最東の呑気な守護者たち その4
「ピッカブー? なんですか、その、なんか楽しそうな響きの名前の外道種は?」
グアーランという名の外道種以外にどんな外道種がいるのかという質問に上がってきた外道種の名の中にミアの気をなんとなく引く名があった。
それがピッカブーだ。
ミアの反応を見て、スティフィが知っていることを教えてやる。
「小熊の容姿をした外道種らしい…… 確証はないけど」
「ん? 小熊のぬいぐるみじゃなかったか?」
それに対してエリックが付け加える。
少しムッとした表情をしたスティフィが言い返す。
「正確には正体不明。着飾った小熊、もしくは子熊のぬいぐるみのような恰好をした外道種、って言われているけど、それ以外の詳細は全く不明ね」
スティフィも実際にそんな外道種と出会ったことはない。
ただ有名な書物のいくつかにその名前が何度か出て来る。
かわいらしい外見とは裏腹に恐ろしい外道種だったと書かれていることが多い。
だが、どの記録にもなにがどう恐ろしいのか、具体的に書かれていることはない。
言ってしまえば、名前とある程度の姿形以外、詳細不明の外道種だ。
「それがピッカブーなんですか?」
ミアはとりあえず小熊を思い浮かべる。
そして、想像上のそれを着飾らせて想像して楽しむ。
「それらしきものが、グアーランの他にいたらしい…… というか、グアーランの肩に乗っていたって話よ」
グアーランというのは鹿を直立させて二足歩行させ大柄にしたような外道種だ。
その肩に小熊のぬいぐるみがちょこんと乗っているのを想像すると、どうしてもミアには微笑ましく思えてしまう。
「なんだか想像するとかわいらしいですね、鹿の肩に小熊とか」
実際だと相手は外道種になる。
本能的に敵と認識する程の嫌悪感を感じ、現物を見てもかわいらしいとは思わないに違いない。
「ただ、北西旅行記っていう古い旅行記には、とても恐ろしい外道種って記述があるんですよ、気をつけてくださいね」
ジュリーも心当たりがあるのか、本で読んだ知識ではあるが注意を促す。
それをさらにフーベルト教授が補足する。
「他の古い書物にもピッカブーの名前は度々出てきますね。ただやはりその書物でも正体は不明扱いです。それなりに多く記録は残っているんですが、どうも曖昧な記録しか残ってないので不思議な外道種ではありますね」
結局のところ正体は不明で、どんな外道種なのかもわからないらしい。
それを聞くとミアはピッカブーがどんな外道種なのか、ミアは気になって仕方がない。
「それがいたんですね、鹿の肩に乗って」
今のところミアは、見てみたい、などとそう思っている。
だが、それが可愛かったとして、相手は外道種だ。
倒さないといけない敵には違いない。
「さあ? 確定じゃなくて、姿形からピッカブーじゃないかって話だけど…… 結局ピッカブーは詳細も何もわからないので、対策もなにもないわね」
スティフィは動かせる右手だけをあげて、おどけて見せる。
そこで一旦、ミアのピッカブーへの興味も大体落ち着き、
「他にどんな外道種が確認されたんですか?」
と、フーベルト教授に聞く。
今はそんな正体不明の外道種に気を取られている場合でもない。
「前回の襲撃にはいなかったんですが、サリーとエリックくんが倒したウィンシャランらしき存在も、最近になって度々見かけられたって話ですね。もしかしたらサリーが倒したのと同一個体かもしれないですけど」
同一個体であったならば幸いだと、フーベルト教授は願いながらそう答えた。
ウィンシャランは一対一では、どんな英雄でも勝てない外道種とも言われている。
とにかく厄介な外道種なので、確認された個体が、サリー教授とエリックで倒したものであるのならば嬉しいことはない。
「あれはマジでヤバかったぞ」
エリックがウィンシャランとの戦いを思い出し、冷や汗を流しながら口を開く。
「栄光を転落させる者って、意味の名前らしいわよ。英雄と呼ばれる様な人間でも一対一ではあっけなくウィンシャランに負けるってことで」
太古の昔からウィンシャランはそういった存在だった。
見た目は、丸太のように分厚い角を持った一つ目の牛だ。
また口が地面に開くほど大きく開き、口の内部にももう一つの目を持つ。
その、どっちの単眼も魔眼であり、外側の魔眼は物理的な力場を作り全ての攻撃を防ぎ、口の中の魔眼は目が合うと強力な金縛りを起こす。
同時に二つの魔眼を使用することはなく、ウィンシャランを倒すには口の中の目を使わせているときに攻撃するしかない。
なので一対一ではまず勝ちようがない、と言われている。
「たしかに、あれはマジで無理だぞ。口の中にも大きな目があって、その目と目が合うと動けなくなるだぞ」
実際エリックも金縛りにあい、喰い殺される寸前のところだった。
「ウィンシャランは…… 特に厄介ですから…… 情報の共有を……」
サリー教授もウィンシャランという外道種と対峙して、その厄介さを目の当たりにしている。
特に外側の魔眼は不意打ちの一撃も完全に防ぐようで、外側の魔眼が発動している時は手の出しようがない。
「でも、目が合うと言うことは、目がない赤芋軍団には、その金縛りの力も無力なんですかね?」
ジュリーが少し疑問にでも思ったのか、それをサリー教授に聞く。
サリー教授としては、その質問に、はにかんだ顔を返すことしかできない。
周りに人がいなければ、そんなことわかるわけないじゃないですか、と、ジュリーにため息交じりに返していたかもしれないが。
「表にも普通に大きな一つ目があって、そっちはあらゆる攻撃を防ぐんだぜ? それで竜鱗の剣ですら止められたぞ」
エリックは信じられない、というように少し大袈裟にそう言った。
実際には竜鱗の剣の一撃を受け止めたわけではなく、魔眼で作った力場を使い、竜鱗の剣を持つエリックの腕を受け止めただけなのだが、エリックはそれに気づいていない。
竜鱗の剣だけならば、ウィンシャランの魔眼だけでは止めることは出来ない。
外の世界から来た獣、竜とはそういった存在だ。この世界の法、また外法にすら縛られない力を持っている。
その抜け落ちた鱗で作られた剣も同様なのだ。
なので、実は竜鱗の剣を投げつければ、それで簡単に倒すことは可能だったりもする。
そのことを知っていて、貴重で結構な重量のある竜鱗の剣を投げることが出来れば、ではあるが。
「まあ、ウィンシャランが出たら絶対に複数で立ち向かうことね」
スティフィがそうまとめる。
ただ普段は単独で行動しているウィンシャランも他の外道種と一緒に現れたらそうも言ってられない。
そんな光景を見ていたアランが感心したように、
「キミたちは…… 随分と外道種と戦い慣れているんだな」
と、話に入ってくる。
それに対して、スティフィはニヤリと笑って、
「人間相手程じゃないわよ」
と、からかうように言葉を発する。
そして、実際にそうだと感じさせる何か雰囲気のようなものをスティフィは持っているので厄介極まりない。
だが、アランはスティフィのことを邪教の戦士かなにかなのだろうと、勝手にそう思い、まともに取り合わないで無視する。
「ん? まあな。外道種の大群と戦ったこともあるぞ。それと闇の小鬼にウィンシャラン、シキノサキブレも含めていいか? 後は俺は虫種ばかりだな。一時期は、そっちとばっかり戦ってたぞ」
その代わりにエリックがアランに向かい返事をする。
訓練生にしたら輝かしい戦歴だ。
エリックが虫種とばかり戦っていたのは、一時期、騎士隊で虫種相手の山狩りをしていたせいだろう。
そのおかげで始祖虫発見にまで至るわけだが。
「シキノサキブレはあんたの部屋から湧いて出てきただけでしょうに」
アランがエリックの戦歴に驚いていると、スティフィが突っ込んでくる。
「あれは俺のせいじゃないぞ? マーカスが悪いんだよ、マーカスが!」
エリックの発言はもっともで、実際、あれはマーカスに責がある。
その結果、マーカスは騎士隊訓練校を休学して、オーケンの使い走りのようなことまでしていたのだ。
一応、フーベルト教授とオーケンの娘のサリー教授が結婚するまで、という約束だったので、今はマーカスはオーケンから解放はされているが。
その代わり今度は冥府の神の使い走りをやらされていたりはする。
「それは…… まあ、そうね」
スティフィもエリックの反論に頷く。
「なんか現役の俺達より外道種に詳しそうだし、実戦経験も豊富そうだな。頼もしいばかりだ」
特に外道種との戦闘経験がある人材は貴重だ。
魔術学院の教授以外にも、こんな戦力になりそうな人材がいるとはアランにとっては嬉しい限りだ。
実際、外道種と遭遇するとその異様さから、心が折れてしまう人間も少なくはない。
外道種に再び立ち向かえるだけで、十分な素養がある。
「逆になんでこんな辺境の村なのに外道種と戦い慣れてないのよ」
スティフィからしたら、この村はのどかすぎる。
ここまで人気がないような場所で、辺境と呼べるような場所では、外道種の動きはもっと活発なはずなのだ。
少なくともあんな薄い木の板で村を囲っているだけでは、外道種の被害を防げはしないはずだ。
「ここは町だ! この辺りは本当に今までは外道種が少なかったんだ。だから、足掛かりとして騎士隊詰め所がつくられたんだ」
村と言われたことにアランは憤りながらも、なぜ騎士隊詰め所がこの地に作られたのかを説明する。
この地を騎士隊の東外縁部の足掛かり的な場所として、最初は詰め所を作られていたのだ。
だが、領地でもないような場所では騎士隊の資金繰りも上手く行かない。
詰め所を作ったはいいものの、それ以降手を広げることが出来ずにいるのが現状で、その現状を維持するだけで精いっぱいなのだ。
「けど、作られただけで、足掛かりにもなってないじゃない」
それをスティフィに見破られ、突っ込まれるとアランは顔を顰める。
「ぐっ…… まさにその通りだ」
そして、それを認める。
この詰め所では慢性的に人手も物資も足りない。
「やっぱりあの滅びた村が外道種を引き寄せていたんですかね?」
だとすれば、あの村の存在意義は一応あったわけだ。
だが、それも今となってはどうなるかわからない。
人の手をかけなくとも長い年月をかけて淀んだ地脈も正常な物へと変わっていくだろうし、ミア達は知らないが、アビゲイル達があの滅んだ村を手早く正常な地へと戻してくれるはずだ。
ただ、そうなると逆にあの村に集められていた外道種が辺りに散らばることにもなる。
このまま、街道が封鎖されていてもだめだが、それと同時に外道種の被害が分散していくことも事実だ。
少なくともこの町は外道種の被害は多くなるに違いない。
もちろん、滅んだ村が全く無関係の可能性も十分にある。
この村が襲われたのは滅んだ村を解放する前の話なのだから。
「なら、これからは今まで以上に外道種が現れるようになるということか?」
そのことをアランが問う。
アランにはミア達を責めるつもりはない。
ミア達とて神に頼まれて、異常な状態の村を解放しただけだ。
それを、神の命に従った者達を責める事などできる訳もない。
「かもしれないし、違うかもしれない。流石にわかんないわよ」
スティフィは無責任にそう言った。
もしかしたら集まっていた外道種も、より人気のない場所に帰っていくだけということも十分にあり得る。
「だが、あの辺りは確かに外道種が異様に多いと言われていたな」
あの滅んだ村があった場所は街道から外れると異様に外道種と出くわしていた。
街道には、アランもどの神かもわからないが神の加護でもあるのだろうと、勝手に思っていたくらいだ。
「ピッカブーとか、わかっても情報が得られないような奴以外に、確認できた外道種は居ないの?」
スティフィがそういうと、アランも話を戻す。
未来のことよりも、今は早々に起こるかもしれない外道種による襲撃の方に対策を優先すべきだ。
「名前はわからないが、動く死体のような存在もいたな。でも腐乱臭はないし斬っても血すら出ない不気味な奴だった」
アランはそういえば、不気味な存在がいたのを思い出す。
動きは緩慢だったが、何度斬りつけても、首を跳ねても倒せず、最後は火をつけて燃やすしか対処法がなかった外道種だった。
「血すら出ない? それ…… シキノサキブレじゃないの……?」
それを聞いたスティフィが目を丸くする。
スティフィも一度出会った外道種ということで、シキノサキブレのことについて少し調べている。
死蝋化した死体に憑りつく変わった外道種で、動き出した死体、シキノサキブレは、死蝋化した死体と同じく腐敗臭もないし、死体を損壊しても血を流し出すこともない。
「シキノサキブレ?」
アランはその名に聞き覚えがない。
外道種の中でも、特に珍しく、あまり記録も残っていないものなので、アランが知らなくとも無理はない。
「死蝋化した死体に憑く外道種でとても珍しいって話です」
ミアが補足する。
地脈の流れに乗って死蝋化した死体に憑りつくというのであれば、この辺りにもシキノサキブレがいてもおかしくはない話だし、マーカスの飼い犬に憑りついたものと大元は同一個体なのかもしれない。
「あのカビの外道種かよ、あのせいで俺、かなり先輩に怒られたんだぜ? 俺、悪くないのによ」
エリックも自分の部屋の地下に巣くっていた外道種を思い出してうんざりとした顔を浮かべる。
あれのせいで、しばらく拘束されるし、帰ってくると自室どころか寮自体が解体され、そのせいで騎士隊訓練生の先輩達からはさんざん文句を言われたからだ。
「しばらく外道種に憑かれてるかもって疑い掛けられてたわよね」
スティフィはそう言って、思い出したかのようにクスクスと笑う。
「そうだぜ、まったく……」
「後は、黒い獣、狼のような獣の背中から触手が二本生えた奴がいたな。俺が偶然気づけて、目を合わしたら逃げていったが……」
一体どんな訓練生なんだ、とアランも呆れながら、話しを続ける。
大型で真っ黒な四足獣の外道種はアランが見かけると、戦うことなく逃げていった。
それでアランも、その時の襲撃が威力偵察なのだと理解できた。
アランも見ただけであの黒い獣の外道種はヤバイ奴だと理解できるほどの存在だった。
あの外道種がその気になっていたら、恐らく今この町に騎士隊は残っていなかったはずだ。
「げっ、狼の背に触手って、グレッサーじゃん…… それも相当ヤバイ外道種よ」
スティフィはそう言って顔を歪ませる。
グレッサーは、狼いうよりは黒豹を大きくしたような獣の外道種だ。また背中に二本の長い触手を持つ外道種で、普段は人里離れた森に住む。
森の暗殺者と異名を持つ外道種でもあり、その奇襲は音もなく獲物を確実に仕留める。
偶然アランの目に留まってしまったため、その時は引いたのだろう。
体内に埋め込まれた感知系の魔術を失った今のスティフィでは対処法がない相手だ。
「グレッサー?」
ミアがその名を聞き返す。
「そいつも北の外道種だな。単独で村一つ滅ぼすような厄介な外道種だぞ」
エリックがそう言って、やはり顔を顰める。
エリックも特に苦手とする相手だ。
正面から戦う様な相手ではなく、グレッサーは奇襲を好む外道種だ。
一人を奇襲で倒し、また身を顰め、再び奇襲を仕掛ける。
そんなことを繰り返し、村一つを一匹のグレッサーが無傷で滅ぼしたという逸話があるくらいだ。
全身真っ黒の、その外道種が音も気配もなく闇夜にでも紛れたら、実際対処のしようがないと言われている。
「これは…… 本当に不味いですね……」
グレッサーの名を聞いて、フーベルト教授も顔を顰める。
単独ならまだしも、外道種同士で連携でもされたら、グレッサーの能力はとても厄介なものだ。
それにグレッサーも通常は単独で行動する外道種だ。その能力故に同種同士でも共に行動することはない。
それが同種でもない外道種と群れで襲ってきてたということは、やはりそれをまとめるような存在がいると言うことで間違いはなさそうだ。
つまり、外道の王の存在だ。
「どう不味いんですか?」
ミアが問うと、サリー教授が答えてくれる。
「ここまで多種多様な外道種となると…… 本当にそれを取りまとめる存在が…… いるかもしれません」
それを聞いて一番驚いているのはジュリーだ。
「外道の王…… がいるというのですか?」
その身を震わせながらサリー教授に向かい確認する。
「可能性は…… あるというか…… かなり高い…… と思われます」
サリー教授の言葉にジュリーが絶句する。
魔術学院の教授であるはずのフーベルト教授も、なぜか下手に出ている女性、サリー教授も教授であると知らないアランは少し不思議に思う。
「この方は?」
と、アランが問うと、ここぞとばかりにスティフィが笑顔で答える。
「サリー教授も魔術学院の教授よ。そこのフーベルト教授の何倍も教授している方よ! しかも…… なんでもないです」
少し自慢げにそう告げる。
勢い余ってオーケンのことまで口にしようとして、サリー教授の視線に気づきすぐさま口を噤む。
「教授が二人も?」
それを聞いたアランは驚く。
「二人は新婚さんです」
さらにミアがそう言ったので、本当に目を丸くして驚く。
それを、新婚という言葉を聞いたサリー教授が嬉しそうに頬を赤らめる。
嬉し気な表情を隠すように目線を下げたが、それに気づいた人間はほとんどいない。
「な、なるほど…… 教授同士でとはまた珍しい」
何かと我の強い人間が多いのが魔術学院の教授という人種だ。
その教授同士が結婚など本当に珍しい話だ。
「そんな事より他に情報は?」
スティフィが再度質問をする。
「と、言われてもな、正直、今まで見たこともない外道種ばかりで、その名前すらわからない」
確かに外道種という種族は特徴の塊の様な種族だ。
だが、それも対象が全て特徴的であるのならば、どれから話してよいかアランにも判断が付かないのだ。
「特徴を…… 一つずつ…… 教えてください……」
サリー教授はアランの目を真剣な表情で見る。
法の外にいる種である外道種は、ただ剣で斬るだけでは倒せない種も存在する。
見た目以上に異常で、その対策方法を知ることが重要となってくる。
外道種の種類を判別することは、想像以上に重要なことだ。
「外道種は倒し方がある程度決まっているものもいますので、種類がわかるだけで対応しやすくなるんですよ」
フーベルト教授もそう言って、アランから話を聞き出そうとする。
外道種との戦いは情報が全てと言ってもいいほどだ。
「それは、もちろん分かっています。今、部下にまとめさせているので……」
アランはそう言って少し焦り始める。
今まで外道種の大規模な襲撃どころか、まともな被害もなかった村だ。
一応、アランも剣の訓練は欠かしてはいなかったが、実戦経験は野生の獣相手の方が多いくらいだ。
「あれ? あんたは現場に出ないの?」
スティフィはそんな慌て始めたをからかって嘲わらう。
そんなスティフィに向かい、アランはムッとした顔をして、
「これでも現場には出ている。一々揚げ足を取らないでくれ」
と、語気を強める。
それを見かねたサリー教授はこれ以上は争いごとになると、
「スティフィ…… さん?」
と、少し鋭い視線をスティフィに向ける。
その視線を向けられたスティフィはすぐに背筋に寒気を走らせる。
「は、はい、すいません。もうちゃちゃは入れません」
そして、サリー教授に向かい頭を下げる。
あまりにもスティフィがあっさりと従うので、
「その…… サリー…… 教授もデミアス教なのですか?」
と、恐る恐るアランが問う。
「違います!」
サリー教授は不愉快といった表情でそれを否定する。
「まあ、色々と理由はあるのですが、彼女は我々の、人間の中では、ですが間違いなく一番強いので……」
少し補足するようにフーベルト教授が笑いながら言った。
「そ、そうなんですか、見た目に寄らないものですね」
確かに、デミアス教は強いものに従う邪教だったと、アランも納得するが、一番オドオドしているサリーという名の女性が一番強いという発言には納得できないでいた。
そこへ、村の中心部、倉庫にあった赤芋を集められた村の広場に、アラン以外の騎士隊が走ってやってくる。
「隊長、外道種達のまとめが出来ました! それとウィル達も戻って来てます! 確かに街道は人が通れるような状態ではなかったそうです!!」
大声でそんなことを言いながら一人の騎士隊が走り寄ってくる。
それを聞いた町民達に不安が走る。
街道が通れないということは騎士隊の援軍が来ないということだ。
それくらいは集まっている町民にもわかる。
町民達に動揺が走っているのを見て、スティフィは素人の集まりなのかと、ここの騎士隊に対して舌打ちをする。
「そうか…… やはり援軍は期待できないか。それはことだが、今はまとめた物を教授達に渡してくれ……」
アランは走ってきた騎士隊員に、そう告げて、見るからに落ち込む。
まだ若く経験も少ないアランには、それを隠す余裕がない。
なんなら、援軍が到着したら、そちらの隊長の指揮下に入るつもりでいたくらいだ。
「落ち込んでる場合じゃないでしょ。援軍よりも頼りになるのがミアなんだから」
動揺しているアラン、騎士隊員、それと町民にも聞こえるようにスティフィが大きな声でそう言った。
これでは戦う前から、負けだと認めているようなものだ。
恐らくは町民にも戦闘に参加いてもらわないとどうにもならない。
少しでも士気を高めなければならない。
「それはそうだな。援軍が来たからといって村を壁で、こんなにも早く囲うことはできなかったしな」
アランも顔をあげて、確かに目の間に積まれている赤芋が全て巨大化すれば、外道種など敵ではないと希望を見出す。
「隊長、あの奇怪な芋はなんですか? 新種の外道種かと思いましたよ」
また別の騎士隊が走り寄って来て、アランに確認する。
別の騎士隊が町の外で待っていたから戦闘にはならなかったが、危うく町が襲われているのかと、街道の様子を見に行っていた騎士隊員のウィルは巨大な赤芋を攻撃するところだった。
「ウィルか、あれが援軍の代わりだ。味方だから攻撃しないようにな」
アランはそう言って笑う。
援軍の代わりが赤芋とは。
それを考えると、変な笑いが勝手に湧き上がってくる。
「は、はい……」
ウィルという騎士隊員もよくわからないが納得する。
そのとき、外道種の目録を受け取り目を通していたフーベルト教授がため息交じりに言葉を漏らす。
「これは…… 腐ったような竜の姿…… グエルドンですかね?」
「グエルドン?」
「西側や東の沼地で見られる外道種で、その息を浴びるとなんでも腐ってしまう外道種、でしたよね、師匠?」
ジュリーがその名を聞いて震えながらサリー教授に確認する。
だが、サリー教授は上がってきた外道種の目録の方に気が行ってしまっている。
この目録に記されている外道種はどれもこれも厄介な外道種ばかりだ。
「そうですね…… こちらは蛙貴人の特徴を持つ…… 複数の尾を持つ妖狐まで…… これは……」
どれもこれも厄介な外道種の特徴が書かれている。
しかも古今東西の様々な外道種の特徴がだ。
この目録をみた、サリー教授とフーベルト教授は、外道の王の存在を完全に確信する。
「蛙貴人って、俺が戦ったやつか?」
アビゲイルを追ってやって来ていた外道種の中に、その名に当てはまるような、そんなような奴らがいたことをエリックは思い出す。
「そいつらを取りまとめている奴ね。沼地の外道種ね…… アビゲイルを追ってきた奴の残党なのかしら?」
血水黒蛇という妖刀に我を失いつつも、その記憶はちゃんと残っているスティフィはエリックに教えてやる。
蛙貴人も怪しげな多数の術を使う厄介な外道種だ。
魔術とは、そもそも大系が違う外法の術で、人間には理解できない非常に厄介な術を操る外道種だ。
「この燃える宙に浮く顔というのは、エンラキエラですかね…… 外道種の展覧会ですか、これは……」
フーベルト教授も驚きながらそんな言葉を漏らす。
想像以上に多彩な外道種が集まっていて、そのどれもが厄介な力を持っている。
本心としては、この町を見捨てて逃げ出したい気持ちでいる。
「まずいんですか?」
と、ミアが少し心配そうに確認すると、
「はい、これは想像以上ですね。冬山の王が出てきた外道種の集団の時よりも確実に大規模ですね」
と、フーベルト教授は断言した。
あの時はアビゲイル一人を追ってきた、という割にはかなり大規模な外道種の進軍ではあったが、この村への襲撃はそれを確実に上回るものだ。
しかも、沼地に住んでいる外道種だけでなく、世界中の外道種が集結しているようにも思える。
「あれよりかよ……」
エリックはそう言って顔を歪ませる。
あの時もそれなりの外道種はいたが、実際はエリック達数名でどうにか戦えはしていたのだ。
エリックからすれば、死に物狂いで戦ってはいたが。
それ以上だと容易く言われ、エリックも顔を引き締め、自然と竜鱗の剣の柄を握る。
「対策は…… できますか?」
アランが恐る恐るフーベルト教授に確認する。
「赤芋軍団…… 彼らの戦闘力にかかっているかもしれません…… 想像以上に種類が多く厄介な外道種が多いですね。どれもこれも地域の主と呼ばれる様な外道種です」
あの赤芋の戦闘力が未知数なのでフーベルト教授には、アランの問いに答えられない。
ただわかるのは、騎士隊の援軍が到着していても、人間の力だけでは、この町は守り切れなかったはずだということだけだ。
それだけの外道種が世界中から集まっている。
もはや相手の種類が多すぎて対処法などないようにすら思える。
それでもやらなければならないことがある。
「この一覧に、ボクが知っている対処法を書いていきますので、それを写してなるべく多くの人に配ってくれますか? 町の人達にもです」
六人しかいない騎士隊だけでは歯が立たない。
町民達にも戦ってもらうほかない。
そうしなければ、恐らく生き残れはしない。
「はい! 私が写します!」
ミアが元気に手を上げる。
「私も」
と、ジュリーは震えながらも手を上げる。
「私は…… 村を見て回って必要なものをミアに伝えるわ」
スティフィは少し考えてそう言った。
「じゃあ、俺もそっちか」
エリックはそう言ってスティフィの横に立つ。
「ボクとサリーは対処法を書きながら、アランさんと作戦会議をしますか。今は時間が欲しいです。いつ襲われてもおかしくはない」
フーベルト教授は顔を引き締める。
想像していた以上に大事だった。
「ですね……」
サリー教授も頷く。
「おねがいします」
アランも気を引き締めながらも、この二人がいてくれて心底よかったと思った。
だが、町民達は不安に怯えるばかりだ。
万が一、いや、千が一、百が一……
十が一、誤字脱字があればご指摘ください。
指摘して頂ければ幸いです。
少なくとも私は大変助かります。
もし気に入ったらで良いので、いいね、ブックマーク、感想等ください!




