15
「時刻はただいま21時30分を回りましたさぁ次のコーナー!本日の長話ー!」
ラジオのパーソナリティが思いっきり叫ぶ
私 (9時半か)
スーツの生地を縫い合わせる
約2時間作業部屋にて私は黙々と作業をしている
しかしどこか気分は浮いていてふわふわとしている
私 (ん?)
手を止めてスーツと制作図を見る
私 (またズレてる)
これで3回目
縫い合わせる場所を間違えた
いつもならあまりしないミス
しかし今日は3回もしている
私 (今日はダメな日だな)
生地を置いてスマホを開く
私 【近藤さんしばらく進捗ダメです】
メッセージを送ってスマホを机に置く
そして椅子に深く腰かける
頭を思いっきり後ろに下げて椅子にもたれかかる
ギシっと歪む音がするが知らない
私 (どうしよ)
コンの発言やランの表情
その事が頭から離れない
私 (どうしよっていうかどうすればいいんだろう)
眠気に抗えない
ゆっくりと目を閉じる
私 (こんなんじゃいけないのになぁ)
プルルル プルルル
目を開ける
机の上のスマホがバイブ機能で震える
私 (近藤さんか?)
起き上がり電話の相手を見る
近藤からだった
電話に出る
近藤 「どうした?やられたん?」
私 「少し」
近藤 「なんかあったん?」
私 「なんというか色々?」
近藤 「そうか」
私 「…」
近藤 「…」
1分ほどの沈黙
心地いいものではなく何を話せばいいか分からない
昔から近藤は私が何かあった時に深く聞こうとしない
受け身の姿勢で話を聞くからこういう沈黙はよくあった
私 「近藤さん」
近藤 「んー?」
私 「人って難しいですね」
近藤 「そりゃあな 親戚の子か?」
私 「子供では無いんですけどまあその子ですね」
近藤 「まぁそりゃあムズいわな」
私 「あとコンにも怒られたんですよね」
近藤 「は?」
私 「あ」
私 (しまった)
ぼーっと話していたこともあり口が滑った
私 (でも近藤さんと早乙女さんはコンのこともあるし言った方がいいか?)
近藤 「引っかかれたん?」
私 「あー んー」
私 (いいや言うか)
近藤 「なんや間延びしたような」
私 「実は近藤さんに伝えることがあって」
近藤 「なんや改めて 仕事全くできなくなるとかか?」
私 「それもそうですけど…」
私は近藤にコンが人間に化けたこと
ランとリンが妖狐で私の所に来たこと
近藤に伝えていた親戚は嘘であること
そしてコンとランを怒らせたこと
近藤は黙って話を聞いて必要なことだけを質問してきた
私 「…という訳」
近藤 「なるほどなぁ」
近藤は困惑したような声で言う
近藤 「流石に蒼がそんな冗談を言うわけないしなぁ」
私 「妄想だったらかなりの大作だよ」
近藤 「だなぁ ひとまずコン君の連絡先もらってもいいか?」
私 「コンの?」
近藤 「あぁ ランさんの件は流石に何も言えないがコン君とは付き合い無くはないし話せるやろ」
私 「変なこと言わないでくださいよ」
近藤 「どうだろうな」
コンの連絡先を送る
近藤 「確認だけど今コン君は口を聞いてくれないんだよな?」
私 「はい」
近藤 「分かった とりあえず話を聞いておこう」
私 「助かります」
近藤 「んじゃ一回切るわ」
私 「はい 後進捗なんですが…」
近藤 「それなんやけど一応仕事を止めておけるから暫くは休暇な」
私「本当に助かります」
近藤 「まぁ慣れてるからな とりま切るな」
近藤は電話を切る
私は再び深く椅子に腰かける
時計を見る
10:27
私 (1時間も話し込んでたのか)
目を閉じる
すると体が重くなり眠気が襲いかかってくる
私 (コンに謝らないとな)
ゆっくりとゆっくりと意識が落ちる
私 (明日話せるかな)
今日は朝から起きていて外出してメンタルが死んだ
心配させないようにいつもしない気遣いをしたのも原因だろう
意識を落として静かに眠りについた
ぺちっ
叩かれる
ゆさゆさ
体を揺すられる
私 (ん)
意識を覚ます
誰かに体を揺すられていた
「もう…」
コンの声がする
いつの間に入ってきていたのだろう
ぼーっとしていると浮遊感を感じる
背中と膝裏に何かがある
目を開ける
目の前にはコンの顔があった
コンは困ったように笑ってこちらを見ている
私 (揺れる)
コンの体に首に手を回して抱きつ
私 (あれ?なんでコンお姫様抱っこしてるの?)
徐々に意識が覚めていく
私 「コン?」
コン 「おはよ」
私 「おはよ」
コン 「随分寝たね」
時計を見る
01:45
日付が変わっていた
コン 「とりあえずお説教ね?」
私 「…うん」
コンの顔を見るとムッとしてこちらを見ている
私 (やっぱ怒られるか)
コン 「怒るよそりゃ」
私 「えっ」
コン 「あっ今喋ってなかった?」
私 「心読んだの?」
コン 「そうだよ?心の声丸聞こえだよ」
私 「あんまり聞かないで欲しいかも」
コン 「分かった ランとリンも聞いてるかもだから言った方がいいかもね」
私 「というか心の声聞いてたんだ」
コン 「そうだよー だから怒ってるんだけどね」
私 「なんかごめんね」
コン 「やだ」
コンは私を抱きかかえて作業部屋を出て階段を上る
階段を上る時に揺れや衝撃は感じず、乗り心地は良かった
私 「本当に力強いね」
コン 「んー?多分僕リンとランに比べたら弱いしそんな強くないよ?」
私 「軽々と私を持ち上げてるじゃん」
コン 「お兄ちゃんは軽すぎるよ もっと食べないと」
私 「60あるのになぁ」
コン 「というか筋肉がない感じ」
私 「あー 運動あんましてないからなぁ」
コン 「一緒にしよ」
話しながらコンは私の部屋に入る
私 「もういいよ?降ろして」
コン 「んー どうしよっかなー」
コンは部屋の真ん中で立ち止まる
そしてニヤニヤと笑いながらこちらを見る
降りようと力を込めるが体が動かなかった
私 「あー なんかしてる?」
コン 「してるよ」
私 「離して?」
コン 「もうちょっとギュってされて?」
私はじたばたと体を動かす
今度は体は動くがコンの力に勝てず降りられなかった
コン 「ちょ!危ないよ!」
私 「はぁ…はぁ…」
呼吸を整える
コン 「僕に抱っこされるの嫌?」
コンは少し涙目になる
私 「嫌じゃないけど恥ずかしいしコンを抱っこするのは私だから」
コン 「だめだよ 今は僕の番」
私 「それにこのまま話すの?この体勢で?」
コン 「んー じゃあこうしよう」
コンは私をベットにソッと下ろす
起き上がろうとするが体が動かない
コン 「ふふ」
コンはニヤリと笑う
その仕草はいつも見せる可愛げはなく妖しさしかない
コン 「体起こして」
コンがそう言うと体が動く
しかし上半身だけで下半身は動かない
私 「本当にすごいねこれ動けないや」
コン 「まぁ僕も扱いきれてないけどね 」
コンは私の使っている枕をどかす
そして正座をする
コン 「降ろして」
私は体を倒す
するとコンの膝の上に私の頭が乗る
私 (なるほど)
コン 「捕まえた」
コンは嬉しそうに声を弾ませる
コン 「ずっとしたかったんだよね」
コンは私の頭を撫でる
私 「頭撫でるのを?」
コン 「そうだよ」
コンはニコニコとしながら私の頭を撫でる
私 (さっきまであんなに口を聞いてくれなかったのに)
私 「ねぇ」
コン 「んー?」
私 「さっきはごめんね」
コン 「何に対してごめん?」
私 「あー」
正直心当たりがない
恋愛の話になって機嫌を損ねたのはわかる
しかし何が原因でコンが怒っているのか分からなかった
私 「ごめん わかんない」
コン 「そっか」
コンはしゅんとした顔をする
コン 「お兄ちゃん」
私 「何?」
コン 「僕は兄ちゃんほどのいい人はいないと思ってるよ?」
私 「そう?」
コン 「うん 兄ちゃんは優しいし格好いいし頑張り屋さんだし」
私 「もっと頑張ってる人も」
言っている途中で片手で口を塞がれる
コン 「それでもお兄ちゃんはかっこいいよ だからそんな事言わないで」
コンの顔を見た
その顔は泣きそうで
でも泣かないように耐えてて
とても悲しそうだった
コン 「ランもリンも兄ちゃんから離れたくないって言ってるよ?あの二人起きてて話聞いてたけど悲しいって言ってたよ?」
私 (起きてたんだ)
コン 「いい?僕も二人もお兄ちゃんだから一緒に居るんだよ?お兄ちゃんは僕たちのご主人なのに悲しいよ?」
ポト
顔に水滴が落ちる
コンは泣いていた
コン 「だから自分を下げないで お兄ちゃんがいいんだから絶対に」
私 (そんなに思ってたんだ)
自分はいなくてもいい人間だと思ってた
誰にとってもいてもいなくてもいい人間
ランやリンにとってもただ家を貸す人間くらいだろうと考えていた
私 「ごめんね」
コン 「ぐずっ…何に?」
コンは涙でぐちゃぐちゃな顔になる
そして鼻をすすりながら私に問いかけた
私 「自分の価値を間違えてて」
コン 「いいよ」
私 「三人にとって大事な人になってるって自覚を持って生きていくよ」
コン 「うん…本当に次は無いからね」
コンは私の頭をぐしゃぐしゃと撫でて髪を乱す
私 「ごめん」
コン 「お兄ちゃんが本心で言ってるのがわかるから焦ったよ 謙遜とかじゃなくてまんま本心だもん」
私 「だってそうだと思ってたから」
コン 「そんなことないよ?お兄ちゃんは絶対いてくれなきゃダメ」
私 「ちゃんといるよ」
コン 「居て それで自分は凄いってわかって」
私 「凄いところは無いよ?普通だよ」
コン 「そうじゃないよ なら三人でちゃんと分かってもらうから」
コンは頬を膨らませる
私 「そんなに凄いのかな」
コン 「凄いよ」
コンは私の頭を撫でる
コン 「あと無理はしないで 近藤さんに頼んで仕事止めてもらったから」
私 「それなら前から減らしてもらってさっき止めてもらったんじゃ」
コン 「今受けてる依頼も全て止めてもらうように頼んだ」
私 「えっ!?」
思わず体を起こす
コン 「だって…お兄ちゃん最近遊んでくれないし」
私 「今受けてる分は夜コツコツやろうと思ったけど」
コン 「やだ 遊んで」
私 (まじか)
仕事は今受けているのはちまちま進める予定だった
コン 「だいたいランとリンをほったらかしで仕事してるのも意味わかんないよ?」
私 「っ」
うっすら思ってた
今日も晩飯は合流せず仕事をしていた
コン 「最悪二人に頼んで作業部屋入れなくするから それにランとリンはお兄ちゃんが仕事遅くまでしてて無理してるって心配してたし」
私 「あー」
私 (二人に心配されてたか)
私 「謝んないとな」
コン 「うん」
私 「ごめんね」
コン 「ちゃんと反省してる?」
私 「してるよ 少なくとも三人にとって私は価値があるんだよね?」
コン 「さっき三人で話したけどお兄ちゃんじゃないとやだって三人で結論づいた」
私 「ならあんなこと言わないよ」
コン 「うん」
コンは私に思いっきり抱きつく
私 「っ」
コン 「ダメ?」
私 「ダメじゃないよ 急にハグされてちょっとびっくりした」
コン 「ごめんね」
コンは私の肩に頭を乗せる
トクントクンとコンの心臓の音がゆっくりと聞こえる
コン 「お兄ちゃんいい匂い」
私 「そう?」
コン 「落ち着く」
私 「なんか恥ずかしいんだけど」
コン 「僕で恥ずかしがってたらこの先大変だよ?」
私 「この先?」
コン 「ふふふ」
コンは私の頭を撫でる
私 「というかさっきコン私の事をご主人って言ったよね?」
コン 「うん お兄ちゃんは僕たちのご主人」
私 「たちって言うってことは二人も含まれる?」
コン 「ランとリン?含まれるよ?」
私 「なんかご主人ってリンに言われるけどなんというかしっくりこないなって」
コン 「でも3人ともお兄ちゃんのペットだからお兄ちゃんご主人だと思う」
私 「ランとリンペット扱いしたら怒られそうだけど」
コン 「なんならまた聞いたら?どういう立ち位置なのかとか」
私 「そうしよ」
コン 「というかお兄ちゃんの匂い本当に好き」
私 「へっ!?」
コンは私の首元の匂いを嗅ぐ
私 「待って」
コンの胸に手を当てて離れようとするが離れない
コンの力が強く抵抗ができない
コン 「これランとリンもダメになるよ お兄ちゃんの波長落ち着くし」
私 「恥ずかしいし待って」
コン 「待たない」
コンは強く私を抱きしめる
私 「というか波長って何?」
コン 「お兄ちゃん落ち着くの」
コンは私の首に顔を埋めながら話す
私 「落ち着く?」
コン 「うん その辺の人と違ってお兄ちゃんなんか落ち着くの ランとリンも言ってたし」
私 「そうなんだ」
コン 「というかお兄ちゃん今日寝る?」
私 (コンって結構話変えるの早いな)
私 「結構眠いかな」
時計を見る
03:12
私 「もうこんな時間」
コン 「明日はランとリンに謝ってね」
私 「うん ちゃんと謝るよ」
コン 「本当に心配ばっかりかけるから」
私 「ごめんね ダメダメで」
コン 「別にいいよ ダメでも受け入れるし」
私 「…うん」
寝るために離れようとするがコンは私を話さない
コン 「だめ」
私 「えっ」
コンは片手で私を抱きしめる
そして布団をめくる
コン 「寝よ?」
コンは私を抱きしめたままベットに横たわる
私 (暑い)
体を横にしてコンと一緒にベットで寝る体勢に入る
コンの腕は私の首の下にあり腕枕をされている
コン 「布団いらない?」
私 「いらないかな というか人間の姿のまま?」
コン 「こっちの方がなんかいいし」
私 「暑いんだけど」
コン 「我慢して」
私は体に力を入れて後ろに下がろうとする
しかし体は動かなかった
私 (やっぱ無理か)
諦めて体の力を抜く
目の前にはコンの顔
コンは目を閉じている
コン 「諦めよ?お兄ちゃんは大人しく僕と寝るの」
私 「わかった一緒に寝るよ」
人と一緒に寝るのは初めてだ
あくまでコンはペットでこれまで狐の姿で寝ていた
しかし人間の姿では初めてでどこか緊張する
私 (しかもしれっと腕枕してるし)
コンの顔を見る
肌は綺麗で目を閉じていてもイケメンだと思うくらい顔が整っている
テレビで見る男性アイドルと比べても引けを取らない
ボサボサの黒い髪が少し目にかかっていてどこか気だるそうな雰囲気を感じる
私 (いいなぁ)
少し嫉妬する
私の顔は良くも悪くもない
特に言うことがないモブ顔
肌もニキビが数個ありカサついている
近藤さんにも普通と言われたことがある
コンの顔を見てると思わずムッとしてしまう
コン 「寝れそう?お兄ちゃん」
コンは薄目を開けてこちらを見ている
私 「少し緊張するけど何とか」
コン 「どしたのそんなムッとして」
私 「あー」
私 (顔に出てたか)
私 「コンの顔格好よくていいなって」
コン 「ふふ お世辞でも嬉しい」
コンはにやにやとして嬉しそうに笑う
コン 「お兄ちゃんの顔もいいよ?」
私 「そうでも無いよ 良くも悪くもない」
コン 「でもモテすぎたら彼女できて僕たち以外の人のところに行くからダメ」
私 「多分行かないよ そんな人がいない」
コン 「本当に付き合うならランかリンにして」
私 「まぁそれはまだ先かな 今はそういうのはなし」
コン 「なしかー」
私は目を閉じる
私 「しばらく今の生活に慣れるまではゆっくりしたいかも」
コン 「いいねゆっくりしよ」
私 「本当は少し心配だけどね」
コン 「何が?」
私 「いろいろ」
コン 「僕たちがいるから大丈夫だよ こき使ってもいいし」
私 「近藤さんへの人使い知ってるでしょ?荒いよ?」
コン 「お兄ちゃんの助けになるならいいよ」
段々と体が重くなって意識が落ちていく
私 「眠い」
コン 「なら寝ちゃお」
頭を撫でられる感覚
少し大きいコンの手が私の頭を撫でる
私 (どうしよ 落ち着いちゃう)
ぼーっと撫でられながら意識が落ちていく
私 「おやすみ」
コン 「おやすみ 兄ちゃん」
そして私は眠りについた




