第16話 逃げたくても……
ある日の夜の事、マナは自室で小さい頃の思い出に耽っていた。
~数年前~
まだマナが10歳の頃の出来事である。
彼女は学校の帰りに、その道中で痩せ細った捨て猫がいるのを見つけた。
「早くご飯をあげないと、この猫が死んじゃうわ」
彼女はすぐさまこの猫を連れて帰り、すぐさま牛乳を与えた。
「大丈夫かしら……」
すると、自分の部屋にマナの母がドアをノックして入って来る。
「マナ、猫を拾ってきたの?」
「そうなの。もう見てられなくて」
マナは不安そうな面持ちであった。
何しろ、ここまで元気のない捨て猫を見殺しにするわけにはいかないと、自分の良心が痛んだからである。
「分かったわ。私も食べ物持ってくるから、ちょっとそこにいてね」
そして、母はたまたま家にあったツナ缶を持って来て、猫に食べさせた。
「ニャー、ニャー」
猫は元気を取り戻したのか、ようやく鳴いた。マナはそれを見て安心する。
「良かった。この猫、飼っていい?」
「いいわよ」
その後、この猫には〈ミリー〉と名付けた。
マナが15歳の時に病気で亡くなるまで、彼女はミリーを愛し続けた。
この事をきっかけに、マナは動物を保護する仕事に就くことを決意した。
────────◇────────
彼女はこの世界に飛ばされてきたばかりの頃、ケルブバスターと初めて出会ったものの、戦いを躊躇するときがあった。
何故なら、人を傷つけることに対して罪の意識を感じていたからである。
だが、そんな彼女は戦いを重ねていくうちにこの感覚は薄れていき、一人の戦士へと成長した。
とはいえ、彼女は自分の夢を諦めきれておらず、様々なことを考えていくうちに、彼女は今の状況から逃げたくなってしまった。
そんな状態がここ数日続いていた。
翌日、マナの自室のドアを叩く音が聞こえる。
「うーん……、誰かしら」
「マナ、朝飯の時間だぞ」
その声の主はリュウタであった。
彼女が最近カフェテリアスペースにあまり来ない事を心配して、ここへ訪ねてきた。
「分かったわ、リュウタ。すぐ行くから」
マナはこの辛く悲しい状態を打開したいため、朝食時にリュウタに相談に乗ってもらうことにした。
「最近ここに来てない事があったから、皆心配してたぜ?」
「ごめんね。私、悩みがあって……」
少し俯きつつ、リュウタの目線に合わせるマナ。
「悩みか……。何の悩みだ?」
「将来の夢が一生叶えられなかったらどうしようと思って……。だから私、最近朝起きても辛い気持ちになっちゃって……」
マナは半泣きの状態で、辛そうな面持ちをしていた。
「でも、今は元の世界に帰るためにも……」
「一生帰れないかもしれないのに? もう嫌になりそうよ……」
その後、マナは一言も話すことなく朝食を食べ終えてからは逃げるように去って行く。
これを見て、リュウタはもっと親身になって話すべきだったと後悔した。
彼女の今の状態について、リュウタはラゼックやバルティックにも共有することにした。
「最近、マナの様子がおかしいんだ……。おととい辺りから気が沈んでるとは思ってたけど、まさかここまで抱え込んでいたなんて……」
リュウタはやや落ち込んだ表情であった。
何故なら、もっと早く相談に乗るべきだったと後悔していたからである。
「俺もあそこまで落ち込んでたなんて思わなかったよ……」
ラゼックもここ数日、普段とは明らかに異なるマナの様子に驚いていた。
「今はそっとしておくのが良いんじゃないか?」
バルティックは顎に手を添えつつ冷静な顔つきである。
だが、リュウタはどうしても彼女の事が気になり、そのまま彼女の自室へと向かう。
「マナ……、ってあれ?」
マナの部屋にはオートロックが掛かっており、ドアには『不在』と書かれた紙が貼ってあった。
「リュウタ、マナがここにいないのか?」
イカロスナイトは不思議そうな口調で話す。
「そうみたいだな。軍の施設の外に出てないといいんだけどな」
この直後にリュウタは、ラゼックやバルティックと協力し、マナを探すことにする。
一方、マナは基地の外にある屋外フリースペースで、クルトを遊ばせていた。
「クルト、元気そうね。私もこれくらい元気ならな……」
「元気出せって……」
ケルブバスターは、必死にマナを元気づけようとする。
「でも……」
それでもマナは落ち込んでいた。すると、クルトがゆっくりと歩いてマナの方に近づいて来る。
「クゥーン……」
クルトは目一杯走ったせいか、疲れて少し元気が無さそうな様子であった。
それを見て、すぐさまマナはペットフードを取り出してクルトに与える。
ペットフードを元気そうに食べているクルトを見て、彼女は再び悩みだす。
「私、どうしたら……」
その最中に、敵襲警報が鳴り響く。マナはどうするか迷った。
しかし、クルトがマナに対して何度も吠え始める。
「ワン、ワン!」
「マナ、クルトが吠えてるぜ。今は戦えって……」
ケルブバスターは必死にマナを鼓舞しようと試みる。
その言葉を聞いた彼女は、勇気を振り絞ってサモナイズし、再び戦う事を決意した。
やがて、リュウタ達三人もマナのいる場所へと合流する。
「おい、マナ! もう大丈夫なのか?」
リュウタはとても心配そうな面持ちで彼女を見つめる。
「うん……、一応ね」
「戦えるか?」
リュウタはマナの目の前に掌を向ける。
「もう大丈夫よ、安心して」
マナはゆっくりと自分の拳をリュウタの掌に突き合わせた。
こうして、マナは完全に戦う覚悟を決め、ケルブバスターに乗り込んで操縦桿を握り締める。
「無理しないようにな……」
ケルブバスターは穏やかな口調で彼女を労う。
「大丈夫よ、行きましょ」
「よし、そう来なくっちゃ! 行くぞ!」
ケルブバスターは基地の格納庫が並び立つ区域へと移動して、上空から襲い掛かる浮遊大陸軍の飛行部隊を迎撃し始める。
また、その他にもレザスで構成された地上戦闘部隊が対空長距離ビーム砲を使い、敵機を狙い撃っており、各部隊は上手く連携して、お互いの長所と短所を補い合った戦法を取っていた。
「攻撃が激しくなってきたぞ!」
飛来してくる光線の量が増え、流石のケルブバスターも耐えかねる。
「分かってるわよ、そんなこと」
マナは操縦桿を上手く動かし、照準を複数の敵に上手く合わせる。
そして、両肩のサイクロンキャノンから光線を発射した。
「よし、これで何とかなったわね」
その最中、リュウタから通信が入る。
”マナ、そっちはどうだ?”
「どうだって言われても、ちょっとね……」
あまりの攻撃の激しさにうんざりしつつあったマナ。
そこへとリュウタや他の空戦部隊が合流し、航空戦力の方では連合軍側が有利になる。
「リュウタ!」
”ここは俺達に任せてくれ。マナは滑走路区域へと移動して、バルティックやラゼックと合流しろ”
「分かったわ」
その直後、ケルブバスターは格納庫区域より西の方向に位置している滑走路区域へと駆けて行った。
イカロスナイトは、ファイアキャリバーとギガ・ファイアキャリバーの二刀流で接近戦を行い、次々に迫り来るウイルゾンを撃墜していった。
「この野郎!」
リュウタは操縦桿を素早く回して、その後に追い打ちをかける形でバルカンを発射する。
「何ィッ!?」
一機のウイルゾンは撃墜されて、地上に墜落して爆発四散した。
しかしまだ敵部隊は諦めなかった。
「このォ! これ以上やらせてたまるか!」
隊長機のウイルゾンが、ビームソードを素早く取り出して接近して来る。
それに対応すべく、イカロスナイトも二本の大剣を構えて素早く斬りかかった。
「トドメだ! バーニングスラッシュ・ツバイ!」
「何だと!? ウワアァァッ!」
リュウタの叫びと共に、隊長機は真っ二つにされて爆発四散した。
「何て奴らだ……、撤収!」
これに恐れ慄いた浮遊大陸軍空戦部隊の兵士達は、撤収を余儀なくされる。
一方、浮遊大陸軍陸戦部隊はまだ連合軍と交戦中であり、その戦火の中心はマナが向かった滑走路区域へと移る。
「このォ! まだ戦うか!」
ラゼックは苦悶しながらもコントロールパネルと操縦桿を同時に操作する。
「ラゼック、キャノン砲で牽制しろ!」
「オーケー!」
素早くキャノン砲から光線を乱射しつつ、攻撃を回避するクラークスピアー。
また、彼の後ろにはバルティックが駆るミノスソルジャーもいた。
「諦めの悪い奴らだな……。グランドディバイドで斬り裂くか」
「任せてくれ! やってやる」
ミノスソルジャーの繰り出したグランドディバイドによって、十数機のブラスティムが撃墜される。
「マナ、俺の頭がビリっと来たぜ」
「どうしたの?」
突然の発言に不思議そうな表情をするマナ。
「へへ、ちょっと頭のキレが良くなったみたいだな。サイクロンブラスト・ツバイをやるぞ! 白いボタンを押してくれ」
「分かったわ」
そして、ケルブバスターはサイクロンブラスト・ツバイを繰り出した。
この技は、放った光線に追尾性能が付加されたことにより、一気に命中率が上がるというもの。
「何だと!? ビームが曲がった? ウワアァァァッ!!」
「まずい! 全滅だけでも回避しろ! 残存部隊は撤収だ」
この攻撃によって、敵軍陸戦部隊はほぼ全滅状態に陥る。
残った陸戦部隊は戦闘を中断して、そのまま撤収していった。
こうして、今回の戦いは終わりを告げることになる。
つい先ほどまでは悩み苦しんでいたマナだったが、彼女はすっかり快活さを取り戻していた。
「もう大丈夫そうで良かったよ、マナ。さぁ、行こうぜ」
「ちょっと待って。この夕日をもうちょっと眺めたら戻るわ。ね、クルト」
「ワン」
マナは元気そうに微笑む。
その様子を見て、リュウタは嬉しそうにしていた。
「マナが元気になって良かった……。へへっ」
「何マナの顔見てデレデレしてんだよ。お前、あいつに気があるだろ?」
にやけ顔でリュウタを茶化すラゼック。
「そ、そんなことねぇよ!」
リュウタはラゼックを軽くはたいた。
「ラゼック、やめてやれ」
バルティックはリュウタへのからかいを止めているように見えた。
「バルティックさん……」
「男は誰しも女に現を抜かすことは一度はあるさ」
「え?」
リュウタはすっかり呆れて、一人でそのまま自室へと帰っていった。
果たして、彼らの戦いに終止符が付く日はあるのか。




