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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
滅んだ村の儀式と彷徨い迷う者

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滅んだ村の儀式と彷徨い迷う者 その1

 スティフィはなまった体をほぐしつつ、訳の分からないことを言ってくるエリックに呆れた顔を返した。

「マジかよスティフィちゃん、勝てたら付き合ってくれるって言うのか?」

 なんで、エリックがそんな思考になったのか。

 まあ、それはスティフィがデミアス教徒だからだろう。

 デミアス教では自由をうたいながらも強いものが絶対の正義なのだ。

 強ければすべてが許される。

 そんな教えの宗教だ。

 だから、スティフィがエリックに模擬戦闘を頼んだとき、エリックは先ほどの言葉を返したのだ。

 いや、それでもエリックの思考は、どこかおかしいのかもしれないが。

「そんなことは言ってないわよ。なんでなまった体を慣らすのを頼んだだけでそうなるのよ?」

 スティフィも少し困り顔でそう返した。

 今でもスティフィはエリックに負けるつもりはない。

 ないのだが、自分がどこまで弱くなったか、それを確認しなければならない。

 現状自分がどうなっているかわからない以上、万が一と言うこともある。

 それを確かめるのに、何度か実戦を体験しているエリックはちょうどいい相手でもある。

「スティフィ、もう大丈夫なんですか?」

 ミアが心配するようにスティフィに聞く。

 大丈夫か、と聞かれたらスティフィは答えられない。

 それを確かめるための模擬戦闘なのだ。

 ウオルタ領を出ても、しばらくスティフィは痛みで立ち上がれないほどだったのだ。

 やっと立ち上がれるようになって、初めにスティフィがしたことがエリックとの模擬戦闘依頼だ。

 ミアも心配するというものだ。

「痛みはもうほとんどないわ」

 そう言うスティフィの体はまだ痛みが残る。

 ただ、今までのように痛みで何かを中断されるほどの強さの痛みではない。

「じゃあ、本気でいかせてもらうぜ?」

 エリックはそう言って気迫をたぎらせる。

 この模擬戦闘で勝ては、本気でスティフィを自分の物に出来ると考えているようだ。

「いいわよ。その剣、ちゃんと使いなさいよ」

 スティフィはそうでなくては意味がない、とばかりにエリックの竜鱗の剣を指さして挑発する。

「スティフィ! まだ病み上がりなんですよ」

 ミアはそう声を掛けならがもスティフィから、邪魔にならないように距離を取る。

「現状を把握しとかないと、いざという時に動けないでしょうが」

 そう言って特に短い短剣をスティフィはかまえる。

 もっと大きな武器もスティフィは持ってはいるが、まだ体に痛みが残る今は小振りの武器の方が扱いやすいからという理由からだ。

 エリックは病み上がりのスティフィ相手にも遠慮しないで竜鱗の剣を抜く。

 剣としては小ぶりの部類ではあるが、竜鱗の剣は非常に重い。

 竜の鱗が頑丈なのは、竜が食べた物で竜が必要としない物を、すべてありえない力で圧縮して凝固させるからだ。

 だから、竜の鱗は非常に重く非常に頑丈で硬い。

 そんな竜鱗の剣をエリックは片手で、右手だけで扱う。

 相当な膂力の持ち主だ。

 更に左手には小ぶりの円形の盾を構える。

 対するスティフィが構えるのは、ただの鉄製の小さな短剣でしかない。

 スティフィはそれを構え、エリックの動きを見る。

 そして、じりじりと互いに距離を詰めていく。

 最初に仕掛けたのはエリックだ。

 盾を前方に突き出し、スティフィへと体当たりの要領で突っ込んでくる。

 ガタイも良く力の強いエリックが盾を構えて突っ込んでくるだけで、ほとんどの者はなす術がない。

 だが、スティフィは足運びだけで、それを容易くかわす。

 盾で出来た風圧がスティフィの銀色の髪をたなびかせる。

 そこへ待ってましたとばかりに、エリックは竜鱗の剣をスティフィへと突き出す。

 狙いは非常に正確で容赦がない突きだ。

 スティフィはそれを上半身を屈めることで簡単にかわす。

 そのまま潜り込むように突き出されたエリックの右手に交差するように素早くくぐり、エリックの右手に自身の右手をからませ締め上げる。

 完全に関節を動かせないように締め上げている。

 ついでに短剣の刃先をエリックの顔に突き付ける。

 まるで飛び掛かった蛇がエリックの腕に絡み突き、牙を突き立てるかのようにだ。

 たまらずエリックも、負けだと認めるように竜鱗の剣を手から落とす。

 一瞬で決着が着く。

「やっぱり、だいぶなまってるし、失った術式が大きいわね」

 スティフィの感想はそれだけだった。

 エリックを解放して、なまりになまった体をほぐすようにその場で何度は跳ねる。

 体が思うように動かない。

 以前の自分であれば、鉄を紙のように切り裂く竜鱗の剣の突きだろうが、この短剣でも受け流せる自信がスティフィにはあった。

 だが、今はそんな繊細な精密動作はとてもじゃないができない。

 間違いなく短剣を折られるか、さもなくば短剣ごと貫かれてしまう事になる。

「流石ですね、すごいですよ、スティフィ!」

 ミアは鮮やかなスティフィの動きに驚いて拍手までしている。

 だが、スティフィは自分が思うように動けない現実を実感するだけだった。

 スティフィの得意としていた相手の剣を受け流すような動作は今はもう無理だろう。

 それが今の模擬戦闘でスティフィには理解できた。

「いや、エリックが馬鹿なだけよ。なんでそこで突いたのよ」

 あれが突きではなく払いなどであれば、一瞬で蹴りがつくことはなかったはずだ。

 基本的には、竜鱗の剣の斬撃を普通の剣で受けることはできない。

 そのまま断ち切られてしまうだけのはずだ。

 受け流せないスティフィも距離を取るしかなかったはずだ。

「ん? いや、いけるかなって……」

 竜鱗の剣を拾いなおしてエリックは残念そうな表情をする。

 エリックも完全にスティフィを捉えたと思い突きを放ったのだ。

 ただ、それだけが理由ではない。

「突きは確かに強いけど隙も大きいのよ。そもそも、その剣は普通の剣どころか盾でも受けられないんだから、そういう立ち回りをしなさいよ」

 剣で受けるどころか盾でも簡単に切り裂ける竜鱗の剣の運用は普通の剣とは違う。

 突きでなくとも対人であれば簡単に致命傷を与えられる武器だ。

「いやぁ、この剣、意外と重くてな。振り回すよりも突きのほうが咄嗟の時は楽なんだよ」

 だが、エリックは渋い顔をしてそう言った。

 エリックの膂力をもってしても竜鱗の剣をやたら滅多と振り回すのは大変のようだ。

「ちょっとかして」

 と、スティフィは短剣をしまって右手を出す。

「スティフィちゃんでもこれはやらんぞ」

 そう言いつつもエリックは素直に竜鱗の剣をスティフィに手渡す。

 そもそも竜鱗の剣は武器の方から人を選ぶ武器だ。

 竜鱗の剣に認められなければ武器として扱うことはできない。

「はいはい、あ、本当ね、見た目よりもずっと重い。ミアじゃ持てないんじゃない? 私でも片手じゃこれは使えないわね」

 竜鱗の剣を受け取ったスティフィはそう判断した。

 恐らく鉄製の大剣以上の重量がこの小剣にはある。

 特に今のスティフィでは、逆に剣に振り回されてしまう程の重量だ。

「そんなに重いんですか?」

 ミアは興味があるように近づいてくる。

「だろ?」

 と、エリックはスティフィに得意げな表情を見せる。

「私にも持たせてください!」

 ミアはただの好奇心からエリックに向かいお願いをする。

「しかたないな!」

 何度も言うが、竜鱗の剣は剣となった今でも生きており、使い手を選ぶ。

 エリックもスティフィならその剣を握るに問題ないと判断し、ミアは竜王の卵を持っているので大丈夫だろうと判断して許可を出している。

「ほら」

 エリックの許可が下りたようなので、スティフィはミアに竜鱗の剣を手渡す。

 ミアは両手でそれを受け取り、見た目からは想像出来ない重さに驚く。

「うわっ、本当に重い…… こんなもの振り回したら腰を壊しますよ」

 竜鱗の剣を実際に持ってみて、ミアの感想はそれだった。

「確かにな。見た目は軽そうなのに重いからな……」

 エリックも似たようなことを思っていた。

 そこへ離れて様子を見ていたジュリーが話しかけて来る。

「もう終わりました? 夕食の準備ができてますよ」

 今日の夕飯を用意したのはサリー教授だ。

 残り物で作られた料理だが、それでもさぞ美味しい事だろう。

「ミア、この先、町とか村はないの?」

 想像以上に体が思うように動かなくなったスティフィは一度デミアス教の施設に寄ろうと考えている。

 ある程度大きな町があれば、デミアス教の神殿なり教会なりが、あるかもしれない。

 そこで少しでも自分の体を調整しなければならない。

 スティフィもこんな田舎にデミアス教の施設があるかどうか聞かされてないので実際に行って確かめるしかない。

「そりゃもちろんありますよ! まだ街道が続いているじゃないですか」

 と言う言葉がミアから返って来て、スティフィは少し不安になる。

 この先デミアス教の施設自体がないかもしれないと。

 ミアが街道と言った砂利道は、とてもじゃないが街道と呼べるほど立派な物ではない。

 なんならその砂利もちゃんと撒かれていない。

「え? これ街道だったの…… ただの砂利道かと思ってたわ」

 スティフィは整備されているとはいいがたい、ただ道を失わないように砂利を巻いただけに思える道に不安を感じ始める。

 東の地の外縁部は、スティフィの想像以上に田舎のようだ。

 いや、まだ砂利が少しでも巻かれているだけましな方なのだろう。

「たしか、この先にある町だか村が、最東端の騎士隊施設って話だぞ。フーベルト教授がそう言ってたぞ」

 騎士隊訓練生のエリックはまるで他人事のようにそう言った。

「何で騎士隊関係者のあんたが他人事なのよ」

 スティフィは透かさず突っ込むのだが、エリックは素知らぬ顔だし、スティフィもデミアス教の拠点がこの辺りにあるかどうか知らないでいる。

 いや、スティフィが聞かされていない、知らないと言うことはと言うことは、そんな施設はない可能性の方が高い。

 デミアス教は人の流れがある場所には自然と入り込む。

 そんな宗教ではあるのだが、人がそもそも少ない場所にはそのデミアス教も入り込めはしない。

 この先は閉鎖的な集落も多いので、デミアス教も入り込むことができていないのかもしれない。

「まあ、俺は資格取れたら北に帰るしな」

 そう言ってミアから竜鱗の剣を取り鞘にしまう。

 そんなエリックにスティフィは現実を突きつけてやる。

「騎士隊に正式になれても、しばらくはシュトゥルムルン魔術学院かリグレス勤務らしいわよ。今は人手不足らしいから」

 始祖虫にはじまり始祖虫に終わり、リズウィッドの騎士隊はかなりの被害を受けている。

 リズウィッド領の騎士隊は今や深刻な人手不足に陥っている。

「マジかよ! 早く北に帰って竜の試験を受けたいのによ」

 それを聞いたエリックはそう言って悔しがる。

 それと同時に竜の英雄であるハベルの下にもうしばらく居れることは素直に嬉しい。

 なんだかんだ、ミア達と共にいることもエリックは気に入っている。

 だが、エリックの夢は竜の英雄になることだ。それだけは譲れない。

 本来なら、竜鱗の剣は竜の試練を受かり、竜との絆を深めなければ手に出来ないものだ。

 その過程をエリックは運よく省き、竜鱗の剣を手に入れられ、更に飛竜の一匹と竜の試練をする約束まで取り付けれたのだ。

 しかも、憧れの竜の英雄であるハベルが契約した竜の息子とだ。

 それに竜の試練を受けるのは竜鱗の剣を得る過程だけではない。

 竜の魔術を扱えるように、竜の力の一部を利用できるようにもなるのだ。

 大いなる竜に認められてこその、竜の英雄なのだ。

「今のあんたの実力じゃ死ぬだけよ。せめて私に勝てるようになってからにしなさいよ」

 スティフィは冷静にエリックの実力を判断してそう伝えた。

 確かにエリックはガタイも良く剣筋も悪くはない。なにより恐れというものを持っていない。

 また戦場全体を本能的に把握できる才能も持っている。

 将来的には竜の英雄になれる素質は持っているだろうが、竜の試練を受けるにはまだまだ弱い。

「えぇ…… スティフィちゃんって実際どれくらい強いんだよ?」

「んー、上の下だったのが、左手を失って中の上になって、さらに術式を色々失って中の中って感じじゃないかしらね」

 スティフィは適当に、本当に適当に、思いつくままそんなことを言った。

 先ほどの発言に何の根拠も裏付けもない。

「随分と弱体化して手も足も出ないのかよ」

 さっきの模擬戦闘でも、スティフィが病み上がりでも勝てなかったことにはエリックも深く突き刺さるものがあった。

 確かにスティフィの言う通り、今の自分が竜の試練に挑んでも犬死するだけだろうと言うのをエリックも実感できている。

「本当によ。術式を失っただけでここまで弱くなるだなんて……」

 スティフィも自分が想像以上に動けなくなっていることに愕然としている。

 それに体が動けなくなっただけではない。

 今まで把握していた周囲の状況がまるで分らない。

 どこに誰がいるか、以前は壁越しにでもすぐに把握できていたのに、それすらわからなくなってしまっている。

 スティフィにとっては、そちらの方が問題だ。

「ええ、どう弱くなったんですか?」

 ミアは先ほどのエリックとの戦闘を一瞬で終わらせたのになんで、と言った顔をする。

「とにかく体が重くて思うように動かせないわね…… なにより感覚が鈍りまくってるわ。しばらく訓練をしないと……」

 スティフィはそう言って息を細く長く吐き出す。

 これでは凡人と変わらない。

 ちょっと腕の立つただの人間止まりだ。

「ご飯…… できて…… います…… よ?」

 そこへ少し苛立ったようなサリー教授が馬車から顔をだし呼びかけて来る。

「はっ、はい!!」

 と、スティフィが冷や汗を流しながら返事をし、

「すいません、今行きます」

 ジュリーが平謝りする。

 この二人はサリー教授の怖さをよく知っているからだ。

「今日は何でしょうか?」

 と、ミアは呑気にそんなことを言って馬車に向かう。

「余り物を煮込んだ鍋ですね。そろそろ買い込んだ食料も尽きて来たので狩りでもしていかないとダメかもしれないですね」

 丁度良い機会だとジュリーが、馬車まで行く間に手短にミアに伝える。

 ウオルタ領を出て、まともな買い物はできていない。

 少しでもまともな食事をするなら、もう現地調達するしかない。

 ジュリーの思惑通りミアはそれを聞いて顔を輝かせる。

「スティフィ、明日にでも狩りへ行きましょう!」

 ミアはスティフィに狩りの提案をする。

「いいけど、前のようにはいかないからね?」

 スティフィもそれを了承する。

 まだまだ自分の体がどうなっているのか確かめなければならない。

 片手だけで扱える連弩を使っても、以前のような精密な射撃はできないはずだ。

 それも確かめなければならない。

「はい! 明日は狩りです! 捧げものです!!」

 ミアもミアで久しぶりにロロカカ神に捧げ物ができると喜んでいる。




「ベッキオ様、ミア様の話聞きましたか?」

 ミアが領主であるルイの本当の娘だという情報がリカルドにも回って来た。

 それをリカルドは義父となったベッキオにも確認する。

 すると、ベッキオはあからさまに機嫌が悪そうな表情を隠そうともしない。

 リカルドはミアの事で何かあったのだと、立場的には自分の姪となった少女のことを思い起こす。

「ああ、ルイ本人から聞いた。まさか本当にルイの娘だったのはな……」

 ベッキオはそう言って、苦々しい顔をする。

 ルイの娘と言うことはベッキオにとって問題はなく、別の理由でベッキオは顔を顰めているのだろうと、リカルドはなんとなく確信はないがそう思う。

「ならば、護衛の方は?」

 ただ、ルイの娘であるならば、ミアにも元外道狩り衆の護衛をつける、領主の一族を、この国の王族を影ながら代々守って来たのも外道狩り衆なのだから。

 今は外道狩り衆と言う組織は解体され、領主の護衛騎士とか近衛騎士、そう言った立場だが。

「今はいらない。神から指示があったそうだ」

 ベッキオは履き捨てるようにそう言った。

 ベッキオが苦々しい顔をしていた理由はこれなのだろうと納得する。

 ただ元外道狩り衆として、ステッサ家とビアンド家があり、領主の代ごとに交互に護衛してきている。

 ルイーズがビアンド家に護衛されているように、ルイの子の代はビアンド家の護衛をつけることになる。

 立場的にステッサ家が本家で、ビアンド家が分家ではある。が、それは昔のことだ。

 本来なら、ブノア率いるビアンド家の方でミアを護衛することになっていた事だろうが、それも神に不要だと言われているとのことだ。

 そのあたりも含めて、ベッキオは機嫌が良くないようだ。

「秘匿の神からですか?」

 リカルドは少し驚きながら聞き返す。

 秘匿の神が人を攫うことは確かにあるが、それだけで何事にも寛容な神ではある。

 今回のように神の方から何か言ってくることは非常に珍しい。

「ルイも今はミアに関われないらしい」

 ベッキオはそう言って鼻で笑う。

 リカルドも、ルイがミアを自分の娘だと神が認める前々から言っていたことを思い返す。

 とうとう領主が狂ったのかと、一時はそう思いもした。

 だが、親にしか感じ取れない何かをルイはミアから感じ取っていたのだろう、と、今ではそう思える。

「では、護衛はいらない、ということで良いのですか?」

 リアルドはそう聞き返しつつ、後でブノアにも伝えておかなければならない、と、内心ため息をつく。

 ブノアの事だ、すでに事情を知っているはずだろう。

 それでも一応立場上、元ではあるが外道狩り衆の次期頭目として、そのあたりの指示は出して置かなければ示しがつかない。

 色々と面倒な事だ。

「もし…… ミアがこの地に帰ってくるようなことがあったら、その時考えればよい」

 ベッキオもミアの事情はおおよそ把握している。

 それを考えればミアがこの地に戻ってくる可能性は低い。

 だから、秘匿の神もミアに護衛はいらないと、そう伝えて来たのだろう。

 それがベッキオには腹立たしくて仕方がない。

「御意」

「とはいえ、その時が来たら、我らの護衛は我らで固めないとならない。それを考えるとだな。ミアには、まあ、不要なのだろうが」

 ベッキオはそう言って、護衛者である荷物持ち君と言う使い魔を思い出す。

 ベッキオの目から見てもあれは化け物以外のなにものでもない。

 若き古老樹そのものだ。

 さらにベッキオには感知できないが、相当な力を持つ大精霊がミアに憑いていてミアの身を守っているとのことだ。

 それだけで人間の護衛などいらないだろう。

 それはそれとして、もし護衛をつけるのであれば、ビアンド家にではなくステッサ家の方でどうにかできないものかとベッキオは考える。

 だが、それに対しての、いい案は浮かんでこない。

「護衛者…… ですか」

 リカルドも確かにそれらがいるのに、元とはいえ、巨人に授けられた力を行使する外道狩り衆は逆に邪魔になりかねない。

 巨人の力を目の前にした古老樹がどう反応するかもわからない。

 だが、古老樹や大精霊はまだましな方で、今、ミアにはロロカカ神から使わされた御使いすらもそばに居るのだと言うのだ。

 その御使いも元、炎の巨人だと言う話もあるので、外道狩り衆が不用意に接触するのは本当に危険なのかもしれない。

 それもあって秘匿の神もわざわざ警告して来たのだろう。

「それもあるが、それもそうなのだが、何かとあれの周りには良い人材が集まっている」

 ベッキオは孫であるミアに対して、あまり過度に接触しないようにしているが、ベッキオももう年だ。

 内心、孫であるミアが可愛くて仕方がない。

 ビアンド家に派遣したリカルドの妹のマルタを通じ、ミアの情報を色々と受け取っている。

 様々な人材がミアの周りには集まっている。

 中には神に、しかも冥府の神にミアを守るように言い使った若者すらもいると言う話だ。

「確かに。力の使えない我々ではたかが知れていますからね」

 外道狩り衆の力、巨人より授かった呪印の力は禁忌の技だ。

 人前で見せることができないし、見たものがいるのであれば殺さなければならない。

 その掟だけは今も変わってはいない。

「外道狩り衆が闇に生きる時代はもう終わった。だからと言って光の中で生きられるわけではない。この力は呪われた物だ」

 ベッキオはそう言って俯く。

 どれだけ強かろうが、これは神に仇なした巨人の力なのだ。

 今の時代、表に出してよい力ではない。

「ですが、ベッキオ様のご尽力で護衛騎士の地位を得ました」

 そのおかげで、影から領主の一族を支えていたことから、表立っての立場を得ることができている。

 ステッサ家としても、ビアンド家としても、これは大きな成果だ。

「元々していた事の名称を変えただけだ」

 ベッキオはそう言って、少しはにかむ。

「ご謙遜を」

「ふむ。それはそれとして、ミアが戻って来た時に念のための護衛役を見繕っておいてくれ」

 詳しくはベッキオは言わない。

 だが、その言葉の中にビアンド家には任せず、どうにかステッサ家からミアの護衛を出せ、とそう言う意図をリアルドは感じ取る。

「はい、年の近い者を用意いたします」

「マルタか?」

 と、ベッキオは分かりやすく顔をほころばせる。

 年も近くミアと同性であるマルタなら任せるに値する。

「妹はルイーズ様に気に入られてしまったので……」

 リアルドは少し困り顔をしてそれを否定する。

 これほどまでにベッキオがわかりやすく反応したのに、その期待に応えることができないからだ。

 それにマルタはマルタで、今のままルイーズの護衛にしていた方が色々と役立つ。

 リカルドはそう考えている。

 ステッサ家とビアンド家で特に確執があるわけではないのだが、全てを話せる仲と言う訳でもない。

 ビアンド家の情報を得られるなら、マルタにはそのままルイーズにつけておきたい。

「そうか。まあ、任せる」

 ベッキオは少しつまらなそうにそう言った。

「はい、お任せください」

 リアルドはベッキオに頭を下げ、これからまた忙しくなりそうだ、と、心の中だけでため息をつく。







 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


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