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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
日常と年越しと再び訪れた者
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日常と年越しと再び訪れた者 その7

 朝日が昇る。

 今年、初めて未明から早朝に変わる時間。

 昨日までの曇り模様はどこかへ行き、まるで仕組まれたかのような晴天がミア達を出迎えている。

 そして、今年、初めての日が昇る。

 ミア達一行も、ローラン一行も。皆が同じ方向を向き、黄金に輝くその光を目にしている。

 その神々しい光の前に誰もが目を奪われる。

 太陽の戦士団の一行はもちろんのこと、そうでない者も。暗黒神をあがめるデミアス教徒であるスティフィでさえも。


 ローラン一行は初日の出を拝んで祈りを捧げた後、さっさと天幕を回収し下山の準備を始めている。

 彼らは一睡もしてないが、これから学院に戻り、太陽の戦士団主催の行事の祭りを行わなければならない。

 屈強な戦士である彼らに疲れの表情はまるで見えないが、それでも夜通し酒を飲んでいたため、まだ酔いがさめない者も多い。

 それでもなれたようにてきぱきと天幕を解体し、荷車に荷物を詰め込んで行っている。

「それでは我らは撤収します。改めて今年もよろしくお願いいたします」

 ローラン教授はそういって撤収作業が終わると足はやに頂上を後にした。

 彼らは今日、日が暮れるまで忙しいはずだ。

 ゆっくりしている暇はないのだろう。


 ミア達はゆっくりと朝食をとった後、天幕をだらだらとかたしはじめ、そして、下山した。

 ついでにミアの作っていた残り物鍋はエリックの手により、少し変わった味付けとなりはしたが美味しい鍋へと生まれ変わっていた。

 下山した際、その途中で大きなイノシシを仕留め、ミアはロロカカ神に新年初の捧げものをして大満足だ。

 学院に戻り、イノシシをばらしてそれを肴に下山した後も学院でも宴会を開こう、などとミアが提案し、朝まで酒を飲んでいたスティフィが少しげっそりした表情ながらもあきらめたように、それを同意して学院の裏門についたときだ。

 それと再び相まみえたのは。


 新年早々、ポラリス学院長は学院長室で額に皺を寄せていた。

 カリナですら少し困ったような表情を浮かべている。

 ポラリス学院長の前には、白装束の集団が集まっている。

 夏の時期に彼らとは少しもめたことがあったが、以前とは違い今の彼らに敵意も戸惑いもない。

 それだけに厄介であり、またその頼みごとの内容も断れるものでもない。

「また事後報告になって申し訳ないですが、それが我らの主のご意思ですので、受け入れてもらわないわけにはなりません」

 白装束の代表者は恭しく頭を下げ、ポラリス学院長に頼み込むようにそう言った。

「それはわかっている。断れないこともな。できれば事前に知らせてほしかった、というのはあるが……」

 ポラリス学院長はそう言って深いため息を隠しもせずに吐きだした。

 だが、相手の様子をみればそれができなかったことが一目瞭然でもある。

 白装束の集団、グラディスオス神の信徒達もボロボロの状態で訪問している。

 以前に忠告しておいたので、こちらへの報告を怠るつもりはなかったのだろう。

 それでも急でもあり、新年早々となってしまったのは彼らのせいではない。

 ある意味、人間には対処できなかったことなのだ。その点はポラリス学院長も白装束の連中に同情さえする。

 その上で、それでも一言二言は小言を言いたくもなる。

 ポラリス学院長はそれを必死で自分の中に押しとどめる。

「そのつもりでしたが、そのディアナ様が…… 我々にはやはり止めることはできませんので」

 神憑きだった少女は神を祓われ、ただの少女となった、はずだった。

 その少女が再来したというだけでは、ポラリス学院長も困りはしない。

「神憑きの巫女が、天使憑きになって再来とはな……」

 少女、ディアナの精神は神を宿し限界まで疲弊していたはずだ。

 再び神を降ろすことはできない。

 だからと言って、神ではなく御使いを降ろして再来するとはポラリス学院長も、カリナですら想像していなかった。

「いえ、正確にはその御使いは主より特別に自由意思を与えられておりますので、その…… 悪魔憑き、ということになります」

 魔術の神の信徒と言うことで、その辺の線引きにはうるさいようだ。

 ただポラリス学院長の知識では、グラディスオス神の御使いは自由の意志のない天使のはずと記憶している。

 御使いに自由意志を与えてまでも、その使命を与えたかったようだ。

 これはかなり特別なことだ。

 もしくはミアの崇めているロロカカ神と本当に少しでも距離を置きたい、という配慮があったのかも知れない。

 そして、そこまでしてミアを守らなければならないと言う意味でもある。

「グラディスオス神の御使いは…… なるほど、それで特別か」

 またため息をつきたくなるのを、ポラリス学院長は耐えて、周りからわからないように息を細く吐き出すだけにとどめた。

「やはりわれらのことはご存知だったのですね?」

「その法衣を見れば、少し知識のあるものならな」

 白い法衣に薄く描かれている紋様を見ながら、ポラリス学院長はそう答えた。

「まあ、こちらも隠してはいませんが」

 ポラリス学院長はそんなことはどうでもいいとばかりに、それ以上何の反応も示さずに話を進めていく。

「来年、いや、もう今年か。春からの入学ということでいいんですね?」

「はい。また、ディアナ様の世話はできる限り我々が行います。何かと、その…… 大変なのでお任せすることはできません。それに伴い本部より多少ではありますが、寄付金を持参させて頂いております」

 どの程度の金額かわからないが、寄付金は助かる。

 何かと出費がかさんでいる。

 大きな主な出費は始祖虫の後始末と対処、それとオーケンと言う生きる災害に対する諸経費のせいだ。

「それは…… まあ、助かりますが。先ほども言いましたが断ることはできませんので、こちらとしてもできる限りの対応はさせていただきます。それで専用の居住区をご希望でしたな」

 そう言って空き地の位置を、ポラリス学院長は頭の中で探し出す。

 幸いこの学院は無駄に広い。空き地はまだ多く存在する。

 ただ相性というものがある。

 デミアス教の教会がある区域や無月の神の塔がある付近は避けるべきだ。

 グラディスオス神が光の勢力の一柱であるためだ。

 いらぬ因縁を作ることもない。

 それに加え、ミアの住んでいる第二女子寮の近くが良いだろうが、それこそが中々微妙な位置でもある。

 そもそもが第二女子寮は魔女科専用寮などと言われている寮だ。

 闇の勢力の地域に建てられているのだから。

「居住区とまではいいません。ある程度の土地さえお貸ししていただければ、後はこちらでどうにか致しますので」

 以前ここに来た時とは、あからさまに態度が違い下手に出てきている。

 とはいえ、依然来た時は白装束の連中もディアナに憑いていた神がどっかに行ってしまい、あっけに取られていただけかもしれないが。

「元神憑きで今は御使いをその身に宿す方に野宿などさせられません。用意ができるまでの間は、こちらで用意した来賓室をお使いください」

「ありがとうございます」

「はぁ」

 と、ポラリス学院長が隠しもせずに深いため息をしたとき、ちょうどその瞬間を狙ったかのように、

「やぁ、ちょっとお邪魔するよ」

 という声と共に急に学院長室の扉が開いた。

 本来なら招かざる者をそう易々と通す扉ではないのだが、そんなものお構いなし、とばかりに。

 その者は場違いの野人のように見えた。

 まだ真新しいイノシシの毛皮を身にまとい、みそぼらしい格好で、それでありながら堂々と部屋に入ってきた。

 室内にいた全員の視線がその者に集まる。

 まずカリナが動いた。

 即座に無言でその場に跪いて目線を伏せた。

 それを見たポラリス学院長も、すぐに理解し、執務机から急いで立ち上がりカリナのすぐ横に揃い跪いた。

 白装束の者たちも最初は戸惑いはしたが、カリナとポラリス学院長の行動、なによりその者が放つ気を感じ取り、ことを完全に理解したわけではないがその場に跪いた。

 そうしなければならない相手だと言うことだけは、彼らにも理解はできた。

「面を上げなさい」

 部屋に入ってきた神、ジュダ神に言われて皆、顔を上げる。

「我が名はジュダ。まだ未完成ながらも社を作ってくれたことに、まずは感謝を述べよう」

 その言葉に、ポラリス学院長は心から、その判断をした過去の自分を褒めたかった。

 少なくとも破壊神の怒りを買うことだけは避けられたのだから。

「いえ、色々とあり遅れていて申し開きもありません」

 ただ色々なごたごたが重なったため、その社は未だに完成していないし、今は雪の影響でここしばらくその進捗も止まったままだ。

 だが、目の前の神はそもそもこんな些細なことを気にしている様子はない。

「代弁者よ」

「はっ」

 代弁者と言われ、カリナが返事をする。

 あのカリナが少し緊張しているとさえポラリス学院長には思える。

「かの王が虫を求め、この辺りまで散歩してきている。気を付けなされよ」

「はっ」

 と、再度カリナが返事をする。

 かの王。恐らくは冬山の王と呼ばれる精霊王だ。

 その精霊王は珍しく人間を恨んでいるとても危険な精霊王だ。それがこの辺りまで来ているとなると大事だ。

 カリナが気づけていないのは、恐らく冬山の王が気配を消しているからだろう。

 自らの気配を消し、かの王は憎き虫を探して彷徨って、この辺りまで来ていたのかもしれない。

「まあ、私が少し言い聞かせておいたから、しばらくは平気であろうが。それと…… 詳しくは伝えられないがまた災厄が目覚める。竜との連絡を密に」

 また、と言う言葉。

 それと竜との連絡。

 それから予想できることは一つだ。

 やはり始祖虫はまだこの地に巣くっている、とのお告げだ。

「はい」

 ポラリス学院長が決意を込めて返事をする。

 神が、破壊神がわざわざそれを教えてくれると言うことは、恐らく次に目覚める災厄はこの間のものより、大きな被害をもたらす物なのかもしれない。

 朽木様や朽木の王にも助力を乞わなくてはならない。

 始祖虫だけでも十分に厄介なのに、冬山の王が虫を追い山から下りてくるような事態になれば、広範囲に尋常ならざる影響がでる。

 朽木の王には冬山の王をどうにか山を降りないように押しとどめてもらわねばならない。

「今よりこの学院は我が庇護下となった。何かあれば我が名を、いや、それよりも神々相手ならロロカカの名を出したほうが効果的かもしれんな。まあ、今は詳細は聞くな。なるようにしかならん」

 その神はそう言って朗らかに笑って見せた。

「はい」

 カリナとポラリス学院長が声を揃えて返事をした。

「では、我はまた旅に出る。社が完成したら、たまにで良い。なにか旨いものでも奉納しておいてくれ」

「はい、仰せのままに」

「うむ、では邪魔したな。ではな」

 そう言って野人のような恰好をした破壊神はその姿を消した。

 文字通り初めからその場に居なかったように掻き消えた。

 そして、しばらく誰も話さず無言の時間が流れる。

 カリナですら、いや、その神の本当の力を理解できるカリナだからこそ、呼吸を整えるのにしばらく時間を有したほどだ。


「い、今のお方は?」

 しばらく時間がたち、一息ついてから白装束の代表がそう聞いてくる。

「破壊神の一柱です」

 と、ポラリス学院長は目を閉じ、ゆっくりと慎重に答えた。

「は、破壊神…… ですか…… あの社の…… これ…… いや、ディアナ様の件は?」

 この学院はたった今、破壊神の庇護下となった。

 そうなるとまた話が変わってくるかもしれない。

 破壊神の庇護下となったということは、他の神の言葉ですら拒否できる物だ。

 本来不滅であるはずの神々すら滅ぼす役割すら担う破壊神と揉めようとする神もいない。それ故に最も恐れられる神々である。

「もちろん拒否などしませんよ。せっかくの神からの申し出ですからね。ありがたいことです」

 確かに悪魔憑きの巫女を抱え込む事で起きる問題は多い。

 だが、ディアナが神より授かった使命のことを考えると、ミアを預かっているこの学院からすれば、とても助かる申し出でもあるのだ。

 ポラリス学院長の返答を聞いて、白装束達が一息ついた時、閉められていたはずの扉を蹴破って、再び何者かが乱入してくる。

「お、おい! 何が着てやがった! なんだ、とんでもない神が来てやがっただろ?」

 その者を見たポラリス学院長とカリナは、とりあえず深く長いため息をついた。それをもう隠そうともしない。

 白装束の集団は白い布で顔を隠してその表情はわからないが、恐らくは怪訝そうにその乱入者を見ていたことだろう。

「ミア君が裏山で会ったという破壊神だよ」

 と、ポラリス学院長が、乱入者であるオーケンに答えてやる。

 出し渋る様な話ではないし、それでヘソを曲げられて、言いがかりをつけられても面倒なだけだ。

 ダーウィック教授が言うように接点を持たないことが一番いい、と言うことだけはポラリス学院長も既に理解できている。

「あれがか。前感じていた時よりもおっかねぇな。何しに来た?」

 以前オーケンが感じていた気配よりも大分強い力をその存在から感じ取っている。

 それは、人間のフリをしていたかったから、と、一応は神としてやって来たことによる違いなのだろうが、人から見たらその差は凄まじいものだ。

「この学院は破壊神の庇護下となった。ただそれだけのことだ」

「ほぅ? それはそれは。無敵じゃねぇかよ、よかったな」

 破壊神の庇護下にある魔法学院。

 それはオーケンの言う通りある意味、魔術学院としては無敵の存在だ。

 中央、王都にいる学会と呼ばれる厄介な学者気取りの連中にも強く出れるし、その相手の要求を突っぱねることも容易だ。

 相手が神々の名を出したとしても、破壊神の名を出せば向こうも何も言えなくなるのだから。

 目の上のたん瘤を気にする必要がなくなったということだ。

 ただポラリス学院長には、それ以上にロロカカ神の名の方が効果があると、破壊神自らが言っていた事の方が気になる。

 実際に、その名を聞いただけで退散してしまった神がいるため疑う余地もない。

 しかも、改めて自らの巫女にその御使いを宿してまで、ミアの元へ使わしているのだから。その名の力は本物であることは間違いがない。

 改めて、ロロカカ神と言う神が如何なる神なのか、ポラリス学院長も不思議に思うが、調べたところでわかる様な話でもない。そもそも情報がまるでない神なのだから。

 そんなものは神オタクと呼ばれているようなフーベルト教授にでも任せておけばいい話だ。

 実際彼のおかげでどんな神であるか、少しづつではあるがわかりつつある。

 どの側面から見ても祟り神的な神なのにフーベルト教授は尻ごみもせずよく調べてくれている。

「で、お前は何しに来たんだ?」

 カリナが呆れたようにそう聞くと、

「おっかねーのが去ったようだから、様子を見にな。しかし、新年早々から破壊神かよ。しかも、また別に厄介そうなのが来ているしで、ほんと退屈しない場所だな、ここは」

 オーケンは白装束の連中を楽しそうに見ながらそう言った。


「見つけた、見つけた、巫女様! 巫女様! 見つけた! 見つけた! 手助けする! 神様に言われた、助ける! だから、印もらえた! 使徒様降りてきた!」

 そう言って裏山に通じる裏門の前にいた、髪も肌も服も白く、瞳だけが赤い少女がミアに抱き着いてきた。

「え? 何この白い子」

 スティフィがそう言いつつも警戒をする。

 この少女からはただならない気配を感じ取っている。

 ブノアなどは、ルイーズを既にかなり遠くまで下がらせて、後方から様子見をしているほどだ。

 ただ荷物持ち君の様子に変化がないので、ミアの敵と言うことだけはなさそうだと、スティフィは判断できている。

「この方が、前言っていた神憑きの巫女様です。名前は確か、ディアナ様だったと思います」

 ディアナに抱き着かれながら、ミアが少し困惑しながらそう答えた。

「巫女様、違う。巫女様、あなた!」

 そう言って、ディアナはミアに無邪気な笑顔を向ける。

「え? なに? たしかもう神がかりじゃないって話よね?」

 そのはずなのに、このディアナと言う少女から発せられる燃えるような猛々しい魔力と雰囲気に、少し気圧されながらスティフィがミアに聞き返す。

 少なくともただの人間ではない。

 下手をするとダーウィック大神官やオーケンより、その存在感は大きいとさえスティフィには感じ取れている。

 目の前の少女が人間ではない、と言われても素直に信じられるほどにはだ。

「のはずですけど……」

 ミアも自信なさげにそう答えた。

 ミアもこの少女から、人間ならざる、人間などよりもはるかに優れた上位種族の力を感じている。

「神様去った! でも代わりに使徒様降りてきた! 私と共にある! それで巫女様助ける!」

「使徒様? 御使いのこと? 天使憑きってこと? え? ほんと? 待って。あなた、ミアを助けるってこと?」

 スティフィはそう言いつつも戸惑い、荷物持ち君の様子をもう一度確認する。

 御使いと言えば、神の先兵だ。

 中には戦闘能力だけなら神族に勝る様な連中も存在する。

 そんな存在を身に宿した少女が身近にいるのだ。

 危険なんてものじゃない。一歩間違えればこの学院自体が壊滅しかねないそんな存在だ。

 ただ荷物持ち君にはやはり特に変化がない。つまりは目の前の少女とそれに憑いている御使いは、少なくともミアの敵ではない、ということは確かでスティフィにはそれがわかればいい。

 スティフィは荷物持ち君に話しかけるように、

「もしかしてこの子か、それに憑いている御使いがミアの護衛者になるの?」

 と聞くと、荷物持ち君は首を横に振った。

 少なくともミアの護衛者と言うわけではないようだ。

 古老樹、精霊、竜と来ているので、次に御使いがミアの護衛者になってもおかしくはないと、スティフィは考えていたのだが違うようだ。

「護衛者ではないのね」

 だが、逆にじゃあ、なんなの? という疑問がスティフィの中に生じる。

 目の前の存在は人でありながら、その身に上位存在を宿す者だ。

 特に神の先兵たる御使いの力は非常に大きい、人の手に余るものだ。

 使徒魔術の力の大元が身近に存在しているのだ。

「護衛者違う。巫女様、手助けする。言われた、言われた、言われた」

 と白い少女ディアナはそう言っているが、どこか言葉がおかしく要領を得ない。

 会話できているようでできていない。

「じゃあ、新しいミアちゃん係ってことか?」

 と、エリックがそう言った。

「敵…… ではないんですよね? あの時とは違って? 少なくとも敵意はないと」

 一度会ったことのあるマーカスも警戒しつつ様子を見守る。

「凄い友好的ではありますね」

 よく状況をわかっていないジュリーはミアに抱き着いている少女を見てそう言った。

 今も白い少女はミアの胸に顔を擦り付けている。

「お付きの方は居ないのですか?」

 ミアがそう聞くと、

「挨拶、挨拶、あいさつ、大事」

 とだけディアナから答えが返って来た。

 しばらくミア達が裏門で困惑していると、白い法衣が一人、慌てる様に走ってやってきた。


「つまり、このディアナ様とやらは天使憑きではなく悪魔憑きとなって、ミアを手助けするために魔術の神に神託を受けてやって来たってこと?」

 スティフィが胡散臭そうに白装束の人間を見ながら、その白装束の人間、恐らくは女が、言った言葉をまとめた。

 白装束の女は顔も白い布で覆っているのでその表情も分からない。

 ただやはり敵意は無いように思えるし、ミアにとても敬意を払っているようにもスティフィには思える。

「手助け! 手助け! する! 言われた、言われた、わたし、守る! 巫女様守る!」

「はい、そうなります」

 白装束の者は、よほど走り回っていたのだろう、この寒い中、未だに汗が引かないようで、汗を拭いながらそう答えた。

 ついでに全身白い布で覆っているので、汗で布が張り付き動き辛そうまである。

「なら、立場的には、マーカスと一緒?」

 スティフィの頭にまず初めに浮かんだのはそれだった。

「全然違いますよ。その方は神に認められた印持ちです。彼女の右頬を見てください。神の刻印が入ってます。師匠やダーウィック教授を同じ聖人や魔人と呼ばれるような方ですよ。その上で御使いをその身に宿しているんですよ?」

 マーカスは恐れおおい、とばかりにそう言った。

 この目の前の真っ白な少女は、下手をすれば、いや、間違いなくオーケンよりも強い、と言うことだ。

 オーケンが強いと言ってもそれは人間の中であり、多少人間の範疇から飛び出しているかもしれないがそれだけだ。

 この目の前の白い少女、ディアナ自体は普通の少女なのかもしれない。だが、その身に宿る御使いはそうではない。

 正真正銘の上位種であり、とてつもない力を持つ神の御使いを宿してしるのだ。

「死後、御使いになれるっていう印ですよね?」

 ミアが物欲しそうに、ディアナの右頬に刻まれている印を見ながらそう言った。

 ディアナに刻まれている印は、ディアナと同じ白色なのでそれほど目立って見えないが、淡くではあるが光を放っているようで、その印をなんとか視認することができる。

「それだけではないらしいですけど、まあ、その神の持ち物、人でありながらの神の使徒と考えて間違いはないですよ」

 と、マーカスが付け加える。

「悪魔憑きか、私、初めて見た」

 スティフィは物珍しそうにディアナを観察する。ディアナと言う少女はほとんど無警戒で隙は多い。

 その喉元に刃を突き立てるのは容易そうだと思る。ただそうしたところでこの少女の命を到底奪えない、と言う不思議な確信だけは持てている。

「私もです。ということは、御使いを呼び出せるってことですか?」

 と、ミアが何の気なしにそう言うと、ディアナはパッと顔を明るくさせた。

「呼べる、呼べる! 呼ぶか? 巫女様お望みか?」

 そう言ってディアナが行動を起こそうとするのを、ミアは慌てて止める。

「ま、待ってください、用もないのに御使いを呼ばないでください。ディアナ様に上位存在が憑いているのは、何となくわかりますので」

 神の気配ともまた違う、その燃えるような肌をチリチリと焦がすような強力な魔力の存在をミアも感じ取っている。

 それは人が発せられるような物の次元を優に超えている。

「やっぱりミアもわかるの?」

 と、少し感心したように頷いた。

 スティフィは厳しい訓練と経験の末に手に獲得した感覚だが、ミアはそれに似たものを、生まれながらに持っている。

 類稀なるほどの魔力知覚の才能だ。

 ミアが神々に好かれる要因の一つかもしれない。

「はい、なんとなくですけどね」

「まあ、ミアちゃん係の新しい仲間だろ? よろしくな、俺はエリックだ」

 そう言ってエリックが差し出した手をディアナは無視した。

 無視というよりは全く反応を示さない。

「あら?」

 と、エリックが少し頬けるが、白装束の女が慌てて補足する。

「申し訳ありません。ディアナ様の精神は人間としては限界に近いのです。何か他意があって反応がないわけではないので、お気になさらずに」

 白装束がそう言ってエリックに恭しく頭を下げた。

 エリックは何とも言えない表情をして差し出した手を引っ込めた。

「俺はマーカスです。印は頂いていませんが俺も一応、冥府の神よりミアを守れと使命を頂いた者ですよ」

 マーカスがそう声をかけると、ディアナはマーカスの方を向き、じっとマーカスを見つめる。

「たしかにたしかにたしかに、アナタから別の神様の力、感じる感じる感じる。なかま、アナタ、仲間? よろしくおねがい、よろしく、よろしく」

 ディアナはミアに抱き着きながら、嬉しそうにそう言った。

 マーカスは反応があったことに少し驚きながらも、確実に冥府の神と縁ができてしまっていることを再度実感した。

「えっと、私はスティフィ…… だけど、わかる? 巫女様の親友よ? 覚えておいて?」

 スティフィが覗き込むように、ディアナに挨拶をすると、ディアナは反応し、不思議そうにスティフィを目を合わせる。

「親友? 巫女様の?」

「え? ええ、そうよ」

 余りにもまっすぐに、曇りのない吸い込まれそうになるような赤い瞳で見つめられたスティフィは少したじろぎながらもそう答えた。

「はい、一応親友です」

 それに付け加えて、ミアもそれを肯定する。

「わかった。親友、あなた、親友。巫女様の親友。覚えた覚えた。なるほどなるほど」

 ディアナは何かを理解したように何度も頷いている。

「え、えっと、よろしく……」

 それを少し奇妙に思いつつもスティフィは若干引きつつも、そう言った。

 この白い少女は、恐らくミアを守る、と言った意味ではこの少女は間違いなく最大の戦力となる。

 戦いという分野であれば、荷物持ち君や精霊でも御使いには敵わない。

 御使いは戦うために神に作られた種族なのだから。

 スティフィにとっては自分に対処できないような相手に対しての、まさに切り札になるような存在だ。

 とりあえずは仲良くしておきたい。


 ついでに、ジュリー、ルイーズ、ブノアも各々も一応挨拶をしたがすべてディアナが反応することはなかった。

「話しかけて反応あるのは、ミアと私、それとマーカスだけってこと?」

 スティフィは少しいぶかしみながらそう言った。

 ミアに反応するのは理解できる。自分と似たような立場のマーカスに反応するのもまだわかる。

 だが、他の者に反応しないのに、なぜ自分に反応するのかがスティフィにはわからない。

「みたいですね」

「ミアは、まあ、対象だし、マーカスは同じような立場だからとして、なんで私にまで?」

 その疑問をスティフィは口に出してみる。

「親友だからじゃないですかね?」

 と、ミアは答えるがそんな曖昧な物が条件だとはスティフィには思えない。

「あら、そんなこといったら、ジュリーやルイーズが泣いちゃうわよ」

 ので、とりあえずその場は茶化すこととにスティフィはした。

「泣きません!」

「いや、まあ……」

 ルイーズは反発し、ジュリーはなんとなく納得したような曖昧な返事を返す。

「二人とも友達だとは思ってますが、親友はスティフィだけですよ」

 そこでミアが大真面目にそんなことを口にした。

「いや、まあ、うん、そういうことは面と向かって言わないでくれる」

 面と向かって言われた上、不意を突かれたスティフィは顔を赤らめる。

「逆に照れてますわね、珍しいですね」

 ルイーズが珍しいものを見たとばかりに嬉しそうにそう言った。





 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


 あと感想などいただけると大変励みになります。

 さらに、いいね、評価、レビュー、ブックマークなどもいただけたら幸いです。

 その際には、一人嬉しさのあまり部屋で壁に腰をぶつけながら踊り狂います。



 ついでにルイーズ様とディアナ様は本来、春に、新学期に他の新入生と合わせて学院に来る予定でした。

 新入生は新入生でもう一人いるのと、もろもろの諸事情でルイーズ様とディアナさんは早めに登場させました。


 え? 新年のお話が内容が薄そうだったからって?

 はは、そそそ、そんなことはないですよ……


 それとは別に、誰だよ。

 宗教の特色とかを出したいから、デミアス教関係者は神がかりって言って、その他は神憑きって表現するとか考えた奴。

 安易な上に、まどろっこしいんじゃぁ!!!!!


 もし、間違ってる部分あったら教えてください……

 



 その他の小説の進捗は、活動報告からどうぞ!




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