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#18. イルァ・ティオ・ハンデリッヒ

「イルァ……」

「はい!どうかなさいましたか姫様?」

 寝起きの姫様が部屋のドアを開け私の名前を呼ぶ。

 だが、見ている相手は私では無く……。


「誰ですの?(わたくし)何も聞いてませんわよ?」

「昨日入った新人です『ミスト♡』今日は私と一緒に姫様の護衛に着きます『ロール♡』御用の際は彼にもお申し付けください『スチームッ♡』」

 いつもの様に魔法で姫様の髪をセットする。


『えっ?あっ、はい!おはようございます。昨日付で入りましたえっ?あっ、はい!です宜しくお願いします』

「別に貴方の名前なんて覚える気ありませんわ」


『えっ?あっ、はい!ではお呼びの際はセバスとお申し付け下さい!』

 男は姫様の発言に気にする事も無く返事をする。


「セバスって誰ですの?」

『合言葉です!!』


「いやですわ!覚えられませんもの」

『でも、今『セバス』って……』


「貴方なんて『パンパン!』で十分ですわ!」

 名前の代わりに手を叩く姫様。


『それって、なんか……カッコイイですねっ!!』

「えっ……?いえやはr───」


『すっっっごく気に入りました!!ありがとうございます!!』

「……ふんっ!ですわ」


 感謝の言葉を無視し先を歩き出した姫様の後を遅れて男と私が着いて行く。

『今はどこに向かってるんですか?』

「さぁな?姫様の気の向くままに着いて行くだけだ」

 基本的には姫様の行動は全て自由である。


『姫様?どちらに向かっつえぇ───っ!』

 私が答えられないと分かると男は直接姫様に尋ね近付いて行く。


「───うっ!?」

 男の兜の頭を後ろから引っ張り姫様との距離を取らせる。


『何ですか!?』

「姫様とは常にこの距離を保て」

 その距離凡そ1m。遠過ぎる訳でも近過ぎる訳でも無い曖昧な距離。


『……すみません。気を付けます』

 怒られたと思ったのか男は少ししょんぼりと返事をする。


『それで、姫様はこれからどちらに?』

「……貴方に教える必要ありませんわよね?」


『もしかしてぷらぷらと御散歩ですか?天気良いですもんね?』

「違いますわっ!!書庫で御勉強ですの!」


『素晴らしいですねっ!?王族として奢ること無く勉学に励んでるんですね!?尊敬します!!』

「……やっぱり辞めますわ!気分じゃ無くなりましたわ」


『そうですね。気分が乗らない日に勉強しても身には入りませんもんねっ?それよりも今やりたい事をやった方が有意義ですよ!』

「やっぱり…………んんんんんっ!」

 天気の良い日にあえて勉強。

 勉強を褒められたら他の事を。

 そして、今やりたい事をするべきだと言われたら逃げ道を失い何も言えなくなってしまう。


『どうかしましたか?』

「何でもありませんわ!!」

 今までの人間は姫様の我儘に振り回されて内心は困る者ばかりだった。

 だが、この男は全てを肯定し嫌な顔が伺えない。

 と言っても甲冑で表情は何も見えやしないのだが。

 だからこそ───。


 ここ最近姫様の命が狙われる様になって新しく入った新人。

 魔法以外の成績が優秀で期待されている。

 時期が時期だけにこの男はとても怪しく感じてしまう。

 正直コレはただの私の感にしかすぎない。


 今朝も私の魔力感知にすら引っかからない程の魔力量しか持ち合わせて居ない

 それならばいっそ手の届く範囲に置いて居た方が私も対処しやすい。

 先の稽古でこいつの実力の程は把握できた。

 下手な動きを見せた瞬間、奴より先にこちらが動ける。


「今日は何もしませんわ!!」

『良いですね!たまには日がな一日贅沢に使いましょう!』


「むむむっ!!イルァ!!」

「……では、今日一日彼の特訓に付き合っては頂けませんか?」

 姫様のはこの男の嫌がる事をしたいのだろう。私はそれを察して助け舟を出す。


「私が?参加しますの?」

「いえ、私がこの男を鍛えますので見ていて下さい」


「そうね!それが───」

『良いんですか!?姫様の護衛の時間を使って副騎士団長自らがご指導していただけるなんて光栄です!!』

 だが、男はそれすらも喜んで見せる。


「いいえ!やっぱり辞めますわ!!私の大事な時間ですもの貴方なんかの為に使いたくなんてありませんわ!」

「ですが、姫様は人が苦しむ姿が大好物でしたね?」


「えっ……?」

 それでも引かない私の言葉に姫様が呆気に取られる。

『ボクの苦しむ姿ですか?言われれば好きなだけお見せしますよ?』

「いいえ、姫様は心の底から苦しんでる表情で無ければ意味をなしません」


『出来ルカナァ~期待ニ答エラレルカナァ~自信ナイケド、トッテモ、トッテモ、嬉シィデスッ!』

 男はそれでも喜んで見せるが兜の隙間から微かに嫌な顔しているのが伺える。


「新人兵士が訓練で倒れて行く姿を見るのがこれ以上と無い姫様の大好物なんですよね?」

『うわぁぁ!!嬉しいなぁ!!身体動かすの大好きなんですよ!!ボク!身体!動かすの!大っっっ好き!なんですよ!!』


 男は姫様に向かい喜びを必死に伝え、姫様もまた私にチラチラと助けを求めて来る。

 大丈夫です!!この私を信じて下さい!!

 そんな私も姫様に念を送る。

 互いに訓練を懇願している様に見えるが真意は違う。


「で、では、訓練を見させて頂きますわ……」

 この男の喜ぶ事よりも私の意見を採用してくれた。


『ワ、ワァ~、ヤッタナァー、ウレシイナ!騎士団ニ入ッテ夢ガァ叶イマシタァ。モウ今スグニ騎士団ヲ辞メテモ良イト思エル位嬉シイデス!姫様大好キデスゥ~モウ騎士団辞メチャオウカナァ?本当ニ本当ニ辞メチャオウカナァー!!』

 男は嬉しさのあまりペラペラと饒舌に感謝の気持ちを述べる。

 とても喜んでいる男を見て姫様が自分の選択があっていたのか私の顔を見て確認してくる。


「お任せ下さい姫様!」

ここまで読んで頂いてありがとうございます。


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