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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
最東の呑気な守護者たち

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最東の呑気な守護者たち その1

 ミア達はその名も知らない滅んだ村、その先にある町、いや、村という規模の集落についたミア達一行は、すぐにこの世界で一番の最東にあるといわれる騎士隊の詰め所に来ていた。

 そこは騎士隊の施設にしては、簡素で貧相な建物だ。

 それでも、騎士隊は騎士隊だ。

 淀んだ地脈が溢れだし街道にまで流れ出てしまっているので、街道そのものを封鎖して貰わないとならない。

 だが、それを聞いた騎士隊の受付の男は顔を顰める。

「え? 街道を封鎖しろ? それはどういう了見で? というかあなた誰ですか?」

 そして、フーベルト教授に向かい矢継ぎ早に逆に質問を返す。

 それも当たり前のことだ。

 ここは辺境の地だ。

 街道を封鎖したら、この町だか村だかの生活は成り立たなくなる。

 それに今は色々と時期が悪い。

「ああ、すいません。私はシュトゥルムルン魔術学院のフーベルト・フーネルと言います。これでも一応教授という役職についています」

 フーベルト教授がそういうと、騎士隊の受付の男の表情が一気に変わる。

 もしこの目の前の男が本当に魔術学院の教授であったらば、それはこの領地の貴族よりも権力はともかく、少なくとも権威は持っている。

 そして、街道を封鎖しろという理由も正当性があるはずだ。

 フーベルト教授は自分の職員証を受付の男に手渡す。

 受付の男はその職員証を、自分の部下か後輩に本物かどうか確かめるように、更に手渡して確かめさせる。

 その間にも、受付の男とフーベルト教授の会話は続く。

「魔術学院の教授? なんでそんな方がこんな辺境の地へ?」

 受付の男は態度を一変させ、下手に出て聞き返す。

「それは…… とある神の命で、東にあるリッケルト村に行かねばなりません」

 フーベルト教授は少し迷ったが正直にそのことを告げる。

 だが、リッケルト村と聞いた受付の男は首をひねる。

「リッケルト村? 聞いたことないな」

 と。

 リッケルト村はこの地からも、まだまだ東の先にある地だ。

 この男が知らなくても無理はない。

「リッケルト村はここよりも、もっと、ずっと東にあります!」

 ミアが身を乗り出して、少しむっとした顔をして抗議するように受付の男に言った。

「ここより東って…… なにもねえぞ?」

 だが、受付の男はそう言って首をかしげるだけだ。

 受付の男も点々と小さな集落がより東へと続いているのは知っている。

 その中に、そんなような名の村があってもおかしくはない。

 なによりも、フーベルト教授は神の命で、と言っているので、その点に嘘はないはずだと言うことは受付の男にも理解はできている。

「あります! リッケルト村の他にも村はありましたよ!」

 ミアの抗議に受付の男も押されつつ、それよりも今は魔術学院の教授からの要請の方が重要だし、気がかりだ。

「そ、そうか…… まあ、いくつか村はあるのは確かだが。で、街道を封鎖の理由はなんですか?」

 それに対して、フーベルト教授が頼りない、というわけではないが、一刻の猶予もない、といった感じでサリー教授が凄みを聞かせて前にでた。

「淀んだ地脈が…… 溢れ出ています……」

 語彙を強めてそう言った。

 サリー教授の言葉少ないながらも圧に、受付の男は圧倒される。

 そこにフーベルト教授が親しみやすい笑顔で割って入る。

 だが、その笑顔はすぐに消える。

「ここより西に滅んだ村があったでしょう? あそこから人死にが出るほどの、淀んだ地脈が溢れ出ているんです」

 そう断言すると、受付の男も表情を険しくさせる。

 いや、険しい表情を通り越して、絶望的な表情まで変わっていった。

「え? それ本当ですか……?」

 顔を真っ青にして受付の男は、信じられないといったように聞き返した。

「先輩、これ本物です。この方、本物の教授ですよ」

 そこへフーベルト教授の職員証を確かめに行っていた、受付の男の後輩が帰ってくる。

 その言葉が、受付の男をさらに絶望へと叩き落した。

「え? す、すいません。これ、お返ししておきますね。えーと、詳しく話を聞いても……? 後、隊長を、すぐにアラン隊長を呼んできてくれ」

 後輩から職員証を受け取り、それをフーベルト教授に丁寧に返した受付の男は顔を真っ青にして、ミア達一行を騎士隊詰め所の中へ招待した。


 ここの騎士隊詰め所の隊長であるアラン・アリヒルは浅黒い肌と精鍛な顔立ちを持つ男だ。

 ただ隊長というには若く少し頼りない印象を受ける。

 外見の年齢的にはフーベルト教授よりも少し若いくらいか。

「理由はわかりました。神に頼まれたのであれば仕方がないことですが、あの村がそんなことになっていたとは……」

 アランは確かに街道沿いに滅んだ村があったのは知っている。

 先々代の隊長が、その村を助けようとしたが、やけに排他的な村で騎士隊の支援を拒んでいたと記録が残っている。

 確かヘステマテダとかいう名の少し奇妙な村だったはずだ。

 とはいえ、自分が生まれる前に滅んだ村だ。アランも詳しい事は知らない。

 その村がそんな事になっていたとは知る由もない。

 事前に調査でもしておけばよかったと、アランは思うのだが、あの辺りは外道種が多く出没し、この町の騎士隊の戦力では調査もままならない。

「隊長…… どうするんですか? そんなことに街道がなっているのであれば、援軍も補給物資も届かないじゃないですか」

 受付の男が泣きそうな顔で隊長にそう言った。

「援軍……?」

 と、フーベルト教授が聞き返す。

 アランは軽く息を吐き出して、

「はい、実はこの町は…… ここ最近、外道種から大きな襲撃を何度か受けていて、騎士隊の援軍を要請をしたところなんですよ」

 アランはフーベルト教授をまじまじと見定めながらそう言った。

 援軍も補給物資も街道を通ってくる。その街道がそのような状況になっているのであれば、それらは期待できない。

 その中で、魔術学院の教授という存在は、多大な戦力なってくれるかもしれない。

 そう思って、アランはフーベルト教授を値踏みしているのだが、どうにもこの教授は頼りない。

 人の良さそうな、自分とそう年が変わらない男にしかアランには思えない。

「町じゃなくて村でしょう?」

 話を聞いていたスティフィがアランを、からかうようにそう言った。

 アランをスティフィを一瞥し、その着ている真っ黒な革鎧からスティフィをデミアス教の関係者と断定して関わり合いを持たないようにする。

 辺境の地で過疎地であるこの町には、流石のデミアス教も影響力を持っていないようだ。

 ただの邪教徒としか考えてないのかもしれない。

「この町は、今、非常に危険な状態でして」

 アランはスティフィを無視して、フーベルト教授と話を進める。

「外道種ですか? 種類はわかりますか?」

 フーベルト教授がそう聞き返すと、アランは少しだけ顔を明るくさせる。

「様々な種類です。一種類の外道種ではなく複数の種類がまとまって行動しています」

 それを聞いたフーベルト教授は難しい表情をする。

 基本、外道種は群れを成さない。

 群れを成す場合も単独種でまとまり、違った種類の外道種が徒党を組むことはない。

 それがあるときは外道種達で共通の目的があるときだ。

 つまり、外道種達は何かの目的があって、この町を襲撃しているということだ。

 もしくは、外道種をまとめ上げるような、外道の王ともいえる存在がいるかもしれないということだ。

「どれが多いとかあるでしょうに」

 スティフィが呆れたようにそういうと、アランはムッとした顔をしながらも、

「名前はわかりませんが、人型で頭部に角の生えた獣人のようなのが、特に目につきました」

 と、フーベルト教授に向かい告げる。

「角ですか? 額から一本角ですか? それとも、鹿のような角ですか?」

 獣人と表現され頭部に角というと、その二種類がすぐに思い出される。

 額から一本角が生えている外道種は一体でもかなり厄介な外道種だ。それが複数となると、この村を救う手立てがないように思えるほどだ。

「鹿のほうです。下半身も鹿のような感じの」

 アランの回答にフーベルト教授は笑顔のまま、内心胸を撫でおろす。

 そちらも弱くはないが、肉体が強靭なだけの外道種で特に厄介な能力を持っているわけではない。

「グアーランかしらね? なんで北の外道種がこんな東の果てにいるのよ」

 南側と中央を分ける山脈、精霊王が多数存在することから、精霊山脈ともいわれる山脈、それを超えると中央東部、広大な人の住めない深い沼地に出る。

 その沼地を超えて更に北側へ、世界の北部へと行くと、山々の合間に人々の暮らす町があり、その更に北に竜が住む竜達の山脈と呼ばれる雪深い山脈がある。

 グアーランという外道種は、その山脈が生息地だ。

 鹿と人を掛け合わせたような外道種で、鹿の頭部、人間の上半身、そして鹿の下半身を持つ。

 全身が非常に強靭な筋肉を持ち、凶暴な外道種だ。

 ただ、群れることなく、多くても雄と雌の番でしか行動しない外道種でもある。通常の場合は。

「この辺りは東の沼地から山越えして来た外道種がいるのではないかと、そういわれています」

 アランはそう言ってはいるが、グアーランという外道種は中央の沼地に生息している外道種ではない。

 今のところ北の山脈でしか目撃の報告が上がっていない。

 その証拠に、深い雪山に住んでいるようにしか部分の毛も長く毛深い。

 ただ、中央東の沼地は未踏の地ではあるので、生息していない、という保証もないのだが。

「北の山脈ですか…… あの外道種なら険しい山脈を超えれるんですかね」

 精霊山脈は少なくとも人間には踏破できないほど険しく標高の高い山脈だ。

 けれど外道種ならば、特に普段から厳しい雪山で生息しているような外道種なら、不可能というわけでもないのかもしれない。

 それに滅んだ村ではウィンシャランという主に西側に生息する外道種にも遭遇している。

 なにか人知の及ばないところで起こっていて、その影響だと言われても不思議ではない。

 もしかしたら、ミアはそのために呼び戻されたのでは、とさえ、フーベルト教授には思えてしまう。

「非常にすみませんが、援軍が来れないとなれば…… その、お力添えを……」

 アランはフーベルト教授を見ながら、頭を下げて頼み込む。

 魔術師、特に教授などをやっている人種は見た目通りの年齢でない事の方が多い。

 もしかしたら、このフーベルトという男も物凄い魔術の使い手なのかもしれない。

 そうでなかったとしても、魔術学院の教授としての知恵を借りることくらいはできるはずだ。

「すいません。この一行の決定権はボクにはないんです。ボクは付き添いでしかありません。決めるのは神の巫女であるミアさんです」

 だが、フーベルト教授はそう言ってミアの方を見る。

 この旅はミアの為の旅だ。

 他の者は付き添いに過ぎない。

 急ぐ旅ではないが、寄り道の裁量もすべてミアにある。

「え? 私ですか?」

 と、ミアは急に振られ驚く。

「はい」

 フーベルト教授はそう言って笑顔をミアに送る。

「神の巫女……」

 と、アランは物珍しそうにミアを見る。

 三角帽子をかぶった少女の魔術師は、アランからは特に特別なものを感じることはない。

 サリーやスティフィといった名の者の方が、ただ者ならない迫力を感じているくらいだ。

「まあ、外道種が居ても荷物持ち君がどうにかしてくれるでしょうし…… あっ、聞いてみますか?」

 ミアはどうすべきか考えたが、自分では判断が付かなかった。

 この村を助けるべきなのか、それとも先を急ぐべきなのか。

 この村が絶対的に助からないというのであれば、ミアはあっさりと捨てる気でいる。

 ミアはあくまで、自らが信仰する神、ロロカカ神の言いつけを守ることを第一優先にしている。

 こんなところで死ぬわけにはいかない。

 そのことを滅んだ村の一件でも学んだ。

 ミアとしても助けてあげたい、とは思っていても、ミアが重きを置くのは、絶対的にロロカカ神の命の方なのだ。

 その為であれば、ミアはすべてを投げ捨てる覚悟がもうできている。

 ただ、今回の件はミアには判断できない。

 ならば、より確かな判断を下せるものに伺うまでだ。

 その相手が荷物持ち君だ。

「荷物持ち君?」

 と、アランは不思議そうな顔をする。

 その名の通り荷物持ちなのだろうが、そんな人物に何を、という疑問の方が大きい。

「外にいる泥人形です。確かに荷物持ち君に判断を委ねるのが安心ですね」

 困惑しているアランに向かいフーベルト教授が説明する。

 だが、それはアランに更なる混乱を招かせる。

「は? 何を言っているんですか? 泥人形に判断? 使い魔ですよね?」

 使い魔は操者と呼ばれる魔術師が操る人形のような物だ。

 使い魔自体に意志はなく何かを判断できるような物ではない。

 少なくとも通常の魔術の常識ではそうだ。

「荷物持ち君は特別製なのよ」

 スティフィがからかいがいがありそうだ、と笑顔でそう言った。


 ミアが騎士隊の詰め所の前で待機していた荷物持ち君にどうすべきか伺うと、荷物持ち君は右手を元気よくあげて頷いた。

「助けるべきだと、言っていますね」

 ミアは荷物持ち君の表情からそう読み取って、口に出した。

 泥人形である荷物持ち君に表情などはないのだが、ミアはそれを読み取れているようだ。

 主人と使い魔の絆があるのかもしれない。

「その使い魔は喋れるのですか?」

 それを見ていたアランは明らかに、自立して動いている泥人形に驚いている。

 ミアが、言っていますね、と言ったのでアランは、もしかしたらこの使い魔は予言機械のような機能を持っていて、それを言葉で伝えるのでは、などと考え、難しい顔をする。

「ああ、すいません。実際に喋るのではなく、そういう意志を持っているっていう感じです!」

 ミアはアランに向かうそう訂正するのだが、アランは既に考え込む。

 使い魔というのは、人間が操作するもので、意志など持っていない。

 それが使魔魔術での常識だ。

 使い魔が意志を持つことなど、ありえないはずだ。

「使い魔ですよね?」

 と、アランは聞き返す。

 かなり怪しい目で荷物持ち君を疑いだす。

「荷物持ち君は、その…… 言ってしまっても良いですか?」

 ミアは少し困った顔をして、フーベルト教授に聞く。

 やたらと荷物持ち君が古老樹だと言わない方が良いのだが、状況が状況だし、相手も騎士隊の隊長で信頼のおける立場の人間だ。

 話がこじれる前に話してしまった方が良いと、フーベルト教授は判断する。

「不信感を募られるよりは、言ってしまった方が良いですね。アラン隊長、このことは他言無用でお願いします」

「荷物持ち君は古老樹なんですよ」

 フーベルト教授の返事を待って、ミアはそのことを口にした。

 そもそも、厄介事を避けるために公表してないだけであって、言ってはならない、という決まりもない。

「古老樹!? あ、頭の上から生えているこれが? 古老樹!? なんで古老樹が人の使い魔なんかしているんだ?」

 だが、そのことを聞いたアランは更に混乱する。

 古老樹というのは上位種と呼ばれる種族の一つで、神より自然の守護者として、選ばれた大樹が意志と力を持った存在だ。

 大地の守護者と言い換えてもいい。

 人間には到底及ばない知恵と力を持つ存在だ。

 それが人間の使い魔になることなど、アランには考えられない。

「ミアが特別だからよ。ミアはね、こう見えて全身神器でまとめ上げられた巫女よ、下着まで神器なんだから」

 スティフィはそう言ってミアを両手で指さす。

 確かにミアは複数の神器を所持している。

 神の巫女といってもそれは稀な事だ。

 だが、そんなことよりも下着まで神器と言われたミアはスティフィに声を荒げる。

「スティフィ!!」

 名を呼び、顔を赤くして恥ずかしそうにミアはスティフィに抗議するが、スティフィは久しぶりにからかえた、という顔をして嬉しそうにしている。

「なによ、照れる事ないじゃない」

 なんだかよくわからないが、上位種である古老樹が味方に付いたとアランは安心する。

「は、はあ? と、とにかく助けてくれるということで良いんだな? しかも、古老樹が!」

 これなら援軍など必要ないほどの戦力だと、逆にこの辺りの外道種を殲滅できるのではないかと、アランは震える。

「え? ええ、荷物持ち君も助ける気みたいですね」

 ミアはもう一度荷物持ち君の顔を見て、そう答えた。

 荷物持ち君にもやる気があるようにミアには思える。

「援軍が来るどころか、打って出れるのではないか? こちらには上位種がついているぞ」

 アランはそう言って、頭の中で作戦を、外道種殲滅作戦を考え始める。

 この古老樹がどの程度の戦力を持っているのか未だアランにはわからないが、想像を絶する力を保有しているはずだと、アランは目を輝かす。

「あんまり荷物持ち君に、あの古老樹に、期待しないでください。あの古老樹はミアさんを守るためだけにいます。それ以外のことは極力協力しないと考えておいた方が良いですよ」

 そんなアランを見て、フーベルト教授は釘を刺す。

 そもそもミア以外の言葉には荷物持ち君は基本的には耳も貸さない。

 ミアの邪魔になるようであれば、人間であろうとなんであろうと排除しようとする存在だ。

「な、なるほど…… 神の巫女ですか……」

 そう言って、アランはミアを確かめるように凝視する。

 ただ、アランの眼には普通の少女にしか思えない。

 気になるといえば、被っている三角帽子が少し気になるくらいだ。

 あれも神器なのか、とアランは考えるが判断が付かない。

「数いる神の巫女の中でもミアは特別中の特別、超特別よ」

 スティフィはそう言って、自慢げにミアに後ろから抱き着く。

 ミアは首から回ってきたスティフィの右手に手をかけ、少しだけ嬉しそうな表情を浮かべる。

「と、とにかくご協力感謝します。この町に滞在する間は…… 詰め所は狭すぎるか。となれば、町の集会場をお使いください、話は通しておきます」

 この町に宿屋のような場所は存在しない。

 それにミア達一行は女性も多い。

 男しかいない騎士隊の詰め所に寝泊まりさせるのは、何かと問題がある。

 そうなると、村の集会場くらいしか場所がない。

「ありがとうございます!」

 ミアは元気に返事をする。

「できる限りで良いので、確認した外道種の種類を教えてください。外道種は対処法がそれぞれ違うので」

 フーベルト教授はそう言って、少し心配そうな表情を浮かべた。

 外道の王、そういった存在がもしいたら、まだ未熟な古老樹である荷物持ち君では敵わないかもしれない、と。

「はい、すぐにまとめさせます!」

 アランは希望が出てきたと、部下に目撃情報のあった外道種をまとめるように指示を飛ばした。




 マーカス達は一旦、村から出て街道の様子を見に来ていた。

 やはり淀んだ地脈は街道のほうまで流れ出ていて、とてもじゃないが街道を通るようなことはできない。

 そこで、この先危険、と書いた看板を突貫で作っているときに、騎士隊の集団と出会う。

 どうも、これから街道を通り遠征に行くところのようだ。

「はっ? 通れないってどういうことだ? それに、その竜はなんだ?」

 遠征部隊の隊長がそう言って睨みつけて来る。

 騎士隊から見たら、マーカス達は奇妙な集団だ。

 奇妙な集団ではあるが目立つ故にその存在は聞いたことがある。

 驚くほど品質の良い薬品を売りさばく竜が目印の旅の魔術師がいるという話を。

 隊長はすぐにその一行なのだと、あたりをつけるが、まさか街道が通れないと言い出すとは思いもしなかった。

「竜ではなく鰐です。ついでに白竜丸は冥府の神の聖獣ですよ」

 マーカスは白竜丸に乗ったまま、そのことを告げる。

「聖獣? それも冥府の神だと?」

 騎士隊の隊長は改めて、鰐という生物を見る。

 どう見ても竜だ。

 その上、体に刺青の様な紋様が描かれている。

 白く美しく猛々しいその姿は確かに神々しくも感じる。

「はぁい、街道が今は通れないのはわかっていますよね?」

 調査しに行っていた騎士隊の斥候が帰ってくると、アビゲイルは白竜丸にまたがったまま、そう声を上げた。

「隊長、この者達が言う通りでした。街道は…… とてもじゃないが通行できません……」

 斥候は身を震わせながらそのことを隊長に告げる。

 まるで地獄の蓋が開いたかのような、そんな惨状だった。

 少なくとも進軍できるような場所ではない。

「この者達はそこから出てきたじゃないか!」

 隊長がそういうと、

「聖獣の、白竜丸のおかげですよ。俺達も白竜丸なしでは、俺達もこの地にはいられませんよ。だから、今も怖くて白竜丸からはこうして降りれません」

 マーカスはそのことを告げる。

「この辺り詳しくはないんですが、迂回とかできないんですかぁ?」

 アビゲイルがそういうと、騎士隊の隊長は険しい顔をする。

「無理だ。この辺りで安全なのは街道があるこの辺りだけだ。この辺りは異様に外道種が多くて迂回していては、それだけで損耗してしまい援軍どころではない」

 街道が通れないとなると、援軍として編成された遠征隊も進軍できない。

 それは、この先にある村を見捨てるということでもある。

 隊長が険しい顔をするのは悔しさからだ。

「援軍ですかぁ? うーん、多分必要ないですよぉ」

 アビゲイルは街道の先を見ながら、無責任にそんなことを言った。

 まず間違いなくその援軍が必要な場所にミアがいる。

 ミアがいるということは、荷物持ち君が、大精霊が、ミアの護衛者達がいるということだ。

 この程度の援軍で事足りるようなことなら必要ない。

「なに? どういうことだ!?」

 援軍を指揮している隊長は訳も分からず大声で怒鳴る。

「あなた方全員より、強くて恐ろしい存在が、今その町に滞在しているからですよぉ。まあ、多分ですけどぉ、間違いないですよぉ」

 ミアはそういう星の元に生まれている。

 いや、もしかしたら、援軍が必要な状況自体が、ミアの動きに反応しての事なのかもしれない、とアビゲイルは勘づいている。

「だから、どういうことだ? ちゃんと説明しろ!」

 だが、何も知らない騎士隊の隊長は、思わせぶりなアビゲイルの言葉に怒りを露わにするだけだ。

 悪い人間ではない。実直で誠実な、実績もある騎士隊で、この援軍の隊長を任せるにふさわしい人物だ。

 それだけに、彼は思うのだ。

 マーカスという人物はともかく、アビゲイルという女魔術師はどこか胡散臭いと。

 アビゲイルから感じさせる怪しい気配が、隊長の気を逆なでさせるのだ。

「とりあえず一旦ここを離れましょう、ここは危険です。風向き一つで淀んだ地脈が流れてきますので」

 マーカスはそう言って場所を変えることを提案する。

 そうすると斥候役をしていた騎士隊員が顔を真っ青にして、隊長に進言する。

「隊長、この者の言う通りです。一旦この地を離れましょう。ここは…… 地獄です……」

 隊長も、その騎士隊員の顔を見て、思っていたよりも深刻な事態なのだろ理解する。

「地獄ですか、少なくとも冥府はこんなに腐敗臭はしてなかったですよ」

 マーカスは少し心外とばかり、そんなことを言った。








 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


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