第18話 激突! イカロスナイト対ワイバースレイヤー
浮遊大陸軍は以前から開発していた強化細胞〈ストレングス〉をついに完成させた。
ストレングスは浮遊大陸軍が作り出した独自の人工細胞で、これを人間の体内に注入すると、通常の人間よりも遥かに強靭的な能力を得ることが出来るのだ。
これを自陣営の一部の兵士達に注入し、戦闘能力や反射神経などの強化を図った。
この強化細胞注入手術はスレイン達にも行われ、彼らは自分自身が今までの自分とは違うという事を即座に悟った。
果たして、この力が今後の戦闘にどう影響するのか。
一方、大陸連合軍長官のギルノ・メザードは他の国々と協力し、浮遊大陸軍の本拠地へと突撃する作戦を考案。
この作戦はいくつかのステップで構成されたものであり、段階を踏んだ上で作戦を実行していき、最終的には浮遊大陸軍を壊滅させるという内容である。
そして、その第一次突入作戦でのターゲットは、浮遊大陸軍が不法占拠しているペンドラス島。
ここでは大陸連合軍の兵士が奴隷のように働かされており、僅かな食事しか与えられず、中には死者も出ているという噂である。これを何としても防ぐべく立ち上がったのが長官のギルノであった。
「今回はペンドラス島に捕まっている捕虜の解放がもう一つの目的だ。これ以上犠牲者を出さないためにも、何としても今回の作戦は成功させたい。諸君、頼んだぞ」
「了解!」
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その後、この命令は大陸連合軍の全兵士に伝えられ、リュウタ達にもこの事は知れ渡った。
「ついに本拠地に攻めるのか。ということは、俺達が元の世界に帰れる可能性も……」
「あぁ、あるって訳だな。ただ、次元転移装置を受け渡してくれればの話だがな」
談話室にいたリュウタとイカロスナイトは、僅かな希望に胸を膨らませる。
とはいえ、確実に帰れるかはまだ分からない。
「おっ、リュウタ! 作戦の実行日は聞いてるか?」
ラゼックは手を振りつつ、リュウタの元へと駆け寄る。
「さっき明後日って言ってたぜ。ゲイリー中佐から聞いてなかったのか?」
「あっ、そうだったそうだった……」
苦笑いしながら空気を濁すラゼック。
「お前って、ホントそういうの忘れやすいよな」
リュウタは少々呆れ気味な目つきであった。
「そんなことねぇよ! な、クラーク」
「あ、あぁ……。そうだな」
クラークスピアーもどうにか擁護しようとするが、大したフォローにはなっていなかった。
「いや、そこは迷うなよ……。とにかく、明後日だってのは分かってた。ただ記憶が曖昧だっただけで……」
「結局、話聞いてなかったんじゃないか」
「まぁ、そうなるな……」
これには流石のラゼックも受け入れるしかなかった。
そして、話を終えた二人は、各々の自室へと戻っていく。
そして翌日、作戦の準備が着々と進む中でマナとバルティックはゲイリーに整備ドックへと呼び出された。
二人は突然の事ゆえに少し慌てているようである。
「ゲイリー少佐、話と言うのは……」
バルティックは心配そうな顔つきで立っていた。
「今回、君達には試作兵器であるMH用のサーチビーム砲を扱って貰いたい。
マナは遠距離攻撃型のケルブバスターの相棒であること、バルティックは四人の中でも数少ない元の世界での実戦経験があるということから選んだのだが……」
「そんな責任重大な事を、私たちに……?」
マナはただただ困惑するしかなかった。
試作兵器の運用は他の部署の管轄下だとばかり思っていたからである。
「しかし、そこまで重要な役割なら……」
「君たちの事を信じているからこそ、この任務を遂行してもらいたいのだよ」
「そうだったんですか……」
バルティックは『信じているからこそ』という言葉を聞き、緊張する。
「今回の作戦では、サーチビーム砲でペンドラス島の司令部の電波塔を破壊するということも作戦の一つとして行うつもりだ。それに、サーチビーム砲は余程の事が無ければターゲットに当たらないということは無い。安心してくれ」
「分かりました。必ずやって見せます」
マナとバルティックは、サーチビーム砲の取り扱い方を教えられた後にゲイリーと別れて基地の廊下で話をしていた。
「私に出来るのかしら……」
「大丈夫だって言ってたじゃないか。あまり気にし過ぎてると、本調子が出せなくなるぞ」
ケルブバスターはマナを励ますように声をかける。
「ケルブバスターもそう言っているんだ。自分を信じる事が大事なんだ」
「分かったわ、バルティックさん……」
マナは自信を取り戻し、にこやかな表情をした。
「そう、その意気だ」
バルティックはサムズアップをして見せる。
そしてさらに翌日。ついに第一次突入作戦が開始された。
今回は大陸連合軍の各国の軍勢でペンドラス島奪還に挑むこととなる。
リュウタ達も覚悟を決めて出撃した。
烈火の如く燃える闘志を胸に、リュウタとラゼックやゲイリー率いる戦闘部隊はいち早くペンドラス島へと上陸した。
「ついにここへと来たか……。全員決して油断しないように。奴らに慈悲は無用だ」
”了解!”
副隊長のソロスを筆頭とする部下数十名の間には、張り詰めた空気が流れる。
「それと、リュウタとバルティックは機体の性能に頼りすぎないこと。いいな?」
”はい。分かりました”
”任せてください”
「では、突撃だ! 敵はもうすぐ射程範囲内に来る!」
こうして、彼らの戦いは始まった。
フェンザードやカリバードで構成された敵戦闘部隊は、そのまま連合軍の方へと駆けて行った。
イカロスナイトは二本の剣を構えて素早く飛び立ち、空中を舞いながら地上に降下して敵機を斬り裂いていく。
「よし、今だ! ここで斬る!」
「ウワアァァッ!」
素早く剣戟を行うイカロスナイトに、敵の兵士は翻弄されることしか出来ずにいた。
しかし、これに見かねた一人の兵士が、イカロスナイトの方へと突撃する。
「クソォ! このままやられてたまるものか!」
カリバードを駆る小隊長の兵士は、素早く剣を振りかざす。
「落ちろ、落ちろッ!」
その兵士の目は強化細胞の副作用によって目が血走っていた。
「こうなったら、一旦二刀流はやめておこう……。イカロスナイト、ここは盾を使うぞ」
「分かった! 切り替える」
すぐさまイカロスナイトは、ファイアシールドに持ち替えた。
そして、リュウタは敵機と攻防戦を繰り広げた。
「コイツめ! 殺してやる!」
リュウタのアシストのお陰もあり、全ての攻撃を防ぎ切った。
そこから空から地上へと滑空し、ギガ・ファイアキャリバーで敵機を真っ二つに斬り裂いた。
「そんな! グハアァァッ!」
敵機は斬られた跡から煙を上げた後に爆発四散する。
「ちょっと手強かったな……。このまま順調に進むといいんだが……」
「俺もそうであって欲しいよ」
リュウタはその後も、敵機と何度も剣を交えることになる。
一方、ゲイリー率いる親衛隊は機銃をひたすら撃ち続け、何とか沿岸の敵部隊をあと少しで殲滅できそうな状態にまで持ち込んだ。
そして、ラゼックはトライデントで敵機を次々に串刺しにしていった。
「よし! これで十機は倒せたな。ゲイリー中佐! そっちの方はどうですか?」
”こっちはもう少しだ。やはり戦力では我々の方が上のようだな”
「なら、余裕ですね」
残り少ない敵勢に、銃口を向けるゲイリー達。
さらにラゼックが素早く攻撃をして来たことで追い打ちをかけることになる。
「このォ、喰らえ!」
ラゼックはアクアトライデントを、勢いよく敵機に突き刺した。
「しまったァ! ウワアァァッ!!」
機体は炎を上げながら倒れ、その後爆発四散。
しかし、まだ敵機は残っていた。
”ソロス! 掃射だ!”
「了解、ゲイリー中佐! このォッ!」
残り僅か四機の敵戦闘部隊は、ゲイリー達の掃射によって殲滅した。
その後、ラゼック達は軍港地帯を抜けて対空砲がそびえ立つ防衛ラインへと向かった。
一方、マナとバルティックは戦艦〈ウォルディン〉でサーチビーム砲の発射準備を行っていた。
ケルブバスターとミノスソルジャーは両手にサーチビーム砲を構え、ターゲットに照準を合わせていた。
調整している理由は、いくらサーチビーム砲とは言え、余りにもずれた方向に撃ってしまうと照準補正も上手くかからないからである。
「マナ、こっちはもう座標軸を捉えた! そっちは?」
”私も準備万端よ! いつでも撃てるわ”
そして、ウォルディン艦の艦長から指示が出る。
”今だ! ビームを叩き込め!”
「了解!」
サーチビーム砲から放たれた光線は、見事基地の電波塔に直撃し、ペンドラス島の兵士達は浮遊大陸軍本隊に連絡を取ることは出来なくなった。
しかし、彼らにも切り札はあった──────
それは、オスリクタ隊である。
彼らには数日前からペンドラス島の戦闘要員不足から急遽召集命令が出ていたのだ。
「ワイバースレイヤー、行くぞ……」
「分かった、スレイン」
ワイバースレイヤーの金色の目が怪しく光る。
「メナン、バウル、お前達も早く行くぞ!」
”分かりましたわ”
”はい、スレイン隊長”
二人は真剣な顔つきで操縦桿を動かし、コントロールパネルを操作する。
そして、三機のMHが飛び立った。
一方、リュウタとラゼックは、ゲイリー率いる親衛隊と共に進軍して防衛ラインにて攻防戦を繰り広げていた。
しかし、そんな中で彼らの前に脅威的な敵勢が襲いかかる。
「おい! レベル3MHの反応が俺たち以外にも……」
”奴らが来たってことか?”
リュウタの頬に冷や汗が伝った。
あの機体かと思考を巡らせて、操縦桿を握る。
「あの黒い奴が来たのか! 何としても倒さないと……」
彼の心には闘志が燃えたぎっていた。
そして、ついにオスリクタ隊をメインカメラで捉えた。
”ゲイリー中佐、敵MH三機確認! その内の二機は高機動型ブラスティムです。注意してください”
「分かった。ここはあの二人に任せるか……」
リュウタとラゼックはすぐさまオスリクタ隊と対決し、一戦交える事になる。
「誰から倒して見せましょうか……。まずは弱そうな量産型から……、フフッ」
メナンは真っ先に敵を捉えて、ビームライフルでゲイリーの部下の機体を一機撃墜した。
「中佐ァァッ!」
無情にも機体から脱出する暇もなく兵士は命を散らした。
「よくもやってくれたな! おのれェ!」
「ここは俺が相手をする!」
突如としてバウルが割って入り、ソロスの機体に素早く斬りかかった上で光線を撃つ。
「ウワアァァッ! 中佐、私は撤収します」
ソロスは機体の右腕を切られてしまい、そのまま敗走した。
”分かった。後は任せておけ”
その後は、ゲイリーがバウルと交戦することになった。
「なんという判断力……。ならばこっちも! 撃てェーッ!」
ゲイリーは部下達と共に一斉掃射を行うも、バウルは上手くシールドで攻撃を防ぎつつ、光線を撃って確実に敵機を一機ずつ撃墜していく。
このままでは、ゲイリーの指揮官としての名が廃る。
ここでゲイリーは敵の動きを見極めた上でビームソードを取り出し、接近戦に持ち込もうとする。
「どこからでも来いッ!」
素早く剣を取り回し、軽やかな身のこなしでゲイリーはバウルの駆るブラスティムに迫る。
「ここで……、斬る!」
「何ィ!?」
ゲイリーはバウルの盾を素早く斬った。そこからバウルは怯みそうになる。
「これで……、トドメだ!」
バウルの機体は致命的なダメージを負った。
「まずいッ! 早く脱出せねば……」
バウルは寸前のタイミングで脱出ポッドを使い生き延びたものの、機体は爆発四散した。
一方、ラゼックはメナンと激しい戦いを繰り広げていた。
「こいつを使うか!」
ラゼックは胴部キャノン砲を撃つものの、あっさりと回避されてしまう。
「レベル3なんてハッタリよ。私でももしかしたら……、ならば!」
メナンはビームソードを素早く取り出して、否が応でも接近戦に持ち込もうとする。
そこでクラークスピアーは、アクアトライデントを使い守りの姿勢に入る。
「俺は怖くはない……、全くな!」
「フフッ、隙が見えたらここで終わりでしてよ」
互いに守りを固めた状態で一歩、また一歩と足を動かす。
先に攻撃を仕掛けたのはラゼックであった。
「てやあァァーッ!」
素早くアクアトライデントを突き刺そうとするラゼック。しかし、メナンにとってはその攻撃はお見通しであった。
「エイッ! これでトドメね!」
「しまった! なら避けるか……」
不幸中の幸い、ラゼックは攻撃を間一髪で回避する。
「クラーク、あれを使うぞ!」
「分かった、任せろ」
そして、クラークスピアーはスプラッシュプランジ・ツバイでメナンに襲い掛かる。
「喰らえェッ!」
「なんと……。はっ!」
メナンは回避しきれず、分身の攻撃を喰らったことにより機体は損傷した。
彼女は仕方なく基地本部へと敗走せざるを得なくなる。
一方、リュウタはスレインの駆るワイバースレイヤーと一戦交えていた。
「ワイバースレイヤー、我々の本気を見せてやろう」
「分かった、スレイン。ここが腕の見せ所というわけか」
ワイバースレイヤーはダークグレイブを構えて、動きを見切ったのか、すぐさまイカロスナイトの左腕を斬った。
これにより、イカロスナイトの戦闘能力は不完全なものになってしまう。
MHは体の一部が欠損すると、中核部のパワーリアクターの稼働性能が低下し、さらにエネルギー源のデジリウムが傷口から流出することにより、本来の能力を発揮できなくなってしまうのだ。
「何をッ……! コイツにやられてたまるかよ……」
最後の力を振り絞ってシールドで攻撃を防ぐイカロスナイト。
しかし、スレインの背後から影が迫る。
「させるかッ! リュウタ、イカロスナイト、お前達は距離を開けろ」
ゲイリー達が背後から光線を何発か当てて、スレインの方に見事命中させる。
「クソォ……、こんな攻撃如きで……」
ワイバースレイヤーはこの攻撃を喰らった事で苦悶する。
そして、その間にリュウタは操縦桿を再度動かし、イカロスナイトに鞭を打つ。
「今だ! コイツめェッ!」
「何だと!?」
イカロスナイトはバーニングスラッシュ・ツバイを繰り出し、ワイバースレイヤーの右腕を切断した。
この攻撃によって、スレイン達はとうとう敗走せざるを得なくなった。
その後、大陸連合軍が基地本部へと突入したことを察知した浮遊大陸軍は、とうとう降参したのかこの島から去って行った。
事実上、大陸連合軍の勝利となった。
翌日、基地にいた捕虜たちは浮遊大陸軍によって解放され、無事に他の大陸連合軍の仲間との再会を果たす。
ある者は友との再会に涙し、またある者は、栄養失調で軍の病院へと搬送された。
────────◇────────
ペンドラス島突入作戦を成功させた大陸連合軍は、第二次突入作戦に向けて、着実に準備を進めていた。
一方、リュウタはイカロスナイトの修理される様子を、暗い面持ちでただ黙って見る事しか出来ずにいた。
「はぁ……」
「リュウタ、暗い顔すんなよ!」
整備ドックの入口から、ラゼック達三人が来る。
彼らは何とかしてリュウタの不安な気持ちを少しでも和らげるため、励まそうとしていた。
「元気出して。戦いには勝ったんだし」
優しい口調で、元気づけようとするマナ。
「今後の戦いで、またあの竜のような翼が備わった機体を倒すには、訓練をしておくことが大事かもな。とにかく、一緒に頑張ろう」
「そうだな。俺には操縦テクニックがある。これをさらに磨いて、アイツらを出し抜いてやるか……。心配な気持ちもあるけど、今は乗り越えるしかないか」
自信を取り戻したリュウタは、自室へと戻っていった。
一方、ゲイリーは第二開発班に委託していたレベル3MH用新型兵器の調整を行っていた。
「しかし、この武器をあいつらが使いこなせるんですかね?」
ゲイリーの傍にいたエンジニアの一人は、そのように呟く。
「大丈夫だ。逆にあいつらだからこそ活かせるんじゃないか? やってみるしかない」
ゲイリーは優しい笑みを浮かべつつ、設計データが記録されたタブレットを操作した。
果たしてこの武器は彼らの戦いにおいて、切り札となるのか────────
それを知るのはそこまで先の話ではないかもしれない。




