第2話 アクラインを目指して
ショーンに連れられて、メガリア南端の港町・フェリオンへと到着したイカロスナイトとリュウタ。
リュウタはまだ見ぬ世界に期待と不安を胸に渦巻かせる中、港町の周辺を見渡した。
「しかし、ここは本当に広いな」
辺りにはこの国以外の人々が行き交い、中には大型客船もいくつか泊っている。
「だろ? ここはメガリア王国の中でも……、いや、このリーザーで最も大規模なんだ。」
「まぁ、ゆっくりするのもいいし、このまま手っ取り早くアクライン行きの船に乗るのもいい。好きにするといいよ」
ショーンは微笑みながらフェリオンの案内をする。
「ショーンさん、本当にありがとう。ここまで俺達を案内してくれて……」
「なぁに、いいってことよ。とりあえず、俺の知り合いのいる所まで案内するからよ」
「分かりました」
「リュウタ、良かったな。ショーンさん、アンタには本当に助けてもらったよ。俺からも礼をしたいんだが……、えっと、どうすりゃいいんだ?」
イカロスナイトは、どこかせわしない感じであった。
そんな彼を見たリュウタは、彼もかなり人間らしいところがあるのだと察した。
「別に礼なんて大丈夫だよ。早く元の世界に帰る方法が見つかるといいんだけどな」
「いやぁ、すみません」
「謝る必要なんてないよ。とりあえず君達の好きにするといい。近くを右に曲がれば食料品店もあるし、さらにそこを真っ直ぐ進めば、MHメタルヒューマノイド用の部品を安く売ってる店がある。好きなだけ散策して来い。俺はここで待ってる」
「はい」
「行こうぜ、リュウタ」
そして彼らは一旦ショーンと別れて、この辺りの散策を開始した。
彼らはまだ終わりの分からない旅のための準備として、食料やバッテリーをある程度買う事にした。
リュウタとイカロスナイトは食料品店に向かおうとするが、ここで一つ問題が生じた。
「なぁ、イカロスナイト。お前は建物に入る時どうするんだ? さっきから周りの人から白い目で見られてるから、ちょっとどうにかしたいんだけどよ」
「そうか……。そういう時はテクター・ブレスレットのこの赤いボタンを押すんだ。これで俺はデータ化されてこの中に格納される」
「そうならそうと言ってくれよ。じゃあ人気のない所で使うか」
リュウタとイカロスナイトは人気のないところに移動した。
「これを押せばいいんだな。じゃあ早速……」
赤い光と共にイカロスナイトは光の粒子となってテクター・ブレスレットに圧縮された。
「この状態でも会話できるが……」
「なぁ、お前の体はどういう構造になってるんだ?」
リュウタはふと不思議そうな表情をする。
「俺はそこら辺のMHとは違うんだ。レベルってもんがあるんだけどよ、俺はMHの中でも上のレベル3だからな」
「そんなこと言われても、そのレベルの基準が分からなくてよ……」
よく分からない用語を聞かされて眉をひそめるリュウタ。
彼はまたしても未知の用語に戸惑っていた。
「まぁ、この前俺が戦ってたのは”ランバー”って言ってよ。レベル1のものだな。あれは全てのシステムを人間がコントロールしていないと動かせないんだ。今じゃ旧式さ」
「なるほどな……。続けてくれ」
「で、お前がまだ見ていないレベル2のMHは、一応知能はあるがそれでも人間のコントロールが無いと動けないものでな……」
リュウタは頷きつつ話を聞く。
まだ見ぬ未知のMHに関してはよく分からないため、姿は仕方なく想像で補おうとする。
「それで、俺の様なレベル3のMHはデータ化して一つのデバイスに圧縮も出来てなおかつ完全に自立して動けるんだよ。どうだ、納得したか?」
「まぁ、納得は出来るけどよ。でも、これから先に……、例えばレベル4とかみたいに、お前より高性能のMHが出てきたらどうするつもりなんだ?」
至極真っ当な意見にしばしの間口を閉ざすイカロスナイト。彼はどう答えればいいか迷った。
もし彼を守り切ることが出来なければどうすべきか。守る者としての責任に追われていたのだ。
「その時は……、何が何でも立ち向かってやるさ。 レベル4が出ようが何だろうがな!」
「そうか。頼りになるな。ありがとう」
二人はその後、食料品などの生活必需品を買ってショーンと再び合流した。
「ショーンさん!」
「おぉ。ん? 隣にいたデカいのはどうしたんだ?」
突然一人になっている事に戸惑いを隠せずにいるショーン。
それ故に少々焦っていた。
「え? あぁ、このブレスレットの中に……」
リュウタは右手のブレスレットを指差す。
「何!? レベル3のMHだったのか。気を付けろよ。なるべく周りの奴に言いふらさないようにな」
「は、はい……」
彼はややかしこまった表情になる。だが、それと同時にショーンの思いやりに感動した。
彼は見ず知らずの人間にここまで優しくしてくれるとは思いもよらなかったのだ。
その後、リュウタはショーンの知り合いがいるビルへと入る。
「おっ、ショーンじゃないか。ところで、隣のそいつはどうした?」
「彼はクロガネ・リュウタだ。この辺をうろついてたから助けてあげたんだ」
ショーンは敢えてリュウタが次元転移者であることを隠そうとする。
もし多くの人間に知られたら、浮遊大陸軍に狙われるリスクが大幅に高まるからだ。
「あぁ、そうか……。まぁ、よろしく頼むよ。俺はラグル」
ラグルは頭に真っ赤なバンダナを巻いており、彼はショーンと比べると血気盛んなようである。
「はじめまして。よろしくお願いします」
「しかし、なんでまたこんな得体の知れない奴を?」
「何も持ってないからあんまりだと思ってね。とりあえず彼をアクライン行きの船へ乗せていってくれないか? お願いだ……」
ショーンは必死に頼み込んだ。彼のその強い押しに負け、ラグルはリュウタからチケット代の300ガニムを受け取り、チケットを渡した。
「これさえあればアクラインまで行けるぞ。だが、アクラインは場所によっては治安が悪い場所もあるぞ。気を付けろよ」
「はい。ありがとうございます、ラグルさん」
こうして、ショーンやラグルのサポートもあり、何とかアクライン行きの船に乗ることが出来た。
リュウタは一安心し、無事アクラインの方まで向かうことが出来た。
そして夜になり、リュウタ達はついにアクラインへと到着。
アクラインはメガリアほどではないものの、かなり技術の発達した国家であり、アクラインの港付近は様々な商店が並んでいた。
「イカロスナイト、ここに俺と同じ境遇の人がいたらいいんだけどな……」
「まぁ、確実にいるという訳ではないから、その時はその時だな」
リュウタは溜め息をつく。この未知の国では何が起こるか分からない。
そんな中、彼らはあてもなく旅を続ける。しかしそんな中、事件が起こった。
突如として爆発音が聞こえたのだ。これにリュウタは驚くも、どう対処すべきか困惑する。
「リュウタ、俺をブレスから出すときはサモナイズと叫べ!」
「分かった。サモナイズ!」
リュウタのブレスレットから赤い光が放たれた。そして、イカロスナイトが実体化した。
「赤いボタンを押すんだ。これでコントロール・テクターを装着できるぞ」
「コントロール……、テクター?」
「いいから早く押すんだ! 説明は後でする」
「分かった」
赤いボタンを押すと、リュウタの全身がプロテクターで身に包まれた。
「これで操縦することが出来る。さぁ、早く俺に乗れ」
「あ、あぁ。分かった」
少し焦りながらも、彼はイカロスナイトの胸部のコックピットに乗り込む。
こうして、彼らの戦いが始まった。
「本当のロボは操縦した事はないが、ゲームじゃしょっちゅうやってるから朝飯前だ!」
「油断するなよ、リュウタ。敵は俺達よりも強いかもしれない……」
「分かった。俺に任せてくれ!」
リュウタはこの世界に来て初めて勇気に満ち溢れた顔を見せた。
空を舞い、敵部隊がいる区域へと向かう。
「あそこにいるぞ! でも、見たことないMHだな……」
「アイツらはレベル2のMH、フェンザードだな。近距離・中距離戦特化型だ。気を付けろよ」
「よし、ここは俺がやってやる!」
イカロスナイトは即座に敵のデータを分析した。
そして、リュウタは操縦桿を握り締め、敵部隊が群がる所へと突撃する。
「こいつめ、かかって来い!」
敵部隊は突然イカロスナイトを目にして驚くも、上手く間合いを取って隙を突かれないように陣形を固める。
「レベル3のMHだろうが、関係ない! 斬り殺してくれるわ!」
敵部隊の内の一機は、ビームソードを構えて素早い動きで接近する。
「リュウタ、今だ!」
「おっしゃあ!!」
イカロスナイトは、近づいて来た敵機を素早く真っ二つに一刀両断する。
「しまった! ウワァァァァッ!!」
斬られた敵機は爆発四散した。しかし、それでも浮遊大陸軍の戦闘部隊は怯まなかった。
なんと、三機のフェンザードが勢いよくイカロスナイトを包囲する形で斬りかかって来たのだ。
「そう来たか! こうなったら一旦空中に飛んで……」
リュウタは臨機応変に対応し、イカロスナイトの能力を生かしてどうにかピンチを切り抜ける。
「バルカン砲を使わせてもらうぞ!」
「オーケー。座標がずれないように気を付けろよ」
そして彼は、三機のフェンザードにバルカン砲で迎撃し、全機破壊することに成功する。
「すげぇ……。これがイカロスナイトの力なのか」
「いや、違うぞリュウタ。これは俺とリュウタの連携システムによる力だ」
リュウタはそれを聞いて少し首を傾げる。
「相乗効果みたいなもんか?」
「要はそういう事だ。詳しいことは後で話そう。まだ敵の本隊は遠方にいる。急ぐぞ!」
一方、浮遊大陸軍襲撃部隊の本隊であるオスリクタ隊は、アクライン方面の軍需工場を襲撃していた。
そこの護衛部隊が手薄であることに目をつけたスレイン達は、ひたすら施設を破壊し続ける。
「フン! ここまでアクラインの連中が弱いとはな! なぁ、メナン」
”所詮はアクラインですわ。私たちに歯向かうなんてお馬鹿さんばかりね”
スレインとメナンは、指示通りに軍需工場の生産ラインを完全に潰そうとしていた。
しかしそこへとイカロスナイトが現れる。
「ん? あの赤いMHは……、とうとう出てきたか。 レベル3の奴め! メナン、バウルを呼んで来い。三人で戦えば十分勝てる見込みがあるからな」
”分かりましたわ”
そして、もう一人のスレインの部下であるバウル・スローンと合流し、より戦いを有利に進めようとする。
こうして、三対一の死闘が幕を開けた。
「さぁ、貴様など消し炭にしてくれるわ!」
最初の一手を出したのはスレインであった。
彼は自分が得意とする剣術を生かしてイカロスナイトを追い詰めようと試みる。彼は、目にも止まらぬ速さで剣を振るう。
「なんて速さだ……。このタイプの攻撃は苦手なんだよな……、俺」
「あいにく俺も同じさ、リュウタ。ならバルカン砲で……、まずい!」
イカロスナイトはバルカン砲が弾切れであることに気付き、やむなく接近戦を強いられることになる。
お互いに素早い剣戟をするも、スレインの方が一枚上手であった。
リュウタの反撃も虚しく、ついに空中に逃げ、三機の敵から狙いを定められてしまう。
「さぁて、レベル3め……。とうとう跡がないな」
”スレイン隊長。三人で包囲してトドメを刺しましょう”
”それはいい考えですこと。スレイン隊長は?”
「異議なしだ。さぁ、死ぬが良い!」
しかし、その時であった。遠方から槍が突如として飛んできて、スレインの機体肩部に突き刺さる。
「グゥゥッ! 何事だ!」
ピンチの状態のリュウタ達の前に姿を現したのは、海賊帽を被ったような風貌の青いMHであった。
「あれは……、一体」
「オスリクタの連中は大したことねぇな」
思わず固唾を飲むリュウタ。彼はまたしても未知のMHと出くわしたのだ。
そのMHは、すぐさま胸部のビーム砲でオスリクタ隊を迎撃する。
「くっ……、奴は水中戦に持ち込まれたら勝てん。一旦撤収だ」
”は、はい……”
肩に刺さった槍を引き抜いたスレインは、すぐさま踵を返した。
ひとまず戦いが終わり、リュウタとイカロスナイトは助けてくれたMHに感謝の言葉を伝えようとする。
「あの……、さっきはありがとうございます」
リュウタはお辞儀をして見せた。すると、そのMHの胸部から人が降りてきた。
「いや、どうってことないさ。俺はラゼック・アーバント。こいつはクラークスピアー。俺の相棒さ」
そこから降りてきたのは、群青色のジャケットを身にまとった、やや長めの金髪の青年であった。
少なくとも、リュウタよりは背が高く見える。
「え……? あ、はい……」
緊張のあまり焦りに焦るリュウタ。
「おい、クラーク。こいつもしかしたら……」
彼は、リュウタのテクターブレスレットと色違いのものを付けていた。
ブレスレットの中にはイカロスナイトの様なレベル3MHが格納されているようだ。
「ふぅん……、そうか。とりあえず後で色々と話したいことがあるから……、ひとまずちょっと来てくれ」
「分かりました……。どうする、イカロスナイト?」
リュウタは呆気にとられたような顔をしてイカロスナイトを見上げる。
「ひとまず、ついて行ってみるか……?」
「そうするか」
果たして、謎の青年・ラゼックは何者なのか。それはまだ彼らは知る由もない。