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学院の魔女の日常的非日常  作者: 只野誠
廃墟と掃除と亡霊と

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廃墟と掃除と亡霊と その6

 幽霊達に部屋を取り囲まれて、ミア、スティフィ、アビゲイル、ジュリー、マーちゃんことマーカス、そのうちのミアを除いた全員が部屋の中で身構える。

 全員が何かしら感じるものがあるようだ。

 またそれとともに、部屋自体がガタガタと音と共に揺れだす。

「これ? 地震って奴ですか?」

 と、ミアも他の人と違った理由で慌てだす。

 先ほどの椅子を揺らしていた念動力とはその規模がまるで違う。

 それは複数の幽霊達が同時に力を行使しているからではあるが、そのことを理解できているのは幽霊達が見えているアビゲイルだけだ。

「ち、違うわよ、多分」

 スティフィがそれを否定するが、異様な殺意にもいた気配が辺りに複数漂っているのでそれどころではない。

 幸い、春画か、その裏に書かれた物が効いているのか、幽霊達は、少なくとも異様な殺気の主達は、部屋の中には入り込んではいないようだ。

 だが、それらの気配に完全に取り囲まれている。

 複数の見えない相手から逃げ出すのは、それも原理もわからないような念動力を使うような相手から逃げ出すのは困難だ。

「ひぃ!!」

 と、ジュリーはそう叫びつつも、ミアに渡された魔力の水薬の瓶の蓋を開けて備える。

 二体の精霊なら、どうにか自分を守ってくれるはずだと信じている。

 まだ短い付き合いだが、ジュリーはこの精霊達に信頼を寄せている。

 ジュリーはいつでも精霊達に命令できるように準備だけは欠かさない、命令と共に与えるための魔力を魔力の水薬から引き出そうと慌てながらも神経をとがらせる。

「この揺れも念動力ですねぇ。聖水も春画も効果ありですね。部屋には入れないようですよぉ」

 アビゲイルは落ち着いて、それを皆に伝える。

 ただ、この状態で明日の朝まで持つかと言われたら、間違いなく持たないだろう。

 ついでに、アビゲイルのその言葉に、幽霊は地震のような揺れを起こす、と、ミアは雑記帳に丁寧に書き留めていく。

「どうすんのよ、もう完全に日が落ちるまで時間がないわよ!」

 スティフィが銀の短剣を構えつつ、アビゲイルに意見を求める。

 鎧戸から差し込む西日がじりじりと落ちていくのがわかる。

「流石、私の姉妹弟子達ですねぇ、遠くから様子をうかがっているだけと思いましたが、ちゃんとちょっかい出してきましたねぇ」

 アビゲイルはそう言って、聖水により入り口から入ってこれない幽霊を見つめる。

 やはり生前の面影はあるようでない。

 まず誰かと判断できる要素が薄い。

 元々アビゲイルが姉妹弟子達に興味がなかったから、と言えばそうなのだが、それでも生前の姿とはまるで結びつかない。

 亡者と言えばそうなのだが、どの幽霊達も骨と皮しかないほど痩せこけていて、瞳のない真っ黒な目を、舌も歯もない口を、丸く大きく目一杯に開けている。

 死者だからといえばそうなのだろうが、苦痛以外の感情がまるでないように思える。

 そして、どの幽霊も無月の法衣を着ているので区別もつかない。

 それらの理由から生前の姉妹弟子たちと今の幽霊を結びつけることはアビゲイルにはできない。

 それ以前に、幽霊自体も個体の判別も着かないほど似通っているので、この状況で生前は誰だったかなど区別がつくわけもない。

「感心してる場合?」

 と、スティフィは軽口を叩くが銀の短剣は構えたままだ。

 手に持つ銀の短剣は効果がないとお墨付きだが、それでも頼るしかない。

 荷物持ち君の体内にある精霊銀でもあれば幽霊をも切り裂けるかもしれないが、荷物持ち君がそれをスティフィに貸してくれるとも思えない。

 それでも交渉だけでもしとけばよかったと、スティフィは後悔する。

 スティフィも幽霊がここまで積極的に、まかさこんなにも堂々と取り囲むように襲ってくるとは考えてなかった。

 いや、幽霊が連携してくるとは思って無かったというべきか。

 スティフィには幽霊という存在が知恵を持っているとは思えなかったからだ。

 事前にダーウィックより聞いた話では、幽霊は一つの情念に囚われ続け、そのことしか頭にないし、その考えが変わることもない、という話を聞いていたからだ。

 そんな存在の幽霊が連携して襲ってくるということ自体がスティフィからしても想定外だった。

「つまり…… 幽霊も知恵を働かして動いている…… と」

 ミアは雑記帳に書き込んでいる。

 そんなミアを見ることでスティフィも落ち着きを取り戻す。

 ミアのその言葉に、スティフィも確かにそうだと思いなおす。

 少なくとも今対面している幽霊達は連携して行動できるだけの知能とそれを実行するための感情があるということだ。

 連携を取るということは、一つの感情任せでできることではない。

「ミアもそんなもの書いてないで…… いや、後で写させて」

 生きて出れたら、自分も幽霊についての研究報告書を書かねばならない。

 それにはミアが書き込んでいる物は必要なものだ。

「はい、いいですよ。けど研究報告書は自分で考えて書いてくださいよ。そっちは写させませんからね」

 と、ミアはどこか危機感のない顔でそう返した。

 ミア的には幽霊をさほど脅威とは感じていないようだ。

 それも、もっともなことで、ロロカカ神の魔力に比べれば幽霊達の気配など、まるで脅威にすらならない。

 それも事実なのだ。

 人の幽霊程度の不吉な気配ではミアは恐れたりすることはない。

「そ、そんなこと気にしてる場合でもないでしょう?」

 スティフィがそう返事を返すが、ミアはそれには取り合わず、

「知恵を使うってことは、思考しているんですよね? 交渉とかできないんですか?」

 と、アビゲイルに声をかける。

 それに対して、アビゲイルは余りい表情は浮かべない。

「聞いてみますか…… あまり気は進みませんが」

 アビゲイルはそう言って、入口付近にいる幽霊の方を向く。

「はい! 記録は任せてください!」

 ミアは雑記帳と羽ペンを力ずよく持つ。

「あのー、幽霊の皆様、誰が誰だか見分けはつかないのですが、お久しぶりですよね? アビゲイルですよぉ?」

 アビゲイルがそう声をかけると、部屋の揺れが強くなる。

 まるで怒りを表しているかのようだ。

「揺れが強くなりました。呼びかけに反応あり…… っと。とりあえず言葉は通じているってことでしょうか? 少なくとも理解はしていそうですね」

 と、ミアは冷静に観察しながら、部屋の揺れで字も揺らしながらちゃんとそのことを書き込む。

「あんた、嫌われてたんじゃないの?」

 と、スティフィがアビゲイルに声をかける。

「それは…… 何とも言えませんねぇ。私はなんだかんだで師匠に目をかけられていたので」

 良い意味でも悪い意味でも、アビゲイルはマリユから目をつけられていた。

 だが、そんなことよりも重要なのはアビゲイルがその言葉を発した瞬間、部屋の揺れが跳ね上がるように強くなったことだ。

「更に揺れが強くなりましたね」

 と、ミアが周りを見ながらそう言った。

「これは怒ってるのかしらね? あんたやっぱり嫌われてるわ!」

 スティフィが激しくなった揺れを感じながら断言する。

「師匠という言葉に反応したようですねぇ。師匠! 師匠! 師匠! マリユ師匠!」

 そこでアビゲイルは幽霊に向かい、その言葉をかける。

 無論、揺れはかなり激しくなる。

 アビゲイルの見立て通りマリユの名に反応して幽霊達は力を強めているようだ。

「やめろ! 幽霊相手に何煽ってるんだよ!」

 と、スティフィが本気で慌てて止めようとするが、アビゲイルの視線はただ一点を見たまま無言だ。

「凄い揺れですね、幽霊相手にも煽りは効果あり。幽霊も煽られたら怒るっと……」

 ミアだけが、いつも通りな行動をしている。

 ただ書き込んだ字は揺れが酷いせいで、かなりひどい字になっている。

「これは恐らく師匠に、マリユ師匠に強い恨みを持っていそうですね…… まあ、この状況は師匠がしたことですからね、当然ですねぇ。でも、私達自体にはあまり興味がない? やって欲しいことでもあるんですかぁ?」

 アビゲイルがそう声をかけると部屋の揺れがピタリと止んだ。

「やって欲しいこと、あるんですねぇ?」

 アビゲイルがしたり顔でもう一度その言葉を言った時だ。

 ベキベキベキと大きな音を立てて、ジュリーの立っていた床が抜け落ちる。

 ジュリーは、

「へ?」

 と間抜けな言葉を言い残して、床に空いた穴へ、その光の届かない闇の中へと消えていく。

 その際、複数の手がジュリーを掴み穴の中へと引きづり込んでいくのをアビゲイルだけは確認している。


「ジュリー!」

 と、ミアが後を負うように穴に飛び込もうとするのとスティフィが阻止する。

「待ちなさい!」

 スティフィがミアを羽交い絞めにして止める。

「でも、ジュリーが!」

「幽霊達もこちらに用があるんなら、すぐには殺さないから!」

 そう言って、スティフィはミアを説得する。

 スティフィは口でそう言ってはいるが、幽霊達のことなどスティフィにもわかるわけはない。

 ただの口から出ませでしかない。

「でも……」

 ミアは心配そうに穴の方を見る。

「今は幽霊の出方を待ってからよ。アビゲイル、早く幽霊の目的を聞いて!!」

 ミアを銀の短剣を持った右手のみで器用に抑えながらスティフィが叫ぶ。

「誰だか判断つきませんが、私達になにかやって欲しいことがあるんですよねぇ?」

 アビゲイルがそう声をかけると、幽霊はゆっくりと頷いた。

 その後、部屋の入口のすぐ外にいる幽霊は何か言ってはいるのだが、どうしても、その言葉は呻き声にしか聞こえない。

「すいません。何を言っているかまでは聞き取れませんねぇ。何かやって欲しいことがあり、それをやりさえすれば我々には手を出さないと約束できますか?」

 アビゲイルがそう言うと、幽霊は少し迷う。

 周りを取り囲んでいた幽霊達も一カ所に集まりだし、何か相談の様な事を始める。

 相談をしているその姿はアビゲイルにしか見えてはいないが、アビゲイルにとっても幽霊達が相談のような事をしていること自体が驚きだ。

 幽霊はアビゲイルが思っていたよりも人間に近いのかもしれない。

 アビゲイルもスティフィ同様に幽霊のことを思考できない現象のような存在とばかり思っていた。

 言うならば、虫のように本能のみに生きる、一つの情念のみに捕らえられた存在とばかり考えていたのだ。

 まさか、幽霊達が自分の目の前で相談のような事を始めるだなんて思いもしてなかった。

 これにはアビゲイルも本当に驚いている。

 その後、幽霊達の考えがまとまったのか代表の幽霊が一人、前に出て来る。

 アビゲイルにはその幽霊に心当たりがある。

 姿形は変わり果てているが、そう行動する人物に一人心当たりがある。

「あなた、アフテ姉さんですね?」

 アビゲイルがそう声をかけると、前に出て来た一人は一瞬だけ止まり、そして、ゆっくりと頷いて見せた。

「お久しぶりですねぇ。とはいえ、まずはやって欲しい事とやらを伝える手段はありますか? 後、できれば先ほど攫った子も無事でいてくれると助かるのですが?」

 アフテの幽霊は少しだけアビゲイルを凝視した後、ゆっくりと頷いた。

 無論、それらの幽霊の動作はアビゲイル以外には見えていない。

「ジュリーは無事なんですか?」

 アビゲイルの言葉にミアは声を上げる。

 流石にミアも今は雑記帳を手に持ってはいない。

 それよりもジュリーのことを気にかけている。

「一応……? さっきの問いに頷いてくれていますねぇ…… 今、話をしている方は、まあ、生前の話ですが、信用はできる方ですので」

 アビゲイルはそう言ってはいるが、アビゲイルも何とも言えない顔をしている。

 生前信用のおける人物だったからと言って、死後もそうだとは言えるわけもない。

「はい、わかりました」

 だが、ミアはアビゲイルの言葉を素直に信じる。

 ミアの素直さに、アビゲイルは半笑いを見せつつも、幽霊が手招きをしているのに気づく。

「こっちに来いと、そう仕草しているのですがぁ……」

「あんただけで行きなさいよ、信用できる人なんでしょう?」

 アビゲイルが告げるとスティフィは幽霊なんて信用できないとばかりに言い返す。

「私も行きます!」

 けれども、ミアはそんな言葉を言い出す。

「ミアッ!」

 スティフィはミアの名を半ばあきらめながら呼ぶ。

「ジュリーが心配ですし、大丈夫ですよ、古老樹の杖もニンニク棒もあります!」

 ミアはそう言って背中の棒を二本を両手で持ち出す。

 その時スティフィは目にする。

 ミアは気づいてないようだが、古老樹の杖に、古老樹の朽木様が刻み込んだ紋様の一つが淡く光っていることに。

 古老樹の杖に与えられたいくつかの能力の一つが発動しているのだろう。

 どういう効果かわからないが古老樹が寄こした杖だ。今、ミアの身を守るために必要な力なのだろう。

 それならばと、スティフィも折れるしかない。

 正直、この部屋に残っていても無事で居られる自信はスティフィにはない。

 それに、こちらに向けられていた殺気はアビゲイルが要件を聞くと言った時から嘘のように消えている。

「ああ、もう。わかった…… マーちゃん、私にも聖水を少し分けて」

 スティフィは仕方がないととばかりに、マーちゃんに声をかける。

「はい、後三本あるので、一本どうぞ、わ」

 と、マーちゃんは聖水の入った瓶を一本スティフィに手渡す。

 そのままアビゲイルを先頭にして一行は部屋の外へ出る。

 スティフィはこの部屋を出た瞬間襲われると身構えていたが、そんなこともなかった。

 アビゲイルは幽霊の、他の者は、そのアビゲイルの後を続いて歩いていく。

 ただこの辺りは掃除がまだ終わっていないので、床の至る所に虫の死骸が落ちている。

 ミアやアビゲイルはそれらを気にせずに踏みつぶして歩き、スティフィとマーちゃんはそれらを器用に避けて歩く。

 そんな中、一行が行きついた先は階段塔であり、地下へと続く階段だった。




 ジュリーは完全に闇の中で目を覚ます。

 完全な暗闇の中のはずなのに数体の人影が淡い青白いで浮き上がっている。

 そのどれもが苦悶の表情を浮かべている。

 そして、それらはすべてジュリーのことを凝視している。

 最初こそジュリーも大慌てしていたが、幽霊達がいつまでも何もしてこないので、少しづつ冷静になっていく。

 逃げ出そうにもどこに行けばいいのかすらわからない。

 ジュリーの目に見えるのは、浮かび上がるように僅かに淡く光る幽霊達だけだ。

 もう少しジュリーが落ち着く時間を待ってから、幽霊達は呻き声を上げ始める。

 それによりジュリーは再び恐慌状態になりかけたが、何とか押しとどめる。

 サリー教授により色々と心構えを教えられてきた結果かもしれない。

 なんとか落ち着きを取り戻したジュリーは慎重に幽霊達を観察する。

 完全な暗闇の中でも薄っすらと淡く見える幽霊達は、何か呻きながら全員が全員、同じ場所を指さしている。

 そして、必死にジュリーに何かを訴えているのはわかる。

 それと、何かを必死に耐え待っているかのようだ。

 ジュリーも自分に何も危害を加えられないとわかると、震えながらではあるが色々と思考を巡らせる。

 その結果、

「わ、私に何かして欲しいことがあるんですか?」

 と、問いかけると幽霊達は一斉に頷いた。

「な、なにも見えませんので、火の精霊を呼んでもいいですか?」

 ジュリーは慄きながらも交渉をする。

 火の精霊を呼び出せれば仮に幽霊に襲われてもどうにかなるかもしれない。

 幽霊達は少し迷いはしたが、ゆっくりと頷いた。

 ジュリーはまだ自分が魔力の水薬の瓶を手放さずに持っていたことに驚く。

 いや、恐怖のあまり強く握りすぎていただけかもしれない。

 何なら今も固く瓶を握っていて、手を開くこともできないほどだ。

 蓋は開けておいてしまったので、半分以上既にこぼれてしまったが、まだ水薬は残っている。

 目に見えなくともそこにある魔力を感じることは出来る。

 その水薬から込められた魔力を意識を集中させて取り出す。

 ただ、完全に幽霊達への恐怖がなくなったわけじゃない。

 なかなかうまくいかない。

 普段なら、全く何の問題もない行為であるのに、魔力制御が上手くいかない。

 それでも何とか魔力を水薬から抽出し、魔力を操り円を歪ながらにも描き回転させる。

 右回りで回転させる。

 そして、心の中で火の精霊の、火の扱いが長けた精霊の名を呼ぶ。

 その呼びかけに精霊が応えるのが、ジュリーに伝わる。

 回転させた魔力の中心に精霊がやって来てその魔力を喰らっている姿が脳裏に浮かぶ。

 それで精霊は満足していくのがジュリーには伝わってくる。

 精霊を十分に満足させることでこちらの命令を聞き入れてもらえるはずだ。

「この闇を照らしてください」

 と、ジュリーは精霊に命令する。

 そうすると、何もないところに松明のような炎が灯り辺りを照らし出す。

 そこは、石造りの部屋だった。

 ふと上を見るが、自分が落ちてきたはずの穴が、真っ暗な闇が口を覗かしている。

 それなりの高さを落ちて来たようだが、ジュリーには痛みがまるでない。

 こんない石造りの床に落ちたなら無事では済まないはずなのだが、ジュリーは痛みも感じてすらいない。

 自分でどうこうしたつもりはないので、恐らくこの幽霊達がどうにかしてくれたのだろう。

 それで、ジュリーにもはっきりと理解できる。

 幽霊達は自分に害を及ぼしたいわけではなく、何かして欲しいのだと。

 その為に自分がここへ連れてこられたのだと。

 ただ、暗闇で淡く見えていた幽霊達は炎が灯ったせいか、今はジュリーの目では幽霊達の姿を確認することはできない。

 本当に、幽霊たちは真っ暗闇でやっとぼやけて見える程度にしか、淡くしか光を発していないようだ。

 ジュリーはその幽霊達が指を指していた場所を見る。

 そこには祭壇があった。

 祭壇の上には何かが詰まれている。

 ジュリーがそれの正体に気づくのはかなり近寄ってからだ。

 それがいくつもの積まれた人間の頭蓋骨であることに。

 その頭蓋骨一つ一つに長い杭のようなものが打ち込まれている。

 それを見て、ジュリーもすぐに理解する。

 これは、かなり大掛かりな呪術の触媒であると。




「地下はなんか嫌な予感がするんだけど?」

 地下へと続く階段を前にスティフィは遠慮なくそう言った。

「ですが、ジュリーもこの先に多分いますよね?」

 ミアは完全に行く気のようだ。

 そんなミアを横目にスティフィは鎧戸を見る。

 そこから差し込んで来ている夕日が弱々しくなっていく。

 もう日没も近い。

「そうですねぇ。それに、ここまで来て引き返したら流石に幽霊達に襲われますよぉ」

 アビゲイルも鎧戸から差し込む夕日に気づきながらそう言った。

「いくしかないですよ!」

 と、ミアが、ミアだけが意気込む。

「でも、この下は本当に真っ暗よ? 明かりがないじゃない。それにもうすぐ地上でも日が完全に落ちるわよ」

 スティフィが警告する。

 ミアの方を向いてはいるが、その警告先はアビゲイルだ。

「仕方がないですねぇ……」

 スティフィの警告を受けて、アビゲイルは軽くため息をつく。

 そして、アビゲイルは両手の指を合わせて奇妙な印を結ぶ。

「暗き闇底の呪いの主よ。その意に反し光をもたらせ」

 そして、アビゲイルが呪文を唱える。

 そうすると青白い光の玉が空中に湧いて出た。

「使徒魔術ですか? 触媒は?」

 ミアが興味津々に聞く。

 少なくともアビゲイルは杖の様な触媒を持ってはいない。

「それは秘密ですよぉ。あっ、スティフィちゃんのように体には仕込んでませんよぉ。それは想像以上に危険ですからねぇ」

 アビゲイルは当然とばかりにそう言ってスティフィの方を見る。

「なんでそれ知ってんのよ」

 と、そう言いつつもスティフィはそんな物までわかるのかと、アビゲイルの右目、その義眼を警戒する。

「私の義眼の事お忘れですかぁ」

「透視能力はないんじゃないの……」

 スティフィは苦し紛れにそんなことを言うが、

「スティフィちゃんの場合は左手から色々と漏れ出ていますねぇ」

 そう言われたスティフィは納得する。

「そういう事ね……」

「どういうことです?」

 と、ミアがスティフィに聞き返すが、それを答えたのはアビゲイルだ。

「まあ、簡単に言うとスティフィちゃんは左手に霊的に大怪我を負っていて、そこから触媒の気とでもいうんですかね、それが流れ出ているんですよぉ。わかる人にはわかっちゃいますねぇ」

 アビゲイルはそれをしたり顔でミアに教えてやる。

 ミアが感心したようにスティフィを見ながら、

「へー、そうなんですね。知れてよかったですね、スティフィ」

 と、声をかけるが、当のスティフィは少し俯くだけだ。

「もう、どうでもいい事よ。私はもう狩り手ではないんだから……」

 だから、体に使徒魔術の触媒を隠していて、それが外部に知られても問題はない。

 それがバレても問題はない。

 そのはずだ。

 と、スティフィは自分に言い聞かす様に何度も頭の中で繰り返す。

「さあさあ、それはともかく、お姉様方がお怒りになる前に行きましょうかぁ」

 アビゲイルはそう言って光の一切届かない階段を降り始めた。

 アビゲイルが作り出した光の球体が後に続き、その光の届かなかった階段を照らしていく。





あとがき

 万が一、いや、千が一、百が一……

 十が一、誤字脱字があればご指摘ください。

 指摘して頂ければ幸いです。

 少なくとも私は大変助かります。


 もし気に入ったらで良いので、いいね、ブックマーク、感想等ください!





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