま、大丈夫そうだったから問題なし!」
気持ちを切り替えベッドから抜け出す。窓辺に近寄り外を見れば、ぽつぽつと人が歩いているのが見えた。
どうやらまだ朝方らしい。
「朝食の時間にはまだ早いか…それにしてもお風呂に入りたいなぁ。せめて身体を拭くものは…」
そこで、はたと気付く。
お風呂がないなら作ればいいじゃん!!
「けど、ここだと水浸しになるよね…」
そこで、はたと気付く。
広い場所がないなら作れb…略
「まずは…別空間出ろー」
瞬時に人一人が入れる白い穴が現れる。恐る恐る中へ入ると―――巨大なドーム上の、白い空間がそこにあった。
「殺風景だなぁ…銭湯にある絵を再現、大きなお風呂に丁度良い温度で。というか銭湯のお風呂で」
適当に想像し、言葉通りに富士山の絵が描かれたタイルに、お湯のはった大きな風呂の銭湯もどきが現れる。
「おー!こりゃ快適だな」
早速身体を洗い、大きな風呂を贅沢に一人で浸かる。気分は最高だ。
しばらく堪能しさっぱりしたところで風呂から出、火と風魔法により一瞬で身体や髪を乾かした後、服も綺麗にし空間を消し去った。
「はぁ~気持ちよかった…と、まだ時間はあるっぽいな」
さっきは外の様子で明け方と判断したが、こちらにも時計はあった。しかも1日24時間、一年は365日と全く同じ。
今の時刻は6時30分
昨日イールラさんに朝食は7時から始まると言われたので、まだ30分も余裕がある。何もしないのも勿体ないので、ギルドへ行く地図を何気なく頭の中で展開させる。
「ほうほう」
ギルドへ行くまでに、武器屋や防具屋、飲食店、酒屋等が辺りに散らばっている事がわかった。
お金が貯まったら行こうと呑気に考え…
「…お金の単位って何だ?」
時間については便利な魔法で知ったが、お金についてはすっかり失念していた。
「お金の説明書」
嵐の手にはいつの間にか薄っぺらい紙が乗っていた。時間について調べる時も使った魔法だ。
「何々…」
その紙には非常に簡潔な言葉と、写真の様なものが載っていた。
お金の単位:ユクス
石貨一枚 一円
銅貨一枚 十円
銀貨一枚 百円
金貨一枚 千円
白金貨一枚 一万円
黒貨一枚 十万円
写真にはそれぞれの硬貨が写っていた。
「石貨は灰色のコインなのか。その他も色さえ見れば大丈夫だな」
時間といいお金といい、そう難しい事はないので楽チンだ。
(ギルドについては受付で説明を受けるだろうし…)
魔法も制御を覚えたのですることもない。何気なく、テーブルに置かれたコップやイス、ベッド等を浮かせて見る。
「楽しいなー」
超能力者の気分になった嵐は、そこら中の家具をふよふよ浮かべて遊びだす。
終いには自分までもが浮く始末。
こんな姿を誰かに見られでもしたら卒倒ものだ。
それ位、嵐の魔法は異常だった。
「はぁー楽しかった!」
誰かさんが見れば気絶ものの笑顔を浮かべ、ふと時計を見ると7時5分を指していた。
「おっと、もう行かないと」
ここの朝食が頼めるのは7時からだが、9時30分までやっている。因みに昼は12時~15時、夜は18時~21時と女二人でやっている為、食器の片付けやベッドメイキングなどの時間が必要なので、区切っているのだ。
そんな訳で別に急ぐ必要も無いのだが、ギルドへ直ぐにでも行きたい嵐として、はなるべく速く食事を済ませかったのだ。それに今日中に稼がなければ宿へ泊まれない。
ドアを開けて階段を駆け降りる。
―――しかしテーブルを見てもそこには誰もいなかった。
…と思ったら、
「おや、おはよう。ランは早起きだねー他のお客さんはみんな寝てるってのに」
ひょっこり顔をだしたイールラさんが嵐を見て、目を見開き驚いた顔をしていた。
(ありゃ、早すぎちゃったかな…)
7時から朝食だとはいえ、ここへ泊まる人達はまだ寝ている時間らしい。ひょっとしたら迷惑だったかな…
済まなそうな顔の嵐をイールラが見るなり、にこっと笑いかけた。
「なーに、早起きをする人間が珍しくてちょっと驚いただけさ。すぐ用意するから適当に座ってな」
そう言うなりキッチンの方へ歩いていった。
言われた通り近くのテーブルの席に着くと、ほんの5、6分で料理を載せたトレーを持ったイールラさんが出てきた。
それを見て驚いた顔をする嵐に、得意げな顔をするイールラ。
「お腹が空いた客は短気なのが多いからね。自然と速くなるのさ…まぁ、ある程度仕込みはしてあるけどね」
「へぇ~それでも凄いですね」
スープにサンドイッチの様なもの。そしてサラダ。
一見簡単そうに見える料理だが、5、6分で作るとなると難しいだろう。
素直に感心している嵐にご機嫌なイールラさん。
「これを食べたらすぐ行くのかい?」
「はい。なるべく早く行ってお金稼がないとここに泊まれないですからね」
「あははっ!そうだね。頑張ってくるんだよ」
「はい。そう言えばレテア、さんは?」
「年も近いだろうし呼び捨てで良いじゃないか。レテアは寝起きが悪くてね~後で起こすさ」
「ん?…年が近い?」
「あれ?ラン、年はいくつだい?」
「17ですけど…」
「ほらね、レテアは16だから一つ違いだ」
「ええっ!?」
思わず口に入れようとしたサンドイッチを片手に固まった。
「…はて、ランにはレテアがいくつに見えたんだい?」
「えぇっと…」
言っても良いのだろうか。まぁ本人がいないから…大丈夫だろう。
「じゅ…13、14位だと…」
「あらまー…それ、レテアには言わない方が良いよ」
「やっぱり?」
「きっと、ショックで寝込んじまうだろうね」
「そ、そうですか」
(レテアのコンプレックスは、見た目より幼く見えることなのか…)
イールラが言っているのは、嵐に幼く見られた事にショックを受ける。と言う意味だったのだが…
「それじゃ、そろそろ起こしに行こうかね。起こすのに10分は掛かるから…その頃には食べ終わってるだろ?食器はそこに置いといていいから。気を付けて行ってくるんだよ」
さっさと部屋へ向かうイールラさん。
「……え」
(起こすのに10分はかかるって…レテアどんだけー!!)
上手く書けない進まない…;;