第七十話 とある迷宮でのスタンピード
バシュー、バシュッ、バシュッ、バシュッ
モクバを飛ばしながら、土属性魔法のストーンバレットを複数射出していく。狙いは、大型のこん棒を振り回しているトロール。敵味方関係なく、こん棒の餌食になっている。トロールの頭に四発のバレットが炸裂。すぐさま接近して、長ドスを刺し込み、胸元の魔石を破壊する。トロールは自己回復する前に止めを刺す必要がある。
周囲には、フォレストウルフ、オーガ、リザードマンやドラゴニュート、ブラッドベアなど多くの魔物たちが目の色を変えて襲ってくるが、俺は直ぐにモクバを浮上させて離脱、上から四発のバレットを二回打ち込む。もっと奥にもう一体トロールを見つける。
東方山岳戦線でマルーン帝国軍と対峙していたシャインズ王国軍は、総崩れだ。マルーン帝国軍も、兵を引き上げ、前線を下げている。様子見だ。
そんな中、ただ一機俺の乗ったモクバと地上部隊にテスト配備となった銀騎士三十一体小隊だけが、シャインズ王国兵対スタンピ―ドの魔物群の戦闘のなかで動き回っている。
――よしよし、目論見通り! バックパックの完全復活だぁああ!
――おとといのことに遡る。
エイダの召喚魔法で、銀騎士の部隊を召喚してもらおうと、エイダを伴って黒い森の迷宮に潜り、新装の六階層で召喚の塩梅を調整してきた。エイダの召喚陣にエミットが合わせて、その後部隊全体を召喚陣に乗せる。膨大な魔力が膨らんでいく。エイダの魔力量で足りないところを、魔法杖に装着した魔石の魔力で補う。
銀騎士隊。全身にメタリックな銀色の鎧を纏い、同じく銀色の剣や槍、盾を装備している。まあ、中身はリビングアーマーなのだが。唯一のネームド、エミットの指揮のもと、女王様のエイダを護衛する、女王様の命令を忠実に実行することがその使命だ。
魔力不足が解消されてからは、すんなりと部隊の召喚に成功。実証実験の場を求めて、帝国陸軍に出向いた際に、先方から出撃命令が出た。
――東方山岳戦線付近の迷宮で、スタンピードの兆候が観測された。ヴァルキリーで急行し、帝国軍を魔物から防衛すべし。
軍隊に属する者としては、命令を受ければ全てを投げうって出陣しなくてはならない。俺は、エイダの従者として同行する。内心、銀騎士隊の初陣とほくそ笑んでいた。
十二の月の二十九の日、この日早朝、俺とエイダは、東方山岳戦線の最前線に立ち、シャインズ王国兵の戦線を観察していた。斥候の探索では、迷宮の入り口はまだ見つけられていない。帝国軍サイドではないのだろう。王国軍の方向に迷宮があるのだろうとの、軍参謀たちの見解だった。
朝一の鐘のあと一刻ぐらい経過しただろうか。一瞬、王国軍の戦列が乱れた。背後から突かれたような慌てぶりだったが、直ぐに平静を取り戻した。帝国軍の斥候も、魔物によるバックアタックを確認しており、迷宮の入り口は王国軍の背後の山岳地帯にあるとの結論を出した。
「これは、王国軍を一網打尽にするチャンス。」
そう考える参謀もいれば、
「スタンピードの規模によっては、帝国軍も巻き込まれる。」
そう、危惧する参謀もいた。
最早、目前の王国兵の状態よりも、スタンピードの規模を見極めることが最優先とされ、引き続き斥候による探索、観測が優先とされた。再度展開する斥候部隊。ここで、エイダに準備の指示が来る。
「ヴァルキリーの召喚をいつでもできるよう、準備を。」
俺たちの待機しているテントに伝令が来る。
「了解しました。ひとつ、本部にご報告願います。ヴァルキリー召喚は魔力を大量に消費します。ここぞというときに使いたいと存じます。そのため、まずは小手調べに適当な魔物を召喚して、エイダさまの調子を整えたいと存じます。」
ヴァルキリー召喚命令が出てしまっては、実証実験が出来ないではないか。
「委細承知した。本部の指示を待て。」
伝令は、直ぐに本部へと報告に戻る。あわせて、俺たち二人もテントの外に出て、前線の様子を確認する。
そうこうしているうちに、第二波が出現したようだ。まだ、先頭を走ってくるのはゴブリンだけだ。数も多めの群。スタンピードは始まったばかりのようだ。山岳の中腹で迷宮の出入口は見えないが、ゴブリンの姿、動きは、はっきりと確認できる。ゴブリンの叫び声が聞こえる。
シャインズ王国兵は、一時態勢を崩しかけたが、そこは訓練された軍隊。直ぐに状況を把握し態勢を戻して、ゴブリンに対峙しようと試みる。
しかしながら今回は、大群。残念ながら、王国戦線は慌てふためいて散り散りになって、展開してしまっている。帝国側に背を向けて、撃ってくださいと言いたげだ。
――これは、チャンス
「エイダ、エミットを召喚して。」
俺は、このチャンスを逃すまいと、エイダに話す。
「はい、トールさま。」
エイダも準備をしていた。すかさず、召喚陣を展開、銀騎士三十一体小隊長エミットが現れる。続いて、大型の召喚陣が複数展開、十人分隊が三分隊召喚された。
「エミット、小隊を率いて王国部隊を、魔物の群れを蹴散らして。」
迫力に大いに欠けるエイダの命令だが、エミットは赤い目を光らせて、剣を高々と挙げる。銀騎士隊がそれに応えて、隊列を組み整然と前進開始する。
――出だしはいいぞ。
伝令が俺の横に駆けて来るが、
「スタンピ―ドの規模が想定よりも大きい。エイダさまを本部まで誘導願う。」
前線で王国兵と衝突した魔物群を見ながらエイダの避難を促し、俺は部隊の後を追撃することとする。エイダとは打ち合わせしていた内容だ。
「帝国軍も一段階、引いて待機した方がよさそうだ。」
そう言い残し、エミットを追う。伝令の内容も同様のことだったようだ。直ぐにエイダを本部テントに避難誘導してくれている。
既に撤退行動に入っている王国軍は放置しておいて、魔物の群れと対峙する。中央、左翼、右翼に十体ずつの騎士。俺は、その中に隠れて、モクバを取り出し急上昇、上空からバレットをばらまく。視認できる魔物はゴブリン、ウォーグ、オークあたりで、次々と沈めていく。
そうしている間に、魔物の前線と銀騎士隊が衝突。圧倒的に蹴散らしていく。俺はエミットの後ろに回り、殲滅した魔物の死骸を全て回収、解体、魔石の破砕、穴掘り、死骸埋め、点火、焼却と手際よく進めていく。
――魔物たちよ。俺のバックパック復活の礎となれ!
騎士隊が一段階前進、魔物たちの死骸回収から一連の作業を再開。そしてまた一段階前進、死骸回収からの一連の作業………。
繰り返すこと数回。俺のバックパックが二段階復活する。バトルスーツとシックスセンスの復活。防御力が飛躍的に向上する。敵攻撃に対しての感度、反応が飛躍的に上昇する。これで無双できそうだ。
ようやく、魔物の種類が変わってきた。ビッグエイプ、フォレストウルフ、オーガ、リザードマンやドラゴニュートといったあたりが出没しているようだ。が、やることは変わらない。モクバを飛ばしながら、土属性魔法のストーンバレットを複数射出していく。狙いは、大型のこん棒を振り回しているトロール。
トロールは復活するので厄介だ。見つけ次第、ピンポイントで殲滅していく。あとは、騎士隊の後ろを落穂拾い。既にバックパックは更に二段階復活している。高機動型スラスターと、マザーシップが復活。モクバを収納し、テールバインダーを駆使してトロールをピックアップしていく。
気が付けば、魔物は見当たらなくなり、エミット率いる騎士隊とともに、迷宮入り口を睨む位置に、隊列を組んでいた。魔物の死骸を焼きながら前進してきたためだろう、周囲の匂いが酷い。
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「エミット。現隊列を維持し、迷宮からの魔物出現を発見しだい、殲滅。」
三十一体小隊長は、赤い目を光らせて返事をする。
「俺は、一度エイダに、軍本部に状況を報告に行く。あとは、よろしく。」
俺のバックパックは完全復活を遂げていた。




