第15話 ラゼック、思い出の地へ
ある日のこと、リュウタは食事を済ませてからラゼックと談話室で話をしていた。
「なぁ、これから俺達は本当に元の世界に帰れるのかな?」
窓越しの景色を見つつ、ラゼックに問いかけるリュウタ。
リュウタの表情はどこか不安気だった。
「気の持ちようじゃねぇか? 俺はまだここに居たいぜ」
ラゼックは普段の明るい顔から一転、どこか鬱蒼とした表情をしていた。
「どうした、ラゼック? 顔色悪いぜ」
「あぁ、何でもないさ。行こうぜ、クラーク」
「お、おう……」
その直後、リュウタをよそ目にラゼックはそのまま自室へと戻ってしまう。
「今更だけどよ…。アイツ、元の世界で何かあったのか?」
「さぁ……」
突然のこと故に、リュウタは真顔になるしかなかった。
イカロスナイトも思い当たる節は見当たらない。
一方、マナとバルティックは自室へと駆け込んでいくラゼックを見て、きょとんとしていた。
「ラゼックさん、何かあったのかしら?」
マナは不思議そうにラゼックの走る様子を目で追う。
「さぁな……。でも待てよ」
バルティックはあることを思い出した。
それは三日前のこと。ラゼックと二人でカフェテリアスペースで食事をしていた時の事。
~三日前~
昼食時に、たまたまラゼックと向かいの席に居合わせたバルティック。食事をしつつ、二人は会話をする。
最初に話しかけたのはバルティックであった。
「子供の頃、俺はボクサーになるのが夢だったんだ。ラゼックは昔の将来の夢は?」
「俺ですか? 俺は水泳選手になりたかったけど、叶いそうにないですよ」
ラゼックは苦笑いしつつ、クリームシチューを口に運ぶ。
「そうか。子供の時はよく友達と録画したアニメを見てどっちのキャラが強いかで言い争いになったっけな……」
微笑みながら子供時代の思い出を話すバルティック。
しかし、その『子供の時』という言葉がラゼックにとっては良い響きではなかった。
「子供の時、か……」
「え? どうしたんだ」
「いや、気にしないでいいっすよ」
その後、二人の間には気まずい空気が流れる中食事をして、特に話がこれ以上進むことなく二人はカフェテリアスペースから出て行くのだった。
彼は三日前の会話の時から、ラゼックが『子供の頃』という言葉を聞いた途端に興ざめした理由が気になり、バルティックはその事がしばらく引っかかっていた。
「子供の頃に何かあったのか……? あいつは普段明るく振舞ってはいるが、昔の事はあの日以前に聞いたことは無かったな」
「でも、無理矢理本人から聞き出すのはちょっと……」
マナは腕を組みつつじっと考え込む。
「相談に乗ってやりたいが、やはりいきなり本題に入れば本人も嫌がるだろう。しばらくそっとしておこう」
「そうね。それがいいですね」
二人が色々と考えを手繰らせているうちに、当の本人が自室から出てきた。
「よぉ、二人共そんなところでどうしたんだ?」
ラゼックはいつものように気楽に振舞っていた。
「なぁ、ラゼック……」
バルティックは何から言い出せばいいか分からず、思わず言葉を濁す。
「どうしたんすか、バルティックさん」
「この前の……、いや、三日前の件についてなんだがよ」
「あぁ、あれですね。実は俺、子供の時のトラウマが今もなかなか忘れられなくて……」
ラゼックは意外にも、自らその話題について触れ始める。
「トラウマって、何なの?」
マナもその話についてかなり気になっていた。
「それがな、俺がまだ13歳の頃のことなんだが、水泳の練習中に足が吊って溺れて意識が遠のいちまったんだ。その頃から一時期水泳がトラウマになったせいで、水泳選手になる夢を諦める事になってな。そして、水の中が怖くなくなったのは18の時だ」
「そんなことがあったのか……。そうとも知らずにあんなことを言って済まなかった。許してくれ」
バルティックはすぐさまラゼックの目の前で謝罪した。
「いや、いいですよ。気にしてませんし。それに昔の事だから……、アハハ」
「でも、ラゼックはどうしてそのトラウマを克服できたの?」
克服するまでに至った経緯が気になり、眉をひそめるマナ。
「それは、俺の親父が励ましてくれたからさ。また泳いでみないかって言われてプールに行って、初めは躊躇したけど、プールの水がいつまでも昔の事に囚われるなって訴えかけてきたように揺らいで、今ならいけると思ったんだ。そしたら全然怖くなくってさ。今まで怖がってた俺が馬鹿みたいなんて思ったよ」
「それでなのね。でも、凄いじゃない。私だったらずっとトラウマは引きずっちゃうもの」
マナはラゼックらしい理由だと思いつつ、優しく微笑む。そして、ラゼックもまた穏やかそうな目つきであった。
「でも、ラゼックがあまり深刻そうに受け止めてなかったようで良かった。心のしがらみが解れたよ」
バルティックは優しい表情でラゼックを見つめる。
その直後、この事はリュウタにも打ち明けておいて、より絆を深めていく事になった。
一方、浮遊大陸軍は戦力が弱体化したアクラインの首都・マリニアを標的に定めたうえで、海中から攻撃を仕掛ける作戦を練っていた。
今回の作戦の指揮は、元大陸連合軍の海中戦闘部隊指揮官を務めたセイルが執ることとなっている。
「セイル大佐。今回は容易な作戦ですな」
「あぁ、何しろ今はメタルクエスターの連中はここにいないからな。ひとまず艦隊も配備しよう」
「バーベットのみでは心もとないですからね……」
今回は戦艦〈エルクレス〉を配備し、攻撃を仕掛けて壊滅状態にした上で、最終的にはこの地をテラノスの植民地にしようとしていた。
一方、リュウタ達は談話室で以前アクラインの基地が戦闘の被害に遭った際の事を聞いて何かできないかと考えを巡らせていた。そこでラゼックは、あることを思い出す。
「そういえば、あの辺りの基地にオムスさんがいたな。何か恩返しがしたい……。どうにかできないかな?」
「いや、俺に言われてもよ……。オムスさんって?」
リュウタは突然の発言に困惑するも、彼の言う『オムス』という人物について気になっていた。
「俺の命の恩人なんだ。あの人は俺がこの世界に飛ばされたばかりの時に、助けてくれたんだ。作業員として雇ってくれたり、あとその人の奥さんにもご飯をご馳走になったりしたんだ。な、クラーク」
「あぁ。俺のバッテリーパックを真っ先にくれたのもこの人なんだ。ラゼックからしたら第二の父親見たいな存在でよ」
クラークスピアーと出会った直後に一人と一機で宛ても無く彷徨っていた時にオムス夫妻と出会った。
それ以来、ラゼックはオムスの事を慕うようになったのだ。
「そうなのか。そこまで手厚くサポートしてくれたんだな」
リュウタは、オムス夫妻がどんな人物なのか会ってみたくなった。
「俺はまだ、あの人たちに何も恩返しが出来てないんだ。出来れば何かしたい。少しでも力になりたいんだ」
「ラゼック、お前もそういう所があるんだな」
優しく微笑んで見せるリュウタ。
「じゃあ、ゲイリー中佐にその事を言った方が良いんじゃないかしら? もしかしたら協力してくれるかもよ?」
「だが、許諾を得られるかどうかは分からないぞ。いくらお前が恩返しをしたいと言っても、ゴーサインが出るとは考え難い」
「なら、俺が直談判しに行く! それでも駄目だったら諦める」
ラゼックはそのまま三人に背を向けて談話室を離れようとする。
「おい、待てよ」
「リュウタ、止めないでくれ」
リュウタが止めようとするも、彼は談話室から出て行ってしまった。
そして、ラゼックはゲイリーの元へと向かった。
「ゲイリー中佐!」
「どうした、ラゼック」
ゲイリーから見てラゼックの面持ちは、見るからにかなり必死そうであった。
「あの、突然なんですがアクラインへの支援のために、復旧作業の手伝いとかは出来ませんか?」
「お、おう……。随分と唐突だな。やることも出来るが、すぐには無理だ……。上層部にもこの話を通さねばならない。なるべく早めに行ければいいがな」
「やってくれるんですか! ありがとうございます」
嬉しそうな表情をするラゼック。
彼の顔はとても安心しているように見えた。
「ただ、提案をしてから実際に行動可能になるまでには時間がかかる。少し待っていてほしい。これだけは肝に銘じておいてくれ」
「はい」
そして、ゲイリーはこの話を軍の上層部にもすることにした。
それから一週間ほど経ち、ようやくアクラインへの支援が叶う事になる。
リュウタ達は他の兵士数十名達と共に一隻の輸送艦でアクラインの首都・マリニアの基地へと向かうことになった。
「ついにこの時が来たか。オムスさん達、元気にしてるといいけどな……」
輸送艦内のフリースペースで思いを馳せるラゼック。
「余程楽しみにしていたんだな」
バルティックは穏やかな表情で彼の後ろ姿を見つめる。
「しかし、マリニアまでは遠いな。もう少し寝てよう」
「そうね。そうしましょ、リュウタ」
リュウタとマナは一旦毛布を持って行って、仮眠を取ることにした。
一方、浮遊大陸軍は既にエルクレス三隻、バーベット五隻で構成された編隊が出撃を開始しようとしており、アクラインへと近づきつつあった。だが、当然ながらリュウタ達はこの事を知らない。
「さてと、今度こそアクラインの連中を叩きのめしてやろう」
「そうですね。そうとなれば、植民地化も容易いでしょう」
セイル達は上空から見える海を見渡しつつ、大胆不敵にも笑みを浮かべる。
その後、リュウタ達はアクラインの西部にある首都・マリニアの軍港に到着。
マリニアの兵士達から歓迎される中、リュウタ達は艦を降りる。
「オムスさんはどこにいるのか、見当はついてるのか?」
「あぁ、ここの機体のメンテナンスをしてるはずだけどな」
すると、ラゼックはオムスらしき人物に会う。
「あの、オムスさんですか?」
「おっ、ラゼックじゃないか! 久しぶりだな。元気にしてたか」
「はい、この通りです」
ラゼックは嬉しそうに頷いた。
「俺達に何か出来る事は……」
「そうだな……、周辺にある瓦礫の撤去をしてもらいたい。これがなかなか進んでなくてな。頼む」
「はい、是非!」
ラゼックは快諾し、リュウタ達も彼の意見に賛成のようであった。
こうして、イカロスナイト達を実体化させ、さらに軍も作業用MHも何機か動員させて瓦礫の撤去作業を行うことになる。
「うわぁ、随分と重てぇな。これは両手で……、っと」
イカロスナイトは大きな瓦礫をゆっくりと持ち上げてそのまま処理工場の車両の中に乗せる。
「イカロスナイト、大丈夫か?」
「これぐらい朝飯前よ」
簡単そうに瓦礫を持ち上げているが、彼からすれば実際は大変な作業である。
「おい、イカロスナイト」
「どうした? ミノスソルジャー」
ミノスソルジャーが話を聞くように合図をする。
「自分の武器を最低出力にして、瓦礫を細かく砕けばより効率的だぞ」
「そりゃあいい! やろう」
そして、ミノスソルジャーはトマホークを、イカロスナイトはギガ・ファイアキャリバーを使って瓦礫を細かく砕いた。
だが、最低出力でも少しでも手加減を間違えれば大変なことになる。
とはいえ、大きい瓦礫を何度も持ち上げるのは手間がかかるため、そうせざるを得なかった。
「おい! 俺は砕く武器が無いぞ!」
「これ貸してやるよ、ほら」
ケルブバスターは銃火器しかないため、ミノスソルジャーからグランドアックスを借りて瓦礫を砕く事にした。
「おーい、ラゼック。作業は順調だな」
”そうですね、オムスさん。この調子で行けば作業は一日もかからないかもしれませんね”
しかし、平穏な時は突如として終わりを告げる。
浮遊大陸軍の編隊がアクライン大陸へと接近しているという情報が入ったのだ。
「大変だ! 浮遊大陸の連中がこっちに向かってる! 早く戦闘態勢を取らなくては!」
”了解! 皆も聞いてたな?”
リュウタはラゼック達三人に話しかける。
”もちろんだ。本当は戦いたくなかったが、やるしかないか”
ラゼックは嫌そうな顔をしてはいたが、操縦桿を握る。
”俺達も出番だな、マナ”
”そうね。ここでいい所見せましょ!”
マナは意外にも既に戦いへの覚悟を決めていた。
”行こう、ミノスソルジャー。戦うとしよう”
”よし、行くか!”
バルティックはケルブバスターからグランドアックスを返してもらい、早速戦いの準備を進める。
こうして、戦いは幕を開けた。
浮遊大陸軍のエルクレス艦は砲撃を開始し、マリニアの艦隊と交戦することとなる。
「主砲、撃てェーッ!」
凄まじい音と共に光線が飛び交い、両軍の艦隊は砲撃戦を繰り広げた。
一方、リュウタは敵軍の空戦部隊を相手にギガ・ファイアキャリバーとシールドのみで応戦するが、苦戦せざるを得なかった。
「クソォ、やっぱこれだけの敵を相手にしちゃあ……」
「弱音を吐くな、リュウタ!」
必死にリュウタを鼓舞しようと試みるイカロスナイト。
彼は、頭部のバルカン砲から光弾を発射する。
この攻撃は、見事なまでに命中した。
「何て奴だ……」
敵機は左腕の回路がショートした。そのままリュウタは、操縦桿のスイッチを押した。
「喰らえェッ!」
さらにそこから、ギガ・ファイアキャリバーで敵機を真っ二つにした。
これにより、機体は爆発四散した。
その後突如として通信が入る。
”リュウタ! こっちはすっごく大変よ! 早く来て”
「そうなのか。すぐ行くぜ、マナ」
リュウタは沿岸沿いへと向かう。
一方、マナとバルティックは陸上戦しか出来ない事に付け込まれて、敵空戦部隊に苦戦を強いられていた。
「落ちろ! メタルクエスターなんて仰々しいあだ名しやがって!」
敵の兵士はケルブバスター目掛けて、ビームライフルから光線を放つ。
「流石にこの数じゃ勝てないわ」
浮遊大陸軍側はかなり優勢であった。これにはマナもただ操縦桿を動かし続けるしかなかった。
だが、そこへと一機の赤いMHが火の鳥のように素早く駆ける。
「させてたまるかよ! お前ら如きに!」
リュウタの斬撃を背後から喰らった敵機は、地上に墜落して爆発した。
”リュウタ、案外早く来たわね”
「本当ならもっと早く来れるけどな」
「おい、イカロスナイト。無理すんなよ」
また、彼らのみならず、大陸連合軍戦闘部隊も負けじと応戦していた。
「お前達、我々を忘れちゃいないか?」
”忘れてる訳ないじゃないですか! 援護ありがとうございます”
「これくらいは当たり前さ」
連合軍の兵士の内の一人は、ビームバズーカを構えて空中の敵へと光線を撃った。
この攻撃により、敵機はそのまま墜落した。
それを見てバルティックは何も出来ない自分の無力さに嘆くどころか、その悔しさを力に換えて、ひたすら地上部隊を狩っていた。
「このォ! 例え火力では劣ってても、純粋な格闘能力ならこっちが上だ!」
「バルティック、俺を本気モードにさせてくれよ!」
ミノスソルジャーは大地を駆けながらグランドアックスを敵に振りかざして斬っていく。
さらにそこから、一対のトマホークに持ち替えて隙を突いて斬る。
「よし、これでひとまず地上部隊は撤退しそうだな……。問題はラゼックのいる水中だが」
ラゼックの身を案ずるバルティック。彼はコックピットスペースに映る海沿いの方を見る。
「俺は海の中は泳げねぇからな」
「こればかりは仕方ない、ミノスソルジャー。確か他にも水中戦力がいたはずだ。生きて帰って来てくれるのを祈ろう」
バルティックはどうにも不安気で、心の霧は晴れずにいた。
一方、ラゼックは大陸連合軍の水陸両用MH〈ダイヴァルク〉で構成された水中戦部隊と共に敵部隊と交戦していた。
また、敵部隊はブラスティム水中型で構成されている。
「よし、このまま一気に攻めるぞ! 魚雷発射!」
敵部隊は一斉に魚雷を発射し、連合軍側は後退せざるを得なかった。
だが、ラゼックだけは違う。
彼は魚雷の爆風の隙間を縫って、一気に接近していく。
「クラーク、コイツヤバいぜ! 早いところ片付けないと」
「俺の新しい力を試すか?」
クラークスピアーは強化された自身の力を腕試ししたくなった。
「勿論! やってやるぜ」
「よし、スプラッシュプランジ・ツバイ!」
その時であった────
スプラッシュプランジ・ツバイが繰り出されたのは。
クラークスピアーが何体かに分身し、素早く敵機の懐をアクアトライデントで勢いよく突く。
これにより敵部隊はほぼ壊滅状態となり、敵部隊は撤収した。
こうして、戦いは終わりを告げる。
翌日、瓦礫の撤去作業の続きを行い、無事全ての瓦礫を廃棄所へと輸送することが出来た。
オムス達はとても満足した表情をしている。
「いやぁ、君達助かったよ。お陰でここの基地の完全復旧も予定より遥かに早まりそうだ。ありがとう」
「いえ、僕もオムスさんに恩返しが出来て良かったです」
ラゼックとオムスは握手を交わした。
「ラゼック、嬉しそうだな」
「そうね」
リュウタとマナは談笑する。
「何しろ、命の恩人に恩返しが出来たからな」
バルティックも、ラゼックの事を自分の事のように嬉しく思った。
こうして、この日のうちにリュウタ達はメガリア本部の基地へと戻るのだった。




