雪
雪が振っている。
君がいなくなった日も、こんな寒い雪の日だった。
その日は特に寒く、後で見るとその年で1番の寒波が訪れていたらしい。この人混みでも体中が寒くなるほどの寒さだ。
そんな中白い息を吐きながらイルミネーションに照らされる君は、僕の手を取って綺麗に笑う。冷たかった僕の手と顔があっという間に暖かくなったのを覚えている。
「ほら、いこ?」
君は長い綺麗な銀髪を揺らしながら、僕の手を引いて二人で歩く。何も考えずに君に見惚れながら。
少し歩くと、先程までの人混みは何処へやら。人っ子一人居ない道路に出てしまった。
「みんなクリスマス楽しんでたねぇ」
夜の暗がりで表情が見えない。先程まではイルミネーションや店の明かりが煌々と照らして居てくれたのだが、今ある光はまばらに立つ電灯と月の明かり程度のものだ。
人も明かりも無いこの場所で、まるで異世界にでも来たような錯覚に陥る。君の様子もなんだか少し変だ。どこかこう、寂しそうである。
「あ、勿論私も楽しいよ。貴方と一緒だからね」
かじかんでいる手でも感じれるほど、ぎゅっと僕の手を握るその手は震えている。何かあったのだろうか。
「ん、大丈夫だよ。ねえほら、ぎゅーってしよ」
君は慌てて手を離す。そして、何事もなかったように手を前に大きく広げた。大丈夫だよ。いつも通りだよ。という、いつもは絶対にしない表情で。
僕は君を抱きしめる。君が何も言わないのなら、聞かない方がいいのかもしれない。髪についている雪を払ってあげて、離さないようにしっかりと抱きしめる。
「えへへ、雨振ってきちゃった」
雨なんてどこにも…そう言おうとしたが、僕の腕の中で君は震えていた。僕は何も言わずに君をより一層強く抱きしめた。
それから暫くそうしていて、そしたら君は急にパッと離れる。
「さ、今日はもう遅いし帰ろっか!君も1日中連れ回されて疲れたでしょ」
君と一緒にいて疲れるなんてそんなことはない。僕の方こそ君をちゃんとエスコートできずに疲れさせてしまったかもしれないというのに。
「全然。楽しかったよ。またね」
君はそう言ってくるりと背中を向けた。踏切を超えて君は歩き出す。その背中は呼び止めないでと言っている気がした。なぜその肩は震えているのだろう。カンカンと踏切がなる。通る電車がそこを去る頃には、君の姿は消えていた。
それから彼女には会っていない。冬の幻だったのだろうか。彼女に会ったのは夏が終わってからだったし、もしかしたら暑いのが苦手な雪女とかだったりしたのかもしれない。
今となってはわからないけど、君は確かに僕の隣にいた。君から貰った大切な思い出をこうして毎年思い出さないと、いつか君の存在が消えてしまうような、そんな気がする。
君がくれたマフラーをそっと巻き直し、僕はまた歩き出す。冬の風と綺麗な雪が僕の体を撫でていく。