2
私はコンを抱きかかえて作業部屋に入る
電気をつけるといつものように部屋が淡いオレンジ色に包まれる
作業部屋には製作途中のスーツ、服や生地がかかっているマネキン、大型のミシンなど様々なものが乱雑に置かれている
私 (近藤さんうるさいし先に送られてきた依頼でも見るか)
ぴょんとその辺に落ちている生地を飛び越えながらパソコンや文房具が置かれている机に向かう
そして椅子に座ってコンを机に置いてあるカゴに入れる
コンはふかふかのクッションが入れてある即席ベットで体勢を直してから私を見る
私 「お仕事頑張るからね」
パソコンの電源を入れてからコンの頭を撫でる
コンはキューと声を上げて撫でられる
私 (んーと メールは)
片手でマウスを動かしてメールを確認する
いつものようにオーダースーツの依頼だった
私 (体格デカイなこの人)
近藤から送られてきたデータを見て体格を想像する
私 (あんまりキツすぎるのは嫌なのか なら少し緩めに作るか)
席を立って生地の入っている押し入れに向かう
私 (通気性いい生地ならこれまだ残ってるしこれにするかな)
引き出しから生地を出して吟味する
私 (あー この生地もうないからまた入荷しないとじゃん)
しばらく生地を吟味して候補を絞る
そして残りが少なくなってきた生地を覚えてから机に戻る
私 (近藤さんにまた頼んどくか)
メッセージに生地の発注依頼と生地の種類を選択してもらう旨を書いて送る
私 (これでいいか)
パソコンを1度閉じる
私 (昨日どこまでやったっけ)
作業台の前に座る
私 (あ 裁断の途中か)
机の上には送られてきた型紙に合わせて裁断していた生地が置いてあった
私 (やるかぁ)
ラジオをつける
ラジオからは聞いたこともない昔の曲が流れてきていた
私は紙型に合わせて生地を黙々と切っていく
私 (とりあえず肩のあたりは終わらせるか)
ただ黙々と作業を進める
私は客と話すことは無い
最初は自分で客との話し合いや採寸もやっていた
しかし理不尽に怒鳴られることがあり、萎縮してしまった
私は腕は立つが人と話すのが苦手だ
しかし近藤は私の苦手な採寸や営業などを受け持ってくれていた
彼と仕事を組む前はこの仕事が苦痛でしか無かった
しかし今は彼と仕事を組んでかなり仕事をしやすくなった
彼には感謝をしてもしきれないだろう
一緒に仕事をする前に近藤は私にオーダースーツを作って欲しいと依頼をしてきた
正直気は引けていた
初めて話した時に彼は暑苦しいというか私と波長が合わないし苦手だというイメージだった
しかし彼は熱心に頼み込んできたので根負けしてオーダースーツを作ることにした
1度家に招いて採寸をしたことがある
当時は今住んでいる家ではなく都会の別の家だった
彼は採寸をしている時も私に話しかけていた
数年前
近藤 「なぁ 東雲さんや」
私 「なんですか」
近藤 「この仕事好きか?」
採寸をしていた手を止める
私 「まぁまぁですかね」
再び手を動かす
近藤 「いや なんというかぶっきらぼうな顔というか嫌そうな顔で採寸するから息が詰まるんよ」
私 「きちんと正確に測ってるのでいいでしょう?」
投げやりに言ってしまう
近藤 「まぁまぁ 別に怒らせたい訳やないんよ」
私 「…」
近藤 「この部屋見ても分かる 一応この業界にいるけど東雲さんの腕はかなりのもんだ」
私 「どうも」
私 (お世辞か?)
近藤 「ただただ俺は気になって来たんよ 」
私 「何が気になったんですか?」
近藤 「腕は立つけど話すのが苦手な職人気質の仕立て屋のことや」
私 「…」
私の事だ
実際にレビューなどを見ても言われている
【スーツはいいけど採寸や話す時に最低限しか話さないしなんかいらってします】
【客を舐めてると言うか商売を舐めてるよね】
基本的に技術のことは言われていない
しかし商売をやる上で客あたりや営業能力なども必要なのもわかる
しかしどうも苦手なのだ
近藤 「腕はしっかりしてるし評判がいいのに勿体ないんよ」
私 「それをわざわざ言いに来たんですか?」
語気が強くなる
近藤 「違う」
近藤はこちらを見る
私 「動かないでください」
近藤 「あぁ すまんな」
再び体勢を戻した近藤は言う
近藤 「俺さ夢があったんよ」
私 「夢?」
近藤 「仕立て屋 意外やろ?」
私 「意外ですか?」
近藤 「けど手先が全然器用やなくてな まるで出来ないんよ」
私 「はぁ」
近藤 「今はサラリーマンとして営業の仕事なりしてるけどいかんせんつまらんと言うかなんというかなぁ」
不満そうな顔をして近藤は語る
近藤 「なんというかガッツが足りんのよ!!」
私 「それはそれは大変ですね 採寸終わりましたよ」
メジャーを巻き取る
近藤 「それでな 」
私 「自分語りなら結構なので」
メモを持って作業場から出ようとする
近藤 「自分語りじゃないんよ!!聞いて欲しいんや」
私 「私は忙しいので」
扉に手をかける
近藤 「ちゃうんよ頼みがあるんよ!!」
扉を開けて部屋を出る
近藤 「働かせて欲しいんや!!」
足を止めた
私 「は?」
ザクッ
私 「っ」
指を見る
ハサミで少し切ってしまっていた
私 (熱中してたか)
生地を置いて立ち上がる
いつもと違うタイミングで立ち上がったからかコンが起き上がる
私 (アルコールどこだっけ)
切った指をティッシュで包み
片手で引き出しを漁る
しばらく漁っているとコンが足元でくるくると回る
私 「あー ごめんね大丈夫だから」
アルコールで消毒をするとチクリと刺すような痛みが走る
私 「っ」
私 (結構染みるな)
消毒をした後に絆創膏を貼る
私 (ちょっと気を抜きすぎてたな)
血が染みているティッシュや絆創膏のゴミをゴミ箱に入れる
そして椅子に座るとコンが膝の上に乗る
心配そうにクリっとした目でこちらを見つめる
私 「大丈夫だよ」
怪我をしていない方の手で頭を撫でる
耳の付け根の部分を重点的に撫でるとコンは気持ちよさそうにする
私 (今何時だ)
作業部屋の壁掛け時計を見る
とっくに夕方になっていた
私 (もうこんな時間だったのか)
コンを抱きかかえる
私 「ご飯にしよっか」
コンは私の胸で大人しく抱きかかえられる
私 (というかこの指じゃ今日は作業無理だな)
私 「はぁ」
ため息をつく
そしてコンと一緒に作業部屋を出てキッチンに向かう
前作では仕事について触れてなかった気がするので触れました




