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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
西門防衛戦と私が魔女と呼ばれるようになった理由

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西門防衛戦と私が魔女と呼ばれるようになった理由 その9

 また大きな爆発音が聞こえる。

 それと共に外壁が大きく揺れる。

 今度は一度だけの爆発だったが、それ共に階段が崩れた時とは比べ物にならないほどの揺れと何かが崩れ落ちる音がする。

「スティフィ! 大変です! 壁が壊されました!」

 スティフィとエリックが揺れに壁の上で耐えていると、下に待機していたミアが大きな声で伝えてきた。

 それを聞いたスティフィはすぐに外壁から身を乗り出して確認をする。

 揺れのおかげでその方向を聞くまでもない。

 確かに壁の一部が破壊され、闇の小鬼が入り込もうとしているのが壁の上からでも確認できた。

 今は近くにいる者が対応しているが、入り込まれるのも時間の問題だろう、いや、闇の小鬼相手ではもう入り込まれたと言うべきか。

 門ではなく壁の方が破壊されるたのはスティフィからしても予想外だ。

「嘘! 今ので? 今、降りるからそこで待ってて!」

 スティフィはそう言うや否や、手に連弩を持ったまま足だけを使い器用に外壁を駆け下りる。

 垂直のはずの壁をまるで滑り降りるかのように降りていく。

「うおっ、すっげ……」

 それを見たエリックが素直に感心する。

 そして、少し考えた後、狙撃用の弩を壁の上の床に置いて、竜鱗の剣を両手で強く持ち、竜鱗の剣を外壁に突き立てて飛び降りる。

 後はエリックの自重で外壁を竜鱗の剣で切り裂きながら、エリックも外壁を降りていく。

 ただ竜鱗の剣が鋭すぎて、勢いを殺し切れてない。

 エリックもそれに気づき、足も使い勢いを何とか殺しながら落ちるように降りていく。

 それを見たスティフィも、

「やればできるじゃない」

 と、笑いながら、落ちてきそうなエリックに声を掛ける。

 スティフィは改めて爆発があったほうを見る。

 狭間が爆破され、小さな穴が開いている。

 それは子供がやっと一人どうにか通れるだけの穴だ。

 だが、それは闇の小鬼に取っては十分だ。

 一匹の闇の小鬼がそこに身を潜り込ませて来る。

 そこへ、様子を見に来ていた者が槍で小鬼を突くが、闇の小鬼は恐れたりはしない。

 断末魔を上げ、その血を辺りにまき散らす。

 それだけで十分だ。

 初めに狭間で槍を振るっていた義勇兵の、爆発に巻き込まれて死んでしまった義勇兵の死体に噛みつきながら、新しい闇の小鬼が湧き出てくる。

 それを見た槍を刺した兵士が大声で叫ぶ。

「突破された! 壁内に入られたぞ!」

 そして、湧き出た新しい闇の小鬼にも槍を突き立てる。

 闇の小鬼は串刺しにされるが、またその血を辺りに飛び散らかす。

 その血が飛び散った物陰から、新しい闇の小鬼がゾロゾロと這い出てくる。

 終わりがない。

 止めようがない。

 どうにもできない。

 これが闇の小鬼の不死性なのだ。

「まずいわね、逃げるわよ、ミア! この町はもう終わりよ」

 それを見たスティフィが瞬時に、リグレスという町に見切りをつける。

 相手は不死の外道種なのだ。

 いくら殺しても湧いてくる外道種なのだ。もう対処のしようがない。

 増え続ける不死の外道種から逃げ出すしかない。

「そんな! 死守するって言ったじゃないですか!」

 ミアがスティフィに反論するが、

「死守とは言ってないわよ!」

 と、スティフィに反論される。

 そこへ壁を降り終えたエリックがやってくる。

「竜鱗の剣の出番だな!」

 そう言って竜鱗の剣を掲げるが、手が震えている。

 恐怖からではない。

 高い壁を、鎧を含めての自重を両手だけで支えて降りて来たのだ。

 手が震えてしまっていてもおかしくはない。

「手をプルプルと震えさせながら何言ってんのよ」

 スティフィにそこを突っ込まれ、エリックも嫌な顔をする。

 そして、準備体操とばかりに両手を振り、強張った筋肉をほぐそうとする。

 そんなエリックを無視してミアは、

「荷物持ち君、あの外道種を倒せないですか?」

 荷物持ち君に聞くと、荷物持ち君も首を横に振った。

 古老樹である荷物持ち君にも闇の小鬼を殺しきることは出来ないというのだ。

 大地に根を降ろしている古老樹ならまだしも、粘土の体に根を降ろしているだけの上にまだ若い古老樹である荷物持ち君では使える力にも限界はある。

 今の荷物持ち君では闇の小鬼を殺し切ることはできない。

「ほら、お手上げよ、あれを止める術はもうないのよ、リグレスはもう終わりよ」

 そう言ってスティフィはミアの手を引いて逃げ出そうとする。

「で、でも……」

 と、ミアは手を引かれることに抵抗する。

 ミアとスティフィがそう言い争っている間に、影から這い出てくる闇の小鬼の数がどんどん増えていく。

 壁の外で死んだ闇の小鬼が壁内で復活して這い出てきているのだ。

「見なさい、ミア! あんなのどうやって止めるっていうのよ! 壁内に入られた時点でこの戦いは負けたの、今は敗走するときなのよ」

 スティフィが強く言ってミアに言うことを聞かそうとする。

 ミアにも理屈ではそのことはわかっている。

 スティフィがきっと正しいのだと、そう頭ではわかっているのだが、ここでまだ逃げ出すわけには行かない、と、そうミアは確信している。

 それがどこからくる確信なのか、それはミアにもわからない。

 だが、今は逃げ出す時ではない、と、ミアは全身でそれを天啓のように感じ取っている。

 自分はまだここにいなければならない、それが役割なのだと。

 ミアはそれを上手く言葉にできない。

 だから、それとはまた別に気になっていることを理由に挙げる。

「ま、町の人達はどうなるんですか? まだ逃げてない人だっているんですよ」

 そもそも、リグレスの西側の地域では避難などもしていない。

 西側で戦闘が起きること自体が想定外だったのだ。

 念のために西門にも兵を集めておいただけで、本来は西門での戦闘は想定されてなかったのだ。

「知らないわよ、そんな他人のことまで。まずは港、港を目指してそっから逃げ出しましょう、船がなくなる前に。ミヤ、私の言うこと聞くって言ったでしょうに!」

 スティフィとしてはできるだけ早くリグレスから脱出することを優先したい。

 闇の小鬼は海の精霊に嫌われているので、船で海に逃げ出すのが一番安全なはずだ。

 そこから別の港へ行き、回り込むようにダーウィックがいる魔術学院に行くのが最善とスティフィは判断している。

「時と場合によります! 見捨てていけません!」

 だが、ミアはスティフィの話を聞かない。

 そもそも、ミアは頑固者だ。

 こうと決めれば他人の意見を聞く人間ではない。

 ただ、そんなミアにも意見を聞かせる方法はある。ミアの信じる神を話に絡めたときだ。

 スティフィもあまり使いたくない手段だが、ミアに対して絶大な効果があることは確かだ。

「あんたの使命はどうするのよ! 神様に言われてるんでしょうに? 魔術を学んで巫女になるんでしょう?」

 スティフィがそう言うと、ミアはあからさまに怯む。

「それは…… そうですが、まだ逃げだすには早すぎます、せめて町の人の避難が済むまでは……」

 ミアもこんなところで死ぬつもりはない。

 ミアには神から授かった使命があるのだ。

 それを遂行し終えるまでは死んでも死にきれない。なにがなんでも遂行しなければならない使命だ。

 ミアにとって、その使命の前では他人の命など何の価値もない。

 だが、ミアの直感はそれでも、今はここに残って闇の小鬼と戦うべきだと、そう告げている。

「どこに避難するっていうのよ、もうこの町は終わりなのよ。避難する場所なんか、この町にはもうどこにもないのよ。船があるうちに確保してさっさと出向して、どうにか学院に戻るしかないのよ!」

 殺しても湧き続ける闇の小鬼の侵入を許したところで、この防衛戦は失敗なのだ。

 時間を掛けられ、ゆっくりとこの町は闇の小鬼に侵略され行くだけだ。

 助かるには、もうこの町から、闇の小鬼達から逃げ出すしか手はない。

「ま、まだ使徒魔術も使っていません!」

 ミアがそう言ってスティフィの意見に抵抗しようとする。

 そんなミアをスティフィは冷ややかに見つつも、自慢の使途魔術も効かないと分かれば、ミアも少しは大人しくしてくれるかと判断する。

「じゃあ、燃えるほうね。可能性は低いけど巨人の炎なら闇の小鬼を倒せる可能性があるかもしれないし……」

 ただミアの使う使徒魔術は巨人の火を使うものだ。普通の火ではない。

 もしかしたらだが、闇の小鬼ですら焼き殺せる可能性もあるのも事実だ。

 試すだけ試すのはありだ。

 ステフィの見立てでは、まだこの戦場はもうしばらく持つ。

 すぐに崩壊する程ではない。

 闇の小鬼は事前の情報通り、一個体としては弱いのだ。

 だが、それこそが闇の小鬼の恐ろしいところでもある。

 戦場を優勢だと思わせ泥沼化させ、相手を引くに引けない所まで引き込み、じりじりとすり潰していく。

 その不死の在り方も、その身に流れる毒性の血も、そういう風にできているのだ。

 スティフィもそのことまでに気づけてはいない。

「わ、わかりました! 全部選択して燃やしてやります!」

 ミアはそう言って意気込む。

 元炎の巨人の御使い、ロロカカ様の御使いの力が、あんな小鬼共に負けるわけがない、という自信もミアにはある。

 それに巨人の火を使うこの使徒魔術は対象を焼き尽くす魔術だ。

 跡形もなく焼き尽くしてしまえば、復活も出来ないとミアはそう考えている。

 だが、闇の小鬼の不死は再生ではない。言うならば再誕なのだ。

 死んで、すぐに再誕しているだけなのだ。

 ミアも、いや、この場にいる誰も、そのことを知らない。

「それが終わったら、次は必ず逃げるからね。エリック、ミアを守るわよ」

 その時は実力行使でミアを抱えてでも逃げ出す覚悟でスティフィはその言葉を口にする。

「了解っと。まあ、俺はもともと騎士隊が撤退するまで居残るけどな!」

 エリックはそう言って竜鱗の剣を構える。

 その言葉に覚悟も何も感じられないが、それが当たり前だとばかりとエリックはそんな表情を見せる。

「あんた、思ったよりも真面目なのね。でも、まずいわね、どんどん増えていってる……」

 とりあえずの方針が決まったところで、壁の内側の戦況はどんどん悪化して言っている。

 飛び散った闇の小鬼の血、それが付いた物陰から際限なく闇の小鬼達が湧きだしているのだ。

 今のところ人間側が優勢だろうが、相手は不死なのだ。

 これは終わりなき戦いなのだ。

 いずれ負けるのは人間側だ。

 闇の小鬼が続々と湧き出るのを見て、エリックが壁の上にむかい大声で叫ぶ。

「おい、壁の上にまだいる連中! もう壁内に入られたぞ! 壁の外で闇の小鬼を殺すと内側に湧き出てくるから、もう壁の外のを狙わないでくれぇ!」

 エリックが何度もそれを叫ぶ。

 それを聞いた者たちは、壁の外への攻撃を辞め、壁の内側への攻撃に切り替えようとするが、既に壁の内側は乱戦になっていて矢を撃てるような状況ではない。

 壁の下に降りて加勢しようにも、この辺りにあった階段が崩れ落ちてしまっている。

 それでも、ところどころに長梯子がかけられつつある。

 それを待って降りるほかない。

 この壁は常人が降りれるほど低い壁ではない。


 スティフィが腰の妖刀、血水黒蛇を抜く。

 柄には荷物持ち君の根、古老樹の根が巻きつけられたままだ。

 こんな乱戦でこの妖刀に呑まれ暴走したら流石にどうにもならない。

 だが、今はこの妖刀に頼るしかない。

 黒光りする刀身が怪しくも頼もしいのも事実だ。

 強く柄を握ると、中指の骨がまだ痛むが、これくらいなら問題はない。

 スティフィは血水黒蛇を構え、こちらに向かって来る闇の小鬼の首を跳ねる。

 こうやって直に対峙してもやはり一匹一匹は大した戦力ではない。

 これならミアが使徒魔術を使う間くらいは守りきるのもそう難しくないだろう。

 外道種の血を吸い血水黒蛇が怪しさを増していく。

 だが、妖刀に噛まれる感覚はなかったことに、スティフィは一安心し、ミアを守るように立ち、首を落とした闇の小鬼の死体に妖刀を突き刺し、その血を妖刀に吸わせる。


 エリックもスティフィに負けじと竜鱗の剣を構える。

 エリックの持つ竜鱗の剣は小ぶりの剣の為、片手持ちで十分だ。

 これなら盾も欲しい、エリックはそう思いつつ飛び掛かってくる闇の小鬼を一刀両断にする。

 頭から股まで、本当に真っ二つだ。

 それなのにエリック自身は大した力を込めていない。

 いや、竜鱗の剣に全身の体重を、それも着込んだ鎧の重さも加えた重さをも支えて壁を降りて来たのだ。

 エリックの腕の筋肉自体が既に一度悲鳴を上げた後なのだ。

 それほど力を込められないのだが、そんな状態でも竜鱗の剣は闇の小鬼を両断するのに苦労などしない。

 エリックもこれならいける。と、竜鱗の剣を強く握りしめる。

 そして、竜への憧れと信頼をより一層強くする。


 ミアは乱戦の中、古老樹の杖を右手で持ち天にかざし、手左手の親指と人差し指で円を作りそれを通して杖の先端を見る。

 そして、御使いとの契約を行使するための呪文を唱える。

「大いなる御方、その御威光をお示しください」

 ミアの視界が瞼と共に暗く閉ざされていく、その代わりミアが注視する場所だけが色鮮やかに、そして、鮮明に、遠くまでもが詳細に見通すことができるようになる。

 殺されては這い出てくる闇の小鬼達を注目し色鮮やかに選択していく。

 焦りと脳への負荷で、ミアの額に脂汗が滲む。

 また、闇の小鬼はかなりの広範囲に広がっているので注視して選択するのも一筋縄ではいかない。

 乱戦が起きている壁の内側は後回しにして、まずは壁の外側の闇の小鬼達を選択する。

 かなりの量の闇の小鬼達がまだ壁の外にいるのが今のミアにはわかる。

 それをひとまとめで選択する。

 壁の外の闇の小鬼を選択し終えたら、乱戦となっている壁の内側の闇の小鬼達を個別に選択していく。

 乱戦で選ぶのも苦労するし、苦労して選んでもすぐに殺され別の個体が湧き出て来る。

 ミアは額に脂汗を浮かべながらそれでも根気強く闇の小鬼達を選んでいく。

 すべて選択し終わったその瞬間、ミアは閉じられていた瞼を開く。

 そうすると、一斉に闇の小鬼達だけが紅蓮の炎に包まれる。

 近くにいる者でも、その炎の熱すら感じない。

 闇の小鬼達だけが、ミアによって選択された者だけが焼き尽くされていく。

 少なくとも西門に攻めて来た闇の小鬼はすべて一瞬にして燃え上がり焼き尽くされた。

 乱戦に参加していた者達から、歓声が上がる。

 だが、次の瞬間、辺りに散らばった闇の小鬼達の血の跡から、闇の小鬼達が一斉に這い出て来る。

 その数は先ほどまでの比ではない。

 何百という数が一斉に湧き出て来た。

 上げられていた歓声が絶望に変わる。

 それはミアが壁の外の闇の小鬼も焼き殺してしまったせいだ。

 巨人の火でも闇の小鬼を殺し切ることはできなかったのだ。

 その光景を見たミアも絶望する。

 そして、すぐにこれは自分が招いてしまった結果だと理解する。

 壁の内側に五百匹以上もの闇の小鬼を呼び寄せてしまったようなものだ。

 これはもうどうにもならない。

 ミアにでもわかる。

 これはどうにもならない、できない、と。

 あっという間に、まるで増殖するかのように闇の小鬼の大群が湧き出て来る。

「ミア、逃げるわよ」

 スティフィには、この結果はある程度予測できていたことだ。

 もちろん焼き殺せるかもしれない、そういう期待もあった、だが、焼き殺せなかった時、こうなるだろうな、と予想ではできていた。

 これでミアも諦めがついたはずだとも。

「ス、スティフィ、わ、私は大変なことを……」

 ミアは地面に力なくへたり込み手を振るさせながら、自分がしでかしてしまったことを実感する。

 数匹、居ても十数匹だった闇の小鬼を、自分のせいでいきなり数百匹が湧き出て来たのだ。

 戦場は戦々恐々となっている。

 志願兵などには悲鳴を上げ、既に逃げ出している者もいる。

「いいから、早く立ちなさい、逃げるわよ」

 スティフィは一度妖刀を鞘にしまい、開いた右手でミアの手を取り、へたり込んだミアを無理矢理にでも立たせる。

「に、荷物持ち君、止めてください! あの外道種をどうにか!」

 ミアが気づいたように荷物持ち君に命令を下す。

 荷物持ち君は頷き、湧き出る闇の小鬼達の大群へと向かっていく。

 手から本来は支えであるはずの土器を変質させ伸ばし槍の様に構える。さらにその槍の先に精霊銀の刃を作り上げる。

 殺しきれないにしても、精霊銀の刃なら闇の小鬼達に有効打を与えることができる。

 荷物持ち君はその槍で手当たり次第に闇の小鬼を屠っていく。

 それと同じ量の闇の小鬼が、新しく湧き出て来る。

 だが、荷物持ち君の奮闘は周囲の兵の士気を上げるのには十分だ。

 騎士隊を中心として西門で本格的な近接戦が始まる。


「そんな事、良いから! それに遅かれ早かれ、こうなっていたんだから! 一匹でも入られた時点で負けてたのよ、この戦いは!」

 スティフィは荷物持ち君がミアの近くから離れたことに、舌打ちしつつ、ミアを連れて逃げ出そうとする。

 強行手段でミアを気絶させて運ぶにしても、ミアに憑く大精霊がそれに反応してしまうと、大精霊に反撃されてしまう可能性もある。

 ただ、荷物持ち君が闇の小鬼の迎撃に向かったと言うことは、護衛者達もここでの防衛に賛成していると言うことでもあるのだ。

 それでスティフィも少し迷い始める。

 これもまた決まっていたことではないのかと。

 そこへミアが覚悟を決め、古老樹の杖を持つ手に力を籠める。

「いいえ、まだです! まだできることはあります!」

 強い意志でその言葉を発する。

「何言ってんの! もう使徒魔術も使えないんでしょうが!」

 もうミアの先払いしている魔力は空のはずだ。

 スティフィの様に複数の御使いと契約していないミアは、先ほどの使徒魔術で先払いしている魔力はもう尽きているはずだ。

 だが、

「私にはロロカカ様がいます!」

 と、ミアはその言葉を力強く答える。

 それにスティフィは違和感を感じる。

 ミアはロロカカ神を崇めはするが頼りはしない。感謝はするが頼りはしないのだ。

 そのはずだったのだ。

 だが、ミアは今明らかにロロカカ神に頼ろうとしている。

 スティフィはそのことに気づき何かを言いかけるが、それよりも早くエリックが動いた。

「ん? まだなんかできるのか? ミアちゃん」

 エリックはミアに問いかける。

「します」

 それに対して、ミアは覚悟した目で答える。

「なら、俺が守ってやんよ」

 エリックもその覚悟に応えるように竜鱗の剣を構える。

「ありがとうございます」

 それに対して、鼻息を荒くしてミアはお礼を言う。

「コラッ! 何言ってるの!」

 早くミアを連れて逃げ出したいスティフィはエリックに対して怒るが、ミアがスティフィとエリックの間に入る。

 そして、覚悟を決めた目でスティフィを見つめる。

「ここで逃げてはダメなんです」

 なにか絶対的な確信をもってミアはその言葉を口にする。

「え? なに? 急に……」

 スティフィもミアの気迫に後ずさりする。

 逆らい難い、気迫を今のミアからは感じざる得ない。

 デミアス教徒であり強者に絶対服従である事を強いられてきたスティフィは、ミアを強者だと、自分はミアに仕えるために存在していたのではないかと、そう思える程の何かを確かに感じてしまう。

「そう私の直感が言っています」

 ミアは静かに、でも力強くそう言った。

 スティフィはそのミアに気圧されつつも、なんとか虚勢を張りながら、

「はぁ? 巫女としての直感かなんかっての?」

 と、軽口を叩く。

 だが、スティフィの中ではすでにミアの決定に従うことを心に決めてはいる。

 恐らく、これもそう言う運命だったのだと。

「はい!」

 ミアは力強く答える。

 その返事にも妙な説得力があった。

「実際どうするのよ!」

 だが、実際問題として闇の小鬼はどうにもならない。

 相手は不死の外道種であり、外道種の王なのだ。

 人間の手には余る相手だ。

「フーベルト教授が言っていました。私の捧げ物をするための魔法陣は、本来は招来陣だと」

 神を呼ぶための、神を招き寄せるための魔法陣であると、そうフーベルト教授は言ったのだ。

 だから、フーベルト教授はわざわざ捧げ物を神自ら受け取りに来るロロカカ神がミアのことをたいそう気に入っているのだと、そう考えていた。

 実際、それはそうだったのかもしれない。

「ミアの神様をここに呼ぶってこと?」

 スティフィが驚きで目を丸くして聞き返す。

「はい」

 それに、ミアは力強く返事をする。

「確かに…… 闇の小鬼を呼び出された神が倒したって伝承はあるけど……」

 不確定ながらにも闇の小鬼が神の力を使い殲滅させられた、そう言う話は確かにある。

 ないわけじゃない。

 そして、ミアの信じるロロカカ神は謎の神ではあるが、間違いなく神格の高い神だ。

 それも間違いがない。

 そんな神であるならば、闇の小鬼を殺し切ることなど造作もないことかもしれない。

 だが、神に人から何かを願うとき神は対価を要求するものだ。

 不死である外道種を殺し切る対価など想像がつくものではない。

「私がそれをします」

 ミアもそのことをちゃんと理解し、その上で覚悟している。

 スティフィは止めるべきだ、と思いつつも、もうミアを止めることが出来ない。

 ただそんなミアを見て、スティフィはどうしたらよいかわからず立ち尽くしている。

「わかった。どうすればいんだ?」

 スティフィの代わりにエリックがミアに尋ねる。

「できるだけ大きな魔法陣を描きます」

 魔法陣は大きければ大きいほどその効力は高い。

「それを守ればいいんだな。任せなよ。外道種から市民を守るのが騎士隊の本分だぜ」

 エリックはそう言って近くにいる闇の小鬼に斬りかかっていく。

「ああ、もう! それがダメだったら、その時は有無を言わさず逃げるからね!」

 そこでやっとスティフィが、再び鞘から血水黒蛇の妖刀を抜く。

 スティフィ自身にもよくわかってないが、今のミアの言う言葉を無視することが出来ない。

 なぜか、この場でミアを死守しなければならない、そんな気持ちがこみあげて来ている。

「はい!」

 と、ミアは元気に笑顔で返事をする。

「魔法陣を描く道具はあるの?」

 スティフィがミアにそう確認すると、ミアは古老樹の杖を掲げる。

「古老樹の杖でも描けるので問題ないです」

 よくわからないが古老樹の杖でこの石畳の地面に魔法陣を描けるとのことだ。

「なんでもありね、その杖。エリック、死守するわよ」

「おうよ、俺の戦いっぷりを見ててくれよな」

 既に戦っていたエリックが振り返って返事をする。

 スティフィもミアを狙ってくる闇の小鬼に妖刀で斬りかかる。

 ミアは石畳の床に古老樹の杖を突き立て地面に神を呼ぶための魔法陣を描き始める。









 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


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