表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
初めての異世界探索:頼りの武器はバックパック?  作者: サトウ トール
第三章 新型 第三節 復活!バックパック
83/129

閑話十一 「お父さん、お嬢さんを俺にください」

 俺の名前は、イーサン。スコットブラザーズ商会の商人だ。十九歳。この世界に飛び込んでもう七年になる。



 先日、アーレフ侯爵の領都セオギンにて、トールさまの挨拶を受けて、取引を開始することが出来た。お手頃価格の辛口白ワインを喜んでくれた。新しい酒を二種類も入手することができた。品質も文句なしだ。王宮へ献上してもおかしくない品質だ。



 これが、俺の幸運の始まり。魔の大森林の迷宮へとつながる石畳舗装の馬車道が完成し、取引物量高は急上昇。大型荷馬車をかき集め、ひっきりなしに往復させる。



 取り扱い品目は、胡椒、食肉各種、ブランデー、ウィスキー、木綿の反物そして魔石。俺が持ち込むのは、大麦とライ麦。



 アーレフ侯爵の領都セオギンと迷宮のそばの農村フィッタ村との間には駅馬車が開業し、冒険者たちがこぞって迷宮へと繰り出す。農村フィッタ村は既に町へと進化していて、活気にあふれている。その発展に、スコットブラザーズ商会も手を貸す。道中の駅前の町も拡張を続けている。



 こうして数か月、イルメハの迷宮算出品に湧きかえる農村フィッタ村。これに魔の大森林の大いなる恵みが輪をかける。様々な物資が領都セオギン経由で王都へと運ばれていく。その業務を担っているのが、俺たちスコットブラザーズ商会だ。




 そんな、賑わいの中、運命の出会い。




 俺は、いつも通り農村フィッタ村から迷宮南門に入り、そこの店番と話す。



「こんにちは。イーサンです。大麦とライ麦をお持ちしましたぁ。」

 大声で元気に挨拶をする。



「いらっしゃい。」

 以前俺が、王都から連れて来た男奴隷が挨拶をする。計算スキルを持った三十台後半だが、もうどこから見ても奴隷には見えない。トールさま率いるクロネコ商会の番頭さんだ。



 荷役係の二人の係が、手際よく、荷馬車から大麦を倉庫へと運んでいく。荷馬車から馬を切り離し、隣の馬房へと連れて行く。馬の手入れを頼むのだ。



 ここの馬房には、駅馬車を引く大型の馬が繋養されている。その馬にブラッシングをしている娘がいた。



「こんにちは。」

 と、声をかける。



「はい、こんにちは。」

 振り返った娘さんに、俺は魂を射抜かれた。一目惚れだった。



 クロエという名前の娘。灰銀色の細くて真っ直ぐな髪を、仕事の邪魔にならないようショートカットに揃えている。身長は百六十センチくらいの中肉中背。脚が長い。女の子らしい、胸とお尻が少しふっくらとしたシルエット。卵型の美形で綺麗な顔立ち、瞳は薄いピンク色。ぽってりとした唇。



 年齢は十三歳。仕事は、火の魔法使いだそうだ。前の戦いで大怪我をして今はその時の傷を養生しているとのこと。トールさまは商人ではなかったか。



 馬の手入れを手伝いながら、色々と話しをした。ストリートチルドレンを面倒みていること。冒険者となって、彼らの食費を稼いでいること。トールさまと出会い、人生が大きく変わったこと。



 下の子思いで自分のことは我慢してしまうような娘。賢く、読み書き計算も出来る。彼女と話しをしていく中で、俺はますますクロエに魅かれていく。



「イーサン? クロエは炎の魔導士だよ。狙うなら返り討ちに合わないように!」

 クロエを迎えに来た細身の美少女クールビューティがそう教えてくれる。



 俺たちは顔を見合わせて、笑った。




 帰り間際、当分南門の仕事を手伝っていると聞き出した俺は、寝る間も惜しんで荷馬車の輸送を頑張り、迷宮南門に来た際には、横の馬房に入り浸った。いつしか、俺たちはお互い魅かれ合っていた。色んな話しをし、色んな話しを聞いた。彼女たちが決して心からの笑顔にならない理由も、



 ――トールさまの失踪



 大変な不安を抱えているものの、帰りを信じて待つ彼女たち。家族の強い絆で結ばれていることを感じる。




 十一の月の終わりごろのある日、いつも通り馬房に顔を出すと、クロエが待っていてくれた。



「トールの居場所が分かったの。」

 周囲を温かく包みこむ笑顔で、俺を迎えてくれる。



「海洋の向こうの大陸に飛ばされていたみたい。帰ってくるのは少し先になりそう。」

 少し寂しそうに教えてくれる。



「そうか、それは良かった。みんな安心だな。」


 俺は、この日人生を掛けて準備してきた言葉を紡ぐ。



「クロエ。話しがあるんだ。」

 緊張で声が震える。







 ――イーサン! 男だろ! しっかりと言え、想いを伝えろ!







「クロエ、俺の奥さんになってくれないか。君と、君の家族と、俺も家族になりたいんだ。」

 俺は自分自身を鼓舞して、クロエに真正面からぶつかっていく。



 少し、驚いたような、戸惑ったような表情を一瞬浮かべたクロエだったが、直ぐに破顔し、

「イーサン。ありがとう。とっても嬉しいわ。」



「なら!」



「でも、待ってイーサン。私ね、以前話したとおり、大怪我をしたの。」



「そのときにね、お腹も大怪我をして、まだ治っていないの。あの……。」



「赤ちゃんを産めるかどうかわからないのよ。」



「………」



「だから、トールが帰ってきたら、トールとアマンダに診てもらうから、それまで待って。」

 震える身体でそう返事をするクロエ。俺は彼女をしっかりと抱きしめて、



「大丈夫だ。俺は何があっても君を手放しはしない。」

 そう、彼女に誓うのだった。



「イーサン、ありがとう。それなら、先にお母さんに話しをしてみる。」

 クロエは、俺の胸に顔を埋めて、とても嬉しそうにそう答えた。



 ――クロエの頬を一筋の涙が伝う。







 十二の月の初めごろのある日、あの日以来馬房に顔を出すと、クロエがまた待っていてくれた。



「トールが帰って来たの。」

 はちきれんばかりの笑顔。俺は一瞬めまいがした。



「トールとアナベルに体調を見てもらったわ。お腹も大丈夫だって。」



「そうか、それは良かった。」

 俺は、クロエを抱きかかえて喜びを爆発させる。



「で、トールさんは?」



「もうね。次にいっちゃったの。まだ、話しはできていないわ。でも、大丈夫よ。お腹も大丈夫だし、お母さんも応援してくれるって。」

 クロエが苦笑いしながら、後ろの倉庫の方を指差し



「トールがね。これをさばいておけって。」







 そこには大量のビール樽と最上級のブランデー樽があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ