第9話 突然の奇襲
ロメスの家に一泊し、やがて朝を迎えた。窓からカーテン越しに微かに光が漏れているのに気づいたリュウタは、真っ先に目を覚ます。
「イカロスナイト、おはよう」
「おぉ、おはようリュウタ」
「朝起きて早々なんだが、気になったことがあるんだけどよ……」
「いきなり何だ?」
イカロスナイトは唐突に質問をされて戸惑っているようであった。
「イカロスナイトはバッテリー駆動なのは知ってるんだが、俺達人間に例えると、寝るようなことはするのか?」
「まぁ、それに近いことはしてるな。バッテリーの駆動システムを任意で停止させることが出来るんだ。それが生き物でいう睡眠に相当するんだ」
それを聞いたリュウタは、頭の中のしがらみが解れたのか、満足げな表情をする。
「教えてくれてありがとよ。とりあえず他の三人も起こすか……、ん?」
「今の話し声でもう起きちゃったわ」
「もうちょい静かに話せないもんかね?」
マナとラゼックの二人は眠たげな目を擦りながら呆れているようである。
「まぁ、いいじゃないか。これくらい賑やかな朝があったって」
バルティックは優しく微笑む。
それを見てリュウタは、少し安堵する。彼らはそのまま客間から出ていった。
客間を出てダイニングと思しき部屋に来ると、飲み物を入れているロメスの姿があった。
「おぉ、君たちおはよう。このエスティアの名産品、ビタールティーでも飲むといいよ。体に良いぞ」
「お、おはようございます……」
見知らぬ飲み物を出してきたロメスに混乱するリュウタ達は、ひとまず椅子に座ることにした。
「この変な茶色いの……、本当に体に良いんですか?」
「おい、ラゼック!」
ラゼックが失礼な態度を取ったため、彼の口を軽く手で押さえるバルティック。
バルティックは申し訳なさそうな表情でロメスの顔を見る。
「いいんだ。この飲み物は他の国ではあまり一般的に飲むことはないらしいからな。何しろビタールティーの原料であるビタールの葉は、適切な方法で調理しないと不味くて飲めたものじゃない」
「そうなんですか。ひとまず喉も乾いてたし、飲んでみようじゃないか。な、皆」
バルティックは真っ先にビタールティーを一気飲みした。
「ん……? 結構悪くないな」
「俺も飲んでみよう」
リュウタ達も試しに一口飲んだ。
「麦茶みたいだな……」
「ムギチャ? なんだそれ?」
当然ながらロメスは、麦茶を知らないためやや困惑している。
「なんでもないです……。今のは忘れて下さい。それよりも、昨日はいろいろ教えていただきありがとうございます」
「いやいや、あくまで参考程度に聞いてくれればいいよ。だが、確固たる証拠となるものが掴めていない以上、何とも……」
「いえ、これがもしかしたら本当のことかもしれないですし」
ロメスはやや嬉しそうに頷く。
「そこまで言ってくれるとは嬉しい。そうだ、ここで働くための手段を教えよう。この前の情報交換センターであれば、すぐに警備の仕事くらいなら手配できる。それと、僕はこれからも君たちに協力することにした。これからもよろしく。ひとまずしばらくは僕の客間で泊まるといい」
「はい、よろしくお願いします」
リュウタとロメスは嬉しそうに握手をして、その後ロメスと別れて情報交換センターへ向かった。
一方、浮遊大陸軍の偵察部隊はリュウタ達の居場所を突き止めるのに苦戦していた。上空からでは難しいと判断し、捜索範囲を地上にも拡大した。
「スレイン隊長、このままではまずいのでは?」
バウルはかなり焦燥に駆られているようであった。
「バウル、そんなに慌てても何も始まらないわよ。それよりもスレイン隊長、早くしないとまたあの忌まわしい連中に倒されるだけでしてよ」
「それぐらいは分かっている。だからこそ、地上偵察班をサザード大陸周辺に上層部は拡大したのだ」
スレインは冷たい眼差しでメナンを見つめる。
「隊長、我々も出向かないと……」
「それは早計だ。場所が特定できてもいないのに無暗に移動しても無駄だ。ゆっくり様子を見て、場所をある程度特定してからが本番だ」
「はい……。とはいえ、居ても立っても居られません!」
「今はその気持ちを抑えろ、バウル。辛抱することも大事だ」
「分かりました。先程は失礼しました」
「別に構わんよ」
その後も、スレイン達はリュウタ達の居場所が特定されるのを待つしかなかった。
一方、リュウタ達は情報交換センターでこの国の鉱山の警備業務についての情報を入手し、早速そこに連絡を取り、翌日現地へと来ることになった。
しかし、リュウタはこの束の間の平和に違和感を覚えていた。
「なぁ、イカロスナイト……」
「どうした、リュウタ」
「最近例の連中が大人しくなったよな……。もし急に襲われることになったら……」
「ここを離れないといけないな。この国にこれ以上被害が及ぶ前にな」
「でも……」
リュウタはただならぬ不安を抱いていた。この嵐の前にも似た静けさに。
そんなことを考えている間にも、時は流れていった。
そして翌日。リュウタ達は鉱山へと向かった。そこの警備事業を行っている人物と出会い、早速この仕事を始める事にした。だが、そんな中アクシデントは起こった。
「ん? あそこにいるのは……、レベル3MHの連中か?」
高台越しに浮遊大陸軍地上偵察班の兵士がリュウタ達を発見し、彼らはすぐさま攻撃部隊を呼び出し、早速戦闘を始めようとしていた。しかし、その事を知らないリュウタ達は事業主から仕事内容についての説明を受けていた。
「じゃあ、今回の仕事はここら辺の鉱山のフェンス全体に侵入者がいないかを確認する。日雇いだから賃金は少ないが我慢してくれ」
「はい……」
そして、リュウタ達は持ち場に各々の就く事になった。
「君はリュウタ君と言ったね。私はアルフェン。一日限りだがよろしく頼むよ」
「よろしくお願いします」
この鉱山警備での指揮を執るアルフェンは、優しい表情でリュウタと接する。
「とにかく侵入者がいたら渡された警告スイッチを押してくれ。そして君や私を含めた警備隊で侵入者を退ける。それだけの仕事だ」
「分かりました」
「君はレベル3のMHを相棒にしているようじゃないか。まさかそんな上等な機体の持ち主だったとは。そりゃあ、あの事業主のおっさんも即採用にしない訳にはいかないよな」
「は、はぁ……」
嬉々として話を続けるアルフェンに対し苦笑いするしかなかったリュウタ。
こうして、リュウタ達は警備の仕事を開始した。
警備業務開始から四時間が経過しようとしていた頃、突如として戦いの火蓋は切られた。
遥か上空から、浮遊大陸軍のMH部隊が奇襲を開始した。ステルス空輸機からMHが降下。こうして戦いは始まった。
「ん!? なんだ!?」
「落ちろ雑魚がァァッ!」
「ウワアァァァッ!!」
アルフェンの乗る作業用MHは破壊され、彼は機体と運命を共にした。
「アルフェンさん! クソォ、なんてことを!」
「もっと早く反応できていれば……。リュウタ、行こう!」
「あぁ!」
リュウタは操縦桿を握り、イカロスナイトと共に敵の群れへと駆ける。
「バルカン砲発射!」
イカロスナイトは頭部のビームバルカンを撃ち、敵のMHを一機撃墜する。
「よし、いいぞ! このままもう一機もだ! リュウタ」
「分かった!」
そのままイカロスナイトは旋回し、もう一機も撃墜しようと試みる。
「ファイアキャリバーで……、斬る!!」
「何ッ!? しまったァ!!」
すれ違いざまに、敵機を素早く真っ二つにしたイカロスナイト。
「リュウタ、コックピットの白いボタンを押してくれ!」
「分かった! これは何に使うんだ!?」
「エネルギー増幅装置の発動に使う! 押してくれ」
「任せろ!」
リュウタは真っ先にその白いボタンを押し、イカロスナイトの全身からは紅い炎に似た光が放たれた。こうして、イカロスナイトの戦闘能力は一定時間三倍に引き上げられ、ファイアキャリバーも刃に炎を纏う。
「行くぞ、リュウタ! 新技使うぞ! 名付けて”バーニングスラッシュ・ツバイ”だ!」
「オーケー!」
「喰らえェェッ!!」
そして、その技によって近辺にいた敵機十数機を一気に撃墜した。
「す、凄い……。なんて力なんだ……。でもなんでこのことを秘密に……」
「俺のバッテリー容量を食うからだな……。うぅ、力が……」
「イカロスナイト! 済まない……、無理をさせちまって」
イカロスナイトの移動スピードは緩やかに遅くなり、そのままゆっくりと降下する。
しかしその状況の中、ラゼック達がこの場に駆け付けた。
「おいおい、大丈夫か?」
「ラゼック! それにマナとバルティックさんまで!」
「後は俺達が片付けるから安心しな」
ラゼックは、冷静な態度ですぐさま攻撃態勢に入った。
「このッ! しぶとい奴らめ」
「させるもんかよ! 喰らえェッ!」
クラークスピアーは自らの槍で敵の胸部を貫き、敵機は爆発四散。さらに後ろ側に来ていた敵も胴部のビーム砲で牽制してから、槍で薙ぎ払った。
「ミノスソルジャー、コイツを真っ二つにするぞ!」
「任せろ! それは俺の得意分野だ」
ミノスソルジャーは目の前に斬りかかった敵に対し、退くどころかさらに接近し斧を振りかざして縦一文字に斬り裂く。
「よし、このままリュウタとイカロスナイトを守るぞ!」
「分かったわ、ラゼックさん。ケルブバスター、行くわよ!」
「オーケー! 任せとけ」
ケルブバスターは肩部のサイクロンキャノンから光線を発射し、さらに右手に持ったサイクロンライフルで追い打ちを掛ける。これにより、敵部隊はこのままでは全滅は回避できないと察したのか、そのまま撤収していった。
こうして戦いは終わったものの、アルフェンをはじめ、犠牲者が数名出てしまった。
彼らの死を弔ってから、リュウタ達は悲し気な表情をしていた。
「申し訳ありませんでした。自分たちが不甲斐ないばかりに……」
「我々ももっと早く対策を厳しく行っていれば……。後悔することしかできんよ」
事業主の男は、部下を失って悔しそうな表情をしていた。
「これが今日の給料だ。受け取れ」
「はい……」
四人は切なげな表情で給料を受け取った。
「リュウタ……、もし俺達がいなかったら今頃は……」
「もっと酷い状況になっていたかもな。でも、守れなかった者がいるのも事実だからな。今後のために戦闘の特訓をしなくてはな」
「そうだな」
こうして、今回の戦いは終わったが、まだ戦いは始まったばかりであった。
一方、浮遊大陸軍はリュウタ達をより一層危険視していた。
「今後、このレベル3MH四機とそのパイロットと思しき人物四名はまとめて《メタルクエスター》と呼称します。今後我々を妨げるような行為が確認出来たら、すぐさま排除を行いましょう……」
「そうだな。そうしなければ……」
「えぇ、分かっております」
果たして、これからの戦いにおいて浮遊大陸軍はどう駒を動かしていくのか。
それはまだ誰も知らない。