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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
日常と年越しと再び訪れた者

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日常と年越しと再び訪れた者 その3

 頂上に着いたミア達一行は、天幕を設置した。

 エリックの持ってきた天幕はかなり大きな物だ。

 それは当たり前で騎士隊に納品するための天幕であり、個人で使う想定の物ではないからだ。

 天幕の壁布は三重にもなっていて、完全に外気を遮断している。

 それに加え中央には焚火と竈が設置され簡易的な金属製の煙突まである。

 外は驚くほど寒いが、この天幕の中は絶えず火がたかれていて暖かい。

 床布は流石にないが、端には人数分の簡易寝台まで置かれている。

 簡易的にはだが雪掻きされはいるし、簡易寝台もしっかりとした足があり、地表から少し高い位置にあって雪でぬかるみになった地表に触れることもない。

 一日かそこら野営するだけなら、なにも問題は何もなさそうだ。

「かなり大きいのね、でも男女一緒で一つしかないの?」

 スティフィが天幕に入って最初の一言がそれだった。

 その言葉にエリックが一瞬だけ固まるが、すぐにとってつけたような顔で言い訳を始める。

「いやー、流石にこれを複数持ってくるのは無理っしょ!」

 確かにそれはそうだ。

 運ぶのが人間であるならば。

 この天幕も荷物持ち君の荷台に入れられていたものだ。

 別にエリックが運んできたわけではない。

 ただこの天幕を張ったのは紛れもなくエリックであり、その労力はかなりの物のはずだ。

「荷物持ち君がいるのに? あんたわざとでしょう?」

 それをわかっていながらもスティフィが目を細め、エリックに詰め寄る。

「そ、そそ、そんなわけないじゃん? ほ、ほら、この天幕中で焚火もできるようになってるんだぜ? 煙突もあってすごいだろ?」

 そう言われたスティフィも、スティフィ以外の者も天幕の中央にある煙突を見る。

 黒い煙突が柱代わりにもなっている。

 焚火と竈と一体化したような造りになっていて、煙突がしっかりと天幕を支えている。

 中央に焚火、その四面に竈が置かれているような形となっている。竈と焚火で出た煙を大きな一つの煙突で賄っている。

 また土台の部分が竈と一体化しているため、ずっしりとしていて安定性もある。

「火事になったりしないのよね?」

 それを見たスティフィがそんなことをいうが、煙突の周りはしっかりと補強されているのがすぐに見て取れる。

 しかも、その部分には不燃のおまじないの文言が書かれている。

 それだけで焚火の炎ごときでは、早々燃えるものではないことが見るものが見ればわかる。

「不燃布? って、いう燃えにくい布で作られているから平気らしいぞ」

 それに加えてエリックの話では燃えにくい布でもつくられているそうだ。

 火事になる様なことはまずないだろう。 

「ふーん、あんたの所の実家は優秀よね」

 それらを見たスティフィは納得したようにそう言った。

「こう見えて、座学も実技も割と優秀なほうなんだけどな」

 と、エリックがぼやいた。

 それは事実なのだが、誰も反応しない。

「しかし、広い上にちゃんと防寒もできていてすごい天幕ですね」

 ジュリーが簡易寝台に腰を下ろして一息ついてそう言った。

 ジュリーにしては綺麗な毛皮の外套を着ている。

 直前に言われ、自分ではそれを用意できなかったジュリーがサリー教授から借りてきたもので非常に暖かい良質の毛皮の外套だ。

 なぜサリー教授かというと、ジュリーにとって既に師匠ともいえる存在にまでなっているからだ。

 サリー教授も優秀な生徒ができて満足している。

 ついでに、ジュリーはエルセンヌ教授には、会うと心労がかさむから、という理由から相談すらしていない。

「だろ?」

 と、笑顔で言ってくるエリックに対し、ジュリーは真顔になって聞き返す。

「で、今日はここまで来て何をする予定なんですか?」

 その言葉に、エリックは少し考えてから、

「とりあえず、俺はこれから鹿をばらすけど?」

 と答える。

 それに呆れた顔したスティフィが、

「はぁ、特に予定なしなの?」

 と文句を言う。

 その言葉にミアとエリック以外が、スティフィに同意したようにエリックに呆れた顔を見せる。

「決まったの昨日か一昨日だぜ? あっ、じゃあ、一人一品、皆で、なんか料理作ろうぜ? な?」

 そこでエリックが、今、思いついたとばかりにそんな提案をする。

「あっ、それいいですね!」

 それにミアが賛成すると、ジュリーはあきらめた顔をして、スティフィはめんどくさそうな表情を浮かべた。

「面倒なんだけど?」

 そして、スティフィはそれを隠しもせずに、そのまま言葉にして伝える。

「どうせ周りには雪しかないんですよ、いいじゃないですか!」

 ミアは楽しそうにそう言った。

「そんな場所に計画もなしに連れてかないでよ…… というか、明日の朝は晴れるの? 今日も絶賛曇り空で雪が降ってるけど」

 スティフィはそう言いつつ、天幕の入り口の布を捲り、外の空を見る。

 今日も雪が降り曇っている。

 雲の切れ間もない。

 スティフィはこの裏山の山頂には初めて来たが、想像以上に広い。

 恐らく頂上は魔術的な儀式をしやすいように人の手を加えてあるのだろう。

 本来なら景色も良さそうだが、今は見渡す限り真っ白で、空だけがどんよりと灰色だ。

 スティフィが外の様子を見ていると、後ろから呆れたような感じで声を掛けられる。

「あなたはデミアス教徒でしょう? 暗黒神の信徒が初日の出を見たいってどういうことなんですか?」

 ルイーズが普段スティフィに弄られている仕返しとばかりに突っ込む。

「デミアス教は自由なのよ」

 けれど、スティフィはそっけなく答え、天幕の中に戻る。

「都合のいい宗教ですね」

 それにルイーズは更に追い打ちをかける様に言うが、それを聞いたスティフィはニヤリと笑う。

「でしょう? あなたも入信してみなさいよ」

 スティフィは笑みを浮かべつつもそう言った。

 領主の娘であるルイーズがデミアス教に入信すれば、デミアス教にとってかなりおいしい話になるはずだ。

 だが、スティフィも、もちろん本気で言っているわけではない。

 いつもの通りからかっているだけだ。

「うちにはうちの神様がいらっしゃいますので」

 と、ルイーズがむきになって言い返すが、

「家出してんじゃん」

 と、スティフィに言い返され何も言えない。

「むむむっ……」

「スティフィ、あんまりルイーズ様をからかわないでくださいよ」

 それに見かねたミアが止めに入る。

 とはいえ、二人とも本気でいがみ合っているわけではない。

 なんだかんだで、スティフィとルイーズも、ミアと気が合うように馬が合うようだ。

 一番の疎外感を感じているのがジュリーなほどには。

「はいはい、一品、なにか料理作ればいいんでしょう?」

 そう言って、スティフィは荷台に積んである樽を開ける。

 驚いたことに高級品のじゃが芋や人参まで樽の中に詰められている。もちろんそれだけでなく様々な野菜や香辛料なども用意されている。

 また別の樽には購買部で売っているパンやサァーナまで入っている。

 その他にも十分な水や葡萄酒の樽まである。

 とてもじゃないが一日前に準備しだした量ではない。

「じゃあ、俺は燻製肉でも作りますか」

 それを後ろで見ていたマーカスも若干エリックの準備の良さに呆れつつそんなことをいう。

「お、流石マーカス先輩、燻製器も持ってきてるから、荷車から降ろしてくださいよ」

 既に天幕内で鹿を吊るし終わったエリックがそんな事を言ってくる。

 天幕が十分に広いため、鹿を吊るしても問題ないようだ。

 それでこの天幕が軋むこともない。

 そう言われたマーカスが荷台をあさると大量の薪の中に、確かに組み立て式の燻製器らしきものまであった。

「簡易的なものを廃材で作ろうかと思ってたんですが、そんなものまで持ってきてるんですか」

 マーカスは褒めたわけではなく、単純に呆れた気持ちでそう言った。

「どうせ暇だろうと思ってな! 後、カマクラを作ってそこで食おうぜ!」

 その言葉に今度はミアが反応を示す。

「カマクラってなんですか?」

「雪で作った小さな小屋的な? なんて言うんかな? 雪を一カ所に集めて穴を掘るんだよ」

「え? それ寒くないですか?」

 それを聞いたミアが想像しただけで身を震わせている。

「それが不思議と中は暖かいのよ」

 エリックがそう言い、同じく北側出身のスティフィがミアと視線が合うと頷いて見せた。

「なんですか、それ、不思議ですごいですね!」

 と、エリックの言葉を話半分くらいしか信じず、スティフィから確証がとれたのでミアは目を輝かせながら喜んだ。

「じゃあ、料理作っている間に、ミアちゃんの使い魔に作ってもらおうぜ?」

「え? そうですね! 荷物持ち君! カマクラってわかりますか? 作れますか!!」

 と、ミアは天幕の入口で待機している荷物持ち君に確認しに行った。

「あんたらさ…… 上位種に何やらせてんのよ……」

 それを見たスティフィが呆れながらそう言った。


「スティフィはなに作ってるんですか?」

 ミアが手帳と羽筆を持ちながら、料理中のスティフィに聞いてきた。

 その様子を見たスティフィは、また変なことを始めた、とばかりに睨む。

「うーん、鹿肉の鉄板焼き?」

 とだけ答える。

 竈の上の鉄板の上で、香辛料を振られ、紐でしっかりと括られた塊の肉がジュウジュウと音を立てて焼かれている。

「ただ焼いただけですか?」

 それを見たミアは手帳に何かを書き込みながら更にスティフィに質問をしてくる。

「ちゃんと香辛料もすり込んでいるし、専用のタレも作るから」

「専用のタレですか?」

 その言葉にミアが目を輝かす。

「そそ、まあ、焼いた後の肉汁と葡萄酒、それと少しの香辛料を合わせて煮詰めるだけだけどね」

「スティフィは料理もできるんですね」

 それを聞いたミアは少し感心したようにそんなことを言った。

 葡萄酒でタレを作るなど、育った故郷にはろくな香辛料もなかったミアからすれば驚くことだ。

「言ってるでしょう? なんでもそれなりにできる様に仕込まれてるって」

 そう言って、スティフィは肉の塊をひっくり返す。

 肉の焼ける良い匂いがする。

「でも、そんなにでっかい塊肉、ちゃんと熱が通るんですか?」

 ミアは再び手帳に何か書き込みながらそんなことも聞いてくる。

「ええ、見た目は少し赤いけど、ちゃんとしっかり熱を通すから安心して良いわよ」

 そう言ってスティフィは水を少しだけ鉄板に巻いて、半球状の蓋を肉の塊に被せた。

「なるほど。蒸し焼きですか、五点加点です」

 それを見たミアは涎を啜ってそんなことを言いだした。

「え? なに、採点してんの?」

「はい、審査員ですので」

 それを聞いたスティフィは少しやる気を出す。

 スティフィは負けず嫌いの一面もある。特にジュリーにだけは負けたくない。

「そう言うミアはなに作んのよ?」

 逆にスティフィがミアに聞くと、

「あまりものを全て入れた鍋です。今日の夜と明日の朝食もそれです」

 ミアはみもふたもないことを言いだした。

 ただ確かに余り物を出さないなら、それが一番確実かもしれない。

「ああ、うん、まあ、あれね、ラダナ草だけはいれないでよね」

「確かにあの草は雪の下にも生えるほど生命力は強いですが、流石にいれませんよ。じゃあ、次はジュリーのを見てきますね」


「え? なんですかそれは? 揚げ物ですか? 素揚げですか?」

 スティフィの隣で調理しているジュリーの元に来たミアは珍しいものを見る様にジュリーに聞いた。

 鍋料理なのか、油の張った鍋にいくつかの具材がいれられている。

 ただ火を調節して、かなり弱火にしているのか具材が入っているのに油が泡立つようなことはない。

「あー、いえ、うちの地方の特産のシェルム油まであったから、つい懐かしくなってね。これは私の領地の方の郷土料理で、えーと、油の煮物って感じかな」

 ジュリーはそう言った。

 油の煮物というものにミアはピンとこなかったが、何かとても美味しそうな良い匂いがするのは確かだ。

 油が良いのと、香草や香辛料などが使われているからだろうか。油臭い、という臭いではない。

 ただの素揚げというわけではないようだ。

「油の煮ものですか? 素揚げではなく?」

 ミアがもう一度確認する。

「ええ、でも素揚げみたいなものかもね。ただ、そのまま飲むのは流石にどうかと思いますけど、油自体にも味がついてるんですよ」

「美味しそうですね、八点加点しときます」

 そう言ってミアは手帳に何かを書き込んだ。

 それを聞いていたスティフィがミアに突っ込む。

「なんで私のより加点が多いのよ!」

「スティフィのはお肉焼いているだけなので、ジュリーの方がなんか凝っている気がします。良い匂いもしますし」

 と答えた。

 スティフィも気づいてはいたが、油にしては非常に香りが良い。

 油臭いどころか、なぜか爽やかな良い香りがする。。

「そんな油だらけの料理がおいしいわけないでしょ!」

 だがそれを認めたくないスティフィはそう言ってそっぽを向いた。

「それは実食してから決めますので!」

「あー、まあ、お口に合えば良いですけども。少し癖のある料理は料理なので」

 ジュリーはそう言って苦笑いをした。

「はい、楽しみにしてます! 次はマーカスさんですね、流石に外で作ってますか」


「マーカスさんは燻製肉でしたよね」

 天幕の入口のすぐ横でマーカスが燻製器に肉を吊るしている。

「もう準備もほぼ終えて、後は火を入れて待つだけですね、俺もカマクラ造りを手伝いますよ」

 そう言いつつ、マーカスは薪に火をいれ、燻製器の蓋を閉じた。

 後は様子を見ながら待つだけでいい。

「なんか良い匂いですね」

 その薪から香ってくる煙の匂いを嗅いでミアは満足そうにうなずいた。

「燻製用の良い香の薪まで用意されてましたからね」

 マーカスは呆れながらにも、エリックに感謝した。

 肉の一番良い部分はスティフィに取られはしたが、それなりに良い場所は確保できている。

 何より肉はしっかりと血抜きされている上に新鮮この上ないものだ。

 きっといい燻製肉が出来上がってくれることだろう。

「あんまり料理してないので三点減点です。でも、カマクラ造りを手伝ってくれるので帳消しにします!」

 ミアはマーカスの入念な下準備を見ていないので、適当なことを言って、さらにそれを取り消した。

 それにマーカスは愛想笑いで応える。

「他の皆はどんなの作っているんです?」

 マーカスの質問にミアは手帳を見返してから答える。

「ジュリーのが少し変わってて気になりますね、スティフィは手抜きで肉を焼いているだけです」

 と、答えた。

 それを聞いたスティフィが、

「絶対美味しいって言わせてやるからね!」

 と、天幕の中から叫んでいる。

「ははは、じゃあ、俺はカマクラ造り手伝ってきますよ、朽木様の子、荷物持ち君だけに労働を任せるのは、どうも気が引けますので」

 地元民ならその名を聞いただけで震えあがる古老樹である朽木様。

 その子供である荷物持ち君だけに働かせていては祟りでもありそうだと、マーカスは本気で考えている。

 なにせこの地方では言うことを聞かない子供にいうことを聞かせるときに、悪い子は朽木様に地中に引きづりこまれる、なんて脅し文句があるくらいだ。

「はい、お願いします!」


「ブノアさんは作らないのですか?」

 天幕に戻り、ルイーズの近くに棒立ちしているブノアにミアは話しかけた。

「あ? あぁ…… 俺は保護者だからな」

 ブノアは一瞬迷ったが、そう答えた。

 その返事にミアはあからさまなしかめっ面で応える。

「三十点減点です」

 そう言って手帳に何かを書き込んだ。

「そ、そうか……」

 ブノアは何とも言えない表情を見せた。

「じゃあ、ルイーズ様を見てきます」

 ミアはそう本人の前で報告して湯が沸いている鍋の前で仁王立ちしているルイーズに視線を向ける。

「お手柔らかにな」

 ミアに対して、ブノアはそんな言葉しかかけられなかった。

「で、ルイーズ様はなにを作ってるんです?」

「サァーナです」

 ルイーズは湯だったお湯の入っている鍋を凝視しながら答える。

「おお、サァーナですか! 上に何か乗せるんですよね?」

 領主の娘であるルイーズなら、自分の知らない豪華なサァーナになるんだろうと、ミアは胸を高鳴らせ期待を寄せる。

「ええ、そのつもりよ」

 それに応える様に、ルイーズは自信があるように返事をする。

「なに乗せるんですか? リズウィッド家伝来のサァーナとかあるんですか?」

 どんな素敵なサァーナが出来上がるんだろうと、ミアの期待が高まる。

 が、

「エリック様が作っているのでいいじゃないですか」

 と、ルイーズからその答えが返って来た。

「え?」

 と、ミアも声を上げつつも、確かに合う。

 そう思うし、実際によく合う。もう試した後だ。

 非常に美味しいのもミアはわかっている。

 だが、それはミアの期待した、今まで見たこともない貴族的なサァーナではない。

「私の勘では物凄く合うと思いますよ」

 ルイーズが自信満々にそんなことを言ってくる。

「じゃあ、ルイーズ様はサァーナを茹でるだけですか? このサァーナ、出来合いの物で既に麺状の奴ですよね」

 サァーナを小麦粉から自作することも多い。

 だが、ルイーズが用意しているサァーナはエリックが準備した出来合いの物だ。

 恐らく食堂で購入したものだろう。

「そうよ、しかも、これ獣脂を使ったドーン・サァーナですわね、きっとグレン鍋にものすごく合いますよ!」

 ルイーズは確信を持ってそう言うが、ミアの眼は冷めていた。

 期待していたものはここに一切ない。

 その事実がミアを落胆させた。

「三十五点減点です」

 ミアはそう言って手帳に書き込んだ。

「な、なんでですか! なんで何もしてないブノアよりも減点されてるんですか!」

 ルイーズのもっともな言い分に、ミアは即座に答える。

「期待をさせておいての裏切りです!」

「なっ、勝手に期待しないでください! というか、料理なんて私が作ったことあるわけないじゃないですか!」

 ルイーズのその言葉にミアは意外な表情を見せる。

 貴族なんてものよく知らないミアからすれば、自分で料理を作らない、と言うことが信じられない。

「え? そうなんですか? ブノアさん?」

 そこで棒立ちのブノアに再び話を振る。

 まるで普段の料理はブノアが用意していると思っているかのように。

「え? ええ、まあ。ルイーズ様には専属の料理人もいますので」

 それに気づいたブノアが答える。

 ついでにブノアもルイーズの護衛であり騎士でもあるが、その身分は列記とした貴族であり、普段は自分で料理などしない。

「その方は今?」

「年末年始は山で過ごすと言うことで、余暇を与えています! 今頃レグリスの実家にでもいるのではないですかね」

 と、ルイーズが得意げに話す。

「更に十五点減点で、計五十点の減点です」

 そう言ってミアは手帳にそのことを書き込みつつ、今度その料理人がいるときに、学院にあるルイーズの屋敷を訪れようと心に誓った。

「な、なんでですか!」

 さらに減点されたことにルイーズが抗議の声をあげるが、ミアは取り合わない。

 今の彼女は私欲に満ちた審査員なのだから。

「では、大本命のエリックさんの所を審査してきますので!」

 そう言って、ミアはブノアにペコリと頭を下げて去っていった。

「お、横暴です!!」

 去り行くミアにルイーズが声をあげるが、今のミアは気にしない。


「エリックさん、ラダナ草は入れてないですよね?」

 エリックが調理しているところへと来たミアはその香りを楽しんで、それだけを確認した。

「ん? さすがに俺もあれにはこりごりだよ。入れてないぞ」

「なら、五十点加点です!」

 ミアが満足したように手帳にそれを書き込む。

「ミア、贔屓しすぎよ!」

「そうです! ミア様、横暴です!!」

 スティフィとルイーズが声を荒げるが、ミアはまともに取り合わない。

「信頼と実績のグレン鍋ですので、さて、試食前の審査も終わったので、余り物で私も鍋を作りますか」

 そう言ってミアが腕まくりをする。

 だが、既に天幕内の竈はすべて使用されている。

 それに気が付いたエリックは一つの提案をする。

「なら、カマクラの中で作りなよ。俺らもできたら持ってくからさ!」

「え? 雪で造った家の中で火起こしして平気なんですか?」

「おぅ、割と平気平気!」

 エリックが信用ならないミアはそれをスティフィに確認する。

「本当ですか、スティフィ?」

「ええ、多少わね。私はあんまりお勧めはしないけど」

 と、スティフィはミアに向かって頷く。

「なんで俺こんなに信用ないの?」

 エリックが一人嘆くが誰もそれに取り合わない。

「じゃあ、私もカマクラ造りを手伝ってきます!」

 その代わりにミアがそう言って、天幕の外へと、空いた鍋を担いで出ていった。




 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


 あと感想などいただけると大変励みになります。

 さらに、いいね、評価、レビュー、ブックマークなどもいただけたら幸いです。

 その際には、一人嬉しさのあまり部屋で壁に腰をぶつけながら踊り狂います。



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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しく拝読させて頂いております。 ミアの辛辣な採点が微笑ましい。 カマクラの運命も気になる処です。
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