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#13. た・ち・し・ご・と

 トイレから戻って来たオレは大急ぎで重たい甲冑を着たまま先輩兵士のミハイリさんの元へ。

 これから2人でこの会場のドアの前に立ち貴族とその護衛、騎士団を見分けて中へ通すのが仕事だ。

 会場には全部で8箇所の入口があり、それぞれ2人体制で当たる事に。


「はぁ、はぁ、はぁ……お待たせしました!えっ?あっ、はい!です宜しくお願いします!」

「名前ならさっきも聞いた。お前は便所で記憶も一緒に粘液に食べられたのか?」


「酷い、ミハイリ先輩。ボクそんな馬鹿じゃ無いですよ!!」

「悪い悪……って、俺さっき名乗ったっけ?」


「ちょっ!先輩こそ何忘れてるんですか?名乗ってなきゃボクが知ってる訳無いじゃないですかっ!先輩別に大して有名じゃ無いですよ?」

「うっせぇ!俺だってその内出世して有名になるわ!!」


「そんな先輩の昔の相方って事でボクも有名になっちゃったりして?」

「お前それ嫌味か?」


「えっ?」

 褒めたつもりだったのだが、言い方が悪かったのか何か勘違いをさせてしまった。


「それよりだ。そろそろ異世界人歓迎会が始まる。こっからは便所に行けなくなるからな?」

「大丈夫です!!あと3日は何も出ません!!」


「何の便秘宣言だ!……貴族様方に失礼な態度するなよ?」

「えっ?あっ、はい!了解です」


「本当大丈夫か?」

 と言ったものの、扉の前で立っている事2時間以上の時間が流れた。

 一行に誰も現れない……。


「……いつ始まるんですか?」

「もう始まってる頃だぞ」


「えぇぇっ!?何で!!」

「新人を皆が通る所に立たせる訳無いだろ?」


「ご最もです!!で、でも、ものすっごい静かですよ!?」

 扉に耳を当て中の音を確かめる。

「扉が閉まってる限り魔法で中の音は一切聞こえ無い様になってんだよ」


「くっ……また魔法かっ!」

 オレはあまりのショックに膝から崩れ落ちてしまう。

「そ、そんな泣くなよ……」

 この涙はごてごてとした甲冑の所為で膝が痛かっただけで。


「見張りって全然やり甲斐の無い仕事なんですね」

「そんな事言うなよ……」


「でもっ!2人なら話してればあっという間ですよね?」

「基本的に仕事中は無駄話禁止だ!」


「先輩は何でこの国が異世界に飛ばされたかご存知ですか?」

「人の話を聞けよ!……まぁ、噂位なら聞いてる、かな?」

 何だかんだ言いつつこの人も暇な様だ。


「魔王が復活した所為って聞いてる」

「『魔王』の?」


「あぁ……。国が異世界に飛ばされるなんてとんでもない魔力量が必要になる。そんな事できるのは魔王位なもんだ」

「その魔王の所為で飛ばされたって事は、魔王さんは元の世界とこっちの世界どっちに居るんですかね?」


「そりゃあ、元の世界だろ?こっちに魔王が来てたらこんな平和な訳無いだろ」

「なるほど……『平和』やっぱり魔王が居ない世界に来たんですからこのまま異世界人と上手く行くと良いですよね?」


「……どうだろうな。お前、今幾つだ?」

「えっ?あっ、はい!18になります」


「そっか、ムラ村出身だったな。お前も知ってるだろ?3年前、こっちに飛ばされる直近までウィーテネとギグルスが戦争してたばっかだって事。魔王が居なくても国通しは戦争するんだよ」

「ウィーテネとギグルスが!?」


「何だお前知らねぇのか?」

「ボクの家族は皆戦争孤児なんですよ……戦争に巻き込まれてたのは知ってましたがどこの国がとかは聞いてなかったので」


「理由なんて俺らにも分かんねぇがギグルスはとにかく戦争大好きな国だからなぁ。今後この国の姫様の婚約者によっては戦争も有り得る話だぜ」

「姫様に実権は無いんですか?」


「女が実権なんて持てる訳無いだろ?」

 この国では男女差別が激しいのかもしれない。

「じゃあ姫様の婚約者次第……か」

 そして、ここで1つ疑問が浮かぶ。


「確か、ギグルスの王子がこの国に居ますよね?」

「居るなぁ」


「普通に貴族として謳歌してますよね?」

「してるなぁ」


「……何で、ですか?」

「そりゃあ、仮に元の世界に帰れた時にフフフッ王子を丁重に持て成さ無かったとかなったらまた戦争になるからなぁ」


「おぉう……」

「姫様も毎度毎度フフフッ王子に付き合わされてんだぜ?」


「お優しいんですね?」

「どうだか?姫様も満更でも無いかもなぁ?我儘姫様もチヤホヤされて喜んでるかもなぁ?」


「でも戦争仕掛けて来た国ですよね?内心では怖い思いしてるかもしれませんよ?」

「それなら大丈夫だろ?姫様の護衛はこの国の副騎士団長だし姫様には誰も近付かないからなぁ」


「副騎士団長って近付けない程怖い人なんですか?」

「『近付けない』んじゃなくて近付かないんだよ」


「副騎士団長が怖いからとかじゃ無いんですか?」

「誰が怖いって?」

 すると丁度こちらに向かって前から2人の女性が歩いて来る。


「はっ!!おはようございます!ハンデリ様!」

 この人が例の……副騎士団長さんとお姫様か。


「おはようございます!!」

 先輩に続けてオレも挨拶をする。


「……貴様が例の新人か?」

 副騎士団長はオレを足先から頭の先までをじっくり観察して来た。


「こちらの綺麗な方々はどちら様ですか?先輩」

 それとな~く2人にも聞こえる様に小さな声で隣に尋ねる。

「この方達はワママ・マリー・ディーーカッ第八王女と、副騎士団長のイルァ・ティオ・ハンデリッヒ様だ」


「えっ?あっ、はい!『例の』かは分かりませんが今日からお世話になります。えっ?あっ、はい!です!!」

 姿勢を正し名前を名乗る。


「有名ですの?この方……」

「はい姫様。この者は魔法は使えませんが、武術、剣術、体力共に好成績を納めた期待の新人です。既にいくつかの団から声が掛けられているはずです」

 そんなに成績が良かったなんて正直知らなかった。教えてもらってないぞっ!


「ムラ村から来ました!!えっ?あっ、はい!ですよろしくお願いします姫様」

「「「……」」」

 改めて姫様の方へ挨拶するとその場の空気が変わる。


「何言ってんだお前!!」

「ど、どうしました?オレ何かやっちゃいました?」

 何が不味かったのか分からず先輩に頭を思いっきり叩かれるも、兜のおかげであまり痛くはなかった。


「姫様、この者の言葉は海外の言葉でして上手く翻訳されない事もあります」

 副騎士団長が言うには翻訳がおかしかったそうだ。


「どこがおかしかったんですか?」

「お前はムラ村から来たんだろ?なんだムラムラって」

 小声で先輩に教えてもらう。


「……?ムラ、村ですよね?」

「いやっ!だからムラ村だって!」


「あってますよね?ムラムラなんて言ってませんよ?ムラ村ですよね?」

「だから違ぇ~って!ムラムラじゃ無くてムラ村だって!」


「……どうやらボクの翻訳指輪が壊れてるみたいです」

「壊れてるとしたら伝える方じゃ無くて伝わる方だ。3人が同じ壊れ方する訳無いだろ?お前はこれから出身地を名乗るな」


「えっ!?そんなぁ~村の為に頑張って働いてるんですよ?」

 これじゃあキャラの1つが死んでしまう。


「イルァ、『ムラムラ』って何ですの?」

「ボクの育った村の名前です!!」

「……との事です」

 姫の副騎士団長への質問を代わりに答えてしまう。


「お前は黙ってろ!!気軽に俺達が声を掛けて良い御人じゃ無いんだよ!!」

「えっ?あっ、はい!すみません!!」

 ミハイリ先輩に口を押さえられるも、兜によってオレの口は未だに自由である為オレの兜を取られ直接口を塞がれる。


「……ぷっ!!貴方立ったまま寝てますの?」

ほうほう(そうそう)たっははま(立ったまま)へへはして(寝てまして)……ってほうゆうへ(ってこうゆう目)はんへすよ(なんですよ)!!」


「ぷぷっ……そ、そう。行きますわよイルァ」

「は、はい、姫様」

 多分翻訳指輪によって言葉は通じたのだろう。

 オレの興味も無くなったのか姫は副騎士団長を連れこちらに歩いてくる。

 ミハイリは通れる様にドアからかなりの距離を離れ、オレにも同じ様に離れる様に言われる。


 でも、副騎士団長は姫のかなり後ろを歩いており、とても護衛とは思えない。

 外からの数段の階段をカツ……コツ……と優雅に上る。


 だが、階段を登っていた姫の頭が急に後ろに倒れて行く。

「───きゃっ!?」

 副騎士団長と姫の距離よりも近かったオレは姫の手を取り身体を起き上がらせる。


 も、いつの間にか至近距離に来て居た副騎士団長とぶつかりそうになる。

 姫の身体を更に引き寄せオレと場所を入れ替え代わりに前に出る。


 代わりにバランスを崩したオレと副騎士団長が衝突する。

 オレの顔は副騎士団長の胸に思いっきりぶつかる状態に。


 所謂ラッキースケベ。なんて事は無く、副騎士団長の胸当てとオレの頭が衝突する展開に。


「あ゛ぁぁぁあ!!!頭が!頭が偏差値30っ!!」

「危ないですわっ!今何か踏みましたわ」

「大丈夫ですか姫様!?コレですね!?全くお前らは!何だこの丸い物は!ちゃんと掃除しておけ!!」

「もおぉっっっっっっし訳ございません!本当にウチの新人邪魔いたしまして申し訳ございませんっ!!」


 副騎士団長の足腰がしっかりしていたおかげで互いに転ける様な事は起こらなかった。

 が、副騎士団長に簡単に放り投げられ地面に倒れているのオレだけだった。


「28……27……26……ま……ま……まださがっていく……!!!」

 重い甲冑に早く慣れなければ。

ここまで読んで頂いてありがとうございます。


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