第六十九話 新装備を試す
十二の月の下旬のある日。このマルーン帝国でも新年を祝う風習はあるのだろうか。俺は、家族たちとこの一年間無事に生活できたことを感謝したいぞ。まあ、いろいろあって、決して無事ではなかったが。
ブラウン卿の邸宅をおいとまして、直ぐに黒い森の迷宮に戻る。今回の出張で、面白いものを手に入れた。そんな感覚だ。さあ、コザニとイルメハに戻ろう。工作の時間だ。
エイダには、三日後に帝都ベルーナに立ち寄ると伝言を残しておく。
面白い工作と実験があるのだ。家族の明るい笑顔を見て、コザニとイルメハの商品仕込みを終え、その工作をいろいろといじくった俺は、ワクワクしながら黒い森の迷宮に戻る。
「イーライ、イーライどこだぁ?」
俺は、リビングアーマーの古参軍曹を呼び出す。作戦指令室に現れたリビングアーマー。相変わらず寡黙な奴だ。なんか、迫力増していませんか?
「イーライ、よく来た。頑張ってくれているようだな。貴様に特別な褒美を与える。」
俺は、この二日間考え抜いた装備と剣盾を与える。拾った鉄鋼騎士の装備を参考に作り上げた、黒騎士用装備だ。まあ、もどきだが。軍曹に騎士装備を与えるのは如何なものかという苦言は却下。俺が作りたくて作った装備だ。誰にも文句は言わせない。
鎧、兜、手甲、足甲は、コバルトクロム合金を使用している。疲労強度が高く、高温や高圧力に耐えるため厳しい環境下で戦闘するイーライには打って付けの素材だ。優れた耐摩耗性を有するためメンテナンスも容易だ。銀色の下地に艶消しの黒塗装は、見たものを恐怖のどん底に陥れるだろう。
また、軽量化の魔道具を内側に標準装備しており、思ったより動ける。重くない。まあ、装備一つずつ魔石が必要だが、小型の魔石でも十分なのだ。そうだ、うちの部隊の装備は、今後全部これにしよう。まあ、兜以外だな。
装備を全て換装したイーライは、どこから見ても黒騎士だ。まあ、もどきだが。とりあえず形からだねと思っていた時期がありました。俺が間違っていました。イーライのことをよく理解していませんでした。本当に申し訳ございません。
役職がヒトを作るとはよく言ったものだ。この場合は、装備が魔物を造るだろうか。黒騎士装備を得たイーライは、その能力も黒騎士になってしまったようだ。
赤い目を光らせるだけで、相変わらず無口な奴だが、喜んでいるらしい。前回はネームド、今回は黒騎士への進化と、より強力でレアな魔物となっているイーライ。頼りにしているぞ。
俺は、イーライの受け持ちの五階層へと出向き、そこで稽古をつけてもらっているリビングアーマーにも、黒騎士装備を与える。スケルトンとリビングアーマー混成三十体小隊のうち十五体が黒騎士に進化した。そうなると編制も、黒騎士部隊のみの編制が運用面でも有効だろう。
一階層の編成を変更、スケルトンだけとし、五階層で訓練していたスケルトンを合流させる。リビングアーマーを五階層へ引き上げ、全てに黒騎士の装備を与える。また、武装も剣盾だけでなく、槍盾を装備したものもいる。黒騎士部隊の編制だ。動きも繰り出す武技も、軽快で強力だ。思っていた以上の成果だ。
イーライだけが進化したのでは、サブマスターのハリーも心中穏やかではないだろう。彼にも、武装を更新してやろう。次の機会まで何か考えておくから、そう腐らずに待っていておくれ。
――あぁ、面白かった。
調子に乗った俺は、六階層を作り、今度は銀騎士装備を作り、三十一体小隊を召喚する。隊長には、ネームドでエミットと名付ける。エミットが習熟するまでは、ハリーに稽古を付けさせよう。
これはこれで、使い道があるのだ。多分、出番があるだろう。ヴァルキリーさまの加護は、もう何でもアリだな。
エイダとの約束通り、三日目には帝都ベルーナに戻る。ブラウン卿の邸宅を訪問する前に、商業ギルドへ回復薬を納品しに、回ってみる。商業ギルドの情報通は流石だった。南方海洋戦線で停戦協定が結ばれたこと、東方山岳戦線は戦闘継続とのこと。
「全方面で停戦とはいかなかったのは、シャインズ王国だけは、敵対心が抑えられないのと、帝国内部の好戦派を完全に抑圧するのは得策ではない、とのご判断のようですね。シャインズ王国とは歴史的にいろいろとあるのですよ。怨念がね。」
受付のお姉さんが、帝国内の民意を代表して分析してくださる。
大陸中の国々を敵に回しての大陸大戦は避けたいが、シャインズ王国! お前だけは許せない! といったところか。
「では、HP回復薬やMP回復薬の量は今後絞っても大丈夫ですかね。」
「そうね。様子を見ながらお願いするわ。」
東方山岳戦線の状況次第ということか。戦火が激しくならなければよいのだが。そう言えば、まだお会いしていない次女のお姉さんが、東方山岳戦線に従軍しているのだったな。
帝国金貨を入手し、俺は食糧事情を確認に、マルーン帝国で付き合いのあるショット商会へと向かう。俺との折衝担当クラウスとの話しの中で、帝国は停戦とは言え大多数は戦勝気分、景気も賠償金を目当てに盛り上がりを見せているようだ。高級酒を売りさばく、新しい酒種を披露する良いタイミングのようだ。
ブランデーとウィスキーの四斗樽をいくつか納品し、等級ごとの評価を依頼する。帝国民の口にあうのかどうか、どの程度の量が捌けそうなのか。そして、今後南方の商業港からどんな種類の食材が輸入されるのかを教えて欲しい、サンプルを仕入れて欲しいと依頼する。
食糧事情もひっ迫している様子がなかったので、小麦を仕入れる。帰り際に、クラウスに宿題を残す。一つのジュエリーケースを渡し、この類のジュエリーの需要について教えて欲しいと残す。ジュエリーには詳しくないのだろう、クラウスは中をチラッと確認しただけでケースを閉じ、次回までお預かりしますとだけ答えた。
中身は、小粒だが透明度の高いブリリアントカットのダイヤモンドネックレス。チェーンは白金製。さて、どういった回答が来るのか。まあ、小粒だからね。
ブラウン卿とアマンダはまだ帰宅していなかった。俺は、夫人とエイダとお茶をしながら、今の仕事、今後帝国での仕事について説明をしていく。どうしても拠点は、黒い森のそばの炭焼き村にならざるを得ないことも。
先日の馬車の旅でエイダと話した内容は、二人の間で共有されているのだろう。更に、商業ギルドやショット商会からも俺の話しを仕入れているだろう。夫人は終始ニコニコ顔だ。
「あの馬車の造り、立派な馬を拝見しました。あれならば、軍の高速馬車よりも速いですわね。」
夫人は、帝都と炭焼き村の距離が気になっているのだろう。
――えっと、元は軍用の荷馬車です。
「ブラウン夫人、こちらはうちの商会の取り扱い品の一つです。どうぞお納めください。」
俺はジュエリーケースを、渡す。
夫人が手に取り、蓋を開ける。中には、先ほどショット商会でも渡したダイヤモンドのネックレス。
「まあ、綺麗。」
「斬新なカットデザインでございます。光を集めて輝くようデザインされていますので、シンプルに一粒だけ胸元にお召し頂ければ幸いです。宝石が小粒なのが申し訳ございませんが、それを補って余りある輝きを放ちます。実は、このデザインの宝石は、まだ二つしかございません。もう一つはショット商会に預けてございます。」
俺は、このデザインの優秀性と希少性を売り込む。
「それともし、皇帝家から要求されましても、直ぐにはご準備できませんのでご了承願います。」
夫人はきっとクロネコ商会の広告塔として活躍してくれるだろう。直ぐにでも、戦勝祝賀会があるはずだ。




