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First GIG END

 オーガ・スタンピードの発生から、一月が経過した。


 国内でも稀にみる惨事に、終わった後も冒険者ギルドは大わらわ。


 参加した冒険者達は勿論、その場に居たオレも国からの調査団に質問攻めにされ、調書だのなんだの、数日間はギルド本部に缶詰め。解放されたのは一週間後だった。


 その後は、噂を聞いた吟遊詩人やギルド関係者がオレの工房に殺到し、その対応に四苦八苦。


 ここに来て、ようやく平凡な日常を取り戻しつつあった。


 そんなある日、久しぶりにレオラさんが工房にやって来た。


「いらっしゃい、久しぶりだね」


「ご無沙汰しています」「キィー」


 レオラさんともんがーが、同時に頭を下げる。もんがーの人間じみた動きも、気にならなくなってきたな。


 レオラさんは、あの時ギルマスが身につけていた、金の刺しゅうが入った黒いローブを纏っている。


 あの後、二度と現場には出ないと宣言したギルマスが、もう使わないからと言う理由で、今回のMVPであるレオラさんに譲渡した。


 これが伝説級の代物らしく、一部ではギルマスがレオラさんを後継者に指名した……なんて噂も立っているらしい。


 ゲストルームに案内し、二人にお茶とお菓子を用意する。


「あの後、大変だったらしいね」


「は、はい……」


 何せ新人が100体近いオーガを瞬殺した訳だ。


 千年に一度の逸材! 大型新人現る! 等々、レオラさんの偉業は大々的に報じられた。


 そのお陰か、レオラさんの元には取材は勿論、スカウトの話が山の様に届いたそうだ。


 しかし、レオラさんはその誘いを全て断った。今は自分のランクに見合った依頼を、ソロで一つ一つこなしているらしい。


「Bランクパーティからの誘いも断ったんだって?」


「はい、光栄だとは思いますが、私にはとても……」


 イリアやリタのパーティと合同で依頼に参加する事はあるようなので、ソロじゃなきゃ嫌だと言う訳でもなさそうだ。


 何か、レオラさんなりの考えがあるのだろう。


「ヒデオさんこそ……国からの共同開発の話を断ったって聞きました……」


「あぁ、アレね……」


 予想以上の威力を発揮した新型アンプ。


 その噂を聞きつけ、国軍の兵器開発者から量産化への共同開発を打診された。


 一応、話をしたのだが、オレが作りたい『楽器』と、彼らの作りたい『兵器』との溝が埋まらず、丁重にお断りする事となった。


 本来なら、国に盾突く等、自殺行為以外の何物でもない。


 しかしギルマスが間に入り、幾つかの条件をのむ事で、今まで通り個人製作家としての活動が許された。


 恫喝する役人を一喝したギルマス、カッコ良かったなぁ。


「まぁ、どちらにしろ量産化の話は無くなって行くと思うよ」


「そうなんですか?」


「アレから国内は勿論、国外からも大勢の吟遊詩人が訪ねてきたけどね、アコギは兎も角、エレキでスキルを発動出来た人は殆ど居なかったんだ」


 これはオレも意外だった。威力は別にして、イリア、リタ、レオラさんの3人はどちらも使えたし、オレもそう言うモンだと思っていたんだけど。


「その上、テイマーのスキルまで使える人となると……量産が必要な程ではないと思う」


 正直に言えば、武器として使えなくとも楽器として流通して欲しいと思う。だが、この世界の仕組みを考えれば容易な話ではない。


 因みに、オレの目標である『ギフトが無くてもスキルが使える楽器』の話はしていない。


 そんな話をしようモノなら、頭がオカシイと思われるか、一生研究室に缶詰めにされるかの2択だろうから。


「とりあえず、またマイペースで仕事が出来そうだよ」


「そうなんですね……」


 レオラさんはそう呟き、うつむいてしまう。何やらモジモジしているが、オレ何かおかしな事でも言ったっけ?


「ヒデオさんは……また冒険者ギルドの依頼を受けたり……しないんですか?」


「生産職だからね、商業ギルドにしか登録してないし」


 本来、冒険者ギルドの依頼は、冒険者ギルドに登録しなければ受けられない。


 オーガの件も、書類上のオレは『巻き込まれた一般人』扱いだったりする。


 依頼参加者の好意で幾らかの賃金は貰えたが、正式に依頼に参加した記録は残って無い。


「まあ、何時か夢が叶って吟遊詩人のスキルを使えるようになったら、冒険者ギルドにも登録するつもりだよ。その時は、お爺ちゃんになってるかもしれないけど」


「そうですか……」


 レオラさんの肩が、ガクリと落ちる。


 ……ひょっとして、オレと依頼に行きたかったのか?


 ん~……それは問題だ。


 幾ら引っ込み思案で人見知りとは言え、戦えないオレを充てにする程とは。


 ひょっとしてスカウトを受けないのも、この性格のせいだろうか? レオラさんのこの先を考えると、少々心配だ。


 これはオレがギルドに付き添って、仲間集めを手伝ってあげた方が良いのだろうか……。


 しかし、メンバー集めも本人の意思で行われるべきで、オレが口を出すのもお節介になるだろう。


「キィイイイ!」


 レオラさんの肩で、もんがーが鳴いている。彼も心配なんだろうな。


「キィキィイイイ!」


 わかる、わかるぞ。ご主人様には才能が有る。立派な吟遊詩人になって欲しいもんな。


 若い才能と言うのは羨ましくもあるが、やはり応援したくなるもんだ。


「ヒデオ! 居るんでしょ!」


 もう一つの才能が、相変わらずの慌ただしさで訪ねてきた。いや、もう二つか。


「やっぱり居た!」


「オジサ~ン、あっレオラちゃんも居た」


 イリアとリタが勢い良く扉を開け、部屋に飛び込んできた。


「イリアさん、リタさん、こんにちは」


「アラ、レオラさんも居たのね。丁度良かった」


「何が丁度良いんだよ、新しいギターはまだ出来てないぞ」


「そんな事はどうでも良いの! いえ、どうでも良くはないんだけど……良いから早く準備して!」


「準備? 何の?」


「リタ達、今から北のリッケン山脈に行くんだ」


「そりゃまた遠いな。しかも今は雪も積もってるだろうし……」


「だから早く準備しなさいって言ってるのよ」


 嫌な予感がする……。


「まさかと思うけど……」


「当然、ヒデオも行くのよ」


「……な、何で?」


「リタ達ね、従魔にする魔物を探しに行くの。それで、オジサンにも来て欲しいんだ」


「いやいやいや、オレが行く理由が全くなさそうなんだけど」


「じゃあ聞くけど、ヒデオはどんな従魔でも確実に新型アンプが使えるようになるって、絶対だって言い切れるの?」


「いや、それはやってみないと……」


「だから、ヒデオも一緒に行って調査に参加しなさいって言ってるの。いちいち戻ってきてから確認して、やっぱりダメでしたなんて事になったら、キリが無いでしょ?」


「雪山じゃ楽器のメンテナンスも大変そうだからさ、オジサンが居ると安心だし」


 オレはローディーかよ……。


「せっかくだしレオラちゃんも一緒に行こうよ。寒い場所での歌や演奏も経験しておくと良いよ、普段と全然違うから」


「そうね、どう? レオラさん」


「は、はい、お邪魔でなければ」


 若いアーティスト達の交流。結構な事だが、中年のオレを巻き込むのは如何なものだろう。


「ヒデオさんも……行かれますか?」


「うぅ……」


 寒いのは嫌いだ、正直辞退したい。しかもリッケン山脈と言えば、高レベルの冒険者でさえ命の保証は無いと言うデンジャラスゾーン。


 しかし、オレ自身の夢を叶える為にデータが欲しいと言うのも間違いではない。


 三人が向ける、期待だったり威圧だったりを感じる。


「分かったよ……準備してくる……」


 三人を部屋に残し、オレは自室へと向かった。


 背後から聞こえる楽し気な笑い声。


 巻き込まれるのは勘弁して欲しいけど、オレの作ったギターが彼女達を繋ぎ、新しい絆や音が生まれるのなら、ビルダー冥利に尽きると言う物だ。


 今のオレは音を作るだけで、音で表現する事が出来ていない。


 何時の日かオレも、彼女達と同じステージで音を紡ぐ事が出来るのだろうか。


 この世界の常識では不可能なのだろう。しかし、不思議と楽観的な自分が居た。


 絶対に出来ると思っている訳じゃない、ただ絶対に後悔はしないだろうという予感があるだけだ。


「ヒデオ! 防寒具だけは絶対に忘れちゃダメよ! 絶対に!」


 背後の扉から顔を出したイリアが、何度も念を押す。


「分かってるよ」


 全天候型のギターやアンプも必要かな?


 オレは自室の扉を開けながら、彼女達との旅を少しだけ楽しみにしている自分に気が付いた。


 尤も、その旅が新たな騒動の火種になるのだが、それはまた別のお話……。

 長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。


 好きな事を簡潔に書くって難しいなと改めて痛感致しました。


 正直、ギターの魅力は1%も表現できていないと思います。


 音楽やバンドをモチーフにされている作品は、本当に凄いんだなぁと実感。


 何時の日か、音の魅力を文字で伝えられたら……そんな事を考えながら、今日もキーボードを叩く日々。


 ここまで読んで頂いた皆様に、重ねて御礼申し上げます。


 ありがとうございました。

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