無自覚無双山賊絶対殺すマン対目立ちたく無い最強支援さん対何も知らない無限コンティニュー勇者対ダークラモン
「イーグル!お前直ぐにこのパーティ抜けろ!つーか、荷物持って町から出てけ!」
俺はイーグル。勇者アーダン率いるB級パーティで縁の下の力持ち的ないぶし銀をしていたが、今日そのアーダンから出会い頭に追放だと言われた。
「突然どうしたアーダン?落ち着いて理由を説明してくれねえか?」
「昨日新人を俺達のパーティに入れる事になっただろ!」
「ああ、冒険者学園首席卒業のヒロ君だよな」
「そいつがもうすぐここに来ちまうんだよ!だから、お前はパーティに居たら困るんだ!」
成歩堂、分からん。ヒロと言う少年が今日パーティに正式に加わる事は前から聞かされていた。だが、それで俺が外されると言う話にはなっていなかった。そもそも、ヒロ君は前衛も出来る万能賢者で、俺は偵察とバフが専門の斥候だ。役割がまるで違うから仮にパーティから誰かを入れ替えるとしても俺以外になるだろう。
と言うか、町から出てけってのは明らかに越権行為だぞアーダン。
「アーダン、あのさぁ、百歩譲ってクビまでは良いとして、何で町まで去らなきゃならねぇのさ?」
「ヒロがこの町に来る時に使った馬車が山賊に襲われた!で、ヒロが山賊を皆殺しにした!」
「元気が良くて結構じゃねえか。あっ、もしかして俺が山賊雇ってヒロ君を殺そうとしたとか思ってる?やらねーよ、そんなん」
「そういう話じゃない!いや、部分的にはそうかも知れない!お前も山賊と同じ様に殺される可能性が高い!」
「え?何?つまり、ヒロ君は顔すら知らない俺の事を山賊の仲間と思い込んでこの酒場に向かっているのか?」
「近い!けどちょっと違う!あの子は常識が…」
アーダンが何かを言おうとした時、酒場のドアが開き、黒髪の小柄な少年が入っで来た。ヒロ君だ。直接会うのは初めてだが、ドラフト会議でアーダンが指名権を得た時に貰った似顔絵とソックリだった。
「おーい、ヒロ君。こっちこっち~。B級パーティ『アイーン』へようこそ!俺はアーダンの右腕のイーグルって」
「死ね」
突如ヒロ君は虫を見るような目をして、超高速で俺に接近すると、すれ違いざまに首を狙ってきた!
ガキン!
「おっと!」
あまりにも速い斬撃。俺じゃなきゃ見逃してたね。俺は咄嗟に首元にナイフを構えガードしたが、自慢のアゴヒゲが半分ぐらい持っていかれちまった。
「オイオイオイ、実力をアピールするにしても、時と場所があんだろ?」
ガキン!ガキン!ガキン!
俺の忠告を無視してヒロ君は連撃を放つ。しかも、一撃ごとに速さと重さが増していき、ナイフで受けるのも限界が近い。
「ちょっと、いい加減にしろよガキ。俺がお前に何かしたかよ?」
「お前は山賊だ。理由はそれで十分だろ?山賊は人間じゃ無いんだ。男は殺し女を襲い自分の欲望のままに生きる。オークやゴブリンと同じだって爺ちゃんから教わった」
「いやいやいや、俺は確かに山賊っぽいかもだけど!坊主頭で、右目に眼帯していて、腕にヘビの入れ墨があって、腹巻きにナイフ入れてて、風呂にたまにしか入っで無いけど山賊じゃねえよ!斥候だよ!せ・っ・こ・う」
「窃盗?やっぱり山賊じゃないか」
やべぇ、こいつ常識が通じねえ。取り敢えず、訳分からん理由で死にたくねーし、今の俺や酒場の連中じゃ止めれそうもねーし、逃げないと。
ガキン!ガキン!ザクッ!
「クハー!」
遂に捌ききれなくなった。肩に一撃を貰い、俺は顔を歪める。
「やれやれ、山賊にしてはまあまあの動きだったね。でも、ここまでだ」
俺の出血と表情を見て勝ちを確信したヒロ君は大振りの攻撃を仕掛けてきた。チャーンス!
「アーダンバリアー!」
「ぎゃー」
俺はヒロ君の大振りの隙を突いてアーダンを盾として凌ぐ。当然アーダンは死んだ。
「山賊め…なんて事を!絶対に許さない!」
若干うろたえた後、ヒロ君はこちらをキッと睨みつけるが、そこには既に俺は居ない。裏口からトットコ逃げ出したからだ。
「ハアッ、ハアッ、ハアッ、何だよあのガキは!あんな強いのも、あんな頭おかしいのも見た事ねえぞ!どういう事だアーダン!あのガキは何者なんだ!」
裏口から逃げ出した俺は、すぐ後ろを走るアーダンに問い掛ける。
「俺自身、ヒロとは数日前に出会って、そこから一緒の馬車でこの酒場まで同行しただけの関係だが、その数日間で色々とあった。道中で山賊に襲われて、それをあの子が皆殺しにしたのは話したよな?」
「その続きがあるのか?グビグビ」
俺は薬草茶を尻ポケットから取り出し飲みながら話を聞く。
「その翌日、今度は古龍に出くわした」
「ンゴーッ!」
俺は鼻から飲んだばかりの薬草茶を噴き出した。
「嘘つけー!人里に古龍は出ねー!出たなら馬車ごと全滅して、お前もヒロ君もここにいねー!」
「それが本当なんだ。古龍が俺達の乗った馬車を襲い、ヒロがそれをワンパンで倒した」
「マシか」
俺は顔を青ざめさせる。あのガキ、俺が思ってるより強いじゃねえか。逃げまくって、地の利を活かして後ろから刺せばワンチャン勝てるぐらいに重ぅていたが、古龍をワンパンするフィジカルを常時発動してる奴には後ろから刺しても無理そうだ。
「それでな、古龍を倒した事に俺や馬車に乗り合わせてた奴らが驚いていたら、あいつはタダのトカゲを倒したぐらいで大げさだなーってほざきやがったんだ」
「マジか」
俺は顔を更に青くした。常識知らずの山育ちだとは聞いていたが、古龍をトカゲとして見なす節穴と古龍ワンパンのフィジカルの合せ技は最悪だ。
「おいアーダン。お前がドラフトで勝ち取った新人、控え目に言って歩く災害じゃねえか」
「俺も彼を獲得した事を今は後悔している。だが、俺からもお前に聞きたい事がある」
「こんな時に何だよ?」
「山賊を秒で殺し古龍をワンパンするヒロの攻撃を、何でB級パーティの斥候でしかないお前が防げたんだ?」
「…フスー、フスー」
俺は横を向いて、口笛を吹いて誤魔化そうとしたが、アーダンの追求は止まらなかった。
「イーグル、もしかしてお前、今まで実力隠していたのか?」
「ギク」
「殺しに向かってくるヒロを相手出来るなら、その時点でS級パーティの前衛出来るだろ」
「ギクギク」
「つまり、楽をしたいから俺達より弱いフリして、ずっと心の中で俺達を馬鹿にしていたんだろ?」
「うるせー!死ね!」
俺はアーダンの頭を掴み、飛んできた斬撃の盾にした。
「ぎゃー」
アーダンは死んだ。
「山賊め…何て事を!」
飛ぶ斬撃を放った本人であるヒロ君が、怒りに震え俺を睨みつける。だが、ハッキリ言って、完全に責任転嫁だ。アーダンが死んだのは、このクソガキが俺を山賊と誤認した事と、町中で後先考えずに飛ぶ斬撃なんてモノを放った事が原因だ。つまり、120%こいつが悪い。俺は何も悪くない。
「おい、イーグル追いつかれちまったぞ。こうなったら、何とかして誤解を解くんだ。おーい、ヒロ君!こいつは俺の仲間なんだよ!」
アーダンが何とかヒロ君を説得しようとするが、次の瞬間にはアーダンの首が飛んだ。
「ぎゃー」
アーダンは死んだ。
「そうか…、アーダンさんも山賊の仲間だったんだ。おかしいと思ったよ。僕みたいな弱い新人にドラフト指名なんて入る訳無かったんだ」
「いや、仮にアーダンが山賊だったとしても、それをあっさりと殺したお前は十分強いから」
「五月蠅い。山賊の癖に僕に説教めいた事をするな。お前らは生きているのが間違いなんだから、その存在全てが信じるに値しない」
はー、やれやれ。ほんっとうに話が通じねえ。しゃあない。アーダンの仇討ちという訳じゃないが、このガキから逃げ続けて無駄な犠牲が増えたら、夜中にスヤスヤ眠れない。
「お、おいイーグル!まさかやる気か?勝てる訳ねーだろ!」
俺が構えを取ったのを見てアーダンが慌てる。ま、そりゃそうだ。アーダンが知っている俺の実力じゃ、古龍以上の化け物相手に勝ち目は無いからな。
だが、今からアーダンとヒロ君が見る事になるのは俺の真の力。元の力を取り戻した俺に敵は無い。
「はあーっ、バフ回収!」
「ぎゃー」
アーダンは死んだ。自分に掛かっていたバフが急に無くなり不整脈を起こしたのだろう。
「山賊!アーダンさんに何をしたんだ!」
「俺は何もしてないぜ?ただ、本人に内緒で貸していたステータスを利子付きで返して貰っただけさ」
「内緒で貸すな!利子をとるな!もうお前これ以上喋るな!死ねっハー!」
完全に怒りマックスになったヒロ君が手からビームを放ってきた。だが、今の俺なら問題無いはずだ。
「こっちもハー!」
俺の放ったビームとヒロ君のビームが中間地点でぶつかり合いバチバチと音を立てる。
「ヘッヘッヘ、果たしてどちらのハーが強いかな?ヒロ君、参考までに教えておくと、俺の魔力量は53万だ。お前はいくつだ?入団前に測っただろう?」
「壊れたから知らない」
「ゑっ?」
あの魔力測定器って壊れるものなの?だとしたら、フルパワーの俺より強いじゃねーかこいつ!
「ハー!!!」
「ぎゃー」
ハーの押し合いに負けた俺は咄嗟に身代わりの術を発動してビームを回避する。アーダンは死んだ。
「うおーっ、何やっても勝てねえ!なら、逃げるしかねーっ!」
俺は小便漏らしながら全力で逃げた。若い頃は自分より強い奴と全力で戦いたいとか、何なら未来に転生して進化した人類と戦ってみたいとか思っていた俺だったが、実際に自分より一回り強い奴と出会って分かった。俺、負けたくねえし、死にたくねえ!
「とにかく急げ急げ!だが、足の速さも多分ヒロ君のが上。いずれ、俺を山賊と間違えてぶっ殺…いや、まて?おかしいだろ」
俺はふと疑問に思った。ヒロ君が本当に山賊と斥候の区別が付かずに無差別に虐殺する最強最悪の存在なら、学園生活のどこかで牢屋行きになるはずだ。冒険者学園には斥候の講座があったはずだし、斥候を目指す生徒も居ただろう。そいつらが無事で、俺が殺されそうになる理由、何だ?
「あら、イーグルじゃない?こんな所さんで何してるのよ」
俺が考え事をしていると、ピチピチの皮スーツに見を包んだドスケベファッションの女が声を掛けてきた。彼女はラモーヌ。他のパーティで斥候を担当している、俺の同業者だ。
「ラモーヌか。丁度良かった、ちょっとその辺で立っていてくれないか?」
「これでいい?フォー!」
両手を広げて無駄にセクシーに立ち止まるラモーヌ。直後数発の飛ぶ斬撃が彼女を避ける様に迂回しながら俺に飛んできた。
「ぎゃー」
俺が弾いた斬撃に当たりアーダンは死んだ。
「やっぱりそうしゃねえか!ヒロ君、お前山賊と斥候の区別出来てるだろ!」
物陰に声を掛けると、殺意バキバキの表情をこちらに向ける彼が現れた。
「そりゃ僕だって冒険者学園を卒業してるからね。山賊と、山賊に似た事を役目にしている冒険者の区別は付くよ。そっちのお胸の大きいお姉さんは冒険者」
「そうよ」
「で、こっちの眼帯ハケは山賊」
「ちゃうわー!おい、ラモーヌ!このガキに俺の事説明してくれ!命が掛かってるんだ!」
「彼は山賊のアジトに出入りしたり、貴族の馬車を囲んだりの仕事をしてる、見ての通りの人物よ」
「合ってるけどちゃうわー!」
「やはり山賊…殺さないと」
ラモーヌの説明を聞いたヒロ君の両手に魔力が集まる。またハーが来る!
「来るなら来い!こっちには肉壁が二枚あるぞ!」
「半径500mハー!」
「ぎやー」「ぎゃー」「ぎゃー」
アーダンとラモーヌと俺は死んだ。肉壁とか関係なく周囲一帯がジュッとなった。てか、ヒロ君どんだけ山賊嫌いなんだよ。
「ああ…どうしてこうなったんだろなあ…」
全身が焼かれる中、俺は走馬灯の様に人生を思い返していた。実際走馬灯だけどな!
■ ■ ■
「パーティ名どーする?」
「アーダンとイーグルを足してアイーンでいーだろ」
十年前、俺達は自分達だけで冒険者パーティを設立した。
当時はまだドラフト制度が無かったし、あったとしても多分スカウトは来なかっただろう。契約金も無い、安定した収入も仕事も無い、だけど学生時代の友人と一緒に仕事が出来たのが一番の宝だった。
「お前、髪綺麗だからさ絶対に坊主にするなよ。後、冒険者は客商売なんだから入れ墨とかも禁止な」
「この眼帯だけは!このオシャレ眼帯だけは装着させてくりー!着けてても前が見える構造になってるからさ!」
アーダンは何かと俺に注文をつけてきたが、そのどれもが仕事人として正しい言葉だった。きっと、こいつが居なかったら俺は今以上にズボラな性格の駄目人間になっていただろう。
俺はアーダンの相棒として、彼の手の届かない部分を補う為に斥候としての腕を磨き続けた。しかし、いつまでも彼の横に居られる訳では無かった。
「イーグル、お前まだ恋人とかいねーの?」
「お前こそ、パーティの女とかに手出してねーの?」
「今は仕事が恋人よ」
「そっか、今は…か」
男ってもんはいずれ女と一緒になる。それが自然だ。アーダンもいつかは嫁を作り、新しい居場所を作るだろう。そして、そこには俺の入る余地は無い。
そんなの我慢出来なかった。俺はずっとアーダンの隣に居たかった。俺が男だからアーダンの隣に立てないのなら、俺は男で無くなっても構わなくなっていった。
「ハー!」
「フォー!」
伝説の女体化薬の噂を聞いた俺は、その情報を持っラモンと共に難関ダンジョンへ挑んだ。
ラモンの調べた通り、最深部に女体化出来る薬はあった。だが、計算違いがあった。
この薬は一人分しか無かったのだ。
「寄越せー!」
「セイッ!?お前は女体化には興味無かったんじゃないの?」
俺とラモンは、たった一つの女体化薬を巡り激しい闘いを繰り広げた。そして、何とかラモンを気絶に追いやった俺は、薬を手に取り一気に飲み干した。
「グビグビ」
「我を手にした者よ、そなたは我が何かを知って飲んでおるのか?」
「うわあ!」
薬を飲んだ途端、俺の腹の中から声が聞こえた。
「答えよ。そなたは我の事を知り、この後の変化を覚悟した上で飲んだのか?」
「知っとるわ。女体化の薬なんだろ?」
「それは正確ではない。我は初期化の薬。そなたの肉体を分解し、新たな生命へと再構築する薬なり」
どうやら、この薬は俺達が想像していた以上にヤベー存在だった様だ。喋るし。
「んーと、つまり望めば何にでもなれるって解釈でオケ?」
「オケだ。そなたが望めば女だろうと子供だろうと怪物だろうと一国の王にでもなれる」
「おおー、そりゃスゲー。いや、待て。いくら姿を変えても王様はムリでしょ!見た目変えても、他人との関係性あってこその王様ですぜ薬さん?」
「その関係性も初期化して再構成してやると言っておるのだ」
な、何だってー!そんなん何でもありやんけー!俺は女体化したら、アーダンとの関係を一からやり直そうと思っていたが、この薬の力を使えばその必要も無いって事か!?
「そなたが望むなら、勇者アーダンの恋人だろうと妻だろうと母親や娘だろうと、なる事が可能だ」
「この薬、俺の心を読んでっ!?」
「我は最早そなたの一部だからな。さあ望め。そなたのこの世界での立ち位置を」
「俺は…アーダンと今まで通りの関係だけど俺が最初から女だったという設定でイチャコラしたいでっす!」
「かしこまり」
■ ■ ■
「イングリッド、これから新人が来るけと、そいつマジで規格外だったわ」
ドラフトで獲得したヒロ君を迎えに行ったアーダンが汗ダラダラで私に語りかけた。
「どーしたのよ?魔力量の計測器ぶっ壊した件?」
「それは、以前お前もやったから驚かん。俺がヤバいと思ったのは、迎えに行った時に馬車が山賊に襲われてな、それをヒロが皆殺しにしたんだ。相手が降参して命乞いするのも無視してな」
「それぐらい別に問題無いでしょ。山賊なんだし」
「そして、その後に今度は馬車が古龍に襲われて、ヒロがそれをワンパンで撃破。彼曰く、あんなのトカゲですよって」
成歩堂。私は、アーダンが焦る理由を理解した。
「他人を見る物差しが狂っていて、山賊絶対殺すマンな子だから、何時暴走するか分かったモンじゃないわね」
「ああ。まあ、お前はいつも清潔にしてるから間違えられはしないだろうが。山賊と大差ない斥候とか見たら人前で暴れだすかも知れん。その前に俺とお前と他のメンバーでしっかり教育するぞ」
「はーい」
新人への期待と不安が混じる中、酒場の入り口が開き噂の主であるヒロ君がやって来た。
「おーい、ヒロ君だよね?こっちこっち」
「はい!今日からお世話になるヒロです!よろしくお願いします!」
「私はイングリッド。S級パーティ『アイーン』の斥候をしてるわ」
ドラフト会議での情報通り、優しそうな少年だった。この子が山賊相手だと絶対殺すマンと化すとアーダンは言っていたけど、少なくとも私に対してはその心配は無いみたい。
「斥候って、味方に先んじて偵察に行き地形や布陣を確認するお仕事ですよね!イングリッドさんって美人な上に難しい仕事も出来て素敵な人ですね!」
「あら、ありがと。でも、私はずっと前からこの人の恋人なんだから、そこは弁えてね」
「分かりました!それで、アーダンさんの方はパーティでどんな仕事をしているんですか?」
「俺はリーダーとして、十人程居るアイーンのメンバーに指示を出してスケジュールの管理もしている。後は、勇者の特性を使った保険だな」
「勇者の、特性?アーダンさんはどんなタイプの勇者なんですか?」
ヒロ君が首を傾げ質問する。まあ、勇者という職業自体は冒険者学校で習っただろうが、勇者というのは非常に複雑な職業なのだ。十年以上相棒をやってる私でさえ、その全容を把握はしていない。
「俺が天から授かったのは無限コンティニューの力でな、死んでも数秒から数分で復活できる」
「へー、凄いですね!」
「しかも、どうあがいても死ぬ状況になった場合、過去に戻って死の原因を回避できる!…らしい」
「らしい?」
「アーダンの勇者の力はね、歴史そのものを上書きしてるから、発動したら発動しなかった事になるのよ。だから、私達もアーダン本人もアーダンが生き返った瞬間に死んだ事を忘れているのよ」
アーダン曰く、勇者の力に目覚めた時に神の如き存在と対話し、能力の説明を受けたそうだ。この世界には私達より一段上の存在が居て、そいつらに選ばれた人の為に世界は修整を繰り返しているとの事。
「それが本当だとしたら、選ばれなかった大多数にとっては恐ろしい話ですよね」
ヒロ君がアーダンの方を見ながら、ゴクリとツバを飲み込む。
「そうよ、アーダンは凄いんだから!ふふーん」
「何でお前が自慢気なんだ。まあ、顔合わせも無事に済んだし、他のメンバーが来るまでにバーガーでも頼んでおくか。おーい」
アーダンが注文を頼むと、酒場の奥からピチピチの皮スーツを着た、いやらしい格好の男がお盆片手にやって来た。
「セイセイセーイ!ご注文を伺いますよぉー!」
「ラモン、あんた何してんのよ」
「酒場の手伝い中フォー!」
注文を取りに来たのは、D級パーティ『ラモスルイ』の斥候ラモンだった。この業界はランクによって報酬に天と地の差があり、低ランク冒険者がこうやってギルド運営の酒場でバイトしている事も珍しくは無い。
「アンタねえ、接客するならもう少し清潔感ある格好しなさいよ」
「申し訳ありまセーイ!」
「反省してるなら、ゆっくり腰を振るな」
「コレは腰の動きが速すぎて、ゆっくりに見えるんですよー!」
「まったく、ほら、ウチの新人も怒ってるで…しょ?」
ヒロ君はラモンを見て、震えながら血涙を流していた。うわ、怒ってるってレベルじゃないわこれは!
「ひ、ヒロ君?」
「山賊殺すべし、慈悲は無い」
何て事!ラモンの奴がヨゴレ過ぎたせいで山賊に間違われて、ヒロ君が山賊絶対殺すマンになってしまったわ!
「死ねー!」
ヒロ君はここが酒場だというのも忘れて斬撃を飛ばす。
「バッチコーイ!」
ラモンは斬撃を尻で受け止めて、右から左へ受け流す。
「ぎゃー」
受け流した先に居たのはラモンが接客していたアーダン。死んだ。
「まずいわね。このままじゃ、私達の責任問題になるわ」
「そうだな。イングリッド、怪我人や死人が出る前に俺達で二人を止めるぞ!」
【無自覚無双山賊絶対殺すマン】
対
【目立ちたくない最強支援さん】
対
【何も知らない無限コンティニュー勇者】
対
【ダークラモン】
続く訳無い!
読者の皆様が一番突っ込みたい部分について解説。
この世界では冒険者のドラフト制度が存在し、指名を受けた冒険者学園卒業生は莫大な契約金を貰えます。