海岸沿いを行けば出会う野盗と恩返し その7
「ミア様、どうしますか? コソ泥達を捕まえるなら協力できますぞ」
ミアはヒエンの案内の元、盗品市場と呼ばれる市場へと朝早くから来ていた。
盗品市場と言っても闇市と言う訳でも…… いや、分類は確かに闇市の類だが、それでも歴史あるこの領地の市場ではある。
観光名所の一つ、と言えば語弊はあるが合法ではないまでも、いつの間にか定着した伝統ある市場だ。
闇市と言ってしまえば、やはりそれはそうなのだが本物の闇市はまた別にある。
言ってしまえば、ある程度表にも見せられるお試し用の闇市と言ったところだ。
そこへ魔術師であるヒエンと騎士隊であるデュイと共に、ミアは来ている。
市場はいくつもの広い天幕が連なった存在で、その内部はかなり広い。
天幕の中まで荷物持ち君は付いてきていないが、天幕の入口までは付いてきている。
本来ならスティフィも付いてくるのだろうが、そのスティフィは未だ寝台の上で起き上がれない状態だ。
ミアも何か理由があって盗品市場に来たわけではない。
もしかしたら、当時、と言っても一年半ほど前だが、盗まれた物が見つかるかもしれない、そう思っただけだ。
ただ、流石にミアが盗まれた物が今でも残っているわけもない。
そんなミアに向かい、ヒエンは強気にそう言って見せたのだ。
盗品市場は魔術師であるヒエンに鑑定を依頼することがあり、それなりに縁故があるからだ。
ヒエンが望めば、実際にはヒエンでなくとも、当時の盗人を見つけ出すことも可能だ。
そもそもの話なのだが、この盗品市場では料金さえ払えば、盗人を差し出すこともしている。
そう言う市場なのだ。
とはいえ、盗品市場で売られている物は、だいたいが身よりもない貧しい子供達が盗んできた物だ。
この市場は、そう言う者達の大事な収入源となっている。
ヒエンもミアが望まなければ、無理に犯人を見つけようとも思わない。
「いや、いいですよ。大した物を盗まれたわけではないですし」
ミアも盗品市場の実態を聞いて、犯人を見つけ出そうとは思わない。
そもそも、ミア自身が言っている通り、大したものは盗まれていない。
盗まれた物中で一番価値があったのが、つきかけの路銀だったくらいだ。
もし、今でも盗まれた物が売られてたら、恥ずかしいので買い取りたい、それくらいの気持ちだった。
後はもうただの観光気分で、比重もそちらの方が大きい。
それに、ミアとしてはそれで山を突っ切って強行する切っ掛けではあったが、そのおかげで無事に魔術学院にはたどりつけてはいる。
ミアも今では荷物を置き引きされたことも、運命だったのではないかと、そう思っている。
「そうですか、お心が広いですな」
そう言ってヒエンはまるでミアを孫のように扱う。
まるでミアの従者か保護者にでもなったかのようなふるまいだ。
「それより、良いんですか? デュイさん、騎士隊でしたよね?」
そんなヒエンを目に入れずに、ミアはデュイに話を振る。
盗品市場と言う場所に、治安維持も仕事のうちの一つである騎士隊が、平然といることを不思議に思っている。
「まあ、なんだ。騎士隊は治安維持には貢献するが、盗品市場なんかには首を突っ込まないんだよ。ここは、そうだな。この領地の政の一つみたいなもんなんだよ」
デュイはそう言ってミアに笑顔を向ける。
「私にはその違いがわからないのですが?」
貧しい子供達の収入源に一役買っていると言われても、盗品は盗品だ。
そんな商品を扱っている場所に、騎士隊がいることがミアからすると不思議でしかない。
ただ、ミアは知らないが騎士隊は基本的に外道種を滅ぼす事が第一目的であり、治安維持はその領地から依頼でもされない限り無暗にしたりはしない。
特にその領地の政や文化、伝統には口を出さない。それが騎士隊と言う組織だ。
「まあ、あれです、盗品市場も、この領地ではある程度は合法なんですよ」
難しそうな顔をしているミアにヒエンはそう声をかける。
「全然、合法ではないけどな?」
それにデュイが注意を促す。
お目こぼししている、というのが正しい。
「やっぱり、私にはわかりませんよ」
そう言ってミアは盗品市場を見て回る。
どれも大したことない物ばかりで、どれも安い。
盗まれたとしても買い戻すのも容易な金額ばかりだ。
「ミア様はそう言うことはわからなくて良いのです」
ヒエンは神の巫女には必要のないことだと、そう言うかのように、何度も頷きながらそんなことを言う。
「けど、色々なものが売られてますが、どれも安いですね」
本当に安い。
ミアの手持ちだけでも、ここにある商品すべてを買い占められるくらいの金額でしかない。
ある意味、そう言う場所なのだろう。
盗まれても、ここで安く買い戻せる。
だから、あまり大事にもならない。
「そういう物が元々売られているんですよ。まあ、言ってしまえば本当に価値のある物は、ここでは売られませんね」
ヒエンは少し表情を変えて、そう言った。
「それでお目こぼしされているところがあるからな。逆に価値のありそうなものは、この辺りでは盗まれないだよ。大事になったら困るからな」
デュイもそんなことを言った。
ただ盗人はだいたい子供だ。稀にではあるが価値のある物を盗んでしまうこともある。
価値がある物がここに運び込まれたら、それこそ本物の闇市に流されるだけだが。
けれども、そっちの本物の闇市のほうは何度か摘発された過去がある。
それに対して、こっちの盗品市場は名前の割に摘発された歴史は一度もないのだ。
「そういうものなんですか?」
ミアは納得しても、特に感想が出てくるわけでもない。
観光目的というわけではないのが、ただどういう場所か知りたかったから見に来た、というのがミアの本音なのだ。
後、スティフィの容体は安定したが、起き上がれるようになるまでもう少しかかる。
ようは暇なのだ。
「まあ、そうですね。大事になるような、特に高価な物は、ここらのコソ泥達は避けますね。それで細々と成り立っているんですよ」
ヒエンはそう言って盗品市場の奥にいる少し怯えた子供達を見る。
恐らくはミアの荷物を置き引きした犯人達なのだろう。
盗品市場では盗まれた人物が望めば、少しの金を払う事で簡単に盗人を引き渡す様にしている。
ここはそう言う場所でもある。
その準備が既にできているのだろう。
魔術師という立場を持つヒエンが連れて来た客なのだ。
それ相応の対応をしてくれているのかもしれない。
「やっぱりよくわからないですね」
ただ、ミアはそんなことになっているとは微塵も思っていない。
「まあ、稀にではありますが、ミア様の着替えのように掘り出し物はありますがね」
ヒエンはそう言って難しい顔をする。
この領地では魔術師と名乗れる者は珍しい。
そう言う意味では、ヒエンがミアの髪の毛に気づけたのは、偶然ではなく必然だったのかもしれない。
「私の着替え自体が、掘り出しものだったわけじゃないですよね」
ミアはそう言って嫌な顔をした。
着替えと言っても、肌着の類だ。
ミアとしてもあまりいい気はしない。
「それはそうですが……」
「置き引きされたのも、替えの着替えとリッケルト村で出してもらった路銀の残りくらいだったので…… あっ、私の着替えを飾るのは、もうやめてくださいね、なんか恥ずかしいので。あんなボロボロの物を」
ミアはそう言って少し恥ずかしがる。
下着というわけではないが、落ち着いて考えると肌着をあんな風に飾られているのは恥ずかしいことこの上ない。
「は、はい、わかりました、ミア様。しっかりとしまい込み、家宝にいたします!」
ヒエンは大まじめにそう言った。
ヒエンにはミアが本物の聖女に思えているのだ。
そのお召し物ともなれば、聖物と言っても、ヒエンにとっては過言ではないのだ。
「それもやめて欲しいんですが……」
ミアはそう言って困った顔をする。
「でも、なんでこんな場所を観たかったんだ?」
デュイはそんな顔をしているミアに向かい質問する。
「いえ、ただ単に、どんな場所なのか、観たかっただけでですよ。なんかこの辺りだと有名だそうなので」
ミアは本心からそう言った。
暇だったから、とは、言わなかったが。
「盗まれた物を取り戻すのであれば、協力致しますよ?」
ヒエンは改めてそう言った。
そして、奥で怯えている子供達に視線を送る。
良くて鞭打ち、悪ければ追放だ。流石に処刑まで行くことはないだろうが、貧しい子供達からすればどれも死刑宣告とそう変わりない。
怯えるのも当たり前だ。
それはそうと、ヒエンの自宅に飾ってあった着替えはミアが正式にヒエンに贈呈している。
ミアも今更そんな着替えを必要とはしていない。
更に言ってしまえば、盗まれた物すべてが、今のミアからすれば大したものではない。
「ヒエンの旦那…… あんたが盗品市場にそこまで通っていたとは知らなかったよ」
デュイはそう言って少し驚く。
もしかしたら、デュイも奥で怯えている子供達に気づいているのかもしれない。
こちらが何か言う前に、準備だけしているということは、この盗品市場にとってヒエンは上客か、何らかの繋がりがあるということなどだろうと。
ヒエンは騎士隊員であるデュイに、何かしら感づかれたことに嫌な顔を見せる。
ミアの着替えを見つけたときは、別の品の鑑定で呼ばれていたのだ。
ヒエンが盗品市場の盗品目当てで通っているという訳でもない。
「なんじゃ、よいではないか、ここの商品が売れなければ、ガキどもは飢えるだけだろ」
ヒエンはそんなことを言って誤魔化す。
盗品市場の客以上に、盗品の鑑定までしていただなんて、ヒエンとしては騎士隊には知られなくないことだ。
「それで通っているんですか?」
ミアが少し驚いてヒエンを見る。
人は見かけによらないと、ミアは少し感動している。
随分と強欲な人物だと、ミアは思っていたが、貧しい子供のことを気に掛ける人物であると、ミアはヒエンを見直す。
それとミアとしても、自分の盗まれた物が、貧しい子供達の糧になるのであれば、特に言うことはない。
「いえ、ミア様。そういう訳ではないのですが……」
ミアに素直に言い訳を信じられて、ヒエンは慌てだす。
ヒエンとしては聖人と崇めるミアに嘘を尽きたくはなかった。
「悪人面の割には良い人だろ?」
そんなヒエンの様子をデュイが見て笑う。
デュイは既になぜヒエンが盗品市場になぜ通っていたか、あたりが付いているようだ。
「ですね」
と、ヒエンの言い訳を素直に信じているミアは笑顔を見せる。
「むぅ……」
ヒエンは何とも言えない顔をして黙り込むしかない。
「さて、帰りましょうか。そう言えば、難民の方達はどうなるんですか?」
運び込まれた野盗改め、正式に難民と認められた者達も今は回復に向かっている。
黄咳熱をぶり返す者も今のところいない。
「野盗と言うよりは難民として扱われるそうだな。特に罰もなく、な。もう少し様子を見たらリズウィッド領に引き取られるそうだ。リズウィッドからの謝礼金はかなり出たと聞いているからな」
デュイは未だにミアがリズウィッド領のお姫様だと信じられずに、ミアを見ながらそう言った。
それはデュイも風の噂で聞いていたからだ。
リズウィッドの領主は皆、美しい金髪の持ち主であると。
だが、ミアは美しくはあるが黒髪だ。しかもそれを帽子で隠している。
デュイとしても、信じられるものではないのが、どうも事実らしい。
「ミア様のおかげですな」
ヒエンが少し大げさに笑顔でそう言った。
たしかにそれはそうだ。
ミアが事情を書いた手紙をルイに出したからこそ、早急にリズウィッド領が、難民が迷惑をかけた、と多額の謝礼金と共に先手を打ったのだ。
ウオルタ領としても大して被害の出ていなかった野盗より、多額の謝礼金のほうがありがたい話だ。
だから、ウオルタ領でも野盗としてではなく、難民として扱うことにしたのだ。
「領主の娘というのが、なんだ、今でも信じられないが」
デュイはミアを、もう一度見てそう言った。
どう見ても、ただの村娘にしか見えない。
貴族などから感じられるような、気品の一つもない。
どちらかというと、親しみやすさを感じてしまうほどだ。
魔術師という話すら、魔術の才のないデュイには信じられないほどだ。
それが、神の巫女で、大きな領地の娘だというのだ。
「デュイ、滅多なことを言うでない。ワシのところにも多額の報酬がルイ様本人から送られてきている。疑うなど無礼な話だ」
ヒエンは目をまん丸くして怒りながら、デュイを諫める。
「手紙を出したら、すぐに送られてきましたね」
ミアは少し呆れながら、しかも、想像以上に、まさしく桁違いの金額が送られてきてミア自身が驚いている。
欲深いヒエンが、その金額に嬉しさよりも驚きと恐怖の方が勝ってしまったくらいだ。
「そのおかげで、野盗ではなく難民扱いになった事が大きいからな」
本来ならば、領主を頼らず勝手に他の領地にまで行った者達など、切り捨てても良かったのにだ。
ミアのおかげと言えば、それ以外に理由はない。
「午後からは領主様が会いに来られるんですよね? ミア様」
ヒエンはミアに確認する。
確かそんな話だったはずだ。
謝礼金があまりにも多額だったので、ウオルタ領の領主自らが、ミアにあいさつに出向いてくると言うのだ。
「いや…… 来られても困るんですよね。私は貴族として育ってないので……」
ミアは本気で嫌そうな顔を浮かべた。
ミアとしては貴族の礼儀など、マルタから多少習ったくらいなのだ。
「そのあたりは教授達にでも任せておけばいいのですよ、ミア様」
ヒエンはミア様は堂々とその場に居さえすればよいとばかりにそう言った。
「その準備もありますし、そろそろ帰りましょうか」
ミアは軽くため息をついてそう言った。
「あまり長居する場所でもないしな」
ヒエンはそう言って、盗品市場の店主に合図を送る。
奥で震えている子供達を開放しても良いと。
港町に着いたマーカスは久しぶりに宿に泊まり、人らしい食事をしながら、硝子の瓶に入れた黒い火の粉を持て余している。
ついでにだが、この宿の主人は白竜丸と言う獣を持て余している。
馬小屋に入れてはいるが、宿の主人としては馬が食われないか気が気でない。
「この黒い火の粉、なんですかね?」
結局、どうしてよいかわからず硝子の瓶に入れて保管してある黒い火の粉を観察しながらマーカスはアビゲイルに助言を乞う。
黒い火の粉は硝子の瓶の中心に留まりふわふわと浮いている。
それでいて物凄い力が込められているのだ。
どう扱って良いかなど、マーカスにも判断がつかない。
「神でいうところの分霊的な物なんじゃないですかねぇ? 火の粉一つでも、かなりの力を込めていますよぉ」
アビゲイルでも持て余す物だ。
自分のところに飛んでこなくて良かったと、他人事のように心底安心してそう言った。
アビゲイルに張り巡らしてある呪い同士によるある種の結界のようなものの均衡を崩しかねない程、強力なものだ。
アビゲイルのところに来ていたら、今、アビゲイルは宿での久しぶりの食事を楽しんでいる余裕はなかっただろう。
「で、どう使うんですか? これ?」
マーカスにはそれすらも分からない。
本当に持て余している。
ミアが神器をいくつも持ちながら自らはあんまり持たずに、荷物持ち君に預けていた理由が、今のマーカスには痛いほどわかる。
文字通り持て余すから、だと。
自分で持つには力が強すぎて気が休まらない。
「その時になればわかるんじゃないですかねぇ。考えても無駄ですよぉ」
アビゲイルは再び眠りに落ちたディアナをぬいぐるみのように抱きかかえながら、適当なことを告げる。
普段なら食事時には起きていたディアナだが、黒い御使いと出会い、散々じたばたと暴れたからか、あれから数日たったというのに、まだ寝たままだ。
食事に来れば起きると思ってアビゲイルは食事の度に連れて来たが、ディアナが起きる様子がない。
椅子に座らせておいてもずり落ちてしまうので、人形を抱えるようにディアナを抱きかかえながら、アビゲイルは器用に食事を取っている。
そんなアビゲイルも、ただ鍋で煮ただけの料理とも呼べない物以外を口にし、満足そうな表情を浮かべている。
「アイちゃん様にも、わからないんですか?」
マーカスがそう聞くのは、目立つことを避け、ディアナの左肩には布が巻かれてアイちゃん様を隠しているからだ。
今、外側からアイちゃん様を見ることはできない。
アビゲイルは抱きかかえているディアナの左肩にいる大きな肉の塊の目玉を布の上から見る。
見えなくとも、アビゲイルは知っている。その目玉は今も何かを睨んでいるのを。
その怒気が発するビリビリとした激しい感覚を今も感じているのだ。
とてもじゃないが、機嫌が良さそうには思えない。
「いやぁ、まだ機嫌が悪いみたいで、話を聞いてくれそうにないですねぇ」
それをマーカスに告げる。
隠しても意味がないし、アビゲイルとしては、今のアイちゃん様にできるだけ触れて欲しくはない。
この肉の目玉がその気になれば、自分とマーカスなど一睨みで終わりなのだ。
「そうですか、いつまで、この宿に居て良いんですかね? ミア達はまた随分とどこかの町で長居しているようですが」
マーカスもそれを察して話題を変える。
マーカス達がこの港町に滞在してもう三日目となる。
そろそろ、本格的に路銀が尽きる。
「進むときになればディアナちゃんが示してくれますよぉ」
アビゲイルは気楽そうにそう言った。
そう言ったアビゲイルには、黄咳熱が出たという噂話も聞いているので、だいたいの予想はついている。
それにもミア達が関わっているのだろう、と。
なら、もうしばらくはこの町に滞在していられる。
と言うことは、こちらももうしばらくはこの宿に泊まらねばならないし、路銀を稼ぐ良い機会でもある。
「はぁ、せめてもの救いはここが町ということですかね」
マーカスがそう言うと、アビゲイルが透かさず、
「お金はないですけどぉ?」
そんなことを告げる。
確かにその通りだ。
「町なら、まだ稼ぎ口があるかもしれないじゃないですか」
マーカスはそう言いつつも、本当に手持ちの金がないことを嘆く。
だが、稼ぐことは容易だとはわかっている。
「こう見えて我々全員魔術師ですもんねぇ」
アビゲイルも悲観はしていない。
というより、そんな野営生活にも慣れている、という方が正しいのかもしれないが。
それに今、旅をしている三人ともが魔術師なのも事実だ。
一人は神を降ろせるほどの巫女であり、一人は稀代の天才魔術師だ。
この二人が居て稼げないわけもない。
「ディアナも第八等魔術師なんですよね?」
半年以上ディアナも魔術学院に通っているので、正確には夏の試験を受けているので、無事受かっていればそのはずだ。
ただ八等魔術師と言うのは、安全に魔術を扱う術を教えられています、程度の意味しかない。
そこから、金銭を稼ぐことに繋がる様なものではない。
けれども、ディアナとアビゲイルは資格がないだけで二人とも指折りの魔術師であることは間違いはない。
ただ、今まで公的な資格を持っていなかっただけで。
「最強の第八等魔術師様ですねぇ。ついでに私も同じ八等ですよぉ」
アビゲイルはそう言って笑う。
マーカスも二人とも間違いなく規格外の魔術師だということをよく知っている。
「そう言えばもぐりの魔術師でしたね。俺は第六等魔術師で止まってますね。そこで休学したまんまです」
第六等ともなれば魔術具を扱う店を開ける資格を有する。
この町の許可さえもらえば、露天商を今すぐにでも始めることができる。
アビゲイルが適当に作った物を売れば、路銀などいくらでも稼げるだろう。
「第六ならいくらでも稼ぎ様がありますねぇ。私が何か作ってマーちゃんが売りましょう!」
アビゲイルがその気になれば、荒稼ぎも容易だろう。
それこそ、ここいらの商人組合が睨みをきかせてくる規模の荒稼ぎがだ。
公的な資格がないだけで、知識も、魔術の腕も超がつくほど一流なのだ。
また、アビゲイルは何がどう売れるか、それにも精通しているし、その知識ももちろんある。
「マーちゃん呼びはやめてください」
女装させられていたことを思い出して、顔を赤くしてマーカスは視線を落とす。
そんなマーカスを見て、アビゲイルは笑い、
「この町には騎士隊の詰め所もあるようですし、後で顔を出しに行きましょうか」
そう言って、机の上の料理を口に入れる。
ちゃんと調理された料理だ。
ただ鍋で煮ただけの物ではないことに、香辛料という物が如何に大事かを噛みしめながら、アビゲイルも自然と笑みをこぼす。
「そうですね」
マーカスもそれには同意だ。
今のままでは宿代も、本当にままならないのだから。
万が一、いや、千が一、百が一……
十が一、誤字脱字があればご指摘ください。
指摘して頂ければ幸いです。
少なくとも私は大変助かります。
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