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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
夏の終わりは地底で涼みながらの虫駆除な非日常

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夏の終わりは地底で涼みながらの虫駆除な非日常 その7

 出来たばかりの縦穴から、巨大な虫種たちが際限なく湧き出て来る。

「この虫の量、おかしくない!!」

 スティフィが癇癪を起したように叫ぶ。

 実際に湧き出た無数の虫達がこの巣穴目指してやってきている。

 今残っているこちらの戦力でどうこうできる量の虫達ではない。

「防虫陣などこの数の前では無意味か。この量は始祖虫が創り出しているのか? これらは、いや、ここいらで繁殖していた虫は、すべて原種と呼ばれる始祖虫由来の虫だったのかもな」

 ハベル教官が巣穴の入口から縦穴を見下ろすように観察しながらそう言った。

 始祖虫との間に遮蔽物もなく視線も通っているはずだが、始祖虫が何かしてくることはない。

 始祖虫は何かに備える様に、ただ空を見上げたままだ。

 スティフィも恐る恐る崖になってしまった巣穴の入口から外の様子を伺う。

「だから、北の、原種に近い虫種がいるってわけ?」

 虫達の楽園。

 そう呼ばれる地が北の最果てにある。

 大陸の北にある竜達の山脈、その山脈を超えた場所。虫種たち発祥の地。すべての虫種のふるさとでありながら氷に閉ざされた地。

 この世界の虫種は始祖虫によって生み出され、北の地より世界へと広がった。

 北の地に近ければ近いほど、虫種は原則として始祖虫が創り出した原種に近い虫となるとも言われている。

「元々、この地にいた始祖虫、その卵も太古の昔に人間の手によって、北の地よりこの地に運び込まれたと聞く」

 ハベル教官が言ったことは、この地方に伝わるおとぎ話の類だ。

 この地で孵化した始祖虫は天空の精霊王を地に落とし、古老樹を枯らす寸前にまで至る。

 だが、そのおとぎ話の結末は語られることがない。

 その後、この地を荒らした始祖虫がどうなったのか、今ではそれを知る者もわずかだ。

「なんでその始祖虫さんはこちらを無視してるの? その気になればこの巣穴事吹き飛ばせるはずよね」

 スティフィも入口から始祖虫を観察する。

 この縦穴も始祖虫が大地を吹き飛ばし作ったものなら、この巣穴を吹き飛ばすのも造作もないはずだ。

 だが、始祖虫は何もしてこない。

 スティフィは改めて始祖虫を観察した。

 大きさこそ違うが、始祖虫は形自体は蛆虫に似ている。虹色に輝く鱗のような物が全身に生えていることを除けばだが。

 ただ口の部分は蛆虫とは決定的に違う。

 半身を起こし空を見上げる、その何重にも開かれた口は、薔薇のような美しささえある。

 今は口を開いているため、その角が口の後ろ側に来ている。その数は五本。やはり地下で出会ったものとは別個体のようだ。

 その姿は神々しささえ感じるかもしれない。

 虫種を生み出すその存在は、虫種にとっては神と同じような存在なのかもしれない、そんなことすらスティフィには感じることができる。

 今は触手を出していないのか、角度が悪いのか、ここからではそれも確認することはできない。

 こちらに積極的に襲ってこないのであれば、こちら側から仕掛けることはしないほうが得策だ。

 始祖虫がその気になれば、この巣穴ごと跡形もなく吹き飛ばせるのだろうから。

「脅威にも思ってないんだろう。空を見ているな、カリナ殿の存在に気付いているのか? それで這い出て来たか?」

 ハベル教官が始祖虫とそれが見つめる方向を見ながらそう言った。

「は? まさか? 学院からここまでどんだけ距離あると思ってるのよ、それになんで空を見ているとあの巨人女なのよ」

 学院からここまでは人の足では山道を三、四日はかかる。どんなに急いでも二日はかかるはずだ。

 いくらなんでもまだ数時間しかたっていない、距離的にカリナが来ることなど不可能なはずだ。

 それに空を見上げているのもスティフィには理由がわからない。

「カリナ殿が本気であるならば、そろそろ到着することだ」

 だが、ハベル教官は何か確信でもあるのか、不敵に笑いながら始祖虫を睨みつけている。

「空でも飛んでくるっていうの?」

 と、スティフィが聞き返すと、

「ハハッ、まさにその通りだよ」

 ハベル教官はそう言って振り返り、巣穴の方へと戻って行く。

 それを巣穴の入口から、巣穴から絶対に出るな、とスティフィに釘を刺されている、ミアが話を聞いていたのか聞いてくる。

「あの…… よくわかりませんが、私達はまだ助かる可能性がある、という事ですか?」

 ミアもこの絶望的な状況を理解できているようだ。

 カリナという存在がこちらに向かっていなかったら、助かるのはまず不可能だし、今まさに迫りくる大量の大型虫種をどうにかしない事には希望も何もない。

 のだが、現状では迫りくる大量の大型虫種に有効な手段は何一つない。

 あれをどうにかしなければ、カリナの到着以前の話だ。

「ミア、安心して、あなただけは私がどうにかして生き残らせるから」

 ミアの言葉に、意を決したようにスティフィが返事を返す。

 が、スティフィも具体的な案があるわけでもない。

 ただ自分を含めた他の者達を犠牲にしてでもミアを少しでも長く生かすつもりではいる。それでも絶望的な状況には変わりない。

「そんなの安心なんてできません」

 スティフィの返事に対して、ミアが即座に言い返す。

「あなたには神様から授かった使命があるんでしょう?」

 ミアの返事を聞いたスティフィは一瞬だけ驚き、脱力したように笑いながらそう言った。

 こう言えば、ミアも嫌だとは言えない。スティフィもそれを分かってて言っている。

「そうです……」

 ミアは下を向いて渋々ながらにそう言った。

「なら、他人を犠牲にしてでも生き残りなさい」

 そんなミアに、スティフィは強く言い聞かせる。

「そんな……」

 と、自然と出たその声にミア自身が驚く。

 自分にとって何よりもロロカカ神の命を優先させなければならなかったはずだ。

 なのに、今は自分の知り合った人も助けたいと思っている、そのことにミアも気づいてしまった。

 もちろん、自分の中で最初に優先させることはロロカカ神の命であることにはかわりないのだが。

 それとは別に、やはり友人を助けたいと、ミアは考えてしまっている。

「あの魔術学院で魔術を学ばなくちゃならないんでしょう?」

 もう一度スティフィに言われて、ミアも引き下がるしかない。

「はい……」

 ミアは少し戸惑いながら返事をした。

 少しずつではあるが、ミアも自分が変わってきていることを自覚したのかもしれない。

「マーカスもへたり込んでないで、もうひと働きしなさい! ミアだけでもなんとしても守るわよ。神と約束してるんでしょう」

「そうですね、俺も使命持ちなんで……」

 スティフィに言われて、マーカスもフラフラとしながらではあるが立ち上がる。

 だがその顔には余裕がなく青白い。まだ相当まいっているらしく戦力になりそうにはない。

「スティフィ、マーカスさん……」

 ミアが二人に心配そうに声をかけるが続く言葉が出てこない。

 この絶望的な状況で、なんて声をかければいいのか、ミアはわからない。

「しかし、この虫の量では打つ手がない。恐らくこの防虫陣が破られたら足元からも湧いて出るぞ」

 ハベル教官は知っている。

 カリナが始祖虫を倒せたとしても、他の虫に襲われている人間を助ける、いや、助けられるとは限らない。

 彼女は様々な制限をされて、やっとこの世界にいることを許された者なのだ。

 些細な事にはその力も知識も、振るうことは許されない。

 ただ、世界に関わりがある門の巫女であるミアなら、その存在のためであれば助けられるのかもしれない。

 それで、ついでにその他の者が助かっても、それはただの偶然であり幸運なだけだ。

 カリナにかせられた制限には引っかかることもないだろう。

 なるべく生き残るべき人間はミアの周りに集めたほうが良い。それは学院の生徒や訓練生達だ。それは自分自身ではないとハベル教官は判断している。

 騎士隊の生き残りはもうほぼいない。ならば、自分もここで生かすべき者のために犠牲になることも厭いはしない。

「あっ、そうだ、忘れてました! 殺虫陣が、フーベルト教授が考案した殺虫陣があるんですが、使えないでしょうか? 昔、シキノサキブレの時に教わったものなんですが」

 生き残るための鍵である、ミアが唐突にそんなことを言い出した。

「どんな陣だ」

 と、ハベル教官は一応は確認するが期待はしていない。

 フーベルト教授は新任ながらに優秀な教授ではあるが、シキノサキブレ、あの時はコバエの対策にと新人の生徒であるミアに教えた魔術に期待が持てるはずがないからだ。

「ま、待ってください……」

 ミアは自分の鞄を漁りその中から当時、フーベルト教授がくれた写しを探し出す。

「これです」

 そしてそれをハベル教官に見せる。

「これは…… 錬成陣だな」

 ハベル教官はそれを一目見て、その陣の構成を理解する。

 これは虫を直接殺すための陣ではなく、虫を殺すための物を錬成するための陣だ。

 恐らくはフーベルト教授が独自に開発した物なのだろうが、こんな魔術があるのであれば、この作戦前に聞いておきたいものだった。

 これならば、役に立つかもしれない。

 大型の虫種を直接殺すための陣では必要な魔力が多く無限に湧き出てくると思える量の虫を相手にできるものではないが、虫を殺すための殺虫剤を錬成する陣であれば魔力の消費は少なくて済む。

 もしかしたらあの押し寄せてくる虫種にも対応できるかもしれない。

「殺虫陣ではなく錬成陣なんですか?」

 ミアが少し驚いたようにそんなこと言った。

 ミア自身、陣の内容を知らない。ただ虫を殺すための陣としてその陣の形を教わっただけだ。

「うむ、地表より何かしらの要素を集めて殺虫剤を錬成し、それを周囲に散布する陣だな。これは使えるかもしれん」

「大型の虫種にも効果あるんでしょうか?」

 マーカスもその写しを覗き込む。

 確かにこれは直接虫を殺すための陣ではないことがわかる。

 ただその内容まではマーカスにはわからない。

「わからん。だが無いよりはましだろう、オイ、訓練生に生徒達よ! 生き残りたければ、この陣をありとあらゆるところに書き込み起動させ続けろ!」

 さすがにどんな効果があるかまではハベル教官にも一目見ただけではわからい。

 ただ試す価値は十分にあるようにハベル教官には思える。


「なんでこの陣の事わすれてたのよ」

 スティフィも地面に陣を描きながらミアに抗議する。

「ロロカカ様の神与文字で描かれてないので、すっかり忘れてました……」

 ミアの返事に、スティフィは納得してしまう。

 ミアが驚異的な記憶力を発揮するのはロロカカ神が関与したときだけだ。

 それ以外ではその反動というばかりに、物覚えが悪い時もあるどころか、そもそも記憶しようとしないとき迄ある。

 ましてや講義の内容でもないし、役にも立たなかった陣の内容など、ミアにとってはどうでもいいことなのだろう、記憶の片隅に追いやられていても不思議ではない。

「どの神の文字かもわからないわね……」

 スティフィもその写しを見て模写しているが、少なくともスティフィもミアも知っている神与文字ではなかった。

「恐らく複合陣だ。相性の良い神々の力を合わせている。見ろ、分けられて書かれているが、どれも文字の形式が異なる」

 ハベル教官の言う通り、分けて描かれている陣の文字は、どこか形式が違うようにも思える。

「オタク教授ならではね」

 と、スティフィが陣を書き写しながらそんな軽口をたたく。

「殺虫剤ですか、先ほども聞きましたが大型の虫種に対して効果あるんですかね?」

 そう聞いてくるマーカスは陣を書いてはいない。

 まだ目が回っているとのことで、正確な陣をかけるほど回復してはいないらしい。

「フーベルト教授は陣の大きさ次第では大型の虫種にも効くようなことを言ってました」

 ミアが記憶の限りで答える。基本的には描く陣が大きければ大きいほど効果がる。この陣もそうだ。

 十分な大きさがあれば大型虫種にも効果あるかもしれない。

「それに下手に派手な魔術を使ってみろ、あの始祖虫の気を少しでも引いたら、それで終わりだぞ」

 ハベル教官が巣穴の入口の方を見てそう言った。

「それはそうですね」

 マーカスもそれに同意する。

 ミアの話ではこの陣を発動させても、少しの衝撃と閃光が一瞬あるだけで、派手な現象が起こるわけではないとのことだ。

「それに突風を起こすリュウヤンマを事前に倒せているのは大きい、生成され散布された殺虫剤が飛ばされることもない」

 もしあんな風圧を起こすような虫種がいたら、どれだけ殺虫剤を散布してもすぐさま吹き飛ばされてしまう。

 もう少し、ほんの数瞬でもリュウヤンマを倒すのが遅れていたら、この殺虫陣も意味をなさなかったかもしれない。

「リュウヤンマを倒せたのも無駄じゃなかったってことね。でも、この虫の量だから新しいリュウヤンマも紛れてるんじゃないの?」

「見た限り湧いて出てきているのは地を這う虫ばかりだ。リュウヤンマも一応は蜻蛉だからな。幼虫の間は水中で育つ。特にあの大きさだからな、巨大な湖でもない限りそう簡単には増やせんだろう」

「結局生き残るには、防虫の陣を突破されないようにして立てこもるしかないですか……」

 マーカスは目をつむり地面に腰かけながらそんなことを言った。

 殲滅戦が気が付けば、防衛戦、いや、籠城戦になってしまっている。

 しかも、その状況は大分分が悪い。

「この入口付近は三重に防虫陣が敷かれている。一番外側の陣はもう持つまい。残り二つを死守することが生き残ることの最後の希望だ。もう逃げだすこともかなわん。生きたくば、死に物狂いでこの陣を描き起動し続けろ!」

 ハベル教官が全員に聞こえる様に大声で宣言する。

 それにより、生き残っている者たちは更に必死に陣を書きづつける。

 だれだって虫種の餌などにはなりたくはない。

「先ほどの騎士隊の皆さんやエリックさんは?」

 既に大きな陣を描き終えたミアが心配そうに巣穴の入口の方を見る。

「残念だが、今は安否の分からぬ者を優先している場合ではない。すまんが、今は少しでも多くの大きな殺虫陣を書くことを優先してくれ。それにより助かるかもしれない」

 防虫の陣の中にいたエリックですら、土砂を被り今やどこにいるのかもわからない。

 これはハベル教官の希望的観測に過ぎない。

 あの場にいた、特に防虫の陣を守るために外に出ていた者達は既に生きてはいないだろうとハベル教官もわかっている。

 大地が吹き飛ぶほどの衝撃だ。それに巻き込まれた者が生きているとは思えない。

 仮に生きていたとして、押し寄せて来る大量の虫種がそれを見逃すわけもない。

「はい!」

 と、ミアは希望に満ちた顔で返事はするが、ハベル教官はミアから視線を外すしかなかった。

 

 虫種がとうとう巣穴まで到達してきて防虫の陣を突破しようと陣に張り付いてくる。そこで一番大きなミアの描いた陣をミアが起動する。

 拝借呪文で借りたミアが魔力を陣に流し込み発動させる。

 少しの衝撃と閃光を発する。

 その後、白い煙と共に少しツンとした匂いが周囲に立ち込める。

 そうすると、防虫の陣を壊そうととりついていた虫種が突如としてひっくり返りその足をばたつかせ始めた。

 効果は絶大でひっくり返った虫種はそのまま動かなくなる。

「き、効いてる! 凄い効いてる!! 大型にも十分に効果ありだわ!」

 入口付近で様子を見ているスティフィから歓喜の声が上がる。

「おい、ああ、スティフィだったか」

 ハベル教官が巣の入口に向かいスティフィを大声で呼びつける。

「なに?」

 と、やはり大声でスティフィから返事が返ってくる。

「この陣が効かない虫種がいるかもしれない、連弩でそれを仕留めてくれ」

「わかったわ」

 スティフィは二つ返事で了承し、言われた通り巣穴の入口に立ち、連弩を構える。

 これだけ多種多様な虫種がいるのだ、ハベル教官の言う通り生成された殺虫剤が効かない虫種がいても不思議ではない。

「よし、次の陣の発動用意をしろ! 長期戦となる! 発動指示が出るまで拝借呪文は使うな! なるべく体に負荷が掛からないようにしろ!」

 様々な形の大型虫種がひっくり返り足をばたつかせる中、それを乗り越える様に大きな百足が姿を見せる。

 苦しむ様子もないので錬成された殺虫剤が効いているとは思えない。

「げ、早速いたわよ、効いてない奴、百足には効いてないみたい!」

 そう大声で報告しつつ、一匹の百足の頭部に狙いを定めて、矢を打ち込む。

 狙い通りに頭に矢が突き刺さるが、それで百足の動きが止まるわけでもない。

 仕方なく追加で数発矢を打ち込んでやるとやっとその動きを止める。

「やれるか?」

「連弩の矢があるうちはね! ただこいつら、中々死なないのよ! 矢ももうそんなに残ってない」

 これでは矢がいくらあっても足りない。

 それどころか、元より連弩の弾倉自体が心もとない。

「なら、頭だけ地面に縫い付けてやれ、できるだろ」

 ハベル教官は常人な不可能なことを言ってくる。

「中々きついこと言うわね、マーカス、せめて矢の入れ替えぐらい手伝って!」

 だが、スティフィはそれに応えられだけの技量を有している。

 右手一つで、その難題をこなして見せる。

 が、数匹ほど頭を地面に縫い付けたところで連弩に装填された矢が尽きる。

 左手のまともに動かせないスティフィには矢の装填の方が難しい。

 だからそれを、へたったままのマーカスに任せる。

「わかりました。黒次郎が出せるほど回復できたら、一度、そっちを優先しますがね」

 そう言いつつ、マーカスはふらつきながらスティフィの足元までやって来て、弾倉が空になった連弩を受け取り弾倉の入れ替えを始める。

「そのへたり具合じゃ出しても意味ないでしょう?」

 眩暈でもするのか、上手く力すら入らないのか、もたつきながら入れ替えをしているマーカスを見つつスティフィはそう判断する。

 今も数匹のオオムカデが防虫の陣を破ろうとしているが、それを冷静な目でスティフィは観察する。

 オオムカデとはいえ、数匹程度で破られる陣ではない。

 まだ慌てるような段階ではないが、それでも陣に対して負荷を与えていることは確かだ。

「命令をせず黒次郎の好きにやらせるだけですよ。今は呼び出すのも無理そうですが」

 そう言って、マーカスはやっとの思いで弾倉を詰め替えた連弩をスティフィに渡す。

 すぐにその連弩を使って陣に取りついていたオオムカデの頭を狙い、地面や壁に矢で縫い付ける。

 並大抵の技量でできることではないが、スティフィはそれを平然とやってのける。

 そして、少し考えたのち少しでも生存の可能性があるほうへとスティフィは賭ける。

「精神的な疲労に効くかどうかわからないけど、じっとしてなさい」

「な、なんです?」

「こっちはものすごく痛いんだから、じっとしてて」

 スティフィは苦痛に耐え、脂汗を出しながら左手をマーカスの額にまで上げる。

 そして、誰にも聞こえないようにボソボソとなにかを唱える。

「これは使徒魔術、それも回復の……」

 と、マーカスがこんなこともできたのか、と驚きの声を上げる。

 暖かくも仄暗い闇がマーカスの精神的苦痛をも和らげる。

「どう?」

 と、聞くスティフィの顔には脂汗が浮かんでいる。

 相当な激痛に耐え、今の術を使ったようだ。

「だいぶ楽になりましたね、こんな魔術まで扱えるとは流石ですね」

「じゃあ、踏ん張りなさいよ」

 そう言ってスティフィは連弩を構える。

「まあ、黒次郎だしたら矢の詰め替え要員として頑張りますよ」

 マーカスも幽霊犬の黒次郎が潜んでいる自らの影に神経を集中させる。


 巨大な群青の鷲のような鳥。

 物凄い速さで空を駆けるそれは地上から見ても、その大きさにもかかわらず、その速さと色合い故、人間には視認することもない。

 それに乗りカリナは空をかけ急ぐ。

 視界の遥か先で突如大地がはじけ飛ぶ。

 始祖虫はその特性からカリナでも、また上位種でもその存在を視認でしか察知することはできない。

 非常に厄介な存在だ。

 そのため始祖虫の対処はどうしても後手になってしまう。

 カリナの眼は遥か先、まだ土砂が降り注ぐその中に始祖虫の存在を確認する。

 いや、相手も自分を察知して姿を現せたというべきか。

 そして、その脅威に対処すべく、カリナの身に力が溢れんばかりにみなぎってくる。始祖虫を倒すために神の許しがでたのだ。

「久しぶりに気晴らしくらいはできそうだな。悪いが遊ばせてもらうぞ」

 腰につけている極太の鞭とも、異様にしなる棒とも取れる物をカリナは強く握りしめた。




 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


 あと感想などいただけると大変励みになります。

 さらに、評価、レビュー、ブックマークなどもいただけたら幸いです。

 その際には、一人嬉しさのあまり部屋で壁に腰をぶつけながら踊り狂います。






▽こっちじゃないほうは不定期連載となりました。

【現在の進行度:20%】

https://ncode.syosetu.com/n2070ht/

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 そろそろ再会したい



▽カクヨムにも別の話を投稿し始めましたが不定期です。

https://kakuyomu.jp/works/16817330656065205636

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 こっちも再開したい!

 




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