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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
滅んだ村の儀式と彷徨い迷う者

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滅んだ村の儀式と彷徨い迷う者 その3

「社からは力は感じますが、不吉な感じはしませんね」

 フーベルト教授は社の入口から流れ出てくる清廉な空気を感じてそう言った。

 この社の主、何かしらの神の魔力、その残滓から感じられるものに、何か不吉な物を感じられる要素はない。

 少なくとも現状では、だが、その魔力からは悪い神に思える要素はない。

「ミアはどう感じてるの?」

 フーベルト教授の言葉を聞いたスティフィは一定の信頼を置きながらもミアの意見も聞く。

 フーベルト教授の神族に関する知識を信頼していない訳ではないが、それ以上に神の巫女であるミアの直感の方が重要だと判断してだ。

「神様の力を確かに感じますが、神様自体はいないように感じます」

 だが、ミアに神の良し悪しなど分かりはしない。

 ミアにとって本当の意味での神はロロカカ神だけだ。

 そのロロカカ神の魔力の質は、この上なく不吉で混沌としているのだから。

 それに比べればどの神も清廉な気配と表現して問題ないほどに。

 だが、それ以上に重要なことをミアは感じ取っている。

 この場所は神の領域でありながらに、その主である神は不在だというのだ。

「流石ですね、そこまでわかる物なのですか」

 フーベルト教授は素直に感心している。

 自分が身に着けていた知識も、ミアの直感の前では形無しだ。

「とりあえずは安全ってこと?」

 神がいないのであれば、とりあえずの危険はない、スティフィはそう判断して息を吐き出す。

「ええ、恐らくミアさんの言う通り、この場に神はいませんが、社の敷地内はやはり神の領域になっていますね」

 だが、フーベルト教授はそう言って気を引き締める。

 確かに神自体は社にいないのだが、その場所が神の領域となっているのであれば、そこに神がいるのとそう変わりない。

「それ、神がいるのとほとんど同じじゃない?」

 社の敷地内が神の領域であるのならば、そこは神の体内と言っても過言ではない。

 神からすれば、ただ意識が向いてないだけ、それだけの話でしかない。

「神の領域だからと言って、神自体が降臨してくることは稀ですよ。何かしらの干渉はしてくるかもしれませんが」

 フーベルト教授は気を引き締めてなお、嬉しそうに口角を上げる。

「ああ、そう、それでも入るんでしょう?」

 スティフィは嬉しそうなフーベルト教授の顔を見て、呆れて言った。

「はい、でも…… スティフィさんはやめておいた方が良いかもしれませんね」

 フーベルト教授はスティフィを見て、そう判断を下す。

「なんで?」

「感覚が鈍すぎて今は何かされても気づけないでしょうし」

 今のスティフィはあまりにも感覚が鈍すぎる。

 この社内で何かされても、今のスティフィではそれに気づけない。

 それは致命的なことになりかねない。

「むっ…… わかったわ。外で待ってるわよ、荷物持ち君と」

 スティフィはそう言って荷物持ち君の横に座り込んだ。

 自分の置かれている状況がわからないスティフィでもない。

 それにどうせ神族相手では、自分が万全の状態であっても役に立てることはない。

「そうですね、ここで待っていてください。フーベルト教授と一緒に見てきます」

 ミアは少し嬉しそうにそう言った。

 ロロカカ神という存在を知る上で、他の神と比べることは重要な事となる。

 それほどまでにロロカカ神の情報がなく、他の神と比較していくことでしか、今のところ知る術がないからだ。

 なので、ミアとしても様々な神を知る機会は嬉しいのだ。

「気をつけなさいよ」

 スティフィは少しつまらなそうにそう言った。

「はい!」

 それに対しミアは元気に返事をする。




「社の敷地内は全然荒れてませんね、建物も全然朽ちてないですよ」

 社の敷地内に入ったミアの第一声はそれだった。

 この社の敷地内は、まるで今も人が手入れしているかのような、そんな様子をしている。

 荒れている場所など一切ない。

 今朝にでも誰かが清掃していったような、そんな雰囲気すらある。

「ステイル平野の地母神…… こんな場所に、ですか? これは…… 神の名も記されていますね、こんな堂々と」

 フーベルト教授は社の敷地内にある銘石の前でそこに書かれていることを黙読する。

 そこには神の名まで書かれている。

「えっと……」

 ミアも寄って来て、その銘石を、そこに書かれている神の名を声に出して読もうとする。

 それをすぐにフーベルト教授が止める。

「読み上げないでください。何が起きるかわかりませんので」

 フーベルト教授にしては鋭く言い放ち、それにミアが驚く。

「は、はい!」

「しかし、こうやって神の名まで記して置くとは珍しいですね」

 基本的に神の名をこうやって公に書き示すことはない。

 それは神の気を引きすぎる行為であり、何が起きるかわからないし、場合によっては神を怒らす行為でもある。

「そうなんですか?」

「はい、神の気を引くのに神の名を記すことはありますが、ここまで目立つ場所に記すのは珍しいですね。よっぽど神の加護を欲していたのですね」

 どおりで人もいなくなったこの村の結界が今も生きているはずだと、フーベルト教授は納得する。

 それに、これだけ強固な結界を作らなければならなかった理由があるのだろう。

 恐らくではあるが、この辺りは外道種が頻繁に出没するのかもしれない。

「どうして……」

「恐らく外道種が多いのでしょう。人が少ない地域ほど外道種は多いので」

 フーベルト教授はそう言って顔を顰める。

 この辺りで何の気なしに野営していたが、それは危険なことかもしれない。

 野営するなら、この村に入ってしまった方が安全かもしれない。

 神の名を書き記してまで、これだけの結界を張る必要があると言うことは、その必要性があったと言うことだ。

「そうなんですか? リッケルト村ではあんまり、というか外道種自体を見たことも聞いたこともありませんでしたよ?」

 ミアはリッケルト村で住んでいるとき、外道種という存在は知っていた。

 だが、魔術学院に通うまで、ほとんどおとぎ話の中の存在と思っていたくらいだ。

「それはミアさんの神のおかげじゃないでしょうか?」

 他の神がその名を聞いただけで逃げ出すような神だ。

 外道種も近寄りしないのかもしれない。

「ロロカカ様のおかげですか! 流石ですね!」

 ミアがそう言って、ミアが崇める神の名を言った時だ。

 その空間が、社内の空気が一変する。

 それは何かが意識をそこに向けただけの話だが、ミアとフーベルト教授はあまりにも圧に動けなくなる。

「ロロカカ? そう申したか、娘よ」

 どこからともなく低くはあるが女性の声が、どこからともなく響いてくる。

 フーベルト教授は事前にミアに注意を促しておくべきだったと反省する。

 自分も少し浮かれすぎていて、そのことを、ロロカカ神という存在の特異性を、完全に忘れていた。

「は、はい、私はロロカカ様の巫女です。これが証です!」

 ミアは重苦しい圧の中、何とか体を動かし、前髪をあげて、おでこにあるロロカカ神の印を露わにする。

 そうするとすぐに周囲の圧が和らぐ。

 そして、逆に柔らかい、優しい空気が辺りを包みだす。

「偽りではない…… 遂にこの時が…… 歓迎したいのはやまやまだが、この地の民は滅びた。今はただ盟約のみが生きているのみ……」

 またどこからともなく声が響いてくる。

 少し悲しみを含んだような、そんな声が。

「…………」

 ミアがどう答えようか、それに迷っていると、

「丁度良い、この盟約の破棄を頼もう。ロロカカの巫女よ」

 哀愁を感じさせながらも、決断を下したそんな声が響き渡る。

「わかりました、お任せください。地母神様」

 ミアは深々と頭を下げ、盟約の破棄を快諾する。

「では、頼んだぞ……」

 その言葉が響き渡ると、大きな気配はこの空間から去っていくのが、もの悲しそうに去っていくのが、ミアには感じられた。

 ミアにもこの神は良き神で、自分の民を愛していたのだと、そう感じることができるほどに。

「去っていかれましたね。ミアさんの神の名に反応して声を掛けて来たようですが……」

 たった一言であの反応だ。

 ディアナに憑いていた分霊とは違い逃げ出しはしなかったが、最初の圧は神の驚きを、いや、もはや驚愕ともいえるほどの驚きだったのではと、フーベルト教授には思える。

 やはり、ロロカカ神はただの神ではない。

 何か特別な神であると、その神に自分はこれから会いに行けるのだとそう思うと、自然と顔に恐怖と笑みが滲み浮かんでくる。

「盟約の破棄を頼まれました。フーベルト教授どうしましょう?」

 ミアとしては頼まれたはよい物のどうしていいかわからない。

 神との盟約の破棄など、ミアもまだ習っていない。

 ただ、ミアは神の領域の無効化を一度その目で見ている。

 おおよそではあるが予想は立つ。

「この社のどこかに盟約内容を記した魔法陣があるので、それをどうにか無力化するしかないですね」

 フーベルト教授の言葉が予想通りだったので、

「はい!」

 と、元気よくミアは返事をする。

「それと、サリー達もこの村へ呼びましょう。村自体に危険性はなさそうですし、この村の外には外道種がいる可能性が高いですからね」

 フーベルト教授はそう言いながら、なぜこの村が滅びたのか、その理由が気になり始める。

 それとは別に盟約を破棄するまで数日この辺りに滞在しなければならなくなる。

 外道種がいるかもしれないのであれば、馬車ごとこの村の中に入ってしまった方が安心だ。




「そのいい匂いが漂ってくる壺はなんですか?」

 馬車から降ろされた香ばしく良い匂いがする壺を発見して、村の中でのことを話すより先にミアはその言葉を発した。

「ミアさん達が獲って来たヤマドリを燻製にしているので触らないでくださいね、見た目よりも熱いですよ」

 運ぶために一時的に毛布にくるまれていた壺をエリックが地面に設置しているのを見ながらジュリーがそう答える。

 燻製し始めた壺をあまり移動したくなかったが、外道種がいるかもしれない、という話だったので、急いで運んできたところだ。

 この壺の底には燻製材が火を燻り、壺の蓋から羽を毟られ内臓などを抜かれたヤマドリがぶら下げられている。

 既に肉汁が滴り良い匂いを発している。

「はい!」

 と、既に涎を流しながらミアは壺をまじまじと見つめている。

 そんなミアを横目で見つつ、フーベルト教授は門を調べているサリー教授に進捗を聞く。

「サリー、何かわかりましたか?」

「はい…… この門が結界の要ですね…… 恐らく…… この下に人が埋まって…… います」

 サリー教授は力の流れその質、門に刻まれている紋の内容を確認しながら、そう言ったのだ。

 この門には人が埋まっていると。

「人が? 人柱ですか……」

 フーベルト教授は、感じていた違和感はそれか、と納得する。

「え? 人がですか?」

 ミアもサリー教授の言葉を聞いて、燻製どころではないと驚く。

「ここの神自体は穏やかな神気の神でしたが……」

 ステイル平野の地母神の事はフーベルト教授も知っている。

 ステイル平野とはこの辺りにある平野ではない。

 暗黒大陸にあった場所だという噂で、元々はその地の地母神だった神という話だ。

 大昔、千年以上も昔、暗黒大陸が等々人の住めない地となり逃げて来た民がここに村を作った、そう言うことなのだろう。

 あくまで予想の範囲内の話だが。

 ただ、ステイル平野の地母神はまっとうな神であり、慈愛の女神とも言われてる慈悲深い神だ。

 とてもじゃないが人柱など要求する神ではない。

「そんな事を要望する神なの?」

 と、そこのことを知らないスティフィもフーベルト教授に聞いてくる。

「いえ、そんな要望をしてくる神ではないですね。恐らくはですが、ここのかつての住人が勝手にしたことではないかと」

「どういうことですか?」

 今度はミアがミアが理解できずに聞き返す。

「人柱を…… 用意することで…… 神の気を引いた…… のですね……」

 それに対してはサリー教授が答える。

 つまりこの村の結界は、神の名を使い更に人柱をすることで、神に強い関心を持ってもらいまでして、張る必要があったと言うことだ。

 それだけ村の外には危険があったと言うことなのだろう。

「要は結界の補強ってわけね、なるほど。つまりそうしなければならないほど、この辺りは外道種が多いってこと?」

 スティフィはそう言って顔を顰める。

 今の自分に外道種相手にどれだけの事ができるか、それも分からないでいる。

「まあ、そういうことですね。まだ結界があるとはいえ、夜は気をつけましょうか」

 フーベルト教授はこの結界が未だに存在しており、村の中が荒らされていないことからも、外道種が村の中にまで入ってくることはないと考えた。

 夜に村の外に出ない限りは襲われる様な事はないはずだ。

「外道種ってやっぱり夜に活動的になるんですか?」

 ミアが疑問を持ったようでそのことを聞くと、

「一般的には、ですね」

 フーベルト教授が答える。

 それは、光の三貴神の一柱、太陽の戦士団が崇める太陽神が外道種狩りを積極的に行っていて外道種が陽の光を恐れるようになった、と言われているが実のところ確証のない話でもある。

 どちらかといえば与太話の類だ。

 ただ太陽神と呼ばれる神々の力が強く、そう言った意味では、外道種も太陽自体を避けている可能性はある。

「かなり強い…… 結界ですので…… この村の中に居れば、平気…… かと……」

 サリー教授はそう言いつつも、門に施されている紋を再度確認しながら確信する。

 とても古い術式ながらも、その力は今も生きておりこの滅びた村を守っている。

 サリー教授の話を聞いて、安心しているスティフィにエリックが唐突に今までの話を遮って話しかける。

「スティフィちゃん、次戦うときは俺が勝つぜ?」

 エリックは自信ありとばかりに、そう言った。

 急に言われたスティフィも少し面食らう。

「その自信はどこから来てるのよ」

 そう言いながらも、スティフィはまともに相手にしない。

 だが、

「ん? だってサリー教授に修行をつけてもらうんだからな!」

 エリックのその言葉にスティフィも目の色を変える。

 サリー教授の修行がどんな物かわからないが、確かにそれなら、その自信も納得できる。

 スティフィは知っている、サリー教授がただオーケンの娘というわけではないことを。

「なっ…… サリー教授! わ、私にも稽古をつけてください!」

 それに弱体化したスティフィにはいい機会だ。

 何かしらの訓練を始めなければ、とスティフィ自身も考えていたことろだ。

 サリー教授であれば、今の腑抜けた自分を鍛え直してくれると、スティフィにはそう思えた。

「え? 良いですけど…… あなたに…… 教えれることが…… 私にあるのですか?」

 当のサリー教授は少し首をかしげる。

 サリー教授からもスティフィは既に完成された兵士だ。

 自分に何が教えられることがあるのか、サリー教授にも思い浮かばない。

 それもそのはずでサリー教授の武術や体術は、ただの自己流なのだ。

 スティフィのように長年かけて鍛えられ受け継がれてきた技術を身に着けた戦士相手に教えれるものでもない。

「確かにスティフィさんなら、師匠のしごきに耐えれるかもですね。私は半日で投げ出しましたよ」

 ジュリーは自分には耐えれなかったしごきの事を思い出してしみじみとそう言った。

「ジュリー…… あなたも参加しなさい…… 少しは体も鍛えないと……」

 確かにジュリーは優秀な魔術師だ。

 座学に関しては特に。

 だが、魔術師は座学だけではダメなのだ。

 魔術師の資本も肉体にある。

 特に自然魔術において、野山を駆け回ることができる体力は非常に重要となってくる。

「え!? はい…… わかりました……」

 ジュリーは顔を引きつらせて、それを受け入れるしかない。

 既にジュリーの中で師匠であるサリー教授は絶対の存在となっている。

 言われてしまっからには従うしかない。

 それと口は禍の元、と言うことを身をもって実感する。

「なら私も!」

 と、ミアもサリー教授の修行だか訓練だかに参加することを表明する。

 ミアの場合は、ただ単に周りがしだしたので、寂しいので自分も、という気持ちが大きかっただけだが。

「は、はい…… わ、わかりました…… 皆さんの戦闘訓練をすればいいんですね……」

 そう言って、サリー教授は少し修行の内容を考える必要があると悩む。

 四人が四人とも目的が違う。

 エリックは強くなることが目的で、スティフィは強さを取り戻すことが目的だ。

 ジュリーは体を作ることが目的であり、ミアはそもそも目的がない。

 四人別々にそれぞれの似合った訓練の内容を考えなければならない。

 それと同時に、これだけ人気があるのであれば、学院に戻ったらそう言う講義も始めれば受講者も少しは増えるのではないか、ともサリー教授は考え始める。

「戦闘訓練?」

 ただ運動的なものを想像していただけに、ミアは少し複雑そうな顔をする。

 自分に必要かと、言われれば必ずしも必要なものではない。

「盟約の破棄をするのに、数日かかりそうですし、良い暇つぶしが出来ましたね」

 フーベルト教授はそう言って笑った。

 とりあえずは盟約内容が記された魔法陣を見つけるところまでは、今日中にはやっておきたいとも思いつつだ。

 なにせそれを見つけなければなにも話は始まらない。




「すいません。もう全部売り切ってしまいまして…… 材料も尽きてしまいまして。今は商売してないんですよ。申し訳ない」

 白竜丸。大きな白い鰐を目印にやって来た客をマーカスが断る。

 納屋で大人しくしていても白竜丸は目立つ。

 そして、今の白竜丸は品質の良い魔具店の目印でもある。

 食堂で食事をしていても、こうやって話しかけられることも多くなってきている。

 今マーカス達がいる場所は食堂兼宿屋だ。

 食堂が主で、宿は他にどこもやってないので食堂が仕方なく兼任している程度の物だが。

「ミアちゃん達、まだ同じ場所にいるようですねぇ」

 無言で出された食べ物を食べているディアナを見ながら、アビゲイルはそう言った。

 ディアナがこの調子と言うことは、まだこれ以上先に進む必要はない、そう言うことだ。

 進むときはディアナが教えてくれる。

 ディアナが起きれない時は、アイちゃん様が代わりに教えてくれはしたが、砂糖菓子のおかげかディアナの起きている時間が伸びてきている。

「道中見つけて集めていた薬草類ももうないので魔力の水薬すら作れないですね」

 マーカスは商品を求めて来た客の対応を終え、そう言って疲れたように息を吐き出した。

「魔力の水薬程度なら、いくらでも作れますが売るのはやめておきましょうかぁ、また目を付けられても嫌ですしねぇ、商人連中は怖いですよぉ」

 実感がこもるようにアビゲイルはそう言った。

 商人連中は金と面子の為なら何でもする人種だ。

 またアビゲイルという天才ですら、逃げ出すほど執念深い連中でもある。

「確かにそうですね。路銀も随分と稼ぎましたので、しばらくは平気ですし」

 マーカスにはそもそもこの先この路銀を使えるような村や町があるのか、それも不安な話だ。

 この辺りも既にかなり田舎で、村自体が少なくなってきている。

「けど、聞いた話ではこの先の村、随分と昔に滅んだらしいですよぉ」

 マーカスの懸念を後押しするように、アビゲイルはそんなことを言った。

 アビゲイルの聞いた話では四、五十年も昔に流行り病で滅んだという話だ。

「そうなんですか? そこですよね? ミア達がいるとしたら?」

 マーカスはまた何か厄介ごとに首を突っ込んでいるんだろうな、そんな顔してアビゲイルに確かめて来る。

 ただ、アビゲイルにしてもそこまでは知る由もない。

 最近やっと機嫌が直ってきたアイちゃん様にアビゲイルも聞いてみる。

「アイちゃん様、どうなんですかぁ? あっ、頷いてらっしゃりますねぇ、そうみたいです。廃村で何をやっているんですかねぇ」

 あまり目立たないように今もアイちゃん様には布を被せてあるのだが、そのアイちゃん様は布の中で頷いて見せる。

「また何かに首を突っ込んでいるんでしょうね。ミアの事ですから。なら我々は少しのんびりとさせてもらいましょうか」

 そうせ今はやれることはない。

 なら今のうちに休息しておいても損はないはずだ。

 この先、宿で寝泊まりできるとは限らないのだから。

「ですねぇ。急ぐ旅じゃないそうですが、本当に急いでないんですねぇ」

 アビゲイルもミア達があまりにも歩みが遅いので、少し退屈そうにそう言った。









 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


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