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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
収穫祭と結婚式、そして、旅立ちの時

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収穫祭と結婚式、そして、旅立ちの時 その5

「サリー教授の花嫁衣裳、綺麗でしたね」

 ミアはうっとりとした表情で白い衣装に身を包んでいたサリー教授のことを思い出す。

 今はもうフーベルト教授とサリー教授の結婚式が終わり、いつもの食堂に戻って来て一休みしているところだ。

 ただ、みんなまだ正装しているので、いつもの気楽なだらだらとした雰囲気はない。

 ついでにミアはロロカカ神の巫女服を着ている。

 ミアにとってはこれが一番の正装だからだ。

 と言っても、ロロカカ神の巫女服はそれで山歩きをする様に作られているので外套の様にごつい見た目なのだが、それに文句を言う人間もここにはいない。

「師匠、綺麗でした……」

 ジュリーが涙目で嬉しそうに感極まっている。

 実際、白い花嫁衣裳を着たサリー教授は本当に美しかった。

 この場にいるほとんどの者達がミアとジュリーの言葉に頷き同意する。

 そんな中、スティフィだけが少し驚いた顔をしている。

「あのオーケン大神官が泣いてた…… し、信じられない……」

 そう言って、スティフィにしたら珍しく間抜けな顔を見せている。

 そんなスティフィを見て笑いながらアビゲイルが、

「うちの師匠ですら、うっとりと羨ましそうにしていましたねぇ…… サリー教授とは特に仲が良かったようですし」

 アビゲイルの師匠、マリユ教授が花嫁衣裳を着ることはないだろう。

 もしマリユ教授が無月の女神の巫女をやめて、何か特別な服を着るとしたら恐らくは喪服になるだろう。

 そう言う宿命をマリユは持っているのだ。

「神嫌いの教授と呪術の教授が、なんで仲がいいの?」

 スティフィは少し疑問そうにアビゲイルに聞く。

 神嫌いというのであれば、祟り神の代表格ともいえる無月の女神こそ嫌うべきなのではないかと。

「さあ? 馬が合うんじゃないんですかね? 実際のところは、主はどこにも属してない神ですし、そのせいなのかもしれないですけどねぇ」

 無月の女神は闇の勢力と言われがちだが、実際はどこにも所属していない。

 中立と言えば中立の神だが、その中立の神々からも持て余されているような神だ。

 祟り神である故かどうかまでは不明だが、神々同士でもまともに意志疎通が出来ない、そう言われている、狂乱の女神だ。

「そう言えば…… 無月の女神って、正式には闇の勢力というわけではないんですよね。よく闇の勢力と言われてますが」

 ジュリーがそれをアビゲイルに恐る恐る確認する。

 そうすると、珍しくアビゲイルは本気で笑って見せる。

「そーですよ。うちの神様はどこにも属していませんよぉ」

 そして、得気にそう言うのだ。

 無月の女神は神代大戦にも参加してない神なのだ。

 だが、何かあればすぐに暴れだす神でもあるので、その名は世間にも知らしめてはいる。祟り神としてだが。

「ロロカカ様は…… どこかの勢力に所属されているのでしょうか?」

 ミアが真剣な表情でそう言った。

 もし、ロロカカ神が光の勢力であるのであれば、スティフィとの関係性を見直さないといけない、そう思いながらだ。

 ただ、ロロカカ神の名は光の勢力の神々にも闇の勢力の神々の名にも記されていることない。

「まあ、恐らくは中立ですよぉ…… 間違いなく神格は高そうなのですが、その名が知られて…… 人にはですが、いないですし。そもそも神代大戦にも関わってないんでしょうねぇ」

 アビゲイルは特に確証もなくそんなことを言った。

 ただ、光の勢力や闇の勢力の神々の中にも名がない以上は、それ以外の勢力、一応はロロカカ神も中立と言うことにはなる。

 中立と言われて、ミアが難しい表情をし始めたので、ルイーズが慌てて、話しを変える。

「そう言えば、いつ出発なさるんですか? サリー教授の結婚式後と聞いていましたが、詳細はまだ聞いてないのですよね」

 それに対して、スティフィがわかりやすく口角を上げる。

「なに? お姫様、やっぱり寂しいの?」

 そして、ルイーズをからかう。

 ただ、ルイーズもそれに対して、むきになったりはしない。

「それは、まあ、寂しくないと言ったら嘘になりますよ。毎日顔を合わしている方々が、ほぼ全員いなくなりますからね」

 ルイーズは自分がこの食堂に入り浸っているのも、結局はミアがいるからなのだと、改めて思い知らされる。

 そんなミアがいなくなれば、この食堂も随分と寂しくなることだろう。

 それにミアがこの学院に戻ってくる保証もないのだ。

「ルイーズちゃん、私はいますよぉ!」

 それに対して、アビゲイルが笑顔で、いつもの張り付いた笑顔で、それでいて、媚を売るようにそう言った。

 アビゲイルとしても次代の無月の女神の巫女候補として、この領地の姫であるルイーズとは仲良くしたいようだ。

「あと、ディアナもね。あの子、最近ここにも顔出さないけど」

 それにスティフィが一言付け足す。

 スティフィ的にはディアナがミアについて来ないことに、違和感を感じる。

 だが、それだけにミアはこの魔術学院に戻ってくるのだろう、とそう確信できる。

 ミアが戻ってくるからこそ、ディアナは、ディアナについている御使いは、ミアについて行かないのだと。

「なんだか、印を貰ってからは避けられているようです……」

 そう言って、ミアは少し寂しいそうな顔を浮かべた。

 ディアナが自分に懐いてくれていると思っていただけに、御印を貰った途端、自分に近づかなくなったことに寂しさを感じている。

「まあ、それはミアがというより、ミアの神様が、って、ことでしょ。もしくは…… その肩に乗ってるアイちゃん様のせい? どっちかわからないけど」

 スティフィがミアを慰めるようにそんなことを言った。

「な、なんでですか!」

 それに対して、ミアは、自分が信じている神がどれだけ厄介な神か、その左肩に乗せている御使いがどれだけ特殊な御使いなのか、まるで理解できていないように奮起する。

「だって、分け御霊が名を聞いただけで逃げ出したのよ? 御使いもそりゃ警戒するわよ。印はその神の所有物っていう意味もあるんだからね? それにアイちゃん様だって今は御使いでも元々巨人なんでしょう? そりゃね?」

 と、スティフィはミアに事実を伝えてやる。

 ミアの神も、その御使いも、色々と規格外の存在なのだ。

 御使いであっても、いや、御使いだからこそ、ディアナに距離を取らせているのだろう。

「むー」

 ミアは納得できない、と言った顔を見せる。

「まあ、印は、確かにその人はその神様の物っていう意味もありますし、なにかと御使いも顔を出しずらいんじゃないんですかねぇ」

 そこへアビゲイルもスティフィの意見に賛成だとばかりに、口添えをする。

 そもそも、アビゲイルの主である無月の女神が、他の神の巫女を手助けしろ、だなんてことを言ってくる方がおかしいのだ。

 嫉妬深く常に狂気に満ちたあの神がだ。

 そういう意味では、アビゲイルはミアに付いて行きたいという気持ちもあるのだが、現状ではそれは不可能だ。

 魔術学院の教授になるための資格を取るために、魔術学院を離れるわけには行かない。

「色々とディアナ様には聞きたい事はあったのですが…… あ、来週の中頃には学院を出ますよ」

 ミアは巫女としても、その身に御使いを宿している事に対しても、色々とディアナに話を聞きたいことはあったのだが、印を得たと告げて以来、その場では踊るように回って喜んでくれたのだが、それ以来ミアの前に顔を出さなくなっている。

 それはそれとして、リッケルト村へと向かう旅の出発は来週だ。

「ミア様にしては、本当にゆったりですね」

 ミアの事だから、今日にも出発する、と言われてもルイーズは驚かなかったのだが、随分と余裕のある日程だ。

「はい、ゆっくりと言われていますので、アイちゃん様に」

 そう言って、ミアは左肩にいる肉塊の目玉を愛おしそうに見る。

 それに対して、アイちゃん様もミアを見て、瞬きをして反応を返す。

「まずは朽木様と朽木の王に挨拶に行くんだっけ?」

 スティフィは日程を確認する。

 スティフィも行く体で話をしているが、本当にミアに付いて行けるかどうか、スティフィ自身最近までわからなかったのだが、どういう訳か、クラウディオ大神官からもミアに付いて行けという指令が返って来た。

 それほどまでに、門の巫女という存在が重要だと言うことなのかもしれない。

 ただ、スティフィ的には大手を振ってミアに付いて行けることを喜んでいる。

 そう、スティフィは自分でも気が付いていないのだが、ミアについて行けることを喜んでいるのだ。

「はい! その後、街道に出て街道が無くなるまでは、そのまま道なりですね」

 ミアは嬉しそうに今後の行き先を伝えるのだが、

「街道が無くなるって初めて聞いたわ……」

 と、スティフィには驚いた顔をされるだけだった。

 そんなところで、ルイーズはまだ早いと思いつつも、

「旅の餞別というわけではないですが、ブノア、あれを持ってきてくださいますか?」

 と、少し得意げになりブノアに命を下す。

 ブノアはもう既に用意してあります、とばかりに大きな鞄を取りだし、それをミア達がいる机の上に置く。

「はい、どうぞ」

 そして、その鞄を開ける。

 鞄を開けた瞬間、とてもいい香りが食堂に満ちていく。

「これは?」

 と、ミアが目を輝かせながら鞄の中身を見る。

 鞄の中身は、ミアに付いて行く人数分の紅茶用の茶器一式と、紅茶が入っている瓶がいくつも収められていた。

 それだけではなく、日持ちするだろう茶菓子までいくつか入っている。

「旅先でも飲めるお茶道具の一式です。茶葉も大量に用意しておいたのでお楽しみください。一応、茶菓子もついていますが、流石にそれはすぐになくなりますけれども」

 これで旅を少しでも優雅にと、ルイーズからの餞別だ。

 ミア以上にジュリーが目を輝かせる。

「師匠がいれば、お茶菓子くらいその場で作ってくれます、あの人お菓子作りも凄いですから」

 ジュリーはそうは言いつつも、その眼は鞄に納められている紅茶の銘柄を確認していっている。

 どれもジュリーには手の届かない高級な銘柄だ。

 中には同量の砂金と同価値とまで言われる様な茶葉まである。

「ありがとうございます、ルイーズ様!」

 ミアにはそんなことまでわからないが、なんなら同封されているオマケのはずの茶菓子の方に目を奪われながら、ルイーズに向かい頭を下げてお礼を告げる。

 ミアの視線が茶菓子に釘付けなのに、ルイーズは気づきながらも、らしい、と笑って見せる。

「まあ、もしかしたらミア様は…… 私の姉なのかもしれないですしね」

 この紅茶用の茶器一式には、ルイーズもかなりの額を費やしている。

 ルイーズもミアがもう戻らないかもしれない、そのことを知っているからだ。

 だから、せめてもの手向け、というわけではもないのだから、ルイーズなりに精一杯の選別を送ったつもりだ。

「そんなわけあるわけないじゃないですか」

 だが、ミアは自分がルイーズの姉であることを笑って否定する。

「私もそう思っていたのですがね」

 だが、ルイーズは微妙な表情を返す。

 その表情を見てスティフィが驚く。

「え? なんか裏でも取れたの?」

 そして、隠しもせずにルイーズに確認しようとする。

「いえ、そういう訳でもないのですが…… まあ、言えない、とだけ」

 そんなスティフィにルイーズは含みを持たせて返事を返す。

「ああ、お姫様のところの神様がなんか教えてくれたの?」

 ルイーズはいつもからかわれている意趣返しのつもりだったのだが、スティフィにはすべて見破っているかのような反応を示す。

「教えてくれていたというのが正解ですね…… 気づくのに時間はかかりましたが。これ以上は何も答えませんよ」

 ルイーズは少しつまらなそうに答え、それ以上は何も言わない。

「じゃあ、あの領主様も狂ってるわけでもないってこと?」

 と、スティフィはルイという領主のことを思い返す。

 ただ最近は妙に静かだ。同じ学院内にいると言うのに、ルイの反応は大人しい。

 あれほど、ミアミアミアと言っていたルイが、やはりミアが印を貰って以来、ミアに送っていた手紙も途絶えているとのことだ。

 やはり何かあったのだろう。

 そして、ミアがロロカカ神の印をもらったということは、それだけの事だったのだと、改めてスティフィも理解し直す。

 自分が思っているよりも、大事なのではないかと、改めて。

「お父様はお父様で…… ある意味はそうなのですよ。だから私はこうして家出をしているわけですよ」

 ルイーズはそう言って見せるが、そのルイも今はこの学院に住んでいるようなものなので、この状態を家出と言ってよいものか不明だ。

 どちらかというと、親子ともども学院に間借りしている、というのが正しいかもしれない。

「そのお父様、今朝、時計塔の前にいたわよ」

 スティフィがフーベルト教授とサリー教授の結婚式へと向かう途中で見たことをルイーズに告げる。

 そのルイもフーベルト教授とサリー教授の結婚式に出席するためにいただけだが。

「うぅ…… 中々リグレスの領主邸の壁ができないんですよ……」

 ただルイーズとしては今は顔を合わせにくいし、完全にルイを避けて行動しているので迷惑この上ない話だ。

 今更、ルイと父親と、どう顔を合わせて良い物か、わからないでいる。

「まあ、仲良くしなさいよ。でも、あの領主、実際に同じ場所に住んでいるのにミアには会いに来ないよね? あんなに、一時はミア、ミアって、言ってたのに」

 スティフィがそう言ってルイーズをからかうと、ルイーズもこれには顔を赤くして反論する。

「今はお母様も一緒に来てますからね。流石に自重してくれているのでしょう」

 と。

 そして、ルイーズ自身それはない、と、そのことも理解している。

 だからこそ、ルイーズはルイが、自分の父親が、未だに許せないでいる。

「もしくはミアちゃんの印が関係していたりぃ?」

 そこに、その微妙な話にアビゲイルも参戦してくる。

「それは…… 確かになくはないですね…… 流石のお父様も神に釘を刺されては大人しくするしかないでしょうし」

 ルイーズも恐らくはそうなのだろうと、予想している。

 あれほど、ミアのことを気にかけていた父が、ミアが印を貰った途端、ミアとの関わり合いを断っている。

 ただ、たまに遠くから、本当に遠くから、望遠鏡を用いてまでこちらを、いや、ミアを見ている姿をルイーズも確認している。

 それを考えると、ルイーズは本当に大きなため息を吐きたくなる。

 それを必死に堪えていると、

「ルイーズちゃんはそれを聞いてないと……」

 アビゲイルが張り付いた笑顔でそれを確認してくる。

 ただ、張り付いた笑顔ではあるのだが、私は敵ではないですよ、と、そう言う意志を感じられる表情をアビゲイルはしている。

「確かに意図的に避けてはいそうだったわね」

 さらに、ミアを見ていたことも知っているという含みを持たすように、ルイーズをいやらしく見ながらスティフィは言葉をかける。

「そうなんですか?」

 ルイーズは黙り込むのだが、代わりにスティフィが反応する。

「今朝だってミアを見て、しばらく見た後、話しかけずに物惜しそうに去っていたじゃない。何度も振り返りながら」

 今朝のことを思い出しながら、スティフィがそう言うと、ミアも何度か頷いて見せる。

「そうでしたね、あれだけ振り返るなら話かけて…… って、確かに神様に何か言われたのかもしれないですね」

 確かに時計塔で見かけたルイという領主は、ミアを見るとすぐに去ろうとはしていたが、何度か振り振り返ってミアを見ていた。

「なるほど。それはありそうですね。少しおかしいとは思ってたんですよ」

 その場にルイーズはいなかったので、そのことは知らないでいたが、ルイーズとしてはその場に居なくてよかったとそう思っている。

 領主の娘であるルイーズが魔術学院の教授達の結婚式に不貞腐れた顔で出席するのは失礼だ。

 そして、ミアを見る。

 本当に自分の腹違いの姉なのかと、そう考えなら。

「でも、ルイーズちゃんには何も言って来ないんですかぁ? ここの神様は」

 何とも言えない顔をしているルイーズに、アビゲイルはとぼけた表情でそんなことを聞いてくる。

「むっ…… な、ないです」

 と、そう言ってルイーズは顔を強張らせることしかできない。

 普通なら、大人でも余裕でやる込めるほどの頭脳をルイーズは持っているのだが、ここに集まる人たちにはその頭脳もまるで役に立たない。

 なんだかんだで非凡な者達が集まっていると、ルイーズは思う。

 色々と学ぶことも多いし、歳の近い同世代の、それこそ、取り巻きではなく友人と呼べるような者達もいる。

 だからこそ、ルイーズはこの食堂が、この集まりが気に入っていたのだが、それももうすぐ終わりを迎える。

 そう思うと、やはりルイーズは年相応に寂しいのだ。








 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


 もし気に入ったらで良いので、いいね、ブックマーク、感想等ください!


 ちょっと今週は体調崩しちゃったので短めです。

 これでも十分長いって?

 そうかな? そうかも?



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