表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
日常と非日常の狭間の日々

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

20/186

日常と非日常の狭間の日々 その10

 ミアが魔注口という名の水晶玉に、ロロカカ様より借りた魔力を流し込む。

 とても重厚で力強く深く、それでいて寒気がするほど底知れぬ不気味さを感じさせる魔力が流し込まれる。

 魔力を流し込まれた水晶玉は、ほんのりと玉虫色に輝き始める。

 それを確認したグランドン教授が右手を挙げた。

「照明を落としてください」

 それを聞いた助教授たちが部屋の照明を落とす。

 室内から明かりが消え、ミアが魔力を注いでいる水晶玉だけが淡く玉虫色に輝いている。

 照明を落としたのは少しでも失敗する確率を低くするためだ。

 この刻印器は強い光で刻印を刻み込む。邪魔な光はないほうがいい。

「何という魔力…… これが本当に今まで無名だった神のものなのか……」

 誰かがそうつぶやいた。

 実際ロロカカ神の魔力は強くその神格がかなり高いことがうかがい知ることができるほどだ。

 ミアが注ぎこんだ魔力は水晶玉から透明な糸を伝い柱へと、さらには天井へと流れ込んでいく。

「準備は?」

 その様子を見て、グランドン教授がトラビス助教授に声を変える。

 直前まで制御術式の図面の位置を微調整していたトラビス助教授は振り返り、ゆっくりと頷いて見せる。

「皆様方、刻印の儀、始めます。とはいえ、この開閉器を押すだけで後は全自動ですよ。では、ポチッと」

 そう言ってグランドン教授が台座の一つにあるつまみを押した。

 しばらくすると部屋全体が細かく振動しだす。

 それと共に何かしらの駆動音が地の底より聞こえてくる。

 まず初めに制御術式の図面を置いてある台座に図面を覆いこむように蓋がかぶさっていった。

 その後で図面に接している部分からかなりの光量の光が漏れているのが外からでも見て取れる。

 その光は何度も確認するように上下左右に動いており、まるで制御術式を読み取っているようだ。

 そして、それが終わると同時に、奥の部屋の圧縮鏡がひとりでにゆっくりと回転し始めた。

 その様子はまるで熟練の職人がなにかしらの微調整を行っているような慎重さを感じるほどだ。

 何度かの圧縮鏡の回転を経て、圧縮鏡が止まり、部屋の振動と駆動音が完全に止まった。

「少し光りますのでご注意を」

 と、グランドン教授が注意を促すと、次の瞬間、圧縮鏡の先端から強い光が放たれた。

 はじめは一瞬だけ、続けて数瞬の間、それは強い閃光ともいえる光を発した。

 あまりに強い光でそれ以外は何も見えない。

 そして最後に、何かを確認するように弱い光をしばらく発した後、圧縮鏡から光は完全に失われた。

 その後、再び部屋が細かく振動し始め、地下から駆動音が聞こえだした。

 圧縮鏡が元の位置へと戻って行き、駆動音が消え、振動も止まった。

 グランドン教授は足早に窓に近寄り苗木の様子を確認する。

「ふむ、やはり抵抗はなかったようですな。刻印の儀は成功ですね。ここまで抵抗がないとなるとあまり参考にはならなかったのではないでしょうか」

 と、グランドン教授が誰に言うでもなくそうつぶやいた。

「いやいや、結構良い物が見れたぞ。図面の方も見させてもらったが、もしやと思うがあれは?」

 一人の老教授がそう言って歩み寄ってきた。

 骨と皮だけのようにやせ細った体をしているが、その肉体から溢れだす生命力は常人とは思えないほどだ。

 シュトゥルムルン魔術学院の副学院長、ウオールド・レンファンスだ。

 神の勢力的には光側の教授である。とはいえ、そもそも未だ世界は作りかけの状態で、光と闇の戦いは始まっておらず、その末端の人間たちがいがみ合う必要も本来はない。

 シュトゥルムルン魔術学院において光と闇の勢力がいがみ合っているのは元はと言えば一人の教授のせいなのだが、今はまた別の話だ。

「はい、ウオールド老。ロロカカ神の神与文字だそうです。中々素晴らしい文字でしたね。我と…… フーベルト教授、何よりミア君の努力の結晶ですな」

「翻訳でもしたかの?」

 ウオールド老はとぼけた表情で何の気なしに聞いてくる。

 恐らくは既に大方把握はしているのだろうが、本人からも確認がしたいのかもしれない。

「はい」

 と、グランドン教授が素直に答えると、ウオールド老はニィと笑顔を見せた。

「ほほー、後でで構わん。少し話を聞かせてくれんかの? 酒でも飲みながらな」

「フーベルト教授からではダメなんですか?」

 グランドン教授はなんとなく嫌な予感がしたし、絡み酒で有名なウオールド老だ、酒の席というだけでその予感は正しいのだろう。

 グランドン教授としてはご遠慮願いたい一件だ。何よりグランドン教授は酒は嫌いではないのだが、とても弱い。すぐに酔いが回ってしまい話さなくていいことまで話してしまう。そのことを自覚しているのでなおさらだ。

「あやつは覚える事だけは一流だが、それ以外のところに私情が入り込みすぎておるのでなぁ」

 確かに、とグランドン教授もその評価に心の中で同意する。

 あの数千種もあるロロカカ神の神与文字を数週間であれだけ把握できるなど、記憶力だけなら常人のそれではない。

 またその知識の幅も広い。

「ですが、あの知識の量は教授たるに適したものですよ」

 数週間一緒に翻訳作業をして得たグランドン教授のフーベルト教授への評価だ。

 その幅広い知識は評価に値すると考えている。

「おぬしが褒めるとは珍しい」

 そう言ってウオールド老は、わざとらしく驚いた表情を作って見せた。

 そう言われたグランドン教授は、自分は割と人は褒めていくほうなのですが、と思ったが口には出さなかった。

 なにその大概が嫌みか煽てさせるためだけに言っているものだからだ。

「まあ、数週間の間一緒に作業していれば、情もわいてくる物でしょうか。それに中々気が合うことがわかりましてな。正直今も侮ってはいますが、我も嫌いではない人種ですな。何より彼は偏見がない」

「そう言ってくれるとありがたい。あんなんでも一応は光勢力、という事になってはいるからな」

 少し難しい顔をしてウオールド老は自慢の長い髭を触りながら言った。

「そう言っては何なんですが、ウオールド老こそ、良いのですかな?」

「ワシは副学院長の務めを果たしているだけじゃよ。そもそも、こんな田舎で始まってもいない勢力争いなど無意味じゃというのにのぉ」

「それはそちらの教授に言ってください。我も煽られたから煽り返しただけですので」

 一人の貴族出の女教授のことをグランドン教授は思い浮かべる。

 あんなのに中央より呼び出されたローラン教授も大概不憫なのかもしれない、とさえ思う。

 反応を見るにローラン教授も未だ始まってもいない光と闇の勢力争いには興味がないように思える。

「はぁー、いやじゃいやじゃのぉ。板挟みされる老体の身にもなって欲しいものじゃのぉ」

 そう言ってウオールド老はわざとらしく落ち込んだふりをした。

 これ以上関わるとろくなことにならない、と、グランドン教授は判断し、この場から逃げ出すことにした。

「ハハハ…… ウォールド老、その話はまた後程という事で。ミア君に血判を押させないといけませんので、では」


 刻印室から場所を移し、今は使魔工房で最後の組み立て作業を行っている。

 たくさんいた教授や助教授達は一旦解散し、今はグランドン教授とその配下の助教授達だけだ。

「では、その鉢に苗木を収めてください。このサリー教授特製の鉢が、苗木を守る鎧であり苗木に都合の良い土壌を確保する場所として機能します。後、髪の毛は各所に空いた穴から通すようにしてください。そこから全身に伸ばしますので」

 ミアが言われた通りに、朽木様の苗木を新しく作ってもらった鉢の中に仕舞い込む。

 鉢は上部が開いた球体をしている。ところどころに小さい穴がたくさん開いている。

 また底には、骨盤とも思えるようなでっぱりがついている。

 そのまま骨盤として機能し、脚部との接続部分なのだろう。

 ミアは鉢に苗木を丁寧に仕舞い込んだ後、グランドン教授の書いた泥人形の設計図を確認する。

 その完成図は、滑らかな雫型の胴体に短い脚、そして異様に大きな腕、頭部から苗木が生えている姿だった。

 見方によっては大型の猿にも見えなくはない。そんな姿をしていた。

 何とも不思議な形をしている。

 その造形に関してミアは特に不満はない。

 が、造形とは違うところで疑問点がいくつかある。

「グランドン教授、この設計図ですと泥人形の口と鉢が繋がっているんですが良いんですか?」

 本来核は使い魔の弱点である。できるだけ隠すように配置するのが常である。

 ただ核が苗木ともなると隠すのも難しい。

 なにせ苗木だけに外に露出させなければならないのだから。

 とはいえ、この泥人形の場合、その核が一番、凶悪で丈夫である。

 本来なら防御用の鉢など必要ないくらいに。

 なんならグランドン教授に言わせるのであれば、泥人形にせず苗木のままにしておいた方が戦闘面では優秀まである、との話だった。

 それをわかっていながら、グランドン教授はわざわざ追加でサリー教授に頼みこの鉢を用意した。

 それなりの理由があるんだろう。

 ただ図面では泥人形の口と鉢の内部が直結しているように描かれている。ミアにはその理由に見当もつかない。

 仮にこの鉢で核を守るのであれば、口から核に直結しているのはおかしい。とただ単に疑問に思っていた。

「はい、泥人形、つまりは人形です。人形は人を模して造られる物です。この泥人形に魔力を与える場合は、魔力の水薬なら口から飲ませてあげれば結構です。直接魔力を注ぎ込む場合は苗木の枝に流し込んでくれれば大丈夫です。とはいえ、それが必要かどうかはまた別問題ですが。そう言えば、これからもあの魔力の水薬はつくり続けるんですか?」

 ミアが思っていた答えを微妙にずれた返答が、逆に質問付きで返ってきた。

「え? はい、作り続けるつもりです。そもそもこの泥人形もそのための荷物持ちでしたので。生活費と、なにより水薬作成の練習にもなるので」

 ミアは素直に返事を返す。なぜか大事になってしまったが、本来はそのための泥人形だった。

 また山をうろつく時の護衛にもなる。

 裏山には虎や熊はいないが、ミアにとっては猪でさえ脅威になると言うことは十分に理解できた。

 再び猪と相まみえて、無事に居られる自信はミアにはないが、この泥人形があれば虎や熊はもちろん、猪など物の数ではない。

「荷物持ちにしては、だいぶ強力な使い魔になりましたが、まあ、それはいいでしょうか。あの魔力の水薬は裏山で採れた薬草を使ってですか?」

 ミアはやけに魔力の水薬の話を聞かれると、思いつつも正直に話す。

 そもそも魔力の水薬など、簡単に言ってしまえば、魔力と親和性のある草木を水で煮込んでそこに魔力を無理やり流し込んだだけの物だ。

 特に隠し立てするようなこともない。

「はい、ラダナ草がほとんどで、後はトムハの葉を数枚、レーネ草一枚と後は季節の野草で水増しして煮だしています」

「なるほど。ならちょうどよいのかもしれないですな。その煮だした後の物は、今は廃棄という形にされてますな?」

「え? はい、なくなく廃棄しています。煮込んだ釜にそのまま魔力を注ぎ込んでいるので魔力は一時的に宿っているんですが、雑味が多くて使い物にならないし危険なので廃棄してと言われているので」

 これはサンドラ教授の指示だ。

 一時的にとはいえ、神の魔力が宿った物だ。自然と時と共に魔力が抜け落ちるにしてもその痕跡、残滓ともいえるような物が残るのだという。

 特にロロカカ神は祟り神と目されている。

 そんな神の魔力の残滓とはいえ下手に残しておくのは危険としての判断だろう。

 学院の側としての対応は間違ってはいない。

 が、ならロロカカ神、祟り神と思われる神の魔力が込められた水薬は良いのかと、そう言われると実は返す言葉がない。

 それはそれ、これはこれ、という話である。

 ついでにミアは学院の規則だから、と言われて無理やり納得しているだけだ。本心では廃棄などしたくはないものだ。

 とはいえ、そう言う気持ちのミアでも、煮だした後の薬草の使い道は、と聞かれると答えようがない。

「まあ、そうでしょうな。ロロカカ神の魔力はとても強いですから、その残滓とはいえ宿っているなら廃棄処理しなければならないでしょうなぁ。が、これからはこの泥人形の餌にしてあげてください。その残滓だけでもこの泥人形が稼働するのには十分なものとなるでしょう。なにせ古老樹ですからな。本来は魔力を借りる対象なのですから。とはいえ、あなたの使い魔なので、あなたが仕えるロロカカ神の魔力の残滓ならば、その使い魔の好物となるでしょう。まあ、それを与えるのは腐葉土にしてからですが…… 良質な腐葉土の作り方などは、サリー教授にでも聞いてください。我の専門外です」

 それを聞いたミアの目に強く光が宿る。

「え! もう廃棄しなくていいんですか! ロロカカ様の魔力が少しでも篭っている物を廃棄しなければならなかったのは、とても忍びなかったんですよ!」

 ミアは心底嬉しそうに飛び跳ねながらそう言った。

「この泥人形は、鉢を胴体に使いその中に苗木にとって都合の良い土壌を形成させれば、それだけで苗木自体が魔力を生成させてくれます。そんなことができるのは偏に、核に古老樹の苗木という規格外の物を使っているだけですがね。とはいえ、まだ苗木なので過信は禁物ですよ。苗木の調子が良い時は魔力を与えずとも活動してくれる、とは思いますが、それと同時に使い魔には主が魔力を与え、誰が主かをわからせておく必要もあります。まあ、この苗木の場合は神に言い聞かせられているので、それも必要ないのでしょうが、それでも使い魔に何らかの成果を与えることで使い魔とより良い関係を築くことができます」

 グランドン教授はそう言って作りかけの泥人形を愛おしそうに見つめる。

 この核を使えば世界最高峰の使い魔が作れるだろうが、今は泥人形にするしかない。

 それは少々グランドン教授にとって悲しく思えることではあるが、それと共に使い魔の中で最弱とされる泥人形が、最強の使い魔になるところも見て見たい、そんな浪漫も持っていたりもする。

 そう思うとやはりグランドン教授はこの使い魔も愛おしく思えてしまう。

「使い魔は確かに道具ではあるのですが、使い魔とより良い関係性を築くことで、仕様以上の力を発揮してくれることも多々ありますので、大事に使ってください」

「はい、わかりました! たくさんかわいがります!」

「少し話がズレましたが、この泥人形にとって、あなたが作った魔力の水薬の残り物。それで作った腐葉土は最高の成果となるとなるという事ですよ。それを取り込むための口と鉢です。まあ、多少防御面でも役に立ってはくれますが、核は古老樹の苗ですので特に気にしなくていいでしょう。それよりは、苗木の育ちやすい環境を整えてあげるほうがよいと我は考えます」

「な、なるほど、ありがとうございます!! 魔力の水薬の残り物は、泥人形のご飯になるってことですか?」

 ミアは少し考えてからそう聞き返した。

 聞き返されたグランドン教授も少しだけ考えて返事をした。

「まあ、そうですな。いずれこの鉢の中はミア君が作った腐葉土で満たされるでしょうが、今は我が用意した特製の腐葉土を詰めておきましょうか。この腐葉土もなかなかのもので、まず千年樹とオリエントの巨木、それと緑青淡墨桜、その他もろもろの葉を混ぜ合わせた特別製の腐葉土で……」

 と、グランドン教授の長いうんちくが始まろうとしたとき、気配もなくすっと人影が現れた。

「グランドン教授…… 腐葉土にしてしまったら…… それらの葉、どれもあまり…… 意味ないですよ」

 その人影、サリー教授はそう言ってグランドン教授に釘を刺した。

 サリー教授を目にしたミアは、まだ言えていなかったお礼を述べた。

「あっ、サリー教授。鉢のほうありがとうございます。受け取りに行った時お礼を言えなかったので」

 サリー教授はそれを聞いて、ミアにニッコリと微笑み返した。

「ふっ、ふむ…… 確かに腐り落ちてしまえば、どれも本来の力を失いますが……」

 と、グランドン教授が慌てて弁明するが、

「特製とか言って…… いつも無駄に確保して…… 在庫余らせて…… 腐らせて…… しまっただけなんじゃ……?」

 と、真実を言い当てられてしまう。

「グッ……」

 言葉に詰まり若干慌てた素振りを見せる。

 使魔魔術において素材の確保は重要なことなのだが、それだけに無駄にしてしまうと事務員達からのあたりがきつくなる。

 なにせ、その数々の珍しい素材の手配をしているのはこの学院の事務員達なのだから。

 素材が命と言っていい使魔魔術、その魔術専行の教授であるグランドン教授にとってはまさに命綱とも言っても過言ではない。

 素材を無駄にしてしまったことは、なるべく隠しておきたいことである。

「え? そうなんですか?」

「とはいえ…… 素材は良い物なので…… 朽木様の心象は良くなるとは思いますけど……」

 少し困り顔を見せながらサリー教授はそう言った。

「わ、我はそれも見越してですな……」

 と、辛うじて笑顔で体裁を保つように述べるが、その笑顔はかなり苦しそうだ。

「泥人形が完成したらすぐに朽木様のところへ見せに行くんですよね?」

 泥人形が完成した後のことを何も考えてなかったミアだが、確かそんな話があったはずだとミアが思っていると、

「あっ…… すぐじゃなくて、少し泥人形の様子を見てから…… かな? い、一、二週…… くらい後かも……です」

 と、サリー教授は鉢に治められた朽木様の苗木を見ながら答えた。

 それと同時にグランドン教授の配下の助教授たちが、せっせと図面通りの配置付近に材料を並べていっている。

「はい、わかりました!」

 ミアはそう返事をして助教授達の手伝いに行こうとしたところ、サリー教授に手を掴まれ止められた。

 それを見たグランドン教授がサリー教授に質問をする。

「サリー教授は今日は何をしに?」

「いえ、あの…… 様子を…… お手伝いを…… ですね」

 と、グランドン教授と、いや、人と目を合わせれないサリー教授がどこか違う場所を見ながら答えた。

「ほぅ、それは助かりますな」

 と、グランドン教授が適当に返事を返す。

「あ、ありがとうございます」

 と、ミアは素直に感謝の言葉を返した。

「人形のほうの図面を…… 見させてもらったんですが、随分…… その…… なんていうか…… ずんぐりむっくりしているんですね……」

 と、サリー教授は、伝わり難くはあるのがだ異議があるのか、そんなことを遠回しで言ってきた。

 が、ミアは、

「かわいいですよね」

 と、ミアが目を輝かせて付け加えた。

 その返答にサリー教授が驚いた表情でミアを見つめた。

「かわ…… そうですか? 我は渋々この形を取っただけであまり気に入ってはないのですが、本人が気に入っているのであれば…… まあ。意外と歩く、という行為自体が、人造の使い魔にさせる事が難しいのですよ。しっかりとした安定性を求める使い魔なら多脚がいいのですが、泥人形となるとそう言う訳にも行かず、こういった形になってしまう訳ですな。一応は我なりに機能美を追求した結果なのですがね?」

 と、グランドン教授が、これだから使い魔というものをわかってない人達は、という感じを顔で表しながら、厭味ったらしい表情を浮かべた。

「いえ…… 私もかわいいと…… 思います」

 と、ミアを見ながらサリー教授は答えた。

 その顔は少し引きつっていたので、内心はわからない。

「では、組み立てをそろそろ始めましょうか。サリー教授から頂いた支えですが、これは使用する場所、決まっていたのですよね?」

 グランドン教授はサリー教授がここに来た理由に実は心当たりがある。

 刻印室でサリー教授が泥人形の組立図を見て、若干慌てたのを目ざとく見ていたからだ。

「は、はい…… 一応は、人の骨を模してはいます…… ただ想定して物より、その…… 配置が…… だいぶ変わってしまっていますが……」

 サリー教授が、言うならば戯れで、いいかえれば長年欲していた流派の奥義ともいえる技術を学べたのでその試しで作った、素材だ。

 とても丈夫で刃物なども作れるものであり、超陶器ともいえるものだ。

 それで試しに使い魔の支えでも作ってみたはいいが、支えが破損した際にその魔力を捻出できるような核が存在しなかった。

 あの支えを通常の核で使用したのであれば、支えを破壊された時点で核にため込んでいる魔力をすべて消費してしまう。

 支えが治っても今度は魔力切れを起こし、使い魔の稼働が停止してしまう。それでは何の意味もない。

 それで使い魔作成を断念し、廃棄するにはもったいないと、自身の研究室の置物となっていた物だ。サリー教授にとっても良い使い道ができたと思うものだし、物がいいのは確かだ。

 ただ、それこそ古老樹の苗木の核でもない限り、その支えを使うのは分不相応だった、というだけの話だ。

「それも想定して我が設計していますので、大丈夫ですぞ」

「でも…… 図面だと手と足の…… 私が…… 想定していたのと、支えが逆に書かれていたのですが?」

 グランドン教授の図面では、本来腕の支えであるべきものが脚に割り当てられ、脚の部分にあたるものが腕に割り当てられている。

 サリー教授は、腕の部分は細かい作業を行えるように作っており、脚の部分は逆に重い物を運べるようにと、負荷に強く、力が出せるようにと作られている。

 制御術式を完成し核に刻印した後で、言っても遅いのだが、それでも伝えておいた方がいいのでは、と思ってサリー教授は慌ててやってきた、というのが本当のところだ。

「はい、存じています。この体形です。どうしても手で支えながら歩かないといけませんので、手によりよく力が出るように手と足の支えを逆にさせてもらいました。手と足を使って歩く、と言った感じを想像してください」

「なるほど…… です。だからこんなに…… 前足にも相当するので…… 腕が大きいんですね……」

 それを聞いてサリー教授も納得する。

 四足獣のようなものかしら、とサリー教授はなんとなく思った。

「ええ、そこでも重心の調整をしているんです。細い方の支えのほうが細かい動きができるのはわかっていたため、直立時にも体勢を維持しやすようにと使用しているのですよ。均衡を保つのは本当に繊細な動きが要求されるのですよ。それにこの支えなら重量負荷など気にする必要ないのでは?」

 グランドン教授はそう言って自分の設計を確かめるように、そしてそれは正しかったと確認するように、何度も頷いた。

「そう…… なんですね。私は、途中であきらめてしまったので…… 作業用のつもりで…… 試しに作って…… そのままで…… 腕のほうの支えのほうが器用にと…… 動く想定でした……」

「でしょうな。おかげでこの使い魔は体勢を崩すことも少ないでしょう。実に素晴らしい支えです。本当によく考えられています。繊細な動きにも対応できているところはさすがとしか言いえません。称賛に値しますよ。これはお世辞ではありません。ついでにサリー教授。この支え、我が作成をお願いしたらいかほどで?」

「え…… えっと…… 一部品につき、原価で、金貨四、五枚って…… 感じでしょうか…… 市場価格なら…… その四、五倍くらい…… です、いえ、もう少しするかもしれません……」

「え? そ、そんな高い物なんですか? ほ、本当に頂いてよかったんですか?」

 と、ミアが目を真ん丸くして驚いた。

 実際の価値はサリー教授が言っていたどころの話ではない金額が付く代物だ。

「構いませんよ。私の…… 研究室でも置き場に…… 困っていたくらいなので……」

 と、良い物なので捨てられはしなかったが、置き場所には困っていたのも事実だ。

 実際、グランドン教授のような人物が目にすれば、喉から手が出るほど欲しいものであるし、実際にグランドン教授はそうしようとしている。

 そんなものを研究室に飾っておくのもサリー教授にとっては、どうにかしたかったものでもある。

「ふむ…… 今度お願いするかもしれないのですが?」

 そう言われたサリー教授はあからさまに、嫌そうな表情を浮かべた。

「え? えーと、今は材料が全部なくなってしまって…… その鉢…… を作るのも精一杯…… だったんです」

「材料なら我がどうにかしまぞ?」

 グランドン教授は是が非でもその素材を、特に使う予定もないのだが、欲していた。

 なにせ見合う核を探すほうが大変なほどだ。

 良質な使い魔の素材の収集癖がある。と言ってしまえばそれだけだ。

「いえ、あの、か、加工の…… 方が、凄く時間がかかるもので…… そう簡単には……」

 断る言い訳のようにも聞こえるが、本当に手間がかかる工程がある。

 サリー教授は試しに作っただけで、もうこりごりといった感じなのだが。

「そう言えば神与知識で作られているんでしたな」

 神与知識。神から与えられた時代錯誤な知識。

 まだ完成していない世界に生きる力なき人類のために、神から与えられる知識である。

「は、はい…… 私の所属している流派の秘伝というやつなので、人には…… 教えれなくて…… 私一人で作業をしないと行けなくて…… ですね……」

 あの支えを作るための素材を作るには永遠と作業し続けなければならない、しかも秘伝の技術のため人に見られずにだ。

 サリー教授はそれを考えただけで、ため息が出そうになるほどだ。

「ふむぅ、価格は市場価格で構いませんし、時間も特に期限はつけないでお願いしたいのですが?」

「そ、それなら…… た、ただ…… 物によっては…… 本当に時間がかかり…… ますよ? 年単位…… ですよ?」

 作る物の量次第では本当に年単位で時間がかかるものだ。

 さすがにそれほどの量の物なら、断ろうとサリー教授も心に決めていた。それを言いだせるかどうかは、また別問題だが。

「はい、それで大丈夫です。

 では、後で設計図と全額を前金で全額お支払いする形で、お伺いさせていただきます」

「は、はぁ…… わ、わかりました……」

 サリー教授はそう言いつつ、とっても嫌な表情を見せた。

 この素材は、元となる素材を本当に細かく、砂なんかよりも細かく、本当に目に見えないほど細かく磨り潰さないといけない。

 さらにその粒子ともいえるような物が均等な大きさでないといけないため、本当に手間のかかる作業となる。

 鉢を追加で頼まれたときは、材料に余剰分があったのでどうにかなったが、それも鉢を作るので使い切ってしまい今はそれも全くない。

 しかも秘伝の技法のため人にも頼めないと来ている。

 サリー教授はこの素材の元になる物を作るためだけの使い魔を、目の前の男に注文したほうが楽なのでは、と考え始めているほどだ。

「教授、支えの仮設置。完了しました」

 グランドン教授の助教授、その中でも助教授たちのまとめ役と言って良いトラビス助教授が伝えてきた。

 仮設置といっても、止めれる物がないので、付近に置いただけだが。

 泥人形という使い魔の組み立てで最も困難なのが、この支えの固定化作業だ。

 使い魔として、粘土が意志を持ち始めるまでなにかで固定しておかないといけない。非常に手間と時間がかかる作業だ。

「では、髪の毛を適当に…… 絡めてから粘土を…… 勝手に…… 絡まってますね……」

 グランドン教授が茫然としながら、そう口にした。

「え?」

 と、その場の全員が仮設置したばかりの泥人形の方に目を向けると、鉢の穴から這い出た髪の毛がひとりでに蠢き、図面通りに支えの部分に絡みつき固定させていた。

 まるで髪に意識があるような、いや、苗木に完全に掌握され動いていると言っていい。

 これほどまで動き回る髪の毛など呪物以外の何物でもない。

「こ、これは驚きですな。ハハッ、本当に素晴らしい、これなら徹夜などいりませんな。日が暮れるころには完成できますよ」

 と、グランドン教授が言うが、さすがに驚きを隠せてはいない、どころか、冷や汗が頬を伝っていった。

 あの呪物のような髪をそこまで自由に操れるのなら、苗木単体の方がはるかに高性能だ。

 わざわざ泥人形などにする必要もない。ないのだが、これは神の意思なのだ。しかも破壊神のである。従わなければならない。

 苗木とはいえ古老樹ですら従っているのだから。

「こんにちはっ…… っと、うぇ、何この…… なに?」

 土曜日のデミアス教の集会が終わりミアの元にやってきたスティフィが見た物は、艶のある漆黒に包まれた歪な人型のような何かだった。

 その漆黒の髪は艶やかでしたたかに蠢いている。

 スティフィが驚くのも無理はない。

「あっ、スティフィ。なんか久しぶりな気がしますね」

 と、ここにいる人間の中で唯一動揺してないミアがスティフィに挨拶をした。

 挨拶をされたスティフィは、漆黒の物体とミアを交互に見た後、

「昨日粘土を運ぶときに会ってるでしょうが。というか、なんなのこれ?」

 と聞いてきた。

「えっと…… なんなんですかね? これ」

 ミア自身首を傾げた。

 泥人形の骨格なのだが、そう言いきれない何かだ。

「作り途中の泥人形の骨格なのですが…… まあ、もはや呪物というか、いえ、神器にも劣らないなにかですな…… 苗木とはいえ古老樹ともなるとここまで力を持っている物なのですねぇ…… さすがに我も驚きを隠せません……」

 と、グランドン教授ですら、驚きを隠せていないことを吐露している。

 古老樹とはいえまだ苗木だ、人間で言うならば赤ん坊のようなものだ。

 こんなことできるとは思いもしていなかった。

 しかも、自在に操っている髪の毛は、苗木本来の物ではないのだ。

「朽木様の苗木とはいえ…… ここまでとは、わ、私も…… 想像にしてませんでした…… こ、古老樹以外の要因…… もあるのかもしれない…… です……」

 サリー教授も険しい表情を浮かべそう述べた。

 古老樹の枝や根が動くのであれば、それは理解できる話というか、古老樹であれば普通のことだ。

 が、古老樹の苗木が操っているのは髪の毛だ。

 しかも、何かを縛り上げるほど自在に操っているし、髪の毛の量も驚くほど増えている。

 刻印の儀をする前はあっても精々人の頭分ほどの毛量だったが、すでにその量はどれくらいあるかわからないほどだ。

「ふむ、となるとミア君の髪の毛しか、心当たりはないですが…… 本当にロロカカ神は髪の毛と何も関係がないのですか?」

 と聞かれたミアも不安になる。

 自分の物が元になっているとはいえ、際限なく伸び、漆黒で艶やかで変幻自在に蠢く髪は人知を超えた力を感じずにはいられない。

「え? えぇ…… 少なくとも私が知っている限りでは……」

 一応はそう返すが、ミア自身もうすでによくわからないでいる。

 もしかしたらロロカカ様は髪に関係する神様なのかも、と思い始めるほど異質な光景だ。

 しばらく誰もが絶句してその泥人形の骨格から目を離せないでいたが、不意にグランドン教授が言葉を発した。

「ああ、ミア君の抜け毛もこの泥人形に食べさせてしまいなさい。それが良いと我は思いますぞ。恐らくそれが一番安全な処理方法です。燃やすより確実ですし、この使い魔も、恐らくは喜ぶことでしょうし……」

「だ、大丈夫なんです…… か? そ、そんなことをして?」

 とサリー教授がグランドン教授に聞き返す。

「使い魔に与えるというよりは、古老樹に献上する、という方が正しいでしょうな。仮にミア君の髪の毛が危険な呪物だったとしても、ここまで自在に扱えているのであれば問題ないでしょうし」

 と、この現状を見てグランドン教授は判断した。

 さすがにミアの髪の毛が呪物だったとしても、さすがに古老樹で朽木様の苗木の制御下にあるのであれば、それは安全なはずだ。

「あっ、なるほど…… そう言うことですね…… そ、それなら……」

 と、サリー教授も納得する。

 人間に手の付けようがない呪物でも古老樹に捧げることで安全に保管することができる。

 古老樹にはそう言った特性もあるため、神ではないが信仰の対象になっていたりもする。それを考えれば、ミアから抜け落ちた髪の毛を古老樹である苗木に管理させるのは正しいことに思える。

「え? ど、どういうことです?」

「ミア君の髪の毛は、言ってしまえば天然の呪物のようなものです。今まで何も起きなかったのが不思議なくらいのです。それを古老樹に献上し、管理してもらう、という感じですな。古老樹、上位存在に献上した物なので、どんな呪物であろうと安定化してくれるはず…… という発想ですな」

「な、なるほど……?」

 と、ミアが返事するが、その顔は理解できていないようだ。

 ミアはまだ古老樹のことをそれほど学んではいないからだ。

 苗木をもらってからは学ぼうとは思っていたが、慌ただしくてその機会がまだないままでいた。

「ミアの髪の毛ってそんなにヤバいんです?」

 スティフィがミアの頭部、その艶やかな髪を見ながらそう、誰に言うでもなく言った。

「他に類を見ない程度には…… ですな。正直、今まで何も起きなかったのが不思議でしかありませんな」

「も、もしかしたら、その帽子が…… どうにかしていたのかもしれませんね……」

 サリー教授がミアが今も被っている帽子を見ながらそう言った。

 神の使徒よりもたらされた神の力が宿る帽子だ。それなら今まで何も起きなかったことも説明がつくし、帽子がミアの元へ戻って来る理由も頷けるものがある。

「それは…… あり得ますな。そのために授けられたのでは?」

 とグランドン教授が言う。そして口には出さなかったが、もしくはその帽子の影響で髪の毛が呪物化している可能性も捨てきれない、とも考えていた。

 少なくともわかっていることは、ミアの髪の毛が天然の呪物とそう変わらない代物だという事だ。

「まあ、今考えても答えはでません。今は泥人形を完成させましょう。一番手間がかかる仮設置の固定化をやっていただけたようなので、日が暮れる前に終わらせますぞ。本当に術式の翻訳が山場でしたな……」

 グランドン教授はそう言って遠い目をした。

 あとは骨格に粘土を肉付けていき、定着してくれるのを待つだけだ。

 それもこの古老樹の核と呪物のような髪の毛のおかげでさっさと終わるに違いない。

「設計図通りなら、あとは粘土で肉付けをするだけで良いんですよね?」

「ええ、本来はこの仮組が難しくてですな、泥人形の最難関と言われているところなのですが…… それももう勝手に終わってしまいましたな」

 グランドン教授はただただ呆然としている。

 使魔魔術の専門家にしても規格外のことばかりが起きているのだ。

「助かりましたけど、勉強にはならなかったですね」

 ミアは少し残念そうだ。

 ミアは魔術を習いにこの魔術学院に来ている。その系統が何であれ、ミアは学べるものは学ぶべきと考えている。

 その機会を失ったことはミアにとっては損失だ。

 だが、その言葉を聞いたグランドン教授が即座に反応する。

「使い魔に興味があるのなら、我の講義を引き続き受けてください。女生徒は中々貴重ですので歓迎しますぞ」

 ミアは女生徒だからという理由ではない。

 魔術師として優秀だからだ。手元に置いておいて損はない、グランドン教授はそう理解している。

「なんでです?」

 とミアが質問するが、

「なぜか女性は使魔魔術より精霊魔術の方に流れてしまうのですよねぇ」

 と、グランドン教授にも理由がわからなそうだった。

「ああ、それは女子が使魔魔術を学ぼうとすると、女に飢えた男どもが群がってきて上から目線で、素材がどうとかこうとか、聞いてもいないことを言ってくるからですよ」

 スティフィのその言葉に、グランドン教授とその配下の助教授たちが固まった。

 なにか心当たりがあるのかもしれない。

「は? そんなことでですか? しかし、どこの使魔魔術も女子は少ないと聞いていますぞ」

「グランドン教授はまだマシですけど、なんか使魔魔術の研究員ってみんな根暗な人が多いんですよ、教授も含めて。どこもそんな感じで、女なれしてないっていう感じで、それに使い魔に妙なこだわり持ってるしで?」

「我が…… まだマシ?」

 グランドン教授がそう言って複雑な表情を浮かべていたが、その目じりはピクピクっと痙攣したように動いている。

「一時期、リーウッドの使魔魔術の研究室に潜入していたことあるけど、やっぱり女なれしてない根暗な男ばっかりで、表立って行動しない癖に、裏では付け回して来たりでうんざりよ、もう」

 と、心底めんどくさかったというようにスティフィがそのことを思い出してため息をついた。

「リーウッドと言えば、使魔魔術で有名な魔術学院ですな。そこにいたのですか?」

 リーウッドの名を聞いてグランドン教授が興味を持った。

 使魔魔術を学ぶものに女子が少ない、ということよりも使魔魔術で有名なリーウッドの研究室にいたということのほうが、今は興味がある。

「対象かもしれない人物がいるかも、ってことでね。私が選ばれて一時期潜入してたんですよ。結局人違いだったんですけどね」

「その話、少し詳しく聞いても構いませんかな?」

 興味深そうにグランドン教授が聞くと、

「あ、専門的なことはまるでわからないですよ。生徒として潜入してたわけじゃないので」

 という言葉が返ってきた。

 それと同時に少し後悔しているスティフィがいるのをミアは理解していた。きっと今頃は内心、調子に乗って喋りすぎた、と思っているのだろうと。

 そこでミアは、

「今は、そんな事よりも荷物持ち君を完成させましょう」

 と提案した。

「荷物持ち君?」

 という言葉がその場にいる複数の人物から返ってきた。

「はい、この泥人形の名前です」

「ミア…… そんな名前でいいの? 古老樹の苗木を使ってまで作った使い魔なのよ?」

 と、スティフィが言ってくるが、実は最初から決めていたことだ。

 特に変更するつもりもないし、そのための泥人形なのだ。

「いえ、でも、元々荷物持ちにと作る予定だったので。わかりやすいかなと…… だめですか?」

 そう聞かれたグランドン教授も微妙な表情を浮かべていた。

 なによりこの使い魔は朽木様に見せに行かなければならない使い魔だ。よりによってそんな名前を付けるとは思いもしなかった。

「ま、まあ、ミア君の使い魔なので命名権はミア君にあるのですが…… サリー教授、平気ですかな?」

「だ…… 大丈夫…… だとは…… お、思いますよ…… 多分……」

 そう返事をするサリー教授は、朽木様に見せに行くことを考えると不安だった。


 土曜日の日が暮れる前に、無事ミアの使い魔、荷物持ち君一号は完成した。

 色々と規格外の使い魔ではあるが、使い魔としては最低位の泥人形である。

 予定通りこの使い魔は荷物持ちとして扱われる事となる。

 それはしばらくの間は、という話だが。



あとがき

 誤字脱字は山のようにあるかと思います。

 指摘して頂ければ幸いです。


 サリー教授が作ってくれた素材は、言うならばお手製のファインセラミックです。

 もちろん人の手で作る物なのでその品質は良くないですが、他の陶器などと比べ物にならないほど強固です。

 また破損しても魔力を消費して自己修復が可能な術式が組み込まれている非常に素晴らしいもので、表面にある凹凸でその術式を作っているという品物です。

 サリー教授は市場価格は四、五倍と適当なこと言っていますが、少なくとも十倍はくだらない代物だったりします。

 とはいえ市場に流通するような物でもないので、値段のつけようがない物ですが。

 

 あっ、はい、どうでもいいですよね、はい……


 ついでに荷物持ち君一号は、両手両足を巧みに使いゴリラみたいな移動方法をします。

 これもどうでもいいですね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ