第6話 吹雪の中の死闘
ついにリュウタ達は目指していたラグルードの基地へと到着したが、そこにはバルティックと名乗る人物がいた。
彼はいったい何者なのか────────
「アンタ、俺達と同じ次元転移者なんじゃないか?」
リュウタは開口一番に確信を突くような言葉を言い放つ。
それを聞いたバルティックは彼らの事情を少し察したのか、軽く頷く。
「あぁ、そうだとも。俺は元々は地球でアメリカ軍の兵士として戦っていた。だが……」
バルティックはその時、どこか暗い面持ちになる。
「それで?」
「訓練中に、突然俺だけが別の次元へと飛ばされたんだ。理由は分からない。それにしてもよりによって俺がなんでこんな目に遭わなきゃいけなかったのか……」
「済まない……。悪いことを聞いてしまって」
リュウタの表情はどこか強張っているように見えた。
「いや、いいんだ」
そして、バルティックは先程の話を再開した。
「俺は、この惑星リーザーに来て一年ほど経つ。しかし、未だに分からない事もある。そのうちの一つがこのリーザーに何故飛ばされたのか。これが分からない」
「一年って……、俺よりも先にここに飛ばされていたのか」
ラゼックは思わず驚嘆した。一年間もここにいれば自身の命の危機が起きてもおかしくないからだ。
にも関わらず、ここで長い間過ごし、慣れ切っているということは、彼は相当なバイタリティの持ち主なのだろう。
「そして、俺は最初に飛ばされたのはここの豪雪地帯だ。そこでは小さな集落ぐらいしかなく、一人で生きていくのがやっとだった。俺がこの世界に来て三か月が経とうとしていた頃に、傭兵の仕事についての情報を商人から聞きつけた。今思えば彼は闇市の商人だったのだろうが、仕方が無かった。生きていく上では、こうして戦う事で生きていくしか出来なかったんだ」
「そうだったのか……」
リュウタ達の心の中には、複雑な感情が入り混じる。何しろ自分たちは、周りの環境の恩恵で今もこうして生きているからである。彼らは自分たちが未熟であることを実感した。
「そんなことも知らずに、事情を聴こうとしてしまってすみません……。ほら、リュウタ……」
「あぁ、分かった。バルティックさん、すみません……」
「いいんだ。別に気にしてはいないから安心してくれ」
バルティックはそこで初めて笑顔を見せた。微かに微口が綻んでいるだけではあったものの、リュウタ達も安堵する。
「ところで、君達三人はここに来てどれくらい経つんだ?」
「俺はまだ一ヶ月も経ってないんじゃないかな」
リュウタは自分の頭の後ろを少し触りつつ微笑む。
「俺はここに来て半年かな」
「私はこのリーザーに来て三か月ぐらいは経とうとしてますね……」
「そうか。かなり月日は経っている者と、そうでない者もいるというわけか」
バルティックは腕を組みながら考え込む。
「どうしたんです?」
「いや、何でもないさ。とにかく、君たちもゆっくりここの休憩室でゆっくり休むがいいさ」
「はい、ありがとうございます」
彼らはバルティックたちに休憩室まで案内してもらった。
一方、浮遊大陸軍は既にサザード大陸のすぐ近くまで来ていた。
彼らは大規模なMH部隊を率いてこの大陸を壊滅させようとしていたのだ。
「スレイン隊長、どうするおつもりで?」
メナンはほのかに微笑みながら彼の事を見つめる。
「ひとまずは絨毯爆撃を行うとしよう。それでも残存部隊がいたのなら、すぐさま一斉掃射で全滅させるまでだ。とにかくもうすぐまで来ている。何としても例の奴らがいたら全滅させてやらねばな」
「はい、隊長」
「まぁ、サザード大陸は小国家がいくつかあるだけで、あまり戦力自体は強力とは言えないですしね。真っ先にここを攻撃すれば他の大陸の基地へと攻撃がしやすくなるでしょう」
バウルはどこか不敵な笑みを浮かべていた。彼はこの作戦が成功すると確信していたのだ。
こうして刻一刻とサザード大陸の壊滅へのカウントダウンは進んでいた。
そして一時間後、サザード大陸側は浮遊大陸軍がこの地への領空侵犯を確認する。
これを受けて、リュウタ達もこの戦いに駆り出されることとなった。
「俺達で浮遊大陸にいる連中をコテンパンにしてやろうぜ」
「リュウタ、あまり焦らない方が良いぞ。ひとまずこういう時は、敵を倒すことよりこの地を死守することを優先した方が良いかもしれないな」
ラゼックは優しく諭した。
「あぁ、その方が良いかもな」
「ほら、二人共! 早くしないと敵がこっちに攻撃を仕掛けてきてしまうわ。行かないと……」
「マナも焦るなって」
「はい……」
そしてバルティックはすぐさま吹雪が吹く最中、ただ一人その大地にそびえ立っていた。
「サモナイズ!」
彼のテクター・ブレスレットの中から召喚されたのは、灰色の二本の大きな角が生えたMH・ミノスソルジャーである。
「バルティック、早く行くとしよう……。乗るんだ」
「分かった」
こうして、バルティックはいち早く浮遊大陸軍の攻撃に立ち向かったのだった。
その直後にリュウタ達やラグルード基地の部隊も合流し、本格的に戦闘が開始。
「来たぞ! あれはレベル3MHだ! 早く倒さなくては……」
浮遊大陸軍の兵士達は、ビームライフルを用いて一斉掃射を開始するが、ミノスソルジャーはすぐさまその攻撃を回避した。
「よし、グランドアックスだ! これで斬り裂くぞ」
「分かった。任せろ」
「なんだァ? こっちから来てやるぜ!」
敵のMHが猛スピードで接近。ミノスソルジャーは自らが握りしめた大きな斧で、敵のMHを真っ二つに斬り裂いた。
「そんなァ!!」
機体は爆発四散し、そのまま爆風の中からミノスソルジャーは潜り抜け、次の敵を探り出す。
バルティックの後に続くように、リュウタ達も浮遊大陸からの軍勢をなぎ倒していく。
「バーニングスラッシュだ! リュウタ」
「任せとけって!」
イカロスナイトは炎を纏った剣を勢いよく振り回し、周りにいた数機の敵を一瞬で全て撃墜させた。
「やるじゃねえか、リュウタの奴。俺達も負けちゃあいられないな! だろ? クラーク」
「そうだな。行こう!」
クラークスピアーは、ラゼックに応える形ですぐさま自らの必殺技であるスプラッシュブランジで敵機を貫き、爆散させて見せる。
「私たちも負けてられないわね。ケルブバスター、タイフーンブラストよ!」
「オーケー! 喰らわせてやるぜ!」
ケルブバスターは、両肩の側面のキャノン砲から薄緑色の光線を放ち、すぐさま敵戦闘部隊を少しずつ撃墜していった。しかし、戦いの本番はここからであった。オスリクタ隊を中心とした中枢戦闘部隊が接近してきたのである。その際、スレインはエースパイロット用MH・カリバードに搭乗しており、今までと違う何かをリュウタ達は心のどこかで今までとは違う何かを感じていた。
「あれは……、まるで中世の騎士みたいだ」
思わずリュウタは手が震えさせる。
”そうだな、リュウタ……。どう倒すか……”
通信でやり取りをするラゼック。彼もやや冷静さを欠いていた。
”私にいい考えがあるわ”
「そのいい考えってのを聞かせてくれよ、マナ」
リュウタはマナの映る画面を凝視した。
”私が他の敵を牽制するから、リュウタとラゼックさんはあの騎士の鎧のような機体を二人がかりで頼むわ”
「分かった。任せてくれ」
そして、リュウタとラゼックは接近戦に持ち込もうとする。彼らを相手に、スレインは目を鷹のように鋭くして剣を構えた。
「さてと、どちらから先に仕留めるか……」
「来たな! 行くぞリュウタ」
「よし……、取り囲むぞイカロスナイト!」
イカロスナイトは自らの武器・ファイアキャリバーで斬ろうと試みる。
”おいおい、俺達を忘れないでくれよ”
“このクラークスピアー様の槍術をお見せしようじゃあないの”
クラークスピアーは両手でアクアスピアーを構えて守りの態勢に入る。そして、二対一の戦いが始まる。吹雪の中、武器を構えつつこの雪原を駆け抜けていく。
「喰らえェッ!!」
「させるものかよ!」
スレインの一撃をすぐさま回避して、そこから反撃の態勢に入る。
「バーニングスラッシュだ! 喰らえッ!」
「こっちはスプラッシュプランジで攻めるぞ」
「しまった! 囲まれたか!」
左右から挟み撃ちにされ、スレインは即座にスプラッシュプランジをシールドで防ぐが、バーニングスラッシュを喰らい、右腕部を破壊されてしまう。
「しまった……。ここに来てこんな事になるとは……」
一方で、マナやラグルードの戦闘部隊はメナンとバウルたちと銃撃戦を繰り広げていた。
「何て視界の悪さなの……。レーダーがあるからまだ戦えるけれど、少し戦いづらいわね……」
それでもマナは操縦桿のボタンを必死に押し続け、専用武器のサイクロンライフルを撃ち続けた。
「そこっ!!」
少しずつ敵機を撃墜していくが、メナンとバウルの機体がいきなりビームライフルを撃ちながらマナの方へと接近を開始した。
「行くぞメナン! 奴らを殲滅しよう」
「分かりましたわ。行きましょうか」
これには流石のマナも混乱せざるを得なかった。
「まずいわ! ケルブバスター、早く撃墜しないと!」
「分かってるって。感覚をしっかり研ぎ澄まして……、撃つ!」
メナンとバウルの二機を素早く的確に狙い撃ち、何とか戦闘不能にまで追い込んだ。その後、彼らの魔の手は去り、この戦いは終わりを告げた。
戦いが終わり、ラグルード基地の施設内へと戻ったリュウタ達は、バルティックに近寄る。
「あの、バルティックさん……」
「何だ?」
バルティックはリュウタを見つめる。
「良ければその……、俺達と一緒に……」
「分かった。だが、俺にはこの全うすべき任務がある。それについてはその任務を終えてからだな。お前もそう思うだろう、ミノスソルジャー」
「あぁ、そうだな。まだ会ったばかりである以上、少しの間このラグルード基地で共闘しつつ検討することにしよう」
リュウタは当初の想定とは違うとはいえ、敵対することなく自分たちを受け入れてくれたことに安心した。彼らはしばらくは、このラグルード基地での生活をすることになる。
果たして今後、彼らを待っているものとは何か────────
それはまだ誰も知らない。