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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
海岸沿いを行けば出会う野盗と恩返し

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海岸沿いを行けば出会う野盗と恩返し その2

 野盗の村。

 いや、村と呼べるような場所ではない。

 何とか雨風を防げ、人が寝泊まりできるだけの簡易的な、それこそ屋根だけで壁もほとんどない、そんなような小屋とも言えないような物が数軒あるだけの場所が、森の中に隠れるようにあった。

 野盗達はここを村と呼んでいたが、旅商人達の簡易的な停泊地の方が、まだましなくらいだろう。

 本当に冬を越すだけの期間を過ごせればよい、そんな場所だ。

 そんな場所に咳をしながら寝込んでいる人間がいる。

 寝込んでいる者は女子供が多い。

 体力の低い者から、黄咳熱に負け起きられなくなっているようだ。

 ただ死を待つだけの場所、ミアにはこの場所がそう見えた。

 フーベルト教授が地面に、黄咳熱用の病払いの魔法陣を一つ描く。

 そこに患者を運び込み、病払いの術を発動していく。

 この集落には二十人以上もの黄咳熱の患者がいる。

 フーベルト教授の描いた魔法陣に患者を運び込み、魔術を使えるものが交代でその魔法陣へと魔力を流し込んでいく。

 複数の魔法陣を描き、一度に多くの病払いをすることも出来るが、そうしてしまうと今度は術者達が魔力酔いを引き起こしてしまう。

 ここまで患者の数が多いと、時間と手間はかかるが、一つの魔法陣を使いまわす方が結果として、すべての患者を早く治療することができる。

 とりあえず重症患者から病払いが行われて、数時間後には全ての者の病払いが終わる。

 最後に、念のために、ミア達自身にも病払いの術をかけて置く。

 感染していなくとも、これで予防にもなる。

 病払いを終え、ミア達が一息ついていると、

「これで全員です」

 最初に馬車を襲おうとしてやってきた野盗の一人、恐らくはこの村の代表者、代表者と言ってもまだ若者だが、深々とフーベルト教授に頭を下げた。

「ありがとうございます」

 そして、涙ながらに感謝の言葉を伝える。

 闇の小鬼に蹂躙され、逃げてきた場所で今度は病に襲われたのだ、その絶望はすさまじかったことだろう。

 その絶望から救ったのだから、この者達の感謝も当然の事だ。

 だが、

「重症患者の中には病払いを施しても、体力が持たない者もいるかもしれません。何か精の付くものを……」

 と、フーベルト教授が言いかけて口を噤む。

 そんな物があるなら、この者達も野盗などはしていなかっただろう。

 病払いは成功しても、もう持ち直せない者も数名いる。

 特に老人や子供がそうだ。

 こればっかりはどうしょうもない。

 だが、それを聞いたミアが立ちあがる。

「スティフィ、狩りに行きましょう」

 スティフィを見てそう言うのだが、スティフィは立ち上がることはない。

「病人にいきなり肉を食べさせるつもり?」

 と、ミアを見上げるだけだ。

「ダメですか?」

 と、ミアはスティフィの方を向き聞き返す。

「弱っている病人に食べさせるもんじゃないわよ。穀物とかの粥とかの方が良いでしょうに」

 それらも、ここにはありはしないだろう。

 どう見ても、ここでの主食は木の根と雑草だ。それしかない。

「なら、ジュリー…… は、看病で忙しそうですね…… 荷物持ち君、この辺りに食べられて、病人に良さそうなものあったりしませんか?」

 ジュリーは病払いを終えた病人達の看病で手が離せそうにない。

 病払いを終えたからと言って、すぐに元気になれるわけでもない。

 体力を取り戻すまでも起きれはしないだろうし、そのまま目覚められない者も、このままでは少なくはなさそうだ。

 ジュリーはそう言った者達に手製の水薬を無理矢理にでも口から流し込み、どうにか助けられないかと行動しているのだ。

 とてもじゃないが、食べ物を探しに行く余裕はなさそうだ。サリー教授の弟子となったジュリーの知識なら頼りにはなるが、今ここを離れさせるわけにも行かない。

 逆にミアに聞かれた荷物持ち君は大きくうなずき、森の奥の方を腕を使い指さす。

「食べれそうなものがあるみたいなので採ってきます!」

 ミアはそう言い残して荷物持ち君と共に森の方へと入って行く。

「私も付き添うわよ。危険な獣がいるかもしれないし」

 スティフィは建前上そう言っただけで、荷物持ち君がいる今、獣如きではミアを害することはできない事はわかっている。

 ただ単に病払いをし終えたとはいえ、流行り病が流行っていた場所に長居したくなかっただけだ。

「はい、わかりました。ボクとサリーはここに残って様子を…… いえ、後処理をします」

 フーベルト教授は少しだけ険しい顔をしてそう言った。

 この集落の奥には黄咳熱で、すでに死んだ者達の死体がそのまま放置されている。

 それも感染源となるため、早く処理しなければならない。

 ただ、今は魔力酔いを避けるために休む必要もある。

 一人当たり四人から五人の病払いをして、自分達にも病払いをしたのだ。

 これ以上連続して魔術を使うことは魔力酔いの危険性が出て来る。

 魔力酔いは体を極端に疲労するので、病にかかりやすくしてしまう。

 この状況下で魔力酔いを引き起こすことは避けたほうが良い。

 それに放置されている死体の数もそれなりに多いので、魔術で処理をしなければならない。

 エリックが伝えに行った騎士隊の到着を待った方が良いかもしれない。

 それはこの集落の者達が全員、野盗として捕まることになるが、それでも現状よりはましだし、牢に入れられたとして食事だけは保証される。

 こんな場所より、牢の方がまだマシにフーベルト教授には思える。


 ミアが森へと足を踏み込むと、すぐに湿地帯に入る。

 山の裾でそれほど広くはないが、水溜まりがところどころに出来ている。

 この僅かな水を頼りに野盗達はこの場所を住処としたのだろう。

 確かに水は確保できるが劣悪な環境化だ。

 ミアが顔を顰める。

 それと共にミアはよく知っている葉を、その湿地帯に多く見つける。

「これは…… 泣き芋です! 泣き芋の葉っぱです!」

 ミアもリッケルト村で、なんなら自分の家でも栽培していた芋だ。

 大きな葉をつける芋で、その葉の先から水を垂らすので、ミアの故郷では泣き芋と呼ばれている。

 一般的には里芋と言われている種類の芋だ。

 ミアはその葉の一つの地面を掘る。

 そうすると大きめの芋に小さな芋くっついているような物が出て来る。

「前にも見つけてたわよね、それ。あんまり美味しくなかったけど」

 と、泥だらけになって芋を掘るミアを見守る。

 スティフィ自身は芋を掘るつもりはない。

 以前食べたときは、ぬめ付いた芋だったので、美味しさよりもスティフィには不気味さが勝ってしまっていた。

「美味しいですよ! まだまだたくさんあるので少し貰っていきましょう」

 そう言ってミアは泣き芋という芋を、分かりやすく言うならば里芋を掘り出していく。

 そのうち、ここが湿地帯で地面が柔らかく、芋の茎を引っ張るだけで抜けることにミアも気づく。

 収穫はいくぶんか簡単にはなる。

「蛇には気をつけなさいよ、ほら、いた」

 そう言って、スティフィは持っていた短剣を蛇に向けて投げる。

 その短剣は蛇の頭に吸い込まれるように飛び、蛇の頭部をそのまま切断する。

 頭部を切断された胴体はのたうち回り、切断された蛇の頭部は宙を舞った。

「毒蛇ですか?」

 落ちて来た頭部をミアは恐れもせず覗き込みながら確認する。

 スティフィも同様に蛇の頭部を調べる。

「これは…… 多分違うわね。牙が上下にあるし」

 すべての種がそういう訳ではないが、毒蛇の場合、牙が下顎から生えることはない。

「そうなんですか?」

 と、ミアは聞き返す。

 ミアの場合は蛇の殻で毒蛇かどうか見分けていたのだが、ここはミアが生まれ育った地ではない。

 住み着いている蛇の種類も違うので、ミアにはこれが毒蛇かどうか判断が付かない。

「全部が全部ってわけじゃないわよ。まあ、基準にはなるかな」

 スティフィ自身は毒を使うことはないが、毒の知識がないわけでもない。

 これくらいの知識はある。

「なら、その蛇もお土産ですね。毒蛇でも、かわりはありませんけども」

 と、動かなくなった蛇の胴体をミアは掴み、芋と一緒に荷物持ち君の背負う籠に入れる。

 なんなら、血抜きされるように、籠の網目から切断された部分だけを出しておくようにしている。

「まあ、蛇はそうか。精が付く食べ物ではあるか」

 芋どころか、古老樹の杖なんかも入っている籠へ、頭を落とされた蛇を入れるミアにスティフィは少し顔を顰めつつ、蛇に投げた短剣を拾い上げ、血を拭いしまう。

「リズウィッドだともう寒くなっているので、冬眠していた時期ですが、この辺りではまだ冬眠してないんですね」

 寒暖差が激しいリズウィッドならもう雪が降り始めてもおかしくない時期だ。

 蛇などは既に冬眠している。

 そもそも、リズウィッドは冬が長いので蛇などの冬眠を必要とする生物は少ないのだが。

「ミアの地元ではどうだったの」

 と、スティフィは聞いてみる。

 極東の地がどんな気候なのか、基本的に記録にもないので想像もできない。

「この時期でも蛇は元気ですね。冬眠に向けて逆に貪欲になっている頃で関わるのは危険ですよ。でも、蛇がいるなら蛙もまだいるかもしれませんね」

 ミアは嫌なことを思い出すかのようにそう言った。

 蛇に噛まれたことがあるかのような表情だ。

 それはともかく、確かにミアの言う通りこれくらいの湿地帯でも蛙ならいそうなものだ。

「蛙…… それも食べるの?」

 スティフィは少し嫌な顔をする。

 スティフィが住んでいた地域では少なくとも蛙を食べることはない。

 見た目的にもスティフィは食べるのを遠慮したい部類の生物だ。

「はい、美味しいですよ!」

 ミアは嬉しそうな顔をしながらそう言った。

 虫も食べていたというミアからすれば、蛙もごちそうだったのかもしれない。

 スティフィはあたりの気配を探ると、すぐに蛙も数匹程発見する。

「ああ、うん。向こうに数匹いるけど、泥濘の上ね。取りに行くのは危険よ」

 ただ湿地帯だけあって足場は不安定だ。

 場合によっては底なし沼のようになっているところがあるかもしれない。

 スティフィにもそこまではわからないが、蛙がいる場所は見るからに足場の悪い泥の上だ。

 わざわざ獲りに行く必要はない。

「沼にでもなっているんですか?」

「そうね、蛙ならともかく人が乗ると足を取られるだろうし、深さはわからないわね」

 スティフィはそう言って蛙のいる方を指さす。

 ミアもそちらに視線をやり、そこそこ大きな蛙を発見する。

 それと同時に確かに足を取られそうな場所だとも判断する。

 そう言った場所は見た目以上に危険なことをミアは知っている。

「それは危険ですね…… とりあえず、ある程度泣き芋は集まりましたし、水を汲んで……」

 ミアは集まった芋の量に満足し、水も、と思うのだが、流石にここで水を汲むのは無理だ。

 湿地帯とはいえ、小さな水溜まりが絶えずあるにはあるが、水を汲める深さはない。

 それでも、穴でも掘れば泥水を集めることはできるだろうが。

 だが、ミア達は魔術師だ。そんなことをする必要はない。

「どうやって汲むの? ここじゃ泥の方が多いわよ?」

 スティフィはミアをからかうように笑う。

 そもそも、魔術師であるのならば、こんな場所で水を汲む必要はない。

「こんな時、精霊さんに頼めればいいんですが……」

 水を司る精霊と契約していれば、周囲から水を集めることなど容易だ。

 実際、ミア達が旅で使っている生活水は、ジュリーが精霊に命じて集めているものだ。

「ジュリーが水の精霊も使えたんじゃなかった?」

 スティフィはそのことを知っている。

 ジュリーが契約しているのは火と水の精霊で、一番便利な精霊の組み合わせだ。

「火は使えてましたが、水も使えるんですか?」

 ミアはジュリーが以前に火の精霊を使っていたことを思い出す。

 水の精霊も使えたとしても、ジュリーなら納得もできる。

「火と水の精霊は便利だから同時に扱う人間が多いのよ。まあ、フーベルト教授もサリー教授ももちろん扱えるだろうから、水のことは置いて置いて一旦帰りましょうか」

 スティフィはミアにそう提案する。

 芋を掘って時間も大分立ったはずだ。

「そうですね、早く作って食べさせてあげないといけないですから!」

 ミアはそう言って荷物持ち君の籠を見る。

 それなりに食料は集まったはずだ。

 これを粥にするのであれば、それなりの量になるはずだ。

「奇妙な芋と蛇かぁ…… まあ、食べられるだけマシなのか?」

 今は泥だらけで、茹でるとヌメヌメした芋、それと蛇の肉。

 病人に食べさせるにはどうなのだろうと、スティフィは考えるがその答えをスティフィは知らない。




「これは…… 随分と大漁で。里芋です…… ね。黄咳熱には…… 良い食材です…… 咳にも痰にも効果があります…… よ。それと…… こちらはドクズナ科の蛇ですか……」

 持ち帰ったものをサリー教授に見せると、その量に驚く。

 この辺りでは里芋を食べる習慣はあまりないので、今までも放置されていたものだろう。

 茹でた後潰してお粥にでもすれば、ここにいる全員にもいきわたる量がある。

「両方、煮込んで炊き出ししましょう。サリー教授は水をどうにかできますか? 湿地帯はあったのですがまともに水が汲めなくて」

 ミアはそう言ってサリー教授を見る。

「はい、水の精霊とも…… 契約してますので。確かに…… ミアさんの精霊は…… 危険ですからね。水はこちらで…… どうにかしますので、鍋の…… 準備を……」

 ミアも大精霊ともいえるような水の精霊と契約しているのだが、ミアに憑く精霊は力が大きすぎる。

 一滴の水を欲して精霊に願っても大洪水を起こしてしまう可能性もあるのだ。

 おいそれと使える力ではない。

「はい! 馬車から取ってきます!」

 ミアはそう言って馬車に鍋を取りに走って行く。

 それを見送って、スティフィはサリー教授に畏まって話しかける。

 スティフィが畏まるのは、サリー教授はオーケン大神官の娘だからだ。

「この村とも呼べない場所の現状はどうなんですか?」

 スティフィ的には流行り病の流行っている場所に長居したくない。

 聞くまでもなくこの村とも呼べない場所は、まだ安全とも言えない。

 早く去るための情報を本人の口から言わせるために、わざわざ聞いているだけだ。

「あまり、良くないですね…… 恐らく…… このまま私達が去ったら…… 間違いなく冬は越せませんね……」

 例え黄咳熱を乗り越えても、冬を越すことはできないだろうと、サリー教授にはわかっている。

 魔術師が一人でもいれば、また違うのかもしれないが、ここには魔術を扱える者はいない。

 なにより働けない老人や子供ばかりだ。

 闇の小鬼に襲撃された際、最初に逃がされた者達だけが助かり、闇の小鬼に立ち向かった若者は助からなかった。

 ただそれだけの話なのだろうが、それだけに生き残った方も辛い。

 そして、流石にミアも冬が開けるまでこの地に残ろうとは言い出さないだろう。

 ミアは神に呼ばれて旅をしている。

 ゆっくりと帰ってこい、そう言われてはいるが、そこまでゆっくりする気は流石にないはずだ。

「どっちにしろ、エリックが呼びに行った騎士隊が来て終わりですよね」

 スティフィは周りに話を聞いているものがいないことを確認してその言葉を言った。

「まあ、そうですが…… 少し、気になることが…… ありまして……」

 サリー教授も実はそちらの方が、一時的にとはいえ、騎士隊に保護してもらった方が生存確率は高いだろうと判断している。

 野盗と言っても規模が規模なので大した罪は犯していないだろう。

 野盗として捕まると言うよりも保護されると言った感じに落ち着くのではないか、サリー教授はそう考えている。

 だが、それ以上に不自然な点がいくつかあるのだ。

「というと?」

 スティフィがサリー教授の意図を察して聞き返す。

「少し…… 調べて欲しいことが…… あります…… やって…… くれますか?」

「もちろんです」

 スティフィは当然の如く了承する。




「あれ?スティフィは?」

 鍋を抱えて戻って来たミアはスティフィの姿がない事に疑問を抱く。

「少し頼み…… ごとを、しました……」

 それにサリー教授が答える。

「そうですか、じゃあ、私は火を起こしますね」

 ミアもサリー教授の頼み事なら、必要な事なのだろうと納得する。

 そして、炊き出しの準備に入る。

 泥だらけの芋を洗い、芋を茹で、芋の皮をむき、それを潰して芋粥にして、皮を剥ぎ、ぶつ切りにした蛇肉と共にしっかりと煮込む。

 そうしてできた炊き出しは、蛇肉と里芋を煮込んで水でかさまししただけの物で、調味料も使われなかったので味は良くなかったが、それでも病人たちの腹を少しは満たしたことは間違いない。




「なにこれ…… 外道種の仕業?」

 スティフィがサリー教授に言われ、向かった方角は異様だった。様々な動植物が死に絶えている。

 サリー教授の話では、この黄咳熱は自然に起きた物ではないらしい。

 そもそも、黄咳熱の病原菌は乾燥にとても弱く、夏に流行ることはあっても空気が乾燥してきている冬に流行ることはないのだと言う。

 それでも、ここまで流行っているのは何らかの理由がある、と言うことだ。

 サリー教授はスティフィに調べさせた方角から、わずかにだが異様な気配を感じていたのだと言う。

 もしかしたら、外道種かなにかが関係しているのではないか、サリー教授はそう睨んでいる。

 そして、異様な気配を、サリー教授は既に感じ取って居た。

 その異様な気配がする方角へとサリー教授はスティフィを斥候として派遣したのだ。

 スティフィがそちらにしばらくその方角に進むとスティフィ自身も異様な気配を感じ始める。

 すぐにそれは気配だけでなく、異様な光景となって現れる。

 動物だけでなく植物までもが病で枯れているような場所が、森の中に忽然と広がっていたのだ。

 森の一角が、突然と死の大地になっているようにスティフィには思えた。

 そして、その中心は大きな岩で作られた社、いや、岩を重ねて作られた洞窟か穴倉か、そのようなものが存在している。

 そこを中心に、辺り一帯が病に侵され、死を蔓延させている。

 ここが今回の黄咳熱の発生源で間違いはない、スティフィもそれを一目見て理解する。

 それと共に、スティフィもこの場所はまずいと肌身で感じる。

 一見して外道種の仕業だと、スティフィもそう思ったが、それ以上の、言葉では表現できない何か感じていた。

 スティフィはすぐに引き返す。

 この場所はまずい、長居していい場所ではないと。

 そして、この場から、すぐにでも離れることをミア達に提案しなければならない。

 スティフィが引き返そうとしたときだ。

 中央の岩で作られた穴倉から、何かが這い出て来る。

 それは、黒い炎に包まれた鎧を着たような人型の存在だ。

 スティフィの顔が恐怖に彩られる。

「なっ、野良悪魔……」

 次の瞬間、スティフィは倦怠感と強烈な寒気に襲われる。

 そして、関節が激しく痛みだす。

 視界がグルグルと回り、立っていられなくなり、その場に倒れ込む。




「スティフィ、遅いですね」

 炊き出しも終わり、それでもスティフィが戻って来ないのでミアは少し心配そうにしている。

「サリー、何を頼んだのですか? 心配はないと思うのですが」

 里芋と蛇肉の粥を食べながら、フーベルト教授がサリー教授に聞くと、そのサリー教授は身を震わしていた。

 ミアの作った粥が不味いと言うわけではない。

 数々の自然魔術を習得しているサリー教授は周囲の気配を察知する能力にもたけている。

 そのサリー教授には、その存在を感じ取ってしまったのだ。

「不味いかもしれません。失敗…… しました、これは予想外です……」

 サリー教授は身を震わせながら、顔を青ざめている。

「どうしたんですか?」

 フーベルト教授がサリー教授の肩を抱いて事情を聴こうとする。

「御使いです…… それも神の元を離れた…… 恐らくは、野良の悪魔……」

 悪魔。

 一般的に悪しき存在としての意味もあるが、魔術的な意味では、自由意志を与えられたままの御使いを指す言葉だ。

 逆に魔術的な意味での天使は自由意志を封じられた神の意志そのものの存在だ。

 自由意志を持つ悪魔は、稀にではあるが、神の元を去り、地上に降りて来る者がいる。

 それが、野良悪魔と呼ばれる存在だ。

 彼らは時として神の名を騙り、生贄を要求し、いたずらにその力を振るう。

 人間からすれば災害とそう変わらないような存在だ。

 それが、恐らくではあるが今回季節外れの黄咳熱が流行った原因だ。

 元々この辺りで眠っていた悪魔を、この難民たちがこの場所に住み着いたことで起してしまったのだろう

「え? どういうことですか?」

 ミアには事情がまだ呑み込めないでいる。

「この病はどこか不自然でした…… でも、その原因がまさか悪魔だとは……」

 サリー教授は取り乱すように、そう言って震えている。

「野良の悪魔がこんなところに? いや、今はそれよりも、ミアさん、すぐにアイちゃん様に呼びかけて! 強く呼びかけ助けを求めてください!」

 フーベルト教授は慌ててミアにそう伝える。

 古老樹や精霊でも御使い相手では勝負にならない。

 御使いに対抗できるのは、神か御使いしかいない

「え? なにが? と、とにかくわかりました! 呼びかけます!」

 ミアも慌てて、その場に跪いて自らの神の御使いに祈る。







 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


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