表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
西門防衛戦と私が魔女と呼ばれるようになった理由

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/187

西門防衛戦と私が魔女と呼ばれるようになった理由 その7

 闇の小鬼、元は一つの闇に潜む精霊だった。

 闇に潜んでいたその精霊は法の神の呼びかけに答えなかった。

 法の神が余りにも光り輝き眩しかったからだ。

 闇に潜んでいたその精霊は眩しく光り輝く神に深く嫉妬した。

 だから、法の道から外れ外道となった。

 自らの体の部位を切り落とし、数個に分けた。

 そして、数匹の小鬼の王が誕生し、世界に散らばった。

 そのどれか一匹でも神に届くようにと。


 闇の小鬼その王はうんざりしていた。

 どこへ行こうが自分達よりも圧倒的に強い奴らがいる。

 一番強いのは、間違いなく東門にいた大きな人だ。

 あれは別格に強い。

 もしかしたら自分らを蹂躙したあのクソ虫よりも強いのはと闇の小鬼の王はそう思う。

 だから、避けたのだ。

 何をしてもあの大きな人には無駄だとわかりきっているからだ。

 そして、避けた結果、壁沿いに回り込み攻めやすそうな屋敷を発見する。

 壁に囲まれていたが、大きな町を囲う壁ほど厚く高くない壁だったので、そこを手始めにと攻めた。

 だが、攻めたら手痛い反撃を受けた。

 想像以上に強い人間どもがいた。

 今まで襲って来た人間どもとは、まさに別次元の強さだった。

 しかも、この屋敷は町に通じていないし、内部にもそれほど人間がいるわけでもない。

 人間どもに、自分達を長きにわたり閉じ込めて来た報復をしてやりたがったが、この屋敷を攻めるのは割に合わない、屋敷にではなく大きな町へ入ることを優先したい、闇の小鬼の王はそう考えた。

 町の中にはたくさんの人間達がいることが闇の小鬼の王にはわかっていたからだ。

 だから、そこで群れを分けた。

 群れを三つに分け、その二つを囮にした。

 囮の一つを東門へ、囮のもう一つをこの場に残し、残りで他の場所からこの町に入り込んで、暴れてやるつもりでいた。

 少し戻れば北側にも門はあったが、東側の大きな人が怖かったので、北門に戻るのではなく、そのまま西側まで進行してきたのだが、そこにも強い存在がいた。

 まだ姿は見えないが、元精霊だった闇の小鬼にはよくわかる。

 なぜだがこんな場所に古老樹がいる。

 それだけではなく精霊王にも手をかけたような大精霊の存在も感じられる。

 そこで闇の小鬼の王は、これだけ大きな人間の町だ、それほど重要なのだろう、と考えを改める。

 是が非でもこの町に入り込み、人間達を根絶やしにしてやりたい、と、そう願う様になる。

 町に入り込めればどうにでもなる。

 物陰に潜み、そこから数を増やしてやればどうにでもなる。

 もうこれだけ増えてしまったのだ。

 飢えるのは辛いだろうが、そうなれば、また人間どもの町を襲えば良い、それだけのことだと王は考えた。

 だから、この町にどうやっても入りたい、自分の一欠片でも入れればどうにかなる、王はそう考えていた。

 だが、壁は高く門は分厚い。

 それに加え、門を守っているのはどこも強者だらけだ。

 ただ王の中でも東門にいた大きな人、恐らくは巨人の生き残りだけは絶対に相手にしたくなかった。

 今も囮として向かわせた連中の感覚が伝わってくる。

 それは一方的な虐殺だ。

 しかも、闇の小鬼との戦い方を心得ているのか、心を折るように、いたぶりながらの虐殺をしている。

 闇の小鬼の王としてもこれ以上東門には近づきたくなかった。

 欠片たちを通して伝わってくる感覚も強くなってしまう。

 そして、囮を使って正解だったとも考える。

 あれが守る場所はどうあがいても突破できそうにないからだ。

 南は海に面している。

 海の奴らに捕まれば深い海の底へ連れていかれる、流石に逃げ出すことも出来ない。

 南側に、海に近づく選択肢はない。

 となると残る門は北と西だ。

 それ以外の場所は、この町は高く分厚い壁に覆われている。

 例外となるのが北西にあった館くらいだが、あそこにいた人間達は妙な力を行使し、館に近づくことも出来なかった。

 人間どもが使う魔術ではない。また別の何かだ。

 この町の人間達が全員あの調子なら、この町自体を諦めなければならないが、ここまで滅ぼし食い散らかして来た人間達はあんな力は使ってこなかったのも事実だ。

 あの屋敷だけが特別なのだろうと王は考える。

 北と西の門、この町に入るにはどちらかの門を突破するしかない。

 そうなると東門から近いほうの北門はやはり避けたい。

 闇の小鬼の王はそうして、迷いに迷い西門にやって来たのだ。

 だが、西門にも強者はいた。古老樹と力の強い精霊がいたのだ。

 闇の小鬼の王は攻めあぐねていた。

 だが、群れの飢えも限界だし、今から北門へと引き返すのも面倒くさい。

 このまま西へ向けて道を進むのを考えたが、ここまで大きな人間どもの町がまたあるとは思えない。

 闇の小鬼の王にはリグレスの町が大きな宝箱であり、大きく旨そうな食糧庫にも見えているのだ。

 それを貪欲な王が見逃すわけもない。

 だが、闇の小鬼の王は迷う。痛いのは嫌だ、蹂躙されるのは嫌だ、けど、飢えるのも嫌だ、人間どもを見逃すのも嫌だ、と。

 迷っているうちに日が暮れる。

 辺りから光が失われ闇が訪れたことで、その凶暴性が増す。

 始祖虫との戦いで身につけた知恵が消え、飢えと凶暴性だけが溢れるようににじみ出て来る。

 強者に一方的にやられた経験を忘れ、その暴力性と飢えが全面に押し出されていく。

 そうして、日暮れと同時に闇の小鬼の王は欲望に身を任せ、西門へと進行を開始する。

 人間の村や街を滅ぼし、得た物を手にして。




「来た! 来たぞ!! 闇の小鬼達の群れだ! かなりの数だ! 日暮れと共に来たぞ!! 狼? 奴ら狼に乗ってやがる! 待て、武器も奴ら持っているぞ」

 そんな誰が発したかわからない怒声が西門に響き渡った。

「闇の小鬼が狼に乗って武器を持っているってどういうことよ! 聞いてた話と違うじゃない!」

 それを聞いたスティフィが文句を言うように言葉にする。

 もう日が暮れて来ているし、まだ距離があるのか、肉眼ではスティフィでも確認できない。

 スティフィは自分の目に仕込まれている魔法陣を起動するべく、魔力の水薬の瓶の封を切り中身の液体を口に含む。

 ミアが作った魔力の水薬だ。

 ラダナ草がふんだんに使われているそれは強い苦味を持っている。

 苦味に顔を顰めながら、口に含んだ魔力の水薬から魔力を抽出する。

 普通は口に含む物ではないが、左手が不自由なスティフィはそうするしかない。

 苦いと思いつつも、口に含んだ魔力の水薬から抽出した魔力を操作して目に導く。

 目に刻み込まれた暗視と遠見の魔法陣を起動する。

 そうすると、先ほど叫んだ者の通り、闇の小鬼達は青白い狼のような生き物に乗っているのがスティフィにも見えて来る。

 更に手には恐らくは農具だろうか、手鎌や手斧と言ったものを持ち、無暗やたらと振り回している。

「東門でも領主邸での戦いでもそんな情報はなかったぞ!」

 エリックはそう叫んで、弩を構える。

 そして、射撃用の弩についている特製の照準器を覗き、狙いをつけるために闇の小鬼達を探し始める。

 エリックが叫んだ通り、通常の闇の小鬼は狼などにまたがる様な外道種ではないし、武器を持つような者達でもない。

 恐らくは、東門と領主邸は陽動で、やはりこの西門に来ている連中こそが本隊で戦力を集中させているのだろうが、これは異常な事だ。

「ど、どうしますか?」

 ミアはスティフィに聞き返しながら壁の上から自分も見ようと身を乗り出す。

 スティフィは口に含んでいた魔力の水薬、その出がらしを喋るために吐き捨てる。

「ミアはとりあえず壁の陰に隠れて! あいつら弓とかは持っていない? 遠距離を攻撃できる手段は……」

 そう言って、スティフィは強化した視力で闇の小鬼達を確認する。

「み、見えねぇ! まだこっかからじゃなにも見えないぞ! けど、やけに進軍が早いと思ってたけど、狼を手懐けてたんだな」

 エリックが照準器を覗き込みながら外道種を探しているが、その方向は別の方向を見ている。

 スティフィが仕方なく狙撃用の弩を手で移動させ、闇の小鬼の方に導いてやる。

 その後で、スティフィも自分の連弩を手に持ち構える。

 だが、闇の小鬼は急接近しているものの、片手で扱えるスティフィの連弩で届く様な距離にはまだいない。

「狼は不死じゃないのよね? じゃあ、まず狼から狙って!」

 なので、スティフィがエリックに指示を飛ばす。

「わかった。見えた! いたぞ! あれか! 確かに狼に乗ってやがる!」

 やっと闇の小鬼達を見つけれたエリックが狙いを定め始める。

「なんで狼が懐くんですか? 外道種は生きとし生けるものすべての敵のはずです!」

 そこでミアが疑問に思う。

 外道種は生きとし生ける者達の敵のはずなのだ。

 野生の獣とはいえ、狼が懐くとは考えられない。

「所詮獣ってことでしょう? もしくは…… その狼も外道種かなにか?」

 確かにミアの言っていることは正しいのだが、今はそんなことを議論している場合ではない。

 間違いなくその狼も敵という事だけは確かだ。

「とりあえず、この新式射撃弩の射程に入ったぜ!」

 エリックはそう言って、その狙いを狼の頭部に定める。

「まだかなり遠いけど狙えるの?」

 確かに、まだかなり遠い。

 スティフィが肉眼で確認できているのは魔術を行使しているからだ。

 最初に叫んだ者も魔術を使っていたか、望遠鏡でも持っていたのだろう。

 それほどの距離がまだある。

 だが、エリックは自信があるように答える。

「おうよ、新式の実力をスティフィちゃんに見せてやるよ」

 エリックは弩の引き金を引く。

 ほとんど音もなく発射さえた矢は闇夜を切り裂くように飛び、闇の小鬼を乗せる一匹の狼の頭部に見事命中する。

 狼が激しく跳ねて倒れる。それを後続の狼たちが踏みつけていく。

 スティフィの強化された視界でもそれを捕らえる。

「当たった!? 凄いじゃない、この距離を当てるだなんて」

 大型の弓でもない限りまず矢が届くことのない距離を、人の手で簡単に持ち運べられる様な弩で正確に射貫いている。

 凄まじい射撃性能の弩だ。

「へへ、だろ? 照準が他の弩とは別もんなんだよ、これ。照準が望遠鏡になってんだぜ」

 そう言って、エリックは持っている弩を自慢する。

「私もそれを使いたいけど、片手じゃ流石に無理そうね」

 手で持ち運べると言ってもかなり大型の弩だ。

 流石に片手で扱える代物ではない。

「ああ、流石に大きいし重いからな。それに操作も片手じゃ無理だぞ」

 スティフィが持っている片手で使える連弩とは、そもそもの設計思想が違うのだろう。

 その弩は両手でも扱え切れないような複雑な機構をしている。

 恐らくはエリックの実家、ラムネイル商会の新しい試作品なのだろう。

「けど、ミアの言う通りあの狼も普通の狼じゃなさそうね、頭に矢を生やしたまま起き上がったわよ」

 スティフィの眼には頭に矢を突き刺したまま起き上がる狼の姿を捕らえている。

 後続の狼たちにもみくちゃにされていたにも関わらず、まるで今は無傷の様に起き上がっているのをスティフィは確認する。

 狼というよりは、四つん這いになって地を駆ける闇の小鬼なだけにスティフィには思える。

「え? スティフィちゃん望遠鏡もなしにみえんの?」

 今更ながらにエリックが驚いたように声にだす。

「それくらい魔術で代用できるでしょうに。パッと見た感じ遠距離武器を持っているのはいない! 後、狼に見えるのも恐らく闇の小鬼ね。ミア、今の情報を周りに伝えて!」

 とりあえず遠距離武器の類を持つ闇の小鬼はいない。

 それと闇の小鬼が乗る狼に見える生物も闇の小鬼が四つん這いで走っているだけのようだ。

 その情報を周りに共有する必要がある。

「は、はい!」

 と、ミア返事をするが、ミアにはどうしたらいいかわからない。

 その場で大声で叫ぼうかと、悩み始めている。

「それが終わったら、私の連弩の矢の付け替えを手伝って!」

 スティフィはミアが叫ぼうとするのを連弩を手放し、咄嗟に手でミアの口をふさぐ。

 ミアには目立ってほしくはない。

 この場で叫ばれたら闇の小鬼達にまで注目されかねない。

 手で叫ぶのを止められたミアは、どうすべきか考える。

「わ、わかりました! 今の情報を伝えればいいんですよね? 誰に伝えれば良いですか?」

 考えても分からなかったミアがそう聞くと、エリックが答える。

「騎士隊の…… レイモンドって人がここの守備を任されているから、その人に! 下の、広場の天幕にいるはずだぞ」

 エリックは振り返り西門の駅馬車の広場にある天幕を指さす。

「では、行ってきます!」

 ミアはそう言って元気に走り始めた。


「伝えてきましたって、もうそこまで来てますね」

 戻って来たミアはまた壁から頭を出して外を見ながらそんなことを言った。

 そこをスティフィに軽くではあるが蹴り飛ばされ、壁の上の床に転がる。

 スティフィは外道種にミアの姿を見せたくなかったからだ。だが、今は丁寧にミアをどけている暇はない。

 スティフィも手を使っている余裕がないほど、闇の小鬼が押し寄せてきている。

 ミアが不満そうな顔でスティフィを見るがスティフィは気にも留めない。

 壁の上から矢を打ち続けている。

「流石に壁に張り付かれたら射角が足りないわね」

 そう言って、弾倉が空になった連弩をミアに手渡す。

 それを受け取ったミアはおっかなびっくりと弾倉の交換を慣れない手つきで始める。

「壁の下に降りて狭間から攻撃するしかないだろ? 各所にあるはずだぞ」

 それにエリックが答える。

 壁にとりついた敵を槍で突くための穴、狭間がこの壁にもちゃんと設置さえている。

 実際に下からも怒声が聞こえ始めているので、もう壁際まで闇の小鬼は来ているようだ。

「じゃあ、それは下の連中に任せるわよ、矢があるうちは上から狙うわよ、ミア、矢の交換まだ!?」

 それはそれとして、まだ矢で狙える闇の小鬼もたくさんいる。

 今のうちに機動力のある狼のような闇の小鬼だけでも狙っておきたい。

 殺しきれないにしても、足にでも矢を打ち込めれば、その機動力を大きく阻害することは可能なはずだ。

「ま、待ってください! 慣れてなくて……」

 ミアはもたつきながらもなんとか矢の弾倉を変え、それをスティフィに手渡す。

 一応、弾倉がちゃんと交換されているかだけスティフィは確認し、壁の上から闇の小鬼達に的確に矢の雨を降らせる。

 ミアは不満そうにだが、それでもスティフィの手伝いをしている。

「本当に死なないんだな、こいつら。頭に矢を刺しながら笑ってやがるぜ」

 エリックが驚愕しながら叫ぶ。

「目や手足なんかを狙えるなら狙った方がいいかもね。頭に打ち込んでも意味なさそうね。脳みそないんじゃないの」

 スティフィもそれに答えるよに連弩の引き金を引き続ける。

「今どんな感じなんですか? 私には見せてくれないので状況もわかりませんよ!」

 ミアが不満そうに声を上げる。

 だが、矢を体中に受けながらも動き回る闇の小鬼はかなり刺激が強い。

 何より門の巫女であるミアを外道種の前に出してよいのかもスティフィには判断が付かない。

 なら、ミアには壁の陰に隠れていてもらった方が良いし、ミアの魔術は今使う様なものでもない。

「ミアは隠れてなさい、あんたは巫女なんだから! 狙われやすいんだから!」

 スティフィがそう言って怒鳴るので、

「わ、わかりましたよ!」

 と、ミアも引き下がるしかない。

 普段ミアにだけは優しいスティフィが、まったく余裕がないのがわかる。

 そう言う状況だと言うことだ。

 それだけに、まだ何もできていないミアは歯がゆい気持ちをしているのだが、スティフィの言うことはもっともなのでミアも反論はしない。

 後、自分が蹴られた理由もやっと理解した。

「そういや、ミアちゃんは門の…… あっ、いってぇ! 何すんだよ、スティフィちゃん、いきなり蹴りやがって」

 エリックが門の巫女と言いかけたので、スティフィは透かさずエリックを蹴り飛ばす。

 手を使っている余裕はないし、ミアの様に手加減もしない。

「その名を気やすく外道種の前で言うな!」

 そして、すぐにエリックに怒鳴りつける。

 怒鳴られたエリックもようやく理解する。

「あっ、あぶね。そういやそうだった、外道種はアレに反応するんだったな」

 今年の初めに外道種と戦っていた時のことをエリックも思い出す。

 確かにその名称に反応していた。

 不死の外道種にそれを知られれば、一生ミアはその外道種に狙われかねないのだ。

 絶対に知られるわけにもいかない。

「そうよ。ミアも自分が何なのか言わないでよ」

 スティフィは念のため、ミアにも怒鳴りつけ、再び弾倉が空になった連弩をミアに渡す。

「わ、わかりました」

 ミアはそう返事を返し、受け取った連弩の弾倉を取り換えるために四苦八苦し始める。

「あと戦況は、これも一応は膠着状態っていうのかしらね? こっちもむこうも何もできてないわよ」

 スティフィは戦場を見回し把握してそう答える。

 確かに相手は不死ではあるのだが、門を突破できる方法を持っているようには見えない。

 闇の小鬼達が手に武器ではなく、この壁に届く長梯子でも持っていたら、それだけでどれだけ脅威が増していたことだろうとは思うが。

「そ、そうですか……」

「ん? あれは…… 敵の援軍か? あれ? マジかよ、ヤバくね?」

 射撃用の弩でできる限り遠くを狙っていたエリックがいち早くそれに気づく。

「援軍? どこよ? どっちのほう?」

 スティフィはあたりを見回すが、強化された視界が大分弱まって来ていて見つけ出すことができない。

「あっち、ほら、なんか煙上げて向かって来てね?」

 エリックが指さした方へ、スティフィを目を向けるが流石にわからない。

 連弩をミアに手渡し、魔力の水薬の瓶を再び開け魔力の水薬を口に含む。

 苦味を感じつつも魔力を急いで目の魔法陣へと導く。

 そうすると再び見えて来る。

 大地に四肢を付き狼の様に走る闇の小鬼にまたがった闇の小鬼が煙の上がるものを持ち一直線に門へと向かってきている。

 苦い出がらしを噴き出すようにスティフィは吐き捨てる。

「煙……? なにあれ? 火薬か何か持っているの? エリック、あれを最優先で狙って! あれを門に近づけさせないで!」

 本当に火薬なのかは、流石にこの距離では判断が付かない。

 だが、あれを近寄らせるのはまずい事だけはわかる。

「わかったやってみる!」

 そう言って射撃用の弩でエリックは狙いをつけ、矢を打ち出す。

 その矢は吸い込まれるように、四肢を使い大地を駆ける闇の小鬼に命中する。

「どうよ! 見事命中!」

 エリックがその言葉を言った少し後だ、爆発が起こる。

 それほど大きな爆発ではないが、確かに煙が出ていたそれは爆発を起こした。

 それを持っていた闇の小鬼も乗せていた小鬼も原型がわからないほどには吹き飛んでいる。

「火薬……? どこでそんな物を…… ミア、今のことをまた伝えてきて! 至急よ!」

 スティフィはミアから連弩を受け取り、ミアに伝令役を託す。

「は、はい!!」

 とミアは力強く答え壁の上の階段を駆け下りていく。

「エリック、他にいないか見て、いたら最優先よ! なんで闇の小鬼が火薬なんか持ってんのよ!」

 スティフィは魔術で強化された視界で火薬を持つ闇の小鬼を探し始め絶望する。

 複数の闇の小鬼が火のついた火薬のようなものを掲げ、門を目指して疾走してきているのがスティフィには見れてしまったからだ。

 これは防ぎきれる量ではない。

「お、おぅ! って、や、やべぇよ! もう複数向かって来てるって! 俺一人じゃ無理だって、これ、やべぇぞ!!」

 エリックは慌てながらにも、的確に矢を撃ち出していっているが、とてもじゃないが間に合わない。

 スティフィは自分の中でこの場を打破できる魔術を探すが、当てはまる様な魔術はない。

 あるとすればミアの行使する使徒魔術くらいだ。

「いいから出来る限り数を減らして、あの程度の爆発、一度や二度じゃここの門は破られないわよ!」

 確かにこのリグレスの町を守る門は分厚く頑丈にできている。

 あの程度の爆発ではびくともしない。

 それでも、回数を重ねられたら、それも不可能ではない。

「お、おう、できる限り数を減らすぞ!」

「闇の小鬼が火薬使うとかどういうことよ!」

 スティフィはミアにふんじばりの術を使わせるか迷う。

 ふんじばりの術ならミアに負荷をかけることなく瞬時に闇の小鬼達の動きを封じることが出来る。

 その間に、火薬に火が回り勝手に爆発してくれることだろう。

 だが、それ以前にミアは今この場にはいない。今、ミアは伝令に走っており、この場には居ない。スティフィ自身の指示で伝令に走らせてしまったのだ。

 これはミアやスティフィが悪いわけではない。

 誰もが予想していなかったことだ。

 闇の小鬼が人間の道具を使うなど、前代未聞のことだ。

 ましてや火薬を使って門を破ろうとするなど、誰であろうと予想し得なかったことだ。







 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


 もし気に入ったらで良いので、いいね、ブックマーク、感想等ください!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ