第七十六話 その機会は、ある日突然
次の日、コザニの拠点で朝食を終え、俺はイルメハの拠点へと向かった。三か所の拠点をコザニは二日間、イルメハと黒い森の拠点は一日ずつと、四日間で一周する行程がほぼ繰り返されている。
何を言いたいかというと、俺の休日はどこにいった?
違った! イルメハの拠点で、スコットブラザーズ商会のイーサンとクロエが俺を待っていた。ララアさんから、ダンジョンコア間通信が入っていたかも知れない。
クロエはもう待ちくたびれた様子で、ニコニコしている。ショートカットから少し髪を伸ばし始めたのかな? イーサンは緊張気味だ。
用件は直ぐに分かった。クロエとの結婚の申し込みだ。そう言えば、以前からアンジーさんが二人の様子を教えてくれていたっけ。イルメハの迷宮南門で、仲睦まじい様子だそうで。ララアさんはこれを知っていたか。
まあ、魔眼持ちだしね。ララアさんに隠し事はできません。
クロエが同席なので、商売の話しは抜きにして、
「さあ、どうぞ。お二人そろって、今日のお話は? 」
二人とも緊張しているだろうから、こちらから誘導してあげよう。俺の頭の中では、B〇uno M〇rs の “M〇rry You”が鳴り始めた。
「お父さん、クロエさんを俺にください。」
イーサンが、一生懸命クロエを褒める。クロエは顔を真っ赤にして、でもニコニコしてその話しを聞いているし。そうか、俺はクロエの父という立ち位置か。俺の許可が必要なのだな。
「はい、よろしくお願いします。俺もイーサンを家族に迎えられてうれしいよ。それで、イーサン。今後の生活は、どう考えているの? 」
はい、お父さんは賛成ですよ。でも、生活基盤はしっかりと確認させて下さいね。
「スコットブラザーズ商会からは独立して、故郷の町で商人として生計を立てるつもりです。故郷の町は王都の南部方面にあります。」
遠い目をして、イーサンがしっかりと自分の考えを伝えてくる。
「そうか。クロネコ商会に入って、その手腕を振るってみるつもりはないかい?」
俺は、甘い罠を見せて、揺さぶってみる。意地悪だったかな? でも、これはケイトの分!
「いえ、故郷に戻るのが自分の目標ですので。それに自分の力を試してみたいのです。」
うん、意思は固いようだね。何よりだ。
「それで、自分の目標のためにクロエを連れていくと。」
更に、意地悪を重ねてみる。クロエが少し目を見開き、睨んだ。でもこれはララアの分!
「一緒に商人の妻として歩んでほしい。クロエさんと二人ならどんな困難も乗り越えられます。」
イーサン、イケメンだね。クロエが惚れる訳だわ。
「クロエは、獄炎の魔導士なんだけど……。」
これは、アンジーの分!
「申し訳ございません。」
うん、素直な好青年だ。気持ちよいくらいだね。この辺で解放してあげよう。
――というか、最初に認めているじゃん!
「クロエは、どうしたいのかな? 」
ヒロインさんのご機嫌も伺う。
――クロエは、ニコニコ笑顔に戻ってるし
「はい、聞くまでもなかったかな。」
「では、最初に戻って、お二人さんおめでどう。イーサン、クロエのことをよろしくお願いします。」
「はい。」
イーサンも落ち着いたようで何よりです。
「が、直ぐにはお嫁には出せません。」
「えぇ~」
ついさっきまでニコニコ笑顔のクロエが、今日初めて声を出す。
「クロエさん? お母さんが、花嫁修業を切望されております。三カ月間、ララアさんとケイトさんのところで修行です。」
「なに、ほんの少しの間です。離れ離れにはなりますが、頑張りましょう。」
「四月の季節の良い頃に、花嫁披露をしましょう。みんなにクロエのキレイな花嫁姿を見てもらいたいからね。」
クロエの顔がパッと華やぎ、眼をキラキラさせている。さて、それまで準備が間に合うのかな?
――どこの馬の骨か分からん奴に、大事な娘はやれない。
一度行ってみたかったセリフはお預けとなった。
――夢みたいな毎日、二人でいれば上手くいくよ
――手と手を取り合って、暖かい家庭を築いていこう
――君の素敵な笑顔があれば、頑張れるさ
――君と二人で描く未来図、この世界で一つだけの愛を誓うよ
――僕と、結婚してくれるかい?
さあ、エンゲージリングを作ってあげましょう。あとみんな! ダンスの練習あるからね。
Surprise Proposalと結婚披露はこの世界でも流行らせよう!
この日、俺はイーサンと今後三カ月間の予定を打ち合わせ、甘い二人をアンジーさんに任せて、エンゲージリングの構想に入る。
初めて出会った頃は、十四人のストリートチルドレンをまとめていたクロエ。ただ一人十二歳ということで、冒険者ギルドで三カ月間の基礎訓練を受け、ダンジョンに向かおうとしていたクロエ。みんな君の背中を見てきたんだよ。
空腹が恐ろしかっただろう。魔物が怖かっただろう。みんなにご飯を手渡せて、ほっとしていた君の笑顔が忘れられない。柔らかいパン、温かい食事、やわらかいベッド、みんなが一緒に暮らせることを、とても喜んでいたね。
たった二年前のことなのに、もう君はお嫁に行ってしまうんだね。俺は、本当の君のお父さんになれただろうか。最年長の君に甘えていただけかもしれない。
あの悪夢を乗り越えたクロエには、本当に幸せになって欲しい。そしてサプライズに驚いてくれ!
材質はプラチナそして四Cのダイヤモンド。デザインは、一番輝きを導きだしてくれるティファニー六本爪セッティングでいこう。オートメンテナンスとオートジャストフィットを掛けておこう。
そして、大事なことだが、五本作るのだよ。クロエの分と、俺が使う分とね。




