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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
最東の呑気な守護者たち

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最東の呑気な守護者たち その2

 アランとフーベルト教授が対外道種について打ち合わせをしている間、ミア、スティフィ、エリックの三人は町の中を見て回ることにした。

 もちろん観光などではない。

 この村の、いや、町の防衛機能がどうなっているか見て回るためだ。

 直前までいた滅んだ村よりは、だいぶ広いがあの村のように外道種に対しての強力な結界のような物はない。

 町と外を隔てるのは薄い木製の板の壁だけだ。

 その壁の外には一応、丸太の先端を尖らせて組んだ拒馬が、ところどころに置かれている。

 それが外道種相手にどれだけ効果があるかはわからない。

 また外道種の襲撃の痕跡だろうか、その壁の一部が損壊している。

 その壊された様子からあまり壁として機能してはいなさそうだということもわかる。

 恐らく一撃で元の形が想像できないほど破壊されている。

「この村の防衛能力はほぼないわね」

 ぱっと見たスティフィの感想はそれだけだ。

 村と外を隔てる板の壁など、外道種相手ではないに等しい。

 いや、視線くらいは遮ることができるぐらいだ。

 防衛の意味での壁としては心もとない。

「んー、見晴らしは良いけど、北側の森から来るのか?」

 エリックは村の周りを見てそう判断する。

 この村は草原の真ん中に作られている。

 エリックの言う通り視界は良好で、外道種が攻めて来そうなのは北側にある森くらいだ。

 東、西には街道が伸び、南側も含めて、ただ何もない草原か、この村の畑が広がっているだけだ。

 北側にある森も、それなりに距離がある。

 外道種の襲撃を発見すること自体は、それほど難しくはなさそうだ。

「足跡と壁の破壊状況からしてそうだけど、外道種が回り込まない保証もないわよ」

 損壊した壁とそこから続く地面に残された大きな蹄の痕が、北側の森まで続いている。その足跡を見てスティフィもそう判断する。

 この足跡は外道種が残したもので、スティフィも知る外道種の物だ。

 この足跡に雨水がたまり、その水を飲むと飲んだ者は外道種になるなんて噂があるが、実際はそんなことはない。

 それはただの間違った伝承でしかない。

 スティフィの知る外道種、グアーランはただただ凶暴で力が強く強靭な外道だ。

 足跡も森から一直線に村まで向かってきている。

 それだけに厄介ではある。

 都と呼ばれるような城塞都市のリグレス、あそこのような町全体を覆う高く頑丈な城壁があるのであれば、話はまた変わって来るのだが、この村ではグアーランの侵入を拒めるものはない。

 今のままでは何の対抗手段はないに等しい。

「この辺りは外道種が多いんですかね? リッケルト村では見たことなかったんですけど」

 ミアはそう言って珍しそうに、奇妙な足跡、いや、蹄の痕を観察している。

「人里から離れると、外道種は必然的に多くなるっていわれているけど、ミアの故郷の村ってここより人が多くて栄えているの?」

 スティフィが意外とばかりに聞くと、ミアはスティフィを見上げ、

「え? いえ、こんなに栄えて人がいる町じゃないですよ」

 と、真実を述べた。

「ああ、うん…… ミアの神様のおかげかもね?」

 これ以上小さく、人が少ない村など、ただの集落で村と呼べるような場所ではないのでは、と思える。

 そして、そんな人気のない場所で外道種が少ないとなると、ミアの崇める神の力なのではと、スティフィにはそう思えて仕方がない。

 やはり、相当神格が高く強い力を持った神なのだろう、ロロカカ神という神は。

 そんな神が何で東の果てにいるのか、スティフィにはわからないが。

「なるほど! 流石ロロカカ様です!」

 ミアはミアでスティフィの言葉に納得し、うれしそうな顔をしている。

「実際問題として、ここを守るのしんどいぞ」

 そんなミアとは違い、エリックは珍しく、しかめっ面をしている。

「あら、珍しく現実的じゃない。私も同意見よ」

 スティフィもエリックと同意見だ。

 外道種がどの程度の規模かわからないが、この村を防衛するのは無理に思える。

 まだ打って出たほうが村の被害は少ないかもしれない。

 少なくとも外道種が集団だというのであれば、その進行を防ぐ手立てはこの村にはないのが事実だ。

 相手が強くても単独であれば、荷物持ち君に任せてしまえばいいが、相手がある程度の集団だというのであれば防ぎきることは出来ない。

 落としてしまい動かせない状態の水飴に群がる蟻の大軍を防ぐのが難しいのと同じことだ。

 外道種から見たら、この村はさぞ入れ食い状態に違いない。

「そうなんですか? 何が足りないんですか?」

 ただミアはその事をわかっていない。

「人も防衛力も、何もかもよ。あるだけマシの板の壁に、取ってつけたような拒馬。外道種相手にどれだけ役に立つっていうのよ。そもそも騎士隊詰所といっても、隊長含めて六人しかいないじゃない! 何ができるっていうの?」

 スティフィはもう村を守ることよりも、どうやってミアを説得してこの村から逃げようか考え出している。

 外道種の足跡を見る限り、かなりの数が襲ってきているように思える、この数に次襲われたら村を守る手立ては恐らくない。

 無論、ミアの左肩に、アイちゃんという名の御使いが居れば話は違う。

 御使いは神の先兵であり、戦うことが役割の種族だ。

 その戦闘力は古老樹と比較しても次元がまた違う。

 だが、その御使いは今はどこかへ行ってしまっていてミアの左肩には居ない。

「壁と人手ですか?」

 ミアはそう言って考える。

 まるで何とかなる、そう考えているかのようにだ。

「それもだけど、より強固で侵入を阻む城壁、敵の進行の障害となる堀、いち早く襲撃を発見できる見張り台、破られない門扉、それらを守る兵士、何もかもが足りてないわよ」

 スティフィはそんなミアにさらに現実を突きつける。

「なるほど」

 けど、ミアはそれを聞いて尚、どうにかなると、そう考えている。

 そんなミアの顔を見て、エリックは笑う。

「あと武器と、それを扱える人材もな。ここの住人は騎士隊の奴ら以外はほとんど農民で、後は狩りをしている連中が多少いるくらいらしいぜ?」

 エリックは騎士隊として、まだ見習いながらも、この状況をどうにかしたいとそう考えている。

 それに、ミアがいるならどうにかなるのではないか、とも楽観的にではあるが考えている。

 なにせミアは外道種がいくらいようが、まとめて外道種だけを燃やせる使徒魔術も扱えるのだ。

 相手が不死の外道種でない限り、それでどうにでもなると考えている。

「よくも、こんなんで今までこの村は存続できていたわね」

 けど、スティフィは若干呆れ気味だ。

 こんな人の少ない場所にしては、外道種への対策がまるでない。

 恐らく村を囲う板も外道種対策ではなく、恐らくは野生の獣対策で置かれているだけだ。

「あの滅んでいた村のほうに外道種達が寄って行っていたからですかね?」

 ミアはそれに対して、予測ではあるが思っていたことを述べた。

「それは…… あるわね」

 滅んだ村からこの町まで、それなりに距離がある。

 あの村に引き寄せられた外道種もこの町まではやってこない。

 あの村が外道種を引き寄せる機能だけ残っていたのであれば、それも十分に考えられる話だ。

「にしてもだ。どう守ったらいいかもわからんぞ、これは」

 エリックはエリックで頭をポリポリと掻いて、実際どうすべきか考えるが、どうにもならない、と結論が出るだけだ。

 むしろ、よく今まで六人だけで持ちこたえていたと、楽観的なエリックが感心するほどだ。

「私も同意見。私なら村を捨てて逃げることを提案するわね。まあ、逃げる場所もないのだけれど」

 西側の街道は溢れ出した淀んだ地脈で通行不可だ。

 東へ向かっても、外道種達が追ってくれば、どこも似たような結果になる。

 騎士隊詰所がある分、この町の方がまだましなくらいだ。

 ミア達一行だけなら、どうとでもなるが町全体での避難となると行く場所がないのが実情だ。

「街道を西側へと戻るのが良いんだろうけど、通れないしな」

 エリックがそう言って困った顔を浮かべる。

「そうね、詰んでるわね。東側に進んでも…… 状況が悪化するだけだろうし」

 スティフィはそう言ってミアの顔を見る。

「えっと城壁と見張り台、あと堀ですよね? 兵の方は補充できるとして」

「兵が補充できる? どうしてよ?」

 ミアの言葉にスティフィが突っ込みを入れる。

 たしかに兵の補充が出来れば、この村をどうにかできる可能性はある。

 そういう意味では騎士隊の援軍はこの村の状況では命綱だったのかもしれない。

「お野菜がいっぱいあるならですが!」

 ミアが顔を輝かせて答える。

 確かにこの村の周りには畑がある。

 だが、今は冬の時期だ。もう収穫が終わった後で畑には何も植えられていないし、それがあったからといって、兵の補充にどう繋がるのかスティフィには理解できない。

「野菜? 何を言っているの?」

「忘れたんですか? 古老樹の杖があれば、それで援軍を作ることができるじゃないですか」

 ミアは自信満々にそう言った。

 それを言われたスティフィも思い出す。

 たしかに、無月の女神の館でミアは古老樹を使い、動く巨大植物を作り出し、味方としていたことを。

 余りにも現実離れしていたので、記憶の片隅から抜け落ちてはいたが。

「あっ、あの巨大植物を作り出すっていうの?」

 教授達の話では植物と古老樹の中間のような存在を作り出すという話だったはずだ。

 たしかにあの能力を使えば、兵というか足りない戦力を埋めることは出来るはずだ。

「はい、彼らにまず壁と見張り台を作ってもらいましょう!」

 ミアはそう言ってやる気を見せる。

「あっ…… あー、確かにあれを呼び出せるなら、どうとでもなりそうではあるわね……」

 どれだけあの巨大植物を呼び出せるかにもよるが、確かにあの巨大植物なら外道種にも十分に対抗できるはずだ。

「ん? なんだよ、分かるように言ってくれよ」

 無月の女神の館に入っていないエリックはただただミアの話に困惑するしかない。

 スティフィはどう説明して良いかわからず、

「野菜が労働力になり、戦う兵士になるのよ、言葉通りに」

 と、伝えた。

 エリックは理解することを諦めて、野菜が兵になる。それだけを理解した。

 元よりエリックは深くは考えない。

「荷物持ち君、古老樹の杖の力を使っても良いですよね? 学院ではあまり使うな、って言われたんですが、状況が状況ですので」

 ミアが荷物持ち君に聞くと、荷物持ち君も大きく頷いた。

 それどころか、古老樹の杖の力を制限せずに、どんどん使え、とでもいう顔をしている。

 無論、泥人形である荷物持ち君に表情などはないのだが。

「問題ないって言ってますね」

 ミアも荷物持ち君の意図を読み取りそう言った。

 そして、

「スティフィとエリックさん、指示してください! 早速、作業に取り掛かりましょう!」

 やる気を見せる。

 スティフィはそんなミアを見て、軽く息を吐きだしてから、

「先に、騎士隊とここの村長の許可を得てからじゃない? いきなりあんな動き回る巨大植物を呼び出したら、大変なことになるわよ」

 と、ミアに忠告する。

 それにこれだけ小さな村だ。

 勝手に野菜を使えば村人の怒りを買うかもしれない。

 最初に許可を得なければならない。

「あっ、はい」

「ん? よくわからんが、一旦詰所に戻るか」

 完全に理解することを諦めたエリックはそう言って、騎士隊詰所へと足を向けた。




 村を見て回った現状を伝え、ミアの考えた案をフーベルト教授に伝える。

 無論、同席していたアランは困惑した表情を浮かべている。

「話には聞いていますが、あれは古老樹もどきを生成する魔術というか、もはや奇跡と聞いていますが……」

 そう言ってフーベルト教授は考え込む。

 しかも、巨大化が解けた後も、その植物には影響が残り、将来的に古老樹になる可能性を秘めているのではないか、そう言われている。

 そのうちの一つをサリー教授が確保し、何を隠そう、馬車に今も大切に保管されている。

 サリー教授はこの旅で、古老樹がまだいない土地を探し出し、そこに埋めて、新しい古老樹になるのか、それを確かめる気でいるのだ。

 人間側から見れば、それはとてつもない魔術であり、もはや奇跡といって良いものだ。

 おいそれと使っていいものでもない。

 そのはずだ。本来なら。

「荷物持ち君は問題ないと言っていますよ!」

 ミアはフーベルト教授の危惧を一蹴するように言う。

 ついでに荷物持ち君は基本的に建物の内部には入らないので、今も騎士隊詰所の前に待機している。

 この場には居ない。

「そ、そうですか……」

 それでもフーベルト教授は判断に迷う。

 サリー教授の判断も仰ぎたい気分だが、サリー教授もこの場には居ない。

「この村、本格的に襲われたら一溜りもないわね」

 そこへ、スティフィがこの村の現実を突きつける。

「今までこの村は外道種の襲撃などなかったですからね。町を覆う壁もただの獣避けの物です。というか、古老樹もどきというのは?」

 困惑しながらも大人しく話を聞いていたこの村の騎士隊隊長であるアランはやっと口を開く。

 やはり気になったのは古老樹もどきという言葉だ。

「それを説明するにはサリーのほうがうってつけなんですが、今はどこに?」

 そこら辺の話はサリー教授のほうが専門分野だと、フーベルト教授は思っているのだが、いつの間にかその姿が見えない。

「ジュリーと町を見て回っています。ジュリーの旅の服がなくなってしまったので」

 旅用の頑丈なつくりの服をジュリーは一着しか持って来ていない。

 それなりに高いものだが、それをジュリーは滅んだ村に置いてきてしまっている。

 サリー教授には着替えがあるが、替えがなくなってしまった状態だ。

 それを買いに行っているのだろう。

「ああ、はい。なら…… ボクが説明します。植物と古老樹の中間の存在、それをミアさんは任意に、生み出すことができます。これは古老樹から授けられた彼女の能力です」

 フーベルト教授は少し迷ったが、簡単にそのことを説明する。

 古老樹の杖のことは意図して話していない。

 騎士隊のことを信じられないわけではないが、あの杖は余りにも力が強すぎる。

「は? 神の巫女とはいえ、にわかに信じられないぞ?」

 アランは目を丸くして驚く。

 目の前の少女は普通の少女にしかアランには思えない。

 アランの反応にフーベルト教授も笑いながら同意する。

「確かにそうなりますよね。ですが真実です。それには実った野菜や育った植物などが必要なのですが、集められますか? 間違いなく戦力の増強にはなります」

 フーベルト教授の言葉に、アランは少しだけ考える。

 だが、そもそも選択の余地はない。

 援軍が来なかったらこの村は滅ぼされるしかない、それはわかっていたことだ。

「おい、誰か長老をすぐに呼んできてくれ」

 アランはすぐに覚悟を決めて、部下にこの町の長老を呼んで来いと命令する。

「村長じゃなくて?」

 スティフィがニヤリと笑ってアランをからかう。

 当のアランは憮然とした顔を浮かべるだけだ。

「長老だ!」

 そして、それを訂正する言葉を口にする。


「赤芋なら多少蓄えはありますが…… それも冬を越すための備蓄なのですが?」

 話を聞いても、何も理解できなかった長老はそれを伝える。

 赤芋というのはその名の通り外見が赤い芋だ。

 痩せた土地でもよく育ち、秋前に埋めても冬前に収穫できる優秀な穀物だ。

 その上、焼くだけでも甘くなり、女性にも人気が高い。

 この町での冬に主食となる穀物だ。

「長老、正直に言うが、次に外道種の襲撃があれば騎士隊だけでは防ぎきれん」

 アランは白い髭を生やしている自分の倍以上生きている長老に視線を合わせるように座り込んで、真剣にそのことを告げる。

 前回の襲撃は、恐らく威力偵察だ。

 この村に防衛力がないことは、外道種にはもうバレている。

 次襲撃があったとき、騎士隊の援軍が到着していなければその時点で、この村は滅んでいる。

 今のところ襲撃はないが、援軍も来ない。

「騎士隊の援軍が来るという話では?」

 と、長老が体を震わせながらアランに問う。

 長老も現状を把握できているのだろう。

「それが…… 今確認させに行っているが、西側の街道は…… 今は通ることができないということだ。援軍は期待できない」

 アランは言い淀みながら、そのことを長老に伝えた。

 西側の街道へ部下二人に確認させに行っている。

 だが、アランにはこのフーベルトという教授が嘘をついているようには思えない。

 恐らく街道は本当に通れるような状況ではないはずだ。

「なんと…… じゃが何で野菜が必要なんですか?」

 長老は震えながら、やはり理解出来なかったのか、聞き返してくる。

 それに対して、アランも未だ半信半疑だ。

「それが物凄い加勢になる、という話だ」

 と、しか今は答えることができない。

 そんな様子を見ながらスティフィがミアに聞く。

「赤芋って何?」

「赤く甘い芋です」

 ミアは簡潔に答える。

 ミア自身も詳しくは知らない。

 ただ魔術学院に向かう時に、食事としてこの辺りで食べたことがある。

 芋にしては甘くおいしかった記憶がある。

「じゃが芋のこと?」

 と、スティフィが顔をニヤリとさせてそう聞いてきた。

 稀にあるのだ。

 神与権利で守られている物を別の物だと言い張って育てているところが。

 特に人目に付きにくい辺境の村ではそう言うことは多々ある。

 だが、アランはスティフィの意図を読み取りすぐに否定する。

「ではないです。全くの別種です。それに、あれは育てるのに許可と金がかかるじゃないですか、この町では到底育てられませんよ」

 長老は少し考えた後、長く深く息を吐きだした。

「まあ、仕方あるまい。滅びた後に備蓄だけ残っていてもな」

 その言葉を聞いて、ミアが立ち上がる。

「なら、赤芋軍団を作って、外道種達をやっつけましょう!」

 だが、その言葉に同意できる人間どころか、理解できる人間は誰もいなかった。




「は? 外道種が群れをなしている?」

 マーカスは詳しい話を聞いて驚く。

 外道種は外道種同士でも群れることは少ない。

 しかも、騎士隊の話では異なった外道種同士が群れをなしているというのだ。

「あー、いつかの誰かを追ってきたような、そんな状況なんですねぇ」

 それに対して、アビゲイルは張り付いたままそんなことを述べる。

 その言葉の意味が分かるのは、マーカスくらいだ。

「誰を追って来たんですかね?」

 細目をさらに細くさせてマーカスはアビゲイルを見るが、

「誰でしょうねぇ、そんな外道種に個人的に恨まれる人物に心当たりはないですねぇ」

 張り付いた笑顔のまま、素知らぬ顔をしている。

 マーカスも荷物持ち君がいるから平気かと思ってはいたが、外道種の群れともなると少し心配になる。

 この規模の騎士隊が援軍として動いていることも納得できる。

「しかし、そうなると流石に荷物持ち君だけではきついのでは?」

「アイちゃん様も今はこちらにおられますしねぇ」

 アビゲイルも同じ考えだったらしく、今は眠たそうにフラフラとしているディアナの左肩の存在を見る。

 それは大きな肉の塊に人の顔ほどの巨大な目がついた何かだ。

 これを見ても、誰もこれが神の御使いなどとわかりもしない。

 ただの外道種なのではないかと、そう思えるような見た目をしているし、それはそれであっている。

「そ、それはなんなのだ?」

 騎士隊の隊長は恐る恐るその事に触れる。

 事前に、ディアナが神の巫女であり、その身に神を宿していた神憑きであったし、今は御使いを宿していると聞かされていたため、触れるに触れなかったことだ。

「これも御使い様ですよ。こんな姿なのは外道種の王を封じ込めているからですねぇ。嘘だと思うならシュトゥルムルン魔術学院のほうに問い合わせてください」

 詳しく説明するのがめんどくさいとばかりに、アビゲイルはめんどくさいことは魔術学院のほうに押し付ける。

 ここでいくら説明するより、その方が信頼性も高い。

 時間はかかるだろうが、ここで揉めるよりは良い。

「それがどうして…… って、そうか、神の命を背負った者達だったな」

 だが、一応、騎士隊の隊長もディアナという少女からはただならぬものを感じ取っている。

 左肩の存在は確かに不気味だが、ディアナ自体からは神聖なものを感じてはいるし、左肩の存在から外道種特有の嫌悪感を感じることもない。

 外道種と何度も対峙して来た隊長にはわかる。

 外道種からは独特の嫌悪感ともいうべきものを発しているのだ。

「いえ、この御使いは本来は神の巫女であるミアちゃんの方に憑いていたのですが、とある事情で今は、こちらのディアナちゃん、魔術の神の巫女さんに憑いていますねぇ。ほんと説明するたびに信憑性がなくなっていく話で申し訳ないんですがぁ」

 アビゲイルの説明に、騎士隊隊長も頭を抱える。

 そして、アビゲイルが説明を魔術学院のほうに振った理由も分かった。

 想像以上に信じられないことが複雑化しているのだ。

 魔術学院の名を出されなかったら、騎士隊隊長も素直に信じるつもりはなかったはずだ。

「そ、そうか……」

 騎士隊隊長は無理やり自分を納得させてどうすべきか状況を考える。

 アビゲイルが言っている言葉が真実かどうか、それはどうでもいいのだ。

 街道が通れないという事実だけは確実なのだから。

 騎士隊隊長が困ったように唸っていると、ディアナがその場でくるくると回り出す。

「巫女様! 巫女様! 巫女様! 大丈夫、大丈夫? 大丈夫なのですか? ですか?」

 それを、というか、そのディアナの左肩に乗っている肉塊の目の開きぐらいを見て、アビゲイルが少し驚く。

「あら、珍しくアイちゃん様が迷っていますか? これは…… 群れということから、もしかして外道の王でもいるんではないんですかぁ?」

 異なる種の外道種が群れをなす。

 それは圧倒的な存在の外道の王がいるか、外道種達の目的が一致したときだけだ。

 アビゲイルは何か目的があって外道種が群れをなしていると考えてはいたが、アイちゃん様の様子、どうすべきか迷うように考え込んでいる目をしているのを見て、もしかしたら外道の王がいるのでは、と考えを改めた。

「外道の王だと? だとしたら我々では戦力不足か…… そこの巫女様は天使憑きという話だよな? 彼女なら?」

 目の前の巫女が本当に御使いをその身に宿しているというのであれば、たとえ相手が外道の王でも敵ではない。

 単純な戦闘力という点においては、神の代わりに戦う使命を帯びた御使いは神以上の能力を有しているのだから。

「もちろん、外道の王なども敵じゃないですよぉ、ただ我々は先行している神の巫女、ミアちゃんに追いついちゃダメらしいんですよぉ」

 そう言って、ディアナの様子を見る。

 ディアナが心配はするけども、助けに行く、と言わないところを見ると、やはりそういうことなのだろう。

「なんだかよくわからない話だが、まあ、信じるしかないんだろうな」

 騎士隊隊長も状況を理解できないなりに、納得するしかない。

 そしてどうにか、街道を進める方法がないのか模索するが、報告を受けた情報を鑑みるにそれは不可能に近い。









 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


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